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【第一話】魔王、勇者学校入学のため従者の説得などをする

『レイメルナングス城』ガルイア王国最北端に位置する巨大な城。漆黒の石材を使用し建造されたこの城は至る所が尖っており、その外観から魔王城と呼ばれ国民から恐れられていた。


そしてその魔王城の主、魔王は多くの魔物を従え王国の転覆を日夜企てている。


─────というのは吾輩に貼り付けられた根も葉もない噂話である。




「もう魔王なんて呼ばれたくない!!」


「どうされましたか魔王様!」


玉座に座り、間に集めた従者に叫んだ。多様な種族により構成される従者が皆同様に驚きの表情を見せる。


「昨日考えたのだが、魔王と呼ばれるのは不名誉だ!」


『魔王』の魔とは悪魔とかそういう意味を持つ所謂蔑称である。人間は自分たちも"魔"法を使う癖に勝手な奴らだ。


魔力エネルギーで構成される吾輩の身体がいつにも増して揺れる。


「しかし魔王様!魔王様はその圧倒的な力で魔王と呼ばれ畏怖の念を向けられてきたではありませんか!」


「バカモーン!!」


ビンターン!家具の少ない間に平手打ちの音が響く。


「イタァー!」


リザードマンの従者は1m程吹き飛んだ。痛いのは可哀想なので回復魔法を発動し、痛みを伴わないものを。


「一呼吸で3回も魔王と言うでないわ!」


「痛いではありませんか魔お…レイメルナングス様!死んでしまいますよ!」


「フン……回復魔法は既に発動している」


「おや?痛みが無い!さすがです!」


「回復魔法をいとも容易く……さすがレイメルナングス様!」


「褒めるでない褒めるでない。とにかく吾輩は魔王の汚名を返上したいのだ!その為に勇者学校に入学することを決めた!」


「えぇ?!魔王と呼ばれたあなた様がよりにもよって勇者学校に?!やめてください!あんな若者だらけの空間に居たら……いたたまれないですよ!」


勇者とは魔物を打ち倒す者。魔王と呼ばれる吾輩もその対象だ。だからこそ吾輩も勇者となり、名誉を取り戻す。


「う…うるさい!入学するったらするのだ!」


「オイオイマジかよ……こうなったレイメルナングス様は止まらないぞ…!」

「ここは少しでも時間を稼いで勇者学校に興味を無くさせる作戦を……」


従者の姑息な手段など吾輩には効かない。既に手は打ってある。


「オイそこ!聞こえておるぞ!というかもう入学届を提出した」


そう。今朝勇者学校に入学届を郵送した。もう吾輩の入学は決まっているのだ。来週にも入学許可証が送られてくるに違いない。


「はぁぁぁぁあ?!?!ちょ、レレレレイメルナングス様ァ?!い、今からでもキャンセルを!」


「ううん、吾輩入学するし」


こやつらがいくら止めようと吾輩は止まらない。それだけの理由がある。


「どうしてそこまで!」


「尊敬されたいのだ!魔王などと恐れられていても何も得など無いわ!」


「私たちが尊敬しているではありませんか!」


「魔王と呼ばれるのが我慢ならんのだ!魔王軍などと……バカバカしい!」


吾輩が魔王と呼ばれる、ということはつまり従者は魔王軍と言うわけだ。従者をそのように呼ばれるのはどうしても気に食わん。


「………わかりました」


「グリアイズ掃除担当大臣殿!」


グリアイズ、氷を操る白い女。冷たいつり目が美しくも恐ろしい奴……最も口うるさいこやつが真っ先に折れるとは。


「仕方のないことです。レイメルナングス様が決めたことに付き従うが我らの命…なれば!学生生活の手助けをしましょう!」


「……そう、だな」

「私も協力しよう!」

「こんなん全力出すしかねぇ!」

「学生服姿のレイメルナングス様見たい!!!」


グンナルの言葉を皮切りに他の従者たちも納得してくれた。吾輩は良い従者を持ったものだ。


「貴様ら……感謝する!」


「「「うおおおおお!!!」」」




「まずは学校用の身分を作成します!」


会議室に移動し、眼鏡をかけたグンナルが議長の会議が始まった。


「そんなもの必要か?」


新たな身分と言われても正直必要性を感じない。


「必要です。ハッキリ申し上げますが、提出された入学届け…絶対に無視されます!だってイタズラにしか思えないから!」


「何だとおおおお?!」


「いきなり魔王から入学を申し込まれても愚かな国民のイタズラと思われるでしょう」


「なるほど…悔しいが認めよう…」


確かに吾輩が校長先生だったとして有名人、それも危険な魔王が自分の学校に来ると言われた場合警戒はすれど入学はさせないかもしれない。


「それに万一レイメルナングス様の正体がバレたとき、彼らが何をするかわかりません。正体を明かすのは十分な名誉を得てからの方が良いでしょう。」


またまた確かに。もし退学などさせられたら嫌だな。


「そこで彼をお呼びしました」


「誰だ?」


「私です」


「うおっ!いきなり顔面ドアップで現れるでない!」


突然顔から10cmの位置に男が出現し思わず仰け反る。ダークエルフと呼ばれる種族の男は褐色の肌に白髪、目鼻立ちの整った美しい青年だ。


「申し訳御座いませんレイメルナングス様。アリアード・ヤスナ、参上いたしました」


「久しぶりだな。瞬間移動魔法の座標微調整が不得手なのは相変わらずのようだな」


アリアードは器用だが変なところで不器用な男。


吾輩は額の汗を拭いて椅子に座り直した。


「彼は諜報活動のスペシャリスト。身分詐称はお手の物、また変身魔法も得意」


「ダークエルフの力をお見せしましょう。ハァ!」


「うわっ!予告無しで魔法をかけるでないわ!」


「失礼致しました。しかし、新たな容姿には大変ご満足頂けるかと」


「おお…身体が縮んでゆく……人の子の見る世界とはこんなにも大きいのか」


姿見で変わった自分の身体を確認する。身長は165cm前後くらいだろうか?肌は褐色、髪は白髪だ。


「しかしアリアード殿、この容姿…少々あなたに似ておりませんか?」


グリアイズがアリアードに詰め寄る。


「……何のことでしょう?」


「アリアード殿!まさか自らの欲望を!」

「コイツ以前弟が欲しいって言ってたぜ!」

「ふざけんなー!ワーウルフにしろォ!」


「静まれ!」


少し声を荒らげると皆喧嘩をやめた。収拾がつかないときは大きな声が必要になることもある。しかしこの罪悪感は慣れないな。


「吾輩はこれでよい。何度も変身するのも面倒だ」


「……で、では次は名前を決めましょう」


「本名でよいのではないか?どうせ吾輩の名前など誰も認識しておらんのだ」


「いいえ、理由は他にございます。……長いのです」


「は?」


「レイメルナングス…8文字もあります。名前が呼びづらいとお友達もできません」


「そうかなぁ?」


「そうなのです。特にングス……ここが言いづらい」


グリアイズめわざわざ残念そうな声で言ったな。


「吾輩の大事な名を馬鹿にしおって……」


「馬鹿にはしておりません、ガルイア王国に馴染まないということです。それに先程も申し上げた通り正体がバレては危険なのです。幹部諸君、何か良い名前案はありますか!」


グリアイズの言葉に従者たちが一斉に挙手した。皆がアイデアを出すなんて初めてのことだ。


「サイキョウ・オオサマ!」

「ニャハハ・リゼド!」

「キリナリオ・マイルト!」

「ガリアード・ヤスナ!」

「お前は帰れ!」




6時間に及ぶ長い会議の末、吾輩の新たな身分が完成した。正直疲れたが、なかなか悪くない時間だった。


「『メイト・アクザード』これが吾輩の新たな名だな。少し若過ぎやしないか?」


「いえいえ。今のレイメルナングス様は15歳ですから、寧ろピッタリでございます」


「貴様ら、吾輩のわがままを聞いてくれて感謝する。これから吾輩が城を空け多くの苦難が待っているだろうが、皆で協力し合い乗り越えろ」


「ハッ!!」


吾輩が居なくてもこやつらならきっと上手くやれるはずだ。


「大丈夫!長期休暇のときは帰ってくる」


定期的に結界の貼り直しも必要だからな。


「レイメルナングス様もお元気で!」


「では、出発」


すぐ背後に気配を感じる、振り返って確認するとグリアイズが居た。


「ん?グリアイズ、何故着いてくる?」


「レイメルナングス様、私はあなた様のお手伝いでございます」


「は?!来るな!吾輩はひとりで行く!」


「いえいえダメです!レイメルナングス様家事できないでしょう!」


自分も向かう気だから同意が早かったのか!小賢しい!吾輩はひとりで行きたいというのに!


「クッ……来るな!主命令だ!」


「ダメで〜す!行きま〜す!」


なんて執拗い奴だ!両手を広げている、掴みかかるつもりだな!


「くぁ〜こうなったら!ズアァァァ!!」


両腕に力を込め周囲に魔法陣を展開、そこに突っ込んだ。


「アッ?!逃げた!瞬間移動魔法だなんて狡いですよ!」


「グリアイズ殿、いいではありませんか。レイメルナングス様は500年間ずっとこの城や我らの先祖を守ってきたのですから、きっと大丈夫です」


「……そうですね。人の文化に馴染めるか心配ですが、我らが主を信じましょう……」




「うわああ!急に何?!」


「ん?貴様、人間の女か」


瞬間移動の先に桃色の髪の少女が倒れていた。吾輩が急に現れたものだから驚いて腰を抜かしたのだろう。


半袖にミニスカートと動きやすそうな軽装だが、胸や腕に防具をつけているところを見ると恐らくこやつも勇者学校に向かっているのだろう。


ふむ、まずはこの小娘を恐れさせ尊敬させてやろう。


「吾輩はレイ……メイト・アクザード!吾輩に跪くが良い!」


「めいとあくざ……誰?」


吾輩を……恐れない……だとぉ?!

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