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すれ違い。 〜交差点と邂逅と悔恨と〜

 



 ――――寒風(かんぷう)吹きすさぶ、か。


 今朝のニュースをふと思い出しながら、コートの一番上の釦を留める。


 会社近くの交差点で歩道が青になるのを待っていた。立ち止まったこういった時に、痺れるような寒さを感じる季節になった。


 青に変わって歩き出して、一瞬で後悔。

 会社に向かう道は何パターンかあるのに、俺はなぜこの道を選んだんだ、と。

 まぁ、理由は簡単で、この先にある石窯焼きのパン屋で朝食を買う為だが。

 いいお値段だから、給料日後のちょっとした贅沢。それがたまたま今日。

 

 ――――あぁ、変わってないな。


 どうしても横断歩道の向こう側から歩いてくる二人に目が行ってしまう。

 女物の鞄を持った優しそうな雰囲気の男と、その男の顔を見ながら楽しそうに話す彼女。

 それは、何年か前に大喧嘩して別れた元彼女だった。隣にいる男は新しい彼氏だろうか。




 あの頃は、二人ともまだ大人に成りきれていない年齢で、自分の主張ばかりして。

 どこからかすれ違い、いつしか離れ、破裂するように終わった恋。




 横をするりと通り過ぎた彼女は、相変わらず輝くような笑顔だった。

 幸せそうで良かった、と思った。

 そんな暖かな気持ちと、(いま)だ独り身な自分の淡々と過ぎゆく日々の物悲しさが()い交ぜになって、風の冷たさが余計に身に沁みた。


「――――くん」


 ふと、自分の名前が呼ばれたような気がして。

 そんな呼び方をするのは彼女だけで。

 すれ違いざまに目が合った気がして。

 もしかして、もしかすると、なんて。

 葛藤しながらそっと振り向くと、楽しそうに話す二人の後ろ姿があるだけだった。


 ――――とうとう幻聴まで聞こえ出したか。


 彼女の性格からして、付き合っている相手の横で別の男の名前なんて、ましてや元彼氏の名前なんて呼ぶはずも無いのに。


 すれ違っただけで高鳴る胸をなんとか無視しながら、足早に目的のパン屋に向かった。




 その翌日、スマホが鳴ってメッセージアプリを開いて、心臓が甘く疼いた。


『久しぶり。髪型、変えたんだね。大人っぽくなってて、びっくりした』


 届いたメッセージを見つめていたら、パポンとまた音が鳴った。


『似合ってた』


 再び恋に落ちるのは簡単で。

 彼女と一緒にいたのは弟だったとか、彼女もまだ独り身だったとか、久しぶりに会わない? とか。

 やり取りすればするほどに、どんどんと愛しさが湧き上がるのは止められなくて。


 ――――今度こそ、すれ違わないようにしたい。




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