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第8話 天使の地雷




「ん……。」


 目を開けると、最近見慣れた天井が瞳に映る。

 思考がぼやけた状態だが、体と頭に強い倦怠感を感じる。

 

 顔の火照りは強く、わざわざおでこに手を当てるまでもなく、熱が上がっているのを自覚する。


「そうか……俺……。」


 そうだ……。

 今日の朝のソラの様子が、どこか追い詰められているような雰囲気だったから、心配になって追い掛けて行ったんだっけ……。


 もしかしてと思って冒険者ギルドに行ってみたら、案の定、さっきまでソラがそこにいたらしく、しかもパーティーを探していたそうだった。


 そこまで分かれば、ソラが何をしようとしていたのかは大体察したから、彼女がいるであろう場所に向かって。


 情けないな……。

 結局、助けに行くつもりが、あの女の子に助けて貰って……。

 それから体の限界が来て、地面に倒れ込んだ俺を二人に支えてもらいながら、この宿屋の部屋まで帰ってきたんだ……。


 

 情けなさすぎる!!俺!! 



 そもそも、風邪程度で4日も寝込むなんて貧弱すぎるし、無理をした結果、また体調が悪化して今の状態に至っている。

 

 はあ……。


 それにしても、冒険者ギルドでソラの情報を教えてくれた、あの小さな女の子が、まさか冒険者だったとは。

 俺には、12歳の妹がいるのだが、大体あの女の子もそれくらいの歳だろう。

 どういった事情があるのかは分からないが、ギルドはそんな年端もいかない少女を冒険者として認定してしまって良いのだろうか。


 ……あれ?

 ていうか、ソラがいないぞ?

  

 今はもう外は真っ暗になっており、時計を確認すると、午前1時を差すところだった。


 ……え?

 おいおい、アイツまた危ない事してるんじゃないだろうな!!

 あ……、でも駄目だ……、もう体が……。


 ソラの事が心配になりながらも、俺は体の不調に打ち克つ事が出来ずに、目を閉じた。




 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 結局その後、俺は二日間丸々寝込み、やっと体調が回復した朝。


 ソラはあれからも帰ってこなかった。

 

 俺は彼女を探す為に、とりあえず冒険者ギルドで情報を募ろうと、出掛けたのだが。

 情報収集するまでもなく、普通にギルドのテーブル席に、あの時の少女と一緒に座っていた。


「あっ!ハルト!もう良くなったんだね!」


 少し遠巻きから声を掛けてくる。


「ああ……。というかお前、今までずっとどこ行ってたんだよ。心配したんだぞ……。」


「フローラちゃんのお部屋に泊めてもらってたんだよ!」


 そう言って正面に座る少女に笑いかけるソラ。

 俺の知らない間に、仲良くなったみたいだ。


「フフ……当然よ……。風邪を引いている人間と同じ部屋で過ごすなんて、移して下さいと言っている様なモノだわ。」


「そうだったのか……。何から何まで世話になったな。……フローラって言うのか?俺達を救ってくれた事と、ソラの面倒を見てくれた事、本当にありがとう。」


 そう言ってしっかりと俺は、彼女、フローラを見て礼を…………


 あれー……?

 冒険者ギルドで会ったときと、レッサーグーパンから助けてくれた時は、自分の不調でそれどころじゃなかったけど……。


 この子、左目だけ覆った黒い仮面に、右腕に巻かれた黒い包帯って、完全にアレじゃねぇか……。


 なんだ?

 異世界の魔法少女は、【中二病】を発病しなきゃ死ぬのか?

 

「あのね、ハルトが寝込んでいる間に、フローラちゃんと二人でクエストに行ったんだけど、私レベルが上がったんだよ!」


 そう言って、嬉しそうにギルドカードを見せつけてくる。

 おお、確かに上がってるな!

 4ヶ月間も、レベルを1つも上げられなかった俺達からすれば、大進歩だ。

 やっぱり、攻撃スキルが使えるっていうのは、大きな要素なんだな。


「本当に、何から何までありがとう、フローラ。改めてお礼をさせてくれ。」


「あ、ハルト、そのことなんだけどね……」


「ソラ、私から言わせて貰うわ。」


 改まった姿勢でフローラが俺を見る。


 それはそうとこの子、可愛らしい見た目と声に対して、話し口調のギャップがすごいな。

 なんていうか、演じている様な感じだ。


「お礼の代わりと言っては何だけど、私をあなた達のパーティーに入れて頂戴。」


 この時を待ってましたと言わんばかりの表情で、自信満々にそう告げたフローラ。


 彼女には、この間から世話になりっぱなしだ。

 ピンチを助けてくれたり、俺が風邪を引いている間ソラを泊めてくれたりと、人間性も信頼出来る。

 彼女は魔法の攻撃スキルも持っているし、戦闘においても、俺達のパーティーに足りないものを補ってくれる存在だろう。

 恩義の意味合いも含めて、彼女の申し入れを受け入れるべきだと思う。

 むしろ、こちらから仲間になってくれとお願いしたいくらいの存在だ。


「だが断わる。」


「えぇ!!なんでぇ!!」


 俺の反応が予想外だったのか、早速キャラ崩壊しているフローラ。

 そっちの方が、似合ってて可愛いと思うけどな。


 何となく分かるんだが、素のフローラは素直で可愛らしい性格をしているのだと思う。

 俺の妹と似た雰囲気を感じるから、多分間違ってない。

 何故、彼女が素の性格に似合わない中二病の真似事をしているのかは分からないが。


 なので彼女の申し出を断った理由は、中二病患者だから、ではない。


 ……いや、少しはそれもあるけど。

 ポンコツ姫だけでも手一杯なのに、訳分からん言葉で話されたり、やたらと強敵と好戦的だったりされたら、かなわんからな。


「ハルト!?どうして、フローラちゃんを入れちゃダメなの!?フローラちゃん、火の魔法も使えて凄いんだよ??」

 

「……ソラちょっと、こっち……。」


 フローラから離れて耳打ちする。


「あのな、アイツはまだ子どもだ。なんで冒険者なんてやってるのか分からないし、ギルドが認めた理由も分からないが、モンスターと戦うにしては幼すぎる。それにフローラの着てるドレス服は、一目で相当な上物だと分かる。恐らく、良いところのお嬢様ってやつだ。そんな金持ちの大切な娘さんを、俺達が連れ回して、ケガでもさせてみろ。責任なんて取れないし、最悪、物理的にクビが飛ぶぞ……。」


「な、なるほど……。確かに、そう言われてみれば、そんな気がしてきた……。」


 ソラが納得したところで、フローラに向かって言う。


「フローラ。君が俺達を助けてくれた事は本当に感謝している。だから、しっかりお礼はしたい。……この街で美味しいって評判のケーキ屋さんがあるんだが、そこで御馳走するよ。それでどうだ?」


「嫌よ!パーティーに入れて貰うまで、私は諦めないわ!」


 キャラを取り戻した彼女が力強く宣言する。

 意外に強情だな……


 しかし、フローラはこう続けた。



「……でも、ケーキは御馳走になってあげるわ。」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「……うわ、美味しい!!……こっちも……うーん!!……しあわせ……。」


 いや、フローラさん、絶対そのキャラの方が人気出ると思いますよ?

 せっかく小柄で可愛らしい見た目をしている事だし。

 

 フローラのゆるーい光景を微笑みながら見つめていると、彼女は照れた表情で咳払いをして言う。


「とにかく、この後は私をクエストに連れていって貰うわ。私の光輝なる聖天の力を、ほんの上澄みでも味わったのなら、きっともう手離せなくなるはずよ。」


「いや、行かないよ?」


「だからなんでぇ!!」


 なんでそれくらいもダメなの!とダダをこねているフローラだったが、思い出した様に笑い出す。


「フフ……フフフ……良いわ。そこまで言うのなら、無理強いはしないわ。……だけど、私は、今から一人で【ローウルフ】のクエストを受けに行くわ。ローウルフはこの街の周辺では、比較的強いモンスターだし、群れで行動する習性があるから、レベル5の【ウィザード】である、防御力補正が低い私は、きっと死んでしまうわね。いいえ、間違いなく死ぬわ。飢えた狼に、喉を噛まれ、腸を食い千切られ、亡骸さえ誰にも看取られずに、儚く命を散らしていくわ。短い間だったけど、あなた達と出会えて楽しかったわ。」


「想像しただけで、最悪な気分だよ、ちくしょう!!」


 クッソ、コイツ、質の悪い脅し方しやがって……!

 

 あー、仕方無い……


「一度だけだぞ……。それに、クエストに着いていくだけで、パーティーに入れる訳じゃないからな。」


「……!!う、うん!!」


 もうキャラがブレまくってますけどね。

 

 とにかく、そういう訳でローウルフのクエストを受諾し、俺達三人は街近くの森の、最初に入った時よりも深い場所を目指して出発した。


 

 ……あれ?ソラさん、空気だったね?






◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 森へと到着し、俺はソラの心を守る為に、スライムに遭遇しない様に最大限の注意を払って、中を進んでいた。


 ソラは少しだけ緊張した面持ちだったが、フローラはワクワクして仕方無いというような、興奮した表情をしていた。


「……もうそろそろ、ローウルフの生息地に着くんじゃないか?」


「フフフ……永きに渡る、神獣との決着をつける時が来たようね。聖なる天の裁きを、味わわせてあげるわ。」


「スライム怖い…スライム怖い…スライム怖い…」


 駄目だ……。

 三人になると、途端に収集がつかなくなるな……。

 フローラは大仰な事を言いながらとても楽しそうにしているし、ソラはあの時のトラウマが蘇って段々とグレー色の瞳に変わるところだ。


「……!いたぞ!ローウルフだ、2体いる!」


 近くで見ると、想像していたより威圧感があるな……。

 さすがは、ハロの街近辺の中級モンスターといったところか。


「よし、俺がスキルで敵の攻撃を引き付けるから、その隙にフローラが魔法で攻撃してくれ。ソラは味方がダメージを受けたタイミングでヒールをかけてくれ。」


「了解したわ。」


「う、うん。ヒールだね、まかせて!」


 攻撃スキル持ちがいるってだけで余裕が違うな。

 ソラと2人でクエストに出掛けた時はドキドキだったけど、前よりも強いモンスターを前にして、不思議と心は落ち着いている。


 ……よし、行くか!


 俺は地を蹴り、フローラとローウルフの射線上に入らない位置へと走る。

 

「プロボーグ!!」


 敵を引き付けるスキルを使って、ローウルフの注意を引くと、素早い動きで襲いかかってくる。


 ガギィ!!


 繰り出された狼の鉤爪を盾で防ぎ間合いを取る。

 衝撃は強いが、盾で耐えられない程じゃない。

 ただ、2体に囲まれてしまうと捌くのは難しいな……。


「ファイアボール!」


 フローラが繰り出す火の玉が、宙を走って片方のローウルフに直撃した。

 

 明らかにダメージが通っている!

 やはり、攻撃スキルは偉大だ!


 今フローラが使ったスキルは初めて見たが、レベル1の時を除き、5の倍数毎に新しいスキルを習得出来るそうだから、現在レベル5のフローラが新しく覚えたスキルだろう。


 攻撃を受けていない方のローウルフの突進を捌くと、ダメージから立ち上がり肉薄していたもう一体からの衝撃を背中に受けた。


 ぐっ……!!


 以前にも話したと思うが、魔力のバリアによってこの程度では肉体的な傷は受けない、が内部的なダメージは受けるし、それに伴って多少の痛みも感じるのだ。


「ヒール!!」


 ソラの言葉と共に、淡い光が俺を包んで、蓄積されたダメージが癒えていくのが分かる。


「ファイアボール!」


 ダメージを負わせた方に的確に標準を定め、攻撃を当てることに成功すると、ローウルフは魔石に変わった。


 残り一体になったローウルフの攻撃を、危なげなく盾で捌き、フローラが魔法を二発ぶつけると、もう一体も魔石へと変わった。



 正直に言って俺は感動していた。

 今まで攻撃スキルが無く、まともな戦闘が出来ていなかったというのもあるが、今のこの三人での戦闘は均整がとれていて、とても気持ちがよかった。



 それからも、何体かのローウルフと、途中で出くわした【コモンボア】という猪型のモンスターと戦闘したが、危なげなく倒す事が出来た。


 俺が3まで、ソラが4までレベルを上げる事が出来ていた。




「はあー!!今日のクエストは大成功だったな!!」


 森から出た帰り道、夕焼けに染まった空を見上げて、俺は上機嫌でそう言った。


「そうだね!こんなにうまく行ったのは初めてだよ!」


 ソラも嬉しそうに同意する。


「フフフ……私の実力を持ってすればこの程度は当然よ。それにソラの回復も……ハルトも……敵を引き付けてくれて、とても助かったわ。……さあ、これで私をパーティーに入れざるを得なくなったんじゃないのかしら?」


「だが断る!」


「なんでなのぉ!!」


 フローラが今にも泣き出しそうな顔で、なんで!なんで!と聞いてくる。

 仕方無い。ハッキリ伝えるしか無いか。


「あのなあ、お前はまだ子どもだろ?この世界で色々な免許が取れる成人年齢は16歳だ。本来なら、冒険者として活動する事だって認められてないはずだろ?お前がどういう事情で冒険者をやっているのかは知らないが、俺達はこれから危険が伴う旅をしなきゃいけないんだよ。だから、お前に対して責任が取れないんだ。諦めてくれ。」


 すると、フローラが立ち止まって、表情を固めた。

 急に凄い真顔でいらっしゃる。


 と思ったら、今度は急に笑いだして……


「フフ……フフフ……フフフフフ……ああ、そう、そういうこと…………ちなみに貴方は、私の事をいくつだと思っているのかしら?」


「え?んー、俺の妹と同じくらいだから、12歳くらいだろ?」


 ピシッと空気が固まった。

 フフフフフフフ……と彼女が、妖しく笑う。

 


 あれ……?

 いつの間にか、俺、地雷踏んだ……?



 突然、笑いを止めたフローラが俯き、小刻みに震え出す

 

 

「……私は!……私は!!16歳だあああああぁぁぁぁぁ!!!!私はもう、大人だあああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 は?

 今なんて言った?

 フローラが16歳だって?


「って、えええええ!!??嘘だろ!?フローラ、お前そんな子供っぽい見た目で、16歳ってそれは無理があるだろ!!」

 


 完全に今、ブチッて音がした。

 

 

「うわあぁぁあん!!バカーー!!!ハルトなんて死んじゃえー!!!!ファイアボール!マナブラスト!ファイアボール!ファイアボール!!ファイアボール!!!」



「おい、嘘だろ!?悪かった、あちぃ!?よせフローラ、ぐわぁっっ!!ケガじゃすまなく、ぎゃぁあ!!ぎいぃいゃぁぁぁあああーーー!!!!」





 その後、少しだけ落ち着いたフローラさんは、それでも顔を真っ赤にして目に涙を溜めていました。



 恐れながら、ギルドカードを見せてもらい、年齢を確認させて頂きました。



 僕は、彼女に何度も何度も土下座しました。





 そして、なんやかんやあって、フローラさんが仲間になりました。

 




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