表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみが竜に戻るまで  作者: 碧衣 奈美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

毒の入手と解毒薬

 恐らくこれだろう、という毒は手に入った。グラージオ達の目的は果たせたのだ。

 それなのに、怒りのような感情がグラージオの中でうずまいている。あの店で竜を殺すための道具を売っている、とわかっているのに、捕まえられない悔しさのせいだ。

 さっきの男もドラゴンハンターなら。もしこれまでに竜を殺し、売りさばいたことがあるのなら。

 今すぐに捕まえるべき罪人なのに。

 だが、何の証拠もない。あの男が竜に手を出したのかわからないし、店にしても竜を殺すための道具と言っても実際は魔物を狩るものだと主張されたら、それ以上は突っ込めないのだ。

 ジュネル達が「元を断てない」と話していたことが、こうして実際に動いてみてよくわかる。

 それでも、ルシーダを助けるための道がまた一歩(ひら)けた。店の存在に釈然としないながら、今はそのことに目を向けることにする。

 罪人を捕まえるより、こうしている間にも毒に苦しむ竜を助けるのが先だ。

「さっきの客、怪しいですね」

「ああ。何を買いに来たのかはともかく、ああいう店に来ること自体が怪しいよ」

 別の路地へ入り、人目がないことをしっかり確認した上で、二人は姿を元に戻した。

 ジュネルがポケットから、入手したばかりの瓶を取り出す。薬の中身がちゃんとあることを確認するためだ。

 入手した毒は、液体だった。ジュネルが瓶から数滴を魔法で浮かせると、まさに「毒々しい」と表現したくなるような、暗い紫色の薬が現れる。

「これを持って帰って、ルシーダに影響はないですか」

 これがもし揮発性の高い薬であれば、近くにルシーダがいるのは絶対に好ましくない。さらに彼女を弱らせてしまうことになる。

「彼女の近くには置かないよ。どんなアクシデントでルシーダに触れてしまうかわからないからね。さっき聞いた素材と効果、それとこの薬の色や状態で、ある程度は毒の種類が絞れるはずだ。そこから解毒薬を探ろう」

 店主が話していた素材が、この薬の成分全てを網羅(もうら)しているとは思わない。だが、いわゆる「主な」素材ではあるはずだ。

 例えば、効き目を強くする効果だけしかない素材名を言ったところで、薬に詳しい人間がそれを聞いても納得しないだろう。

 店主が言ったのは、恐らく毒そのものとなる主原料だ。

 ああいう店で、それなりに手に入りやすい薬を作ろうとすれば、素材の数なんて限られる。多ければ高くなるし、高すぎて売れなければ意味がない。手頃な値段にしようとすれば、使われる材料なんて三つか四つがいいところだ。

 そして、店主は三つの素材名を言った。これで、ほぼ毒薬の種類を絞れる。

 急いで図書館へ帰ると、出掛けたところを見ていないのに外から現れた二人を見て、門番が驚いていた。二人は軽く挨拶をし、スルーしておく。

 中へ入ると、ジュネルは薬を別室に保管するために一旦別れた。

 グラージオはルシーダがいるはずの部屋へ向かう。確か二番のプレートが付いた部屋へ向かったはずだ。

 目的の部屋まで来ると、グラージオは軽くノックをした。図書館なのだから本でほとんど埋め尽くされているだろうが、それでも中がどんな状態なのかグラージオはまだ見ていない。他にも人がいるかも知れないので、念のためだ。

 返事はなく、グラージオが扉を開けると、そこは普通の図書館らしく本棚が並んでいた。天井が他の部屋より少し高く、本棚もそれに合わせて高い。

 だが、部屋そのものがそんなに広くないので、本棚の数も少なく思えた。やはり特殊な本ばかりが集められているせいだろうか。図書館と言うより、規模の小さな図書室だ。

「ルシーダ?」

 ルシーダがいると思ったが、部屋には人がいそうな気配がなかった。声をかけてみたが、返事はない。最初に入ったジュネルの仕事部屋へ戻っているのだろうか。

 しかし、入口からでは見えない所を確認しようとグラージオが中へ入ると、床に人の足が伸びているのを見付ける。グラージオは息を飲んだ。

 まさか……この短時間で急激に悪化したんじゃ。

「ルシーダ!」

 誰かが、今の場合は一番可能性が濃厚なルシーダが倒れているのでは、とグラージオは慌ててそちらへ走った。返事がなかったのも、意識がないのなら当然。

「あ……ルシーダ……」

 銀髪の少女が、ひざに本を開いた状態でうつむいている。本棚を背にし、足を投げ出して床に座っていた。ちょうど本棚で死角になり、その足だけが見えたらしい。

 グラージオがそちらへ近付いて確認すると、ルシーダは眠っていた。小さな寝息が聞こえる。意識を失って倒れている、という様子ではない。

 驚いた分、グラージオは力が抜けた。

「ルシーダ」

 グラージオが彼女の肩に手を置きながら呼び掛けると、ルシーダはすぐに目を覚ました。

「あ、グラージオ……。戻って来たの?」

 少し寝ぼけたような表情ながら、そこにいるのが誰かはちゃんと認識できているようだ。

「うん。それらしい情報と、現物も手に入れて来たよ」

「そう……。ごめんなさい、眠っちゃった」

 目をこする仕種は、小さな子どものようだ。竜であり、年上の彼女だが、その様子はかわいい。

「具合、悪くない?」

 ここへ来る前に少し疲れたようなことを言っていたから、本を読んでいるうちに眠ってしまったのだろう。

「うん。眠ったら疲れも取れたわ」

 本当かどうかは確かめようもないが、グラージオはその言葉を信じることにした。嘘だとしても、どうすることもできないから。

「それらしい本はあった?」

「ええ、怪しいのがあったわ」

「ぼく達が出ていた時間、そんなに長くなかったのに。よく見付かったね」

 話していると、扉の開く音が聞こえた。

「グラージオ、ルシーダ?」

 今いる所から入口は見えないが、その声ですぐに誰かわかる。

「ジュネルさん、こっちです」

 グラージオの声を聞いて、ジュネルが現れた。

「ルシーダ、気分がすぐれないのかい?」

 床に座り込んだままのルシーダを見て、ジュネルも心配そうだ。

「ううん。ちょっと眠っちゃって。人間も本を読みながら寝るって、よくやるでしょ?」

「まぁ、確かにね」

 ジュネルが苦笑する。

「ジュネルさん、ルシーダがこれじゃないかって」

 ルシーダがひざに乗せていた分厚い本を、グラージオはジュネルへ差し出す。

「それじゃ、さっきの部屋へ戻ろうか」

 (うなが)され、みんなでジュネルの仕事部屋へ戻る。

 ソファに座ると、ルシーダは持ち出した本を開いてそれらしいと睨んだページを指し示した。

「竜に効果のある毒の作り方があったわ。今のあたしに当てはまる症状よ」

「力()ぎ」と名前が付けられているその毒には、竜の体力や魔力を大幅に落とす、といった効能が書かれていた。まさに今のルシーダと同じ状態。一気に殺すまでの効果はないようだが、時間が経つにつれて体力は落ちる一方のようだ。

 それがいいか悪いか、微妙に悩むところである。当事者の竜にすれば、真綿で首をじわじわと絞められているようなもの。身体の苦しさと、もうすぐ死んでしまうかも知れない恐怖に怯えなくてはならないのだ。

 ルシーダが本に書かれているよりも比較的元気なのは、かすっただけでまともな攻撃を受けなかったからだろう。

 だが、かすっただけでも毒が身体に入ったことは間違いないから、体力がなくなるのは時間の問題だ。

「材料となる素材は……あの店主が言っていたものが使われているね」

 ジュネルが材料の項目を確認し、確信した。ルギ草とゲマダ草、デムルの実だ。

 他にも竜に効果のある毒はいくつか載っているが、材料が違った。効果も少し違ったりするし、出来上がった状態が顆粒だったり、錠剤のような固形であったりする。その点からもルシーダが見付けたこの「力()ぎ」という毒でほぼ間違いない。

「じゃあ、これの解毒薬は……」

 右のページに毒のことが書かれ、(つい)になるように左のページにはその効果を消すための薬について書かれていた。

「解毒薬に限って、面倒だな」

 ジュネルがぼそりとつぶやく。

 グラージオがそのページを覗き込み、同じようにルシーダも顔を近付けた。毒の方ばかり気にして、解毒薬にはどういう素材が必要かまで気が回らなかったのだ。

「プララ草にチャルル草。ずいぶんかわいい名前の薬草ね」

 そこには、二種類の草をすりあわせて出た汁を飲め、とある。毒が液体なので、解毒薬も液体なのだろうか。とにかく、その草の汁が必要だということだ。

 必要素材も毒を作るより少ないし、汁を飲むだけならかなりシンプルと言える。ジュネルがつぶやいた「面倒」がどの部分か、すぐにはわからない。

「名前だけなら……そうだね。ただ、生えている場所はかわいくないよ」

 あごに手をやりながら、ジュネルが溜め息をついた。

「え……火山と氷雪山にある草って……」

 草の名前の横に書かれた生育する場所を読み、グラージオは言葉を失う。

「そう。つまり、ものすごく暑い所と寒い所の両極端に生えている草が必要だってことだ」

 ジュネルが溜め息をついた理由がわかった。

 毒になる草は、森や山へ行けばすぐ手に入るような類のものだが、解毒薬はそうではないのだ。

「街の薬草を扱う店にはないでしょうか」

「一応、問い合わせてみるが……まず置いてないだろうね。人間に必要なものではないから」

「じゃあ、北の端と南の端へ行かなきゃいけないってこと?」

 二人の難しい顔を見て、ルシーダもその問題に眉をひそめる。早く薬がほしいのに、素材を手に入れるだけでとんでもなく時間がかかってしまうのだ。

「いや、そこまで極端にならなくていいよ。火山はミドラーの街から東へ向かえば、ユリル火山がある。長く火山活動をしていないが、火山エネルギーはゼロではないから生えている可能性は高い。そこから北へ向かうと、ボルガという山がある。そこには昔から氷の竜が棲んでいると言われていて、年中雪と氷に覆われているんだ。うまくいけば、この二カ所で調達できるはずだよ」

 ジュネルは簡単な地図を出して来て、その位置を教えてくれた。

 この街から東へ、と簡単に言われたが、地図を見ている限りではそれなりに距離がある。恐らく、数日単位の時間がかかるだろう。

 飛行可能な竜なら大した距離ではないかも知れないが、今のルシーダは風の竜にも関わらず飛べない。人間と同じように地面を移動しなければならないのだ。

 地図では直線距離で測れるが、現実には森や山など、いわゆる障害物がある。人が通るような道がどこまで伸びているだろう。道なりに行くとしても、どうしたって曲がりくねることになる。

「遠そうだけど……そこにしかないなら、行くしかないですね」

「グラージオ、行く……つもりなの?」

 当たり前のように言うグラージオを、ルシーダはどこか戸惑ったように見る。

「ここにいたって、解毒薬はできないからね」

「いいの?」

「言っただろ。どこへ行くのも自由だって」

「だけど、普通の場所じゃないのに」

 火のエネルギーと氷結のエネルギーに満ちた山。人間には過酷な場所だ。状況によっては、命に関わることもある。

「だったら、なおさらルシーダだけで行くのは大変だろ。放っておけないよ。ここまで来たら、ルシーダの毒が完全に消えて竜の姿になるまで、ちゃんと自分の目で見届けたいんだ」

 薬草を見付けられただろうか。それ以前に、生えているだろうと言われた山へたどり着けただろうか。

 そんなことを考えて、もんもんと過ごすのはいやだ。ルシーダと再会できなければ、それが一生続くことになる。解毒薬のことがわかってよかったね、では終われない。

「すまないが、私が協力できるのはここまでだ。それぞれの山までは、行くのに時間がかかる。長く持ち場を離れる訳にはいかないんだ」

 ジュネルが申し訳なさそうに、頭を下げた。

「やめてください、ジュネルさん。ここまでやっていただいて、ありがたく思っているんですから」

「そうよ、ジュネル。謝らないで。色々と情報を探ってくれて、感謝してるもの」

 本来の仕事もあるだろうに、それらを後回しにしてジュネルは協力してくれたのだ。ふたりに彼を責めるつもりなど、さらさらない。

「ぼくが最後までルシーダと行きます。ジュネルさんがいてくれなかったら、ぼくだけではあんな店には行けませんでした。本当にありがとうございます」

「これくらいのことは、大した労力ではないよ。問題はこれからどう行くかだね。とりあえず、今日は私の家で休んで行くといい。時間も時間だし、今から出発してもすぐに暗くなるだけだからね」

 ジュネルの厚意で、その夜は野宿せずに済んだ。

 教えてもらった山へ行くなら、まずは東のユリル火山から。だが、そこへ行くまでにどれだけの時間がかかるだろう。それより、ルシーダの体力が保つだろうか。

 行くべき場所が一つではないから、余計に心配がのしかかる。

 明日からどうやって進むかを考えていたグラージオだが、ジュネルが魔法を一つ教えてくれた。

 自然界に存在する物を使い、それを一時的に魔獣にする、というものだ。その魔獣に乗って移動すれば、進み具合は人間の足で歩くより格段に違ってくる。歩かなくて済めば、ルシーダの体力も温存できるのだ。

 馬を買うような経済的余裕がない彼らには、願ってもない魔法である。グラージオには、魔獣を呼び出す、という考えが完全に抜け落ちていたので、ものすごい名案を教えられた気になった。

「グラージオだけならいいけれど、竜を乗せろと言ってもいやがる魔獣が多いかも知れない。今のルシーダは魔力が落ちていると言っても、自分より強い存在の近くにいたがらないからね」

 弱い魔獣に限って寄って来たりするが、それはどちらかと言えば強い者に庇護(ひご)を求めて、という場合が多い。今のルシーダには庇護できる程の力がないし、弱くてもいいからとグラージオがそういった魔獣を呼び出したとしても、協力は得にくいだろう。

「その点、この魔法なら気を遣う必要もない。石でも木の枝でも、材料は何でもいいんだ。材料によって、スピードや乗り心地も変わってくる。具合がよくないと思えば、別の材料で試すことは可能だからね」

 石や木の枝が、竜を拒否することはない。そこに恐怖などの感情がないからだ。そういう点でも、この「簡易魔獣」と呼ばれる魔法は今の彼らにとって有益な術だ。

 次の日。

 ジュネルの家の庭にあった木の枝を使い、早速グラージオは馬を作り出した。ちょっとおもちゃっぽく見えるが、本物の馬と同じ大きさ。何より、丈夫そうだ。枝ではなく、木そのものから彫り出されたかのようだ。

「うん、ちゃんと形になっているよ。これならしっかり走ってくれるね」

 ジュネルにお墨付きをもらった。

 何度も世話になった礼を言い、グラージオは後ろにルシーダを乗せてミドラーの街を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ