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商業化作品

【コミカライズ】言葉がわからないので適当にはいはい返事していたら、異国の王子さまの嫁になりました。

「外国から来たお坊ちゃんを預かることになったから。お前がお世話係ってことでよろしくね。()()()みたいだし、なんかテキトーにやっといて」

「……はあ?」


 朝、バカ親父がいきなり宣言してきて思わず低い声が出た。なんだ、それ。犬猫の子どもじゃあるまいし、簡単に預かってくるんじゃありません。つーか、まず事前に私に聞け。勝手に決めるな。誰が世話すると思ってんだ。……私だよ! ……つまり自分に関係ないから、引き受けてくるんだよな。うん、わかってた。


「あのさあ、そもそもなんでうちなの。平凡な一般家庭に受け入れる余地があるとでも?」

「シャーロットは確かに平凡だよね」

「うるさいな、父さんの面倒くささは天下一品だよ! うちが貴族の血を引いているとか眉唾な話も聞いたことあるけどさ、正直そこら辺の商人の方がよっぽど裕福じゃん。貧乏くじひいて村長やってるだけの家じゃん。いいとこのボンボンなんか、預かれるわけないでしょ。断ってよ」

「だってもう、引き受けちゃったんだもん。うちの娘は5ヶ国語話せるってことになってるし」

「『だもん』じゃない。父さんがテキトーふかして自慢するからでしょうが! え、っていうかなに、5ヶ国語って」


 母国語に、ズタボロの大陸共通語にあと3つ何を足しやがった。


「ほら、山向こうの村と川向こうの村、あと谷を越えた先の村の言葉」

「それは、方言でしょうが!」

「あれ、そんなこと言っていいのかな。昔は村長代理でお使いを頼まれて、半べそかいてたくせに〜」

「そもそも子どもに村長代理をやらせるな! 別世界の言葉かと思うくらい意味がわからなかったんだからね!」


 てへぺろと言いながら、小首を傾げるクソ親父。中年男がぶりっこしても可愛くないから。母よ、なぜこんな男と結婚した。早死したのは、親父の世話で心労が溜まったからじゃないの。


「まったく。そもそもそのお坊ちゃん、どこの国のひとなの?」

「さあ? なんだっけ、ナントカだかカントカだかいう砂漠の国出身って聞いたような」

「父さんの話は毎度ふんわりし過ぎてて、全然わからないよ!」


 5ヶ国語なんてもちろん話せないし、我が家に私以外の娘はいない。いっそ、今すぐどこからか語学堪能の娘とやらを連れてこい。


「あ、お坊ちゃん、もう玄関のとこにいるから」

「すでに連れてきているとか!」

「挨拶しといてね、俺はちょっと出かけてくるから」

「どこに?」

「坊ちゃんの相手とか面倒だしちょっと遊びに行ってくる」

「ちょ、ふざけるな。またひとに面倒ごとを押しつけて!」

「えへへ、よろしく」

「窓から逃げるな!」


 そういうわけで、いきなり言語の通じないお坊ちゃんの相手を務めることになった。親父、帰ってきたらぶっ殺す。



 ********



 結論として、異国の坊っちゃんは大陸共通語が抜群にお上手でした。むしろ私が下手すぎて、全然聞き取れない感があるよね!


『……だよ。……が、……して……た』

『うん』


 うんうん、大丈夫。人称と簡単な単語と疑問文かどうかくらいはわかるよ。……って、大丈夫じゃないし!


 だから、基本的に私は相槌(あいずち)をうつのみ。


『今度、……を……して……たい。シャーロット、僕と……か?』

『……ごめん、よくわからない』


 そして質問の答えは全部『わからない』だよ! その他は、必殺穏やかな微笑みで切り抜けるしかないよね。


 いや、本当に悪いとは思ってる。この少年――キアラン――は、めちゃめちゃ可愛いし。黒目がちな瞳がうるうるしていて子犬みたい。今もしょんぼりした顔に胸がきゅんとなる。


 こんな同年代とは思えない庇護欲をそそられる相手に見つめられたら、お世話する以外に選択肢なんてないのでは?


 朝起きて目が合うだけで笑ってくれて、食事の時には一番美味しい部分を私に譲ってくれる。いつもなら、そこは親父がかっさらっていくよ。


 食材確保には必ずついてきてくれるし(もちろん、アホ親父が手伝うことはない)、夜眠るベッドまで一緒がいいって駄々をこねてくるとか、可愛すぎでしょ。小さい弟がいたらこんな感じ?


 私は理解した。可愛いは正義なのだ。言葉は通じずとも、可愛ければ良し!


 っていうか、正直なところ言葉がわからない方が幸せなことってあるよね。例えば、うちのイカれ親父とかトンチキ親父のことなんだけど。


『……は……だから。僕は……だよ』

『うん』

『シャーロット、……!』


 ああそんな素敵な笑顔で、私を見ないで! 言葉がわからないから適当にうなずいて、だいたい話を聞き流しているとか絶対に言えない!



 ********



『いらっしゃい』

『こんにちは!』


 とはいえ、やっぱり会話ができないと困ることは結構あるわけで。取り出した秘密兵器がこちら。そう、必殺「近隣の村長さん」だ!


 ちゃらんぽらんなのはうちの親父だけで、よその村長さんたちはみんなしっかりしている。辺境だからこそ全員顔見知り。よそ者がいれば、すぐにそれぞれの耳に届く。そういうわけで、挨拶も兼ねて遊びに来ているってわけ。


『こんにちは。キアラン、……ね。……って』


 今私たちにおやつを用意してくれたのは、山向こうの村長さん。こんな場所にどうしてと言いたくなるくらいの絶世の美女だ。意外とその美貌を隠すためにこんな隠れ里に住んでたりなんかしてね。


 思ってないよ。みんな、大陸共通語ぺらぺらだから、キアランの相手もしてもらえば楽でいいじゃんとか、本当に全然思ってないからね!


『……、シャーロットは……て。僕は……に、シャーロットが……だと……です』

『まあ、まあ、……っていいわねえ。シャーロットは、……ねえ』


 よかった、盛り上がってる。まあ、盛り上がっていても、内容が欠片もわからなくて、私だけついていけてないけど! 名前を呼ばれているから、話題が気になり過ぎるよね!


 やることがないから会話をしているふたりを見ているばかりで、キアランのいつもとは違って見える大人びた顔に、ふとどきりとする。私にべったりのキアランもそれはそれで可愛いんだけどね。


 あの横顔が今の柔らかいものから凛々しいものに変わってしまったら、帰ってしまうのかな。キアランがここにいるのは特別なことのはずなのに、いつの間にか当たり前になってしまいそうで少しだけ怖かったりする。


『シャーロット、……が……ね。どうぞ』

『ありがとう!』


 キアランが、空になった私の皿にお代わりをとってくれた。まったく、君はいいお嫁さんになれるよ。


 これ、本当に美味しいんだよね。山向こうの村と、川向こうの村、それに谷向こうの村、みんな全部違う国みたい。この間食べた、谷向こうのごはんも美味しかったなあ。郷土料理万歳!


 いろいろ考えても仕方がないし、今を楽しく生きなくちゃね。おしゃべりに使わない口は、しっかりお菓子を味わうために使っておきます。


『シャーロットの……が、僕の……だから』

『うん』

『シャーロットが、……と……る?』

『ごめん、よくわからない』


 いや、村長さんったらそこで吹き出さなくても! そんな面白い話してたっけ? それにしても、村長さんってばキアランと仲いいよね。おしゃべり、いつも盛り上がってるし。べ、別にいじけてないし。泣いてないし!


【シャーロット、あなたはキアランのことをどう思っているの?】


 え、何急に話をふってくるんですかね? 唐突に村の方言で話しかけられて、びっくりした。やっぱり、異次元の言語だわ。これは。


【あなた、キアランとずっと一緒にいたいのではないの?】

【そんなの無理ですよ】


 だってこの美少年、確実に私よりも身分が上だし。明らかに「高位貴族でございます」って顔と格好をしてるし。


【では、彼の身分を抜きにすれば好ましく思っているのね】

【嫌いだったら、お世話してませんよ】


 キアランは、訳ありだ。田舎住まいの平凡なうちだったからいいようなものの、下手すりゃお家騒動に巻き込まれて、全員口を封じられるとかもありえるんじゃない……? いやあ、貴族ってやっぱり怖いなあ。


【シャーロット、覚えておきなさい】

【な、何ですか?】


 久しぶりに見る真面目な村長さんの顔。こんなに真面目な顔は、初対面の挨拶以来だよ。


【言語習得に一番大切なのは、情熱よ】

【確かに】


 私が各村の方言を習得できたのも、この美味しいごはんをもっと食べたいという熱い想いがあったからだもんね。あ、思い出したらよだれが。


【シャーロット、早く大きくなりなさい】

【横幅がこれ以上増えるのはちょっと……。もっと身長がほしいです】

【シャーロット……】


 すみません、村長さんってばなんでそこでため息をつくんですか? 言葉がわからないはずのキアランが、苦笑いしているのも腑に落ちない。


 ちなみにこのやりとり、山向こうの村だけでなく、川向こうの村、谷向こうの村でもやりました。まったく、一体なんなの。



 ********



 それからしばらくの間、私たちは仲良く過ごした。どこに行くにも、何をするにも一緒。山向こうの村ではアケビを探して食べ、川向こうの村では魚を釣って食べ、谷向こうの村ではノブドウを見つけて食べた。


 山育ちじゃないはずなのに、私について一緒に遊ぼうとするキアランは、めちゃめちゃ可愛かった。


 食べてばっかりだって? ほっとけ、これでも害獣駆除とかもしたし、(かご)を編むのに使う(つる)なんかも集めてたんだって。いやまあ確かに、私が蔓を喜んで集めていたら、「これも食べるのか」みたいなことをキアランに聞かれたけど! どんだけひとのこと食欲の権化だと思ってんのさ。


 けれど、夢みたいな時間に終わりが来るのは当たり前で、キアランの帰国は突然決まった。綺麗な目に涙をためてぷるぷる震えるキアランは可愛くて、かわいそうで、私も胸がいっぱいになる。


『シャーロット、僕は、僕は……!』

『キアラン、大丈夫』


 まあ、こういう時の「大丈夫」とか根拠一切ないんだけど。どうしてキアランがこんな辺鄙な田舎に来たのか私にはわからない。


 でも、あの癖のある村長さんたちとも平気な顔で渡り合えるキアランなら、きっとどうにかできるんじゃないかな。それにうちの親父が、キアランを無責任に放り出すとは思えないんだよね。テキトーに生きているとしか言い様のない父だけれど、一度拾った生き物は本当に大切にするひとだから。だからさ、キアラン、ちゃんとまたここに遊びにきてよ。


『シャーロット、……から。もし……したら、シャーロットは……て……る?」

「え?」


 しまった、適当にうなずいていたらキアランの話す速度が爆発的に上がってたわ。無理。追いつけない。


 ちょっと待って。何を言ってるのかやっぱりわからん。感動的な場面なんだろうけど、どういう話? 涙をこぼしそうになりながら、そんな真剣な顔で見られてもどうすりゃいいのよ。


『僕……を……するから、シャーロットを……て……かな?』


 ごめん、大事な部分が全然わかんない。こんな時にクソ親父がいれば……いや、ダメだ。どうせ『え、なんでわかんないのかな?』って言いながら小躍りしつつ、変な翻訳してくるわ。アレに頼るのだけはないわ。


 よし、場面から考えよう。家が壊れたときには家の話しかしないし、畑の近くでは作物か害獣の話しかしない。つまり、今ここではたぶん別れの挨拶的な話になるのは間違いない! 


 いつかまた会おう的なアレね。それなら返事はただひとつ。


『僕は……だ。どうか、……して』

『うん、わかった』


 ぱあっと、彼の顔が輝く。はあ、可愛い。繰り返しになるけれど、やっぱり可愛いは正義。どうやら、私の返事は間違っていなかったらしい。ほっとしたよ。


『本当に? 絶対だよ?』

『もちろん』


 泣き顔だって萌えちゃうけれど、やっぱりキアランには笑顔がよく似合う。故郷の砂漠の国でしっかり幸せになれよ!


『シャーロット、これ』

『うん』


 なんだこれ。なんか手触りだけですごく上等なのが伝わってくる紙なんだけど。どっから持ってきた?


『シャーロット、……して。……から』

『……は、はい?』


 ええと、寄せ書き的なやつ? ここで暮らした思い出に名前を書いてってこと? よくわからないまま自分の名前を書けば、満面の笑みを浮かべられた。なんだよ、キアランのその笑顔のためなら、名前なんかいくらでも書いてやるさ!


『シャーロット、……!』


 感極まったらしいキアランから、頬にキスされた。ひゃー、びっくりした。びっくりしすぎて、もしかして唇にキスするつもりだったんじゃないかなんて思っちゃったよ。いや、いや、まさかね。まあ、美少年のキスとか平凡娘にはご褒美でしょう。だから、ここはひとつ。


『ありがとう』


 私も笑って答えれば、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。どうしてだろう、なんだか妙に寂しい。ああ、私はキアランのことが好きだったんだな。友達じゃなくって男の子として。そうか、これが初恋だったのか。


 もう二度と会えないだろう異国の少年の背中に手を回し、さよならの温度を確かめた。


 その昔、おばあちゃんは絶世の美少年にキスされたことがあるんだから。うんと年をとったら、周囲にそう自慢しちゃおう。でもその前に、少しだけ泣いてもいいよね。



 ********



 涙、涙の別れのあと、とりたてて何か手紙などが届くわけでもなく日々は過ぎる。まあ、ありがちなやつよね。やっぱりその場の盛り上がりで行動しただけなんだろうなと思っていたある日。


 ド派手な馬車がうちの家の前にやってきた。


「だ、誰?」


 目の前にいたのは、眼光の鋭い細マッチョなイケメン。いや、本当に誰よ。あの親父、また面倒ごとを呼びやがったな。ってか、その馬車でよくこんな山奥までやってきたな。馬、可哀想。


「シャーロットったらひどいな。成人したら、ちゃんと迎えに行くねって伝えていたのに。第一声が『誰』だなんて」

「……はあ?」

「僕だよ。キアランだよ」


 え、この白い歯がまぶしいイケメンが、あのぷるぷる震えていた美少年と同一人物だって言うの?


「東の国のことわざで、『男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ』って言うでしょ」


 いやいや完全に別人ですやん。っていうか、いつの間にこの国の言葉を話せるようになったの。


「シャーロット、言語習得に一番大切なのは情熱だよ」


 村長さんたちに言われた言葉を、キアランも繰り返した。


「その情熱はどこから?」

「好きなひとと同じ言葉を話したいと思うのは、当然のことでしょう」


 なんとも直接的な言葉に、頭がくらくらする。見た目以上に、キアランは大人になっていたみたい。


「そ、それでキアランはどうしてここに?」

「だから、最初に言ったよね。シャーロットを迎えにきたんだ。遅くなってごめんね」


 どうしよう。美少年が美青年になって帰ってきたと思ったら、頭のねじを数本どころか数十本なくしてきたらしい。どうしてだよ。


「そんな『何言ってるの?』みたいな顔をしてもダメだよ。ちゃんとシャーロットが署名してくれたでしょう。この婚姻届に」

「……はああああああ?」


 まぶしい笑顔を見せつつキアランは、謎の紙を私に見せてくれた。


「君は口約束だと思っていたかもしれないけれど。いつも僕への気持ちを聞いても『わからない』としか答えてくれなかった君が、初めて『もちろん』『楽しみにしている』って答えてくれたから。僕は本当に嬉しかったんだ」


 え、待って。待って。

 そういう質問だったの? 今初めて知ったわ!


「はい、どうぞ。あ、それはあくまで教会から発行された複製だから。婚姻届自体は聖女の承認のもとに受理されて、ちゃんと教会の大陸本部で保管してもらっているよ」

「複製? 婚姻届?」

「ほら、僕がここからいなくなる前に、シャーロットに名前を書いてもらったでしょ」


 ああ、あれね。でもあれって、思い出のために私の名前を書いてほしかったとかじゃないの?


「あれ、後からこっちで色々書き足しておいたから」

「は?」

「シャーロットったらダメだよ。何も書いていない紙に名前だけ書いたら。身ぐるみ剥がされたり、奴隷として売り飛ばされたりしても文句は言えないんだから」

「えーと?」

「僕だからいいようなものの。本当に気をつけてね。ひとを疑わないところが、シャーロットのいいところなんだけど」


 何それ、怖いんですけど! クソ親父の知り合い、やっぱり頭がおかしいやつしかいないの?


「え、ごめん。本当に私の可愛いキアランなの? キアランのご兄弟とか親戚の方なのでは?」

「大丈夫、僕が本物のキアランで間違いないよ。絶対に幸せにするからね」

「先行き不安しかない」

「ごめんね。でも諦めて。国ではいないものとして扱われていた僕のことを、ちゃんと認めて人間として扱ってくれた。シャーロットがいなかったら、僕は今ここにはいないんだよ」


 まさかの「はい、はい」とテキトーに返事をしていたことが、キアランの心を救っていただと? え、めちゃめちゃ罪悪感が! ご、ごめんなさい。


「……はいはい。キアランがどっかのお坊ちゃんだってことはわかっていたけれど、まさかねえ。まあ、いいや。()()として大事にしてね」


 あのイカれ親父に振り回されてきたのだ。もともとキアランのことは好きだったわけで、長いものには巻かれろの精神で生きた方が、人生は幸せになれる。だからこの事態も乗り切れ……。


()()だよ」

「は」

「側室も愛妾も持つつもりはないから、シャーロット、よろしくね」

「はああああああああ」

「君を迎えに来るために、ちゃんと君のお父さんたちとの約束どおり国は手中に収めてきたから。あの日のように君に守られるのではなく、君を守るだけの力をつけたつもりだ」


 高位貴族だとは思っていたけど、王子さまって。いやいやいや、無理でしょ。辺境の平凡な村娘が、よその国の王子さまと結婚できるわけないじゃん。長いものには巻かれろで乗り切れるかい。暗殺とか幽閉とかごめんだわ!


「大丈夫、君は言語もマナーも完璧だ。自分の身を守る以上の力もある。むしろ、君が魅力的過ぎて悪い人間を引き寄せないかが心配だ」

「冗談はやめてよ」

「『古代神聖語』を日常会話として使い、主要3言語の他に、マイナーな我が国の言葉まで扱えるなんて」


 えーと、「大陸共通語」として教わっていたのがキアランの国の言葉で、ただの母語だと思っていたのが「古代神聖語」で、方言だと思っていたのが主要3言語? なんだそりゃ。


 というか、違う国の言葉みたいだと思っていたら本当に別の国の言葉だったのかよ。


「襲いかかる数々の手練れの暗殺者を、害獣として処理するその手際の良さ。まさかあの秘術がまだ残されていたとは」


 凶暴なイノシシや山猿と一緒に処理していたのが、暗殺者だと? 食うに困った農民の成れの果ての山賊だと思っていたから、()()して村民として引き取っていたのに。ということは、うちの村民、後ろ暗いひとしかいないの? あと秘術ってなに?


「毒を含む動植物を日常的に食料として取り入れるその胆力!」


 ちょっと下ごしらえに手間がかかるだけで、どれも美味しかったでしょ? キアランも喜んで食べていたじゃない。巨大食虫アケビも、怪魚も、毒蔓ノブドウも絶品だったでしょ。それに、ここで収穫できるものは、だいたいあんなものばっかりだし。


「さすが、かつての勇者たちの秘蔵っ子だね」

「ごめん、その情報詳しく!」

「まさか伝説の勇者、聖女、賢者に魔王が()()()()に住まい、それぞれ村長を務めて、この世界のバランスをとっていたとは」

「そこ、そこのとこもっと詳しく〜」


 にこにこ笑顔の腹黒美青年は、それは嬉しそうに笑っている。何事もよくわからないからって、適当に過ごすもんじゃないね。しっぺ返しってあるんだなあ。


 儚げな美少年は、繊細どころか、したたかで腹黒な王子さまだったけれど、それに気がついたときには時すでに遅しでした。でもなんだかんだで、異国の地で幸せに暮らしています。


 ただし、クソ親父は許さないから。とりあえず、私に教えてくれていた常識がひと通り世間からズレていることがわかったので、しばらく孫には会わせないでおこうと思います。この子には、まっとうな道を歩ませるんだからね!

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