民間呪術
ネタだけパラパラとあったので、形にしていこうかと思います。
民間呪術【呪術 / 風俗 / 伝承】
▽呪術
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民間呪術とは特に体系化されていない、世間に広く知れ渡っている雑多な呪術体系。あるいはその総称。民呪とも。ごくささやかな効果しか持たない弱い呪術であることが多い。その行使には特定の手続きや代償を伴うが、要求されるものは殆どの場合に特別な才能や訓練を必要としないため、広く民間に普及している。
▽風俗
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民間呪術は生活習慣の中に取り込まれており、呪術として意識されていない事が通例である。地方ごとの生活様式に合わせて取り込まれてしまったそれは、もはや同一の呪術とは分かり難い形で根付いている。しかしながら同一の効果の民間呪術であれば地方が異なっていても共通する様式が必ず存在する。このことから、民間呪術には原型となる呪術が存在していることが示唆される。原型となった呪術が散逸し、各地方ごとに不完全に定着したものが民間呪術という解釈が定説となっている。
▽ 伝承
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民間呪術の中にも忘れられた力ある呪術が隠れていることがある。安易に執り行われた力ある民間呪術によって、大規模な災害を引き起こされた事例も存在する。いずれの場合も悲劇的な物語として記録されており、昔語りの形式で各地で口伝されている。分別のつかない年頃の子供に戒めを与えることで、かつての悲劇を繰り返さないようにする民間の知恵というものであろう。
[著:パトリシア=カーズミル]
◇ ◇ ◇
私は編纂中の博物誌の記事を一つ書き上げて、最後にさらさらと署名を入れた。これでやっと一息つける。ずっとペンを握っていてすっかり強張ってしまった利き手の指先をもみほぐす。
(何度も推敲して清書したのだし流石に書き損じはないだろうけど、念の為に頭から読み直してみよう)
そんなことを考えながら傍らのカップの持ち手に指をかける。淹れてから時間が経ってしまったお茶はすっかり冷めていて香りも薄くなってしまっていた。けれども口に含めばほのかに香る柑橘の香料がふわりと口の中を抜けていく。スッキリとしたお茶の風味を楽しんでゆっくりとカップを受け皿に戻したとき、その傍らにあるそれにふと目が行ったのだった。
(あの 老婦人はもうお家へ戻られたかしら?)
なにかの花を象った刺繍が施された染みだらけのハンカチ。それを目にすれば、とある老婦人のことが自然と思い出された。この記事を書くための蒐集の旅の中で出会ったその人との思い出。そのほとんどは楽しいおしゃべりの記憶で、そしてほんの少しだけ寂しい記憶。
ハンカチは元は白かったのだろうけど、今は薄汚れて灰色だ。少し不揃いな縫い目の刺繍をなんとも無しに見ていたとき、唐突に私の脳裏に古い記憶が呼び覚まされた。
(あぁ、この刺繍は、きっと百日草だ。)
毎日のように見ている意匠だというのに、なぜ今の今まで気が付かなかったのだろう。首元にいつも掛けている首飾りの細鎖を手繰り寄せ、飾りを目線の高さに持ってくる。
百日草の首飾りが目の前で揺れる。ハンカチの刺繍と同じ意匠だ。
百日草は地の神王の眷属であるエレガナ様の花。エレガナ様は私が幼少期を過ごした地方で崇められている亜神様だ。親しい人が旅立つとき、離れ離れになってしまうとき。そんなときには百日草を象った小物を贈り合うのがその土地の習わしだった。
「同郷だったかもしれないのですね。もう少し早く気がついていたら違ったお話も伺えたかも知れないのに」
首飾りを私に贈ってくれた男の子とは、それ以来ずっと顔を合わせていない。利発だけど少し引っ込み思案な彼の顔はもうおぼろげにしか思い出せない。今はどんなふうに成長しているのだろう。きっと街中ですれ違っても、私は彼と気づけないのだろうと思うと少しさみしい。
「私の祈りがあなたを危難から遠ざける護りとなりますように」
私は百日草の首飾りを握りしめて彼の無事を願う。私の中の思い出の彼が今日も息災であるように。たとえその隣に私がいられないとしても、彼が無事であればそれは喜ばしい。そう思えるから。
あの 老婦人もきっとこんな気持で祈っていたのだろうか。彼の人の健やかな日々を。
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◇博物誌 拾遺録・抄◇
【亜神】
この世界に住むものが大いなる力を振るうに至った時、世の理を外れて成り果てる超常の存在。神の如き力と永遠の命を得た存在であるものの、不死ではない。大いなる力を振るうに至るきっかけは、日々の研鑽であったり、世界を揺るがす災厄に結果であったり、あるいは単なる不幸と様々である。
【神王】
神王とは最も大きな力を持つ亜神を示す称号。司る力を象徴する12の属性それぞれに一人の神王が立つ。神王といえど亜神であることには変わりなく、不死の存在ではない。