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HELL DIVER  作者: 山木 拓
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 大丈夫、俺は至って冷静だ。いや全く動揺していないとか完全なる平常心とかではないかもしれないが、状況を把握しようという心境の方が多くの割合を占めている。問題ないはずだ。なにせ俺はあんなに大変な建設業界で一〇年近く働いていたんだぞ。訳のわからない状況、訳のわからない指示、訳のわからない用語等々自分で調べて自分でなんとかしてきた。怒られすぎて命の危機さえ感じた日もあったんだ。こんなに余裕たっぷりなら何も問題は無い。

 まずここがどういう建物なのか把握するところから始めよう。一旦俺がいかにしてここに辿り着いたかは頭から外す。仕事でも収集しにくい情報は頭から外して計画を立てたりもした、その要領でいこう。

 置いてあるものは、ベッド、クローゼット、テレビ、ベッド、冷蔵庫。設備的にはちょっと高い病室とも思えるが、どうにも違いそうだ。なんというか、ビジネスホテルに似ている。海の中のビジネスホテル…となると、ここはおそらく客船か何かだろうか。

 次は部屋の外。同じ構造の部屋が連続してればここは客船である可能性がより増してくる。廊下に出ると、そこにはやはり人一人いない。電球は半分以上つきっぱなしだが、扉がしまっている部屋も開いている部屋も光は漏れていない。念のために部屋を開けてみたが、人もいない。窓をみても、同じく海が広がっている。人が集まる施設だというのに、俺以外の人が見当たらないのはハッキリ言って異常だ。人がいないのは事故や災害で施設が壊れてしまったから? いやそれにしても建物が原型を留めすぎだし、何より…人が倒れていない。怪我人も死人も見当たらないのはおかしい。

 もう少し散策してみよう。同じ部屋が連続し、上下に同じようなフロアがあった。二つ上には、おそらく管理するための設備と、食料庫や医療設備があった。二つ下には、出口があった。出口、もとい海への入り口。何本かの酸素ボンベみたいなものと、宇宙服のような水中を移動するための装備。建物が壊れた結果出入り口が生まれたのではなく、初めから出入り口が計算された設計。これは、海の中で生活をするのが前提の建物だとわかった。

 そこで、俺の中で一つ仮説が生まれた。ここは捨てられた建物なのではないか。この場所には何かしら問題があって、それゆえに離れる必要があった。だから壊れてもないし怪我人も死人もいない。こんなストーリーではないだろうか。


 この仮説が浮かんで気づいたのは、この施設には俺一人しかいないという事。

 ここには、俺一人。もしここで生活するのであれば俺が自分でなんでも全てのことをやらなければならない。俺はここの施設の運営について何も知らないし、継続について何も知らない。面倒なことにイチから全てを調べないといけないのだ。

 つまり、建物管理を全部自分でやる必要がある。

 ……俺は、以前仕事に対して望んでいたことを思い出した。全部一人でやってしまいたい、というヤツ。

 この、俺一人しかいない状況を、心の奥底ではワクワクし始めている俺がいた。


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