【第十一話】狩猟部部長
「ヒッポグリフの痕跡は……ここで途絶えたか」
エルフと人間のハーフであり、狩猟部部長のカリッシュ・リョーは薄ら寒い森の中、呟く。密集した木々は木漏れ日を許さず、明かりはほとんどなかった。
視線の先には小屋がある。細い丸太と防水の布で建てられた、簡易的なものだった。彼は魔法で五感を強化していたが、空気の流れ、草花のざわめきさえ感じられなかった。
「不気味なほどに静かだ」
カリッシュは口の中で言葉を転がし、ソフト帽を被り直す。今回の入学予定者誘拐事件は、彼にとって屈辱的な出来事だ。
勇者学校を囲むように自生し、多様な魔物が住むこの森は彼の、狩猟部の狩場だった。
入学予定者の行方不明者数は数十に上る。短期間では不可能な数だ。犯人は長期に渡りこの森に潜伏していたに違いない。
その間、カリッシュは何度も狩りをしていた。行方不明の話は噂に聞いていた。迷子などではなく攫われた可能性も、考えていた。……にも拘らず、誘拐犯の気配を微塵も感じなかった。
──この件は私の責任だ。
彼はそう考えた。実際には責任を問われる者は他に居るだろう。しかし、彼の中では違った。
多くの後輩となるべき人物が攫われ、生死も分からない。そのような状態の一因となった自分を彼は許すことができない。
犯人を捕らえ、攫われた者を取り戻す。そのためにフィリィ捜索を独断で開始したのだ。
「しかし、高潔なるヒッポグリフが悪人の味方を?そんなことが……」
カリッシュの疑問をよそに、小屋の布が捲れ、人影が現れた。瞬間、血の気が引く。
彼の強化した五感が感じ取ったのは、どす黒く、刺々しい気配だった。ぬらりと姿を現した、剣呑な雰囲気を纏うその男は痩せていて、しかし力強く、姿勢が整っている。
──あの男、どこかおかしい。
カリッシュは拭えぬ違和感に脂汗をかいた。
男の腰ベルトにはナイフやロープなど、サバイバル道具が収納されている。狩猟部部長はその使い込みようとカスタムに感嘆すら覚えそうになる。
思考を掻き乱されながらも、彼は弓を構えた。
「フィリィ・サリアーら入学予定者を攫ったのは貴様だな!」
男は素直過ぎるほど素直に手を挙げ、降参の意を示し、
「助かった!私は遭難者です!」
切迫した表情で叫んだ。
「騙されんぞ!」
カリッシュは叫び、矢に魔法を込める。
「いや、騙されてるよ」
背後に気配。察知が遅れた。
「なッ!?」
蛇が一匹、飛びかかる。カリッシュは振り向きざまに矢を放つ。危機一髪、射抜く。
……が、素早く動いたヴィンセントがカリッシュに接近。熱した鉄を当てられるが如き、焼けるような感覚が狩猟部部長の背中に広がる。
「弱いな、こんなもんか。なんにせよ、有望な若者ゲットだ」
激痛に呻いたのも束の間。体から力が抜け、カリッシュは地面に倒れ伏した。ソフト帽が落ち、彼の金の髪と長い耳が露出する。
「なんだ、こいつエルフか。それじゃ、こいつジジイか?分かんねぇ……とりあえずバラすか」
テイマーの男の脇腹に、蛇を殺されたダメージが走る。患部を手で押さえながら、“戦利品”を引きずる。
「あー、めんどくせぇ……」
呟いたのは、“バラす”のが面倒だからではない。カリッシュが蛇に放った矢に込めた魔法の効果に気がついたからだ。それは攻撃用などではなかった。
ヴィンセントの頭がとある場所の位置情報を受信した。その場所とは──
「──ここかッ!」
横一文字。長尺の刃が振るわれる。ヴィンセントは難なくそれを回避した。
「お前か、ヘックス・パーシアス」
大剣振るって現れたのは、黒の混じった赤髪の少女。彼女もまた、カリッシュの矢が放った位置情報を受け取ったのだ。そして駆けつけた。
大量の血を流し倒れるカリッシュを見、視線をヴィンセントに移す。ヘックスは美しく整った顔を歪める。
「貴様は悪意に満ちている」




