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もう魔王なんて呼ばれたくない!〜500年城に籠ってた吾輩、勇者学校に通って汚名返上するのだ!〜  作者: 高端 朝
【第一章】勇者学校入学編

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【第十話】赤花

一瞬、世界が色を失ったかのように、目の前が真っ白になった。


「魔王軍」


フィリィは二秒前に聞いた言葉を口にする。確認のためか、あの出来事を思い出すためか。


「そうだ。勇者学校のガキの調達は魔王軍に依頼されてやった」


ヴィンセントが包丁を手にし、縄で縛りつけられた少女を視界の中央に捉える。少女の視界の中央にもまた、彼が居た。しかし、彼女が見ているのは彼ではなかった。


それは彼女の動機、悪を憎む原体験。五年前。両親が殺された、あの出来事を見ていた──。


窓の外をつまらなそうに眺める桃色の髪の少女。背は低く、体は痩せ細っていた。彼女の両親は街では比較的裕福で、家は大きかった。


しかし、窓の外の景色は家の大小に関わらず雨模様だ。少女は重い病を患っていたが、外で遊ぶのが好きだった。


「フィリィ」


自分を優しく呼ぶ声がして、少女は振り返る。母親が薬をスープに溶かしていた。


「苦いけど我慢してね。これを飲めばきっと良くなるから」


強いて微笑む母親もまた、以前より細くなっていた。父もそうだった。もしかして病気が移ったのではないか。そう思い訊いてみると、違うと言われた。実際夜中、全身の痛みに喘ぐのは少女だけであった。


しかし、両親は次第に痩せていき、家の家具や道具が少しずつなくなっていった。


ある日、右目に眼帯をつけた白衣の、背の高い猫背の男が家を訪ねてきた。医者だろうか。母親に促され、少女は居間を出た。


自室のベッドに一人。灯りもつけず、不安な気持ちのまま天井を見上げていた。すると扉の向こうから叫び声が響いた。懇願するような、父親の声。


「薬をください」「頼む」「金はもうない」「なんでもする」


大きな、破裂するような音が建物全体を鳴動させた。直後に母親の慟哭が少女の耳をつんざく。しかしそれもすぐに静かになった。


扉を少しだけ開け、居間を覗く。吊り下げられたランプの灯りが、紅い海に溺れるように床に伏した両親と、眼帯の医者の肩まで伸びた深緑の髪が揺れる様を照らしていた。


「充分サンプル……それとついでのお金は頂きました。あなた方に払えるものは、もうありませんよ」


目の前で起きた出来事と、息を殺すことに必死で呼吸を忘れたことが重なり、少女は気を失った。


その日から少女の日々は変わった。


幸い母親の妹家族が彼女の身を引き取ってくれたが、三日間、少女は全身を串刺しにするような、これまで以上の激痛を経験した。しかし、次の日からは嘘のように痛みは現れなくなった。


後になって、少女の病気は眼帯の医者が魔法でかけたものであり、売りつけた薬で症状を緩和させつつ持続させて金を稼いでいたこと。そしてその医者が魔王軍の者であることが分かった。


少女は勇者を目指すようになり、魔王軍の撲滅を誓った。


人間の魔法適性は他の種と比べ、多様性に富んでいる。魔物、疫病、天災。どのような外敵が現れようと、それに対応した魔法でもって対処し、この惑星上において広く分布するに至った。


フィリィにも適性の高い魔法がある。そして彼女の願い通り、それは戦いに適していた。


しかし、これまでとは違い貧乏な家に住むことになり、生活費、そして勇者学校に行くための移動費を稼ぐフィリィに、魔法の修練に使える時間はない。


だが彼女はやった。仕事の合間を縫い、街の魔法使いを観察し、試行錯誤した。そうして短い修練時間で彼女が編み出した魔法。その名は──


「──赤花(せっか)……!」


赤く、美しい炎の花が彼女の両手を包み込む。揺らめく花弁が、チリチリと少女の顔を照らした。


体を縛る縄を燃やし尽くし、立ち上がる。


「魔王軍の関係者……!殺してやるッ!」


青い双眸は怒りに歪み、ヴィンセントを激しく睨みつけていた。


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