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第4話 ジョブ選択




 俺にフザけた呪いをかけた後、必要な情報をもういくつか伝え終わったクソ女神は「仕事したー!じゃあ、あとがんばれし!」と最後に残して消えていった。


 俺は、急展開に心がついていけないばかりか、魔王を倒せなければ寿命があと3年しかない事が確定し、てんやわんやだ。


 ひとまず、クソ女神が最後に言い残していった情報を含めて、一旦状況を整理しよう。



・俺は呪いで、魔王を倒せないと寿命があと3年


・魔王を倒さない限り、天ノ川さんは元の世界に戻れない


・魔王を倒すには、冒険者ギルドでジョブ登録をし、モンスターと戦って経験値を獲得し、レベルを上げなければならない


・俺にはクソ女神の加護とやらがあって、レベルが上がりやすい


・現在地は地図上で最西端の【ハロの街】というところで、魔王城は最東端にある。


・通常モンスターは魔王の影響を受けて強くなるので、東に行けば行く程レベルが高くなる


・クソ女神が空間から地図を出して、その地図にはハロの街含め、9つの街を巡るルートが示されており、それに従って拠点を移動し、レベルを上げながら進んで行くのが良いらしい


・ダンジョンと呼ばれる迷宮がある街では、ダンジョンのボスを倒して攻略すると、初回に限り経験値が大量に手に入る


・5人までパーティーを組めて、パーティーメンバーはモンスターを倒して得た経験値が等分されて入るようになる。


・少人数パーティーで敵を倒した方が一人に入る経験値は大きいが、安全面を考慮して、出来るだけ大人数パーティーで行動した方が良い



 こんなところかな。

 とりあえず話を聞いてみた限りだと、レベルを上げつつパーティーメンバーを探す事を目標に行動するのが良さそうだ。

 

 あと直近の課題として、俺達はお金を全く所持していないから手早く冒険者ギルドで簡単なクエストなんかを受けて、小金を稼ぐ必要があった。

 そうしないと、飯も食えないし、泊まる場所だってない。異世界も甘くない。


 それと、俺達が身に着けているのは元の世界の制服なので、出来るだけ早くこの世界の服を調達する必要がある。

 また、クソ女神にモンスターと戦闘するには、普段着とは別の装備を揃えた方が良いと言われているので、お金の目途が付き次第、買う必要があるだろう。


 お金がだいぶ必要になってくるな……


 まずは、クエストを達成してお金を稼ぐ事を中心にやっていくか。



 今後の方針が決まったところで、近くに座っていた沈黙姫に視線を向ける。


 さっきまでの悲壮な表情からは少し回復しているが、普段の彼女よりは元気が無いように見える。



 当然だよな……


 突然、異世界に連れてこられましたって言われても、受け入れられる訳ないだろう。


 それに、故意によるものでは無いにしても、彼女を連れてきてしまったのは俺なのだから、だいぶ気まずさを感じてしまう。

 そうは言っても、彼女を元の世界に送り返す為に、これから一緒に魔王を討伐しなければならないのだから、ここでウジウジしていても仕方がない。


 俺は、意を決して沈黙姫に声をかける。


「天ノ川さん。初めまして、俺の名前は結城陽人。とりあえず、今の状況は理解出来た?」


「………」


 沈黙が流れる。


 あ、そういやこの人喋らないんだったな。


 あれ?

 でもさっき、転移したばっかの時、混乱して気に留めてなかったけど、少し話してくれてたよな!?

 これって、考えてみたら超レアなんじゃ無いか!?


 さっきの会話を思い出すと、爽やかで可愛らしい声を発していた沈黙姫が脳裏に蘇る。

 超絶美少女という存在は声まで美少女なのだろうか。


「ひとまず、これから街に入って冒険者ギルドに行こうと思う。天ノ川さんもそれでいい?」


 コクリと頷いて立ち上がった彼女を見て、「じゃあ行こう」とハロの街へと歩き出した。



 ん?



 彼女が付いてきている気配を感じなかった為、俺はどうかしたのかと後ろを振り返った。



 !?



 沈黙姫が先程の場所から一歩進んだ場所で、盛大にコケていた。


「え!?どうしたの天ノ川さん!大丈夫!?」


 俺は捲れそうになっているスカートから極力目をそむけながら、彼女に駆け寄る。

 支えて起こしてやると、顔を上げた彼女は目を潤ませて真っ赤な表情でプルプルしていた。


「………」


「………」



 何だこれ。気まずい………

 


「あっ!天ノ川さん、膝!けっこう擦りむいちゃってるじゃん!」


「………」


「とりあえず、街に入ってどこかで治療して貰おう。」


 目に涙を溜めて顔を赤くしたまま、彼女はコクリと頷いた。

 歩けるかどうかを確認し、大丈夫そうだったので、今度こそ二人でハロの街に入った。


 西洋風という言葉がしっくりくるであろう街並みを見ながら歩を進め、通行人にケガの手当が出来る場所を訪ねてみると、公営でやっている治療屋というのが冒険者ギルドの中にあるというので、そこへと向かった。


 街の入口から10分程歩き、ショップが建ち並ぶ区画を抜けると、街中を流れる川があり、そこに架かる橋を渡った正面が冒険者ギルドになっていた。


 中に入り、治療屋を探しているとすぐに見つかった。

 

「すみません。この子、膝を擦りむいちゃって。手当てして貰えませんか?」


 俺が、受付けの老婆にそう声をかけると、老婆は立ち上がりカウンターからこちら側に出て来て、沈黙姫の膝の傷を確認した。


「ああ、こんなもの、すぐ治るさね。」


 そう言って、彼女の膝に手を伸ばす老婆。


「ヒール」


 瞬間。

 うす緑色の淡い光が迸り、沈黙姫の膝の傷はみるみるうちに消えていき、ケガをする前の状態にまで戻った。擦り傷としては、痛々しい部類のケガだと思っていたが一瞬だった。


「おお、すげぇ!!」


 俺は興奮気味にそう言って、ちらと沈黙姫の方を見ると、彼女も元の世界では起こり得ない現象に目を輝かせながら驚いていた。

 

 その様子を見て、老婆が呆れたように


「何が凄いもんかね……こんなの、回復職を選んだやつなら、誰にでも出来ることさね。」


 この世界ではそんなもんなのか?

 だとしても、こんな有り得ないと思っていた現象を生で見たら誰だってテンション上がるって!

 そういや俺達もジョブを選んだら、こういう技が使えるようになるんだよな!


 俺は興奮気味に、「ありがとうございました!」と老婆に告げて、待ち切れないとばかりにギルドのカウンターへと向かった。


 カウンターにいた受付けのお姉さんに、駆け出しの冒険者でジョブを取得したいことを伝えると、俺達二人分のギルドカードを作ってくれた。


「おすすめのジョブとかってありますか?」


「ええと、お二人でパーティーを組んで冒険をするおつもりですか?」


「今はそのつもりです。ゆくゆくは仲間を見つけて人数を増やしたいと思っていますが、早急にお金が必要なので、ひとまず二人でクエストなんかを受けたいと思ってます。」


「なるほど。でしたら、パーティーの要となる盾職はおすすめです。盾職は防御力が高い上に敵の攻撃を引き付ける事が出来るので、パーティーメンバーの危険がグッと下がるんです。上位のパーティーでは盾職がいないなんて、聞いた事が無いくらい重要なジョブですからね。」


 なるほど。

 盾職はパーティーに必須なのか。

 確かにパーティーメンバーの被害を抑えられるなら、ケガをする危険や、命の危険も低くなる。


 天ノ川さんを元の世界に戻す為に戦うのに、その本人がケガをしたり、あまつさえ命を落とすなんて事は絶対にあってはならない事だ。


 俺はクソ女神の加護でレベルが上がりやすくなっているから、パーティーの安全を絶対に護る為にも、盾職は俺がやるのが良いだろうな。


「一人が盾職にするとして、二人でクエストをこなす際は、もう一人はどんな職業が良いと思いますか?」


「そうですね。盾職はレベルが10になるまで攻撃系のスキルを覚えられないので、もう一人は少なくとも攻撃スキルを最初から覚えられる職業じゃないといけませんね。おすすめは、魔法職、弓銃職、戦士職ですね。魔法職は器用に攻撃スキルを扱えますし、弓銃職は安全な場所から敵にダメージを与えられます。戦士職は1番攻撃力が高いジョブなので、盾職がパーティーにいるならおすすめですよ。」


「なるほど。ちなみに、他にはどんなジョブがあるんですか?」


「他のメインどころだと、回復職ですね。ただ、回復職はレベルがだいぶ上がるまで攻撃系のスキルは覚えられないので、盾職と二人でパーティーを組むのはやめておいた方が良いです。人数が揃ったパーティーだと非常に優秀なジョブなんですけどね。あとは、特殊なジョブになってくるので、先程言った三種のジョブの中から選ばれるのが良いと思いますよ。」


「分かりました、ご丁寧にありがとうございます。」


 そう言ってから、沈黙姫はどの職が良いと考えているのかなと彼女の方を振り返ると、彼女は楽しそうに微笑んでいた。

 元の世界で見せてくれていた様な温かい笑顔を見て、俺は少しホッとした。

 ただでさえ、精神的にキツイ事続きで、彼女が参っているのは感じていたから、こうしてちょっとでも笑う事が出来ていて俺は安心する。


「ジョブ選択は、ギルドカードの裏面から選ぶ事が出来ます。その他にも、レベルが1上がるごとにスキルポイントが1付与されますが、その際にもギルドカードの裏面から上げたいスキルを操作して下さいね。」


 俺はギルドカードを二人分受け取り、自分のカードの裏面を見てみる。

 

 ……凄いな。

 カードの裏面は、現代でいうスマホの画面みたいな感じで操作出来るようになっていた。

 表面は身分証で、裏面は諸々の操作が出来る。

 この薄っぺらいカードのどこに、そんなハイテクな技術が詰まっているのか、不思議で仕方が無い。


「天ノ川さん、俺はお姉さんの話のとおり、パーティーで重要な盾職になろうと思う。だから天ノ川さんには、お姉さんが言っていたとおり、魔法職、弓銃職、戦士職のどれかを選んで欲しい。それでいいかな?」


 彼女はさっきよりも、更に笑顔になってコクコクと頷いている。

 意外にも、こういったファンタジーな世界が、好みなのだろうか?

 そういえばさっき、ヒールを初めて見た時もすごく喜んでいたよな。 


 とにかく、彼女が楽しそうにしてくれて俺も嬉しい。相変わらず、彼女の笑顔はとても魅力的だ。


 彼女に、本人のギルドカードを渡して、俺は自分のギルドカードを操作した。

 そして、盾職である【ナイト】を選択する。

 

 一瞬、自分が上書きされるような感覚を受けビックリしたが、不快な感覚では無かった。

 こうして俺は晴れて、ジョブ【ナイト】を獲得したようだ。


「よし、俺はナイトを選択したよ。天ノ川さんはどうす……」


「えいっ!」


 彼女が一瞬、ビクリと動いて、また嬉しそうに俺の方に笑顔を向けて来た。


「あれ、一人で決めちゃったんだ。相談してくれれば良かったのに。」


 そう言って、俺は沈黙姫のギルドカードを覗き込んだ。


 ん?

 え、ちょ

 はああぁぁァァアア!?


 おい、ちょっと待て!?

 沈黙姫のギルドカード、ジョブの欄に【クレリック】って書いてあるんだが!?

 さっき、一通りジョブを確認したけど、確かクレリックって回復職だったよな!?


「ちょ、天ノ川さん、なん……!?」


「ヒール!!」


 俺のお腹に向けて彼女が手をかざすと、うす緑色の淡い光が溢れて……


 何も起こらなかった。

 そりゃそうだわ、ケガしてねぇもん。


 って、そうじゃねぇ!!


「天ノ川さん!!話聞いてたよね??なんで回復職選んじゃったの!?」


「え、なに、話って?」


「……は?だから、二人でパーティー組むなら回復職は選んじゃダメだって。」


「え、そんな話聞いてないよ?」


「いや、今まで受付のお姉さんが教えてくれてただろ!!」


「あー、お婆ちゃんに膝のケガ治して貰ってからそればっかり気になってて、全然聞いてなかったよ!」


「はあ!?」


 おいおい、嘘だろ!?

 俺はもう盾職選んだ後だし、天ノ川さんも回復職選んじゃったって……

 わざわざ、お姉さんにジョブについて教えて貰っておいて、俺達は1番ダメな組み合わせを選んでしまったってことか!?


「……おい、どーすんだよ!!これじゃ、クエスト受けられないぞ!!」


「う……なんでそんなに怒ってるの!しょーがないじゃん!あの緑色の光綺麗だったんだもん!!私も使ってみたくなったんだもん!!」


「しょーがないわけあるか!!俺がタンクを選ぶから、それに合わせて三種類のジョブから選んでくれって言ったとき、お前頷いてたじゃねぇか!!」


「だって、早くあの光るやつ使ってみたかったんだもん!途中まで話聞いてなかったから、何言ってるか分かんなくて、てきとうに頷いたんだもん!!私のせいじゃないもん!!」


「ふざけんな!クエスト受けられなかったら、飯も食えないし、野宿決定だぞ!」


 俺は、涙目になっている天ノ川から、もう一度受付のお姉さんに向き直って聞いた。


「……レベル1同士の、ナイトとクレリックで受けられるクエストって……ありますか……?」


 恥ずかしかった。

 せっかく丁寧に教えてくれたお姉さんに対して、1番やっちゃ駄目だよって言われていた事を、ものの見事に数分で破り、叱られるのを待つ子供の様な気分で、泣きそうになりながら問いかける。


「……えっと……言いにくいんですけど……攻撃スキルを使わずにモンスターを倒すのは、恐らく、多分……難しいんじゃないかなと思います……。」


「……そうですよね。……ありがとうございました。」


「えっと……また、何かあったら、いつでも聞きに来て下さいね!」


「……はい。……ありがとうございます。」


 俺達の惨状をオブラートに包みこんでくれた優しいお姉さんに、いたたまれない気持ちを感じて、俺は鼻をぐずっている天ノ川を連れて、冒険者ギルドを後にした。




 どこに行くでも無く道を歩きながら、俺は深い溜息をついた。


「はぁ……ほんとに……これから、どうしよ……」


「……ぐす……私は悪くないもん……」


 ……いや、9割9分お前が悪いと思うぞ?


 ……とは、さすがにぐずっている天ノ川には言わないでおいてやるが。


「……そう言えば、普通に喋ってるんだな?」


「……さっき、ヒールが使えるようになったのが嬉しくて、テンション上がっちゃったんだもん……。」


「……そうか。ていうか、何でいつも話そうとしないんだ?」


「……お母さんに……あんたは見た目だけは良いんだから喋らない方が良いよって言われてたから……。」


「辛辣だな!!お母さん!!」


 まさか、そんな理由で沈黙姫が生まれていたとは思いもしなかった。

 

 そんな話をしていると、前方から子供が二人はしゃいで走ってきたが、一人がつまづいて転んでしまった。

 転んだ子供は、膝を擦りむいて血が出てしまっているようだ。


 すると、今の今まで泣いていた天ノ川の目がキュピーンと光り、子供の元へ駆けていく。


「ヒール!!!」


 ケガを治してあげた子供から「ありがとう、お姉ちゃん!」と言われ、嬉しそうに手を振っている。


 子供達が去っていった後、天ノ川は俺の方に振り返り、満面の笑みでドヤ顔をした。




 薄々、気付いてたんだ。


 さっきだって、何もないところでコケたり。


 そんな、予感はしてたんだ。



 だけど、冒険者ギルドで起きた出来事と、今目の前で起きた出来事を見て、確信した。






 天ノ川空はポンコツだ






 コイツは今日から、ポンコツ姫だ





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