表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

繰り返す祈り

ゆっくり書いていきます。

 カーテンの隙間から溢れる柔らかな朝の光。鳥のさえずりが今日も良い天気だと告げていた。ゆっくりと寝台から身を起こすと、ぼんやりと薄い霧のかかったような意識が少しずつはっきりとしてくる。寝起きで少し強張った身体を解しながら、枕元に置いていたソレを手に取る。


「今日も一日あなたの身が健やかでありますように」


 掌の中のその感触を確かめて目を閉じれば、自然と祈りが唇からこぼれてくる。もう幾度となく繰り返したこの祈り。何度でも繰り返したところで変わらない、祈りに込めた想いをゆっくりと確かめる。


(これを私と思って肌身はなさずお持ちください)


 思い切って差し出した手の中のものを、あの時そっと受け取ってくれたあの人の表情。あの人にしては珍しく照れくさそうに微笑んでいたその眼差しは、今でも瞼の奥にしっかりと焼き付いている。その光景は、その情景は、何一つままならない身である自分の、決して奪われることのない珠玉だった。


(あの人と過ごしたあのひと時があったから、いつだって顔を上げて真っ直ぐに生きていける)


 お返しにとあの人が差し出してくれたものは、あの人と自分を今でもつなげる(よすが)だ。それを掌に握りしめ、時折にでもその便りを耳にできればそれで十分、そう言い聞かせて日々を重ねてきた。あの人に毎日の祈りが届いていたと実感できるその一瞬があれば幸せだった。


(それ以上を求めてしまうのは、きっと贅沢というものなのでしょう)


 近頃すこし胸のうちによぎる寂しさは、この清々しい朝には似つかわしくないものだ。頭を振ってその小さな感傷を追い出すと、寝台からおりてひんやりとした床に足をつける。窓を開ければ鳥の声が告げたとおりの青空。


(今日も良い一日になりそうですね)


 王国を守護する星の神王の眷属たる亜神に祈りを捧げながら、今日一日をどう過ごそうかと思いを巡らせる。人は思い出の中だけで生きて行くことを許されない。今日を積み重ねて明日へと向かうのだ。


(そして今日を明日へ積み上げるためには、今日の問題としっかり向き合わないといけませんね)


 衣装棚を開けて身支度を整えながら、今日の予定を順に思い浮かべていく。代わり映えのない日常を回すための取り立てて特別なことのない予定ばかりだけれど、少しばかりの楽しみもあるかもしれない。そういうささやかな楽しみを糧にして、今日も一日頑張って行けそうに思えてくる。


 整えた身支度を最後に鏡で確認する。大丈夫、今日もつつがなく胸を張って過ごしていける。鏡にうつる自分に向かって深く頷いてみせる。


 そして最後にもう一度、祈りを口ずさんだ。


「私の祈りがあなたを危難から遠ざける護りとなりますように」


ちょっとでも気になったかも?という方は、ぜひ気になり具合を☆でお願いします。


もし続きが気になったなら、ブクマをしてみてください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 光景は、その情景は、何一つままならない身である自分の、決して奪われることのない珠玉だった。 →すごくキレイな表現だと思って唸りました。 本当に丁寧に書き綴られてるなと読みながらいつの間にか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ