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第3話 女神と呪い




『取り敢えず、ここがあんた達がいた世界とは別の世界だって事は理解してるよね?』


「は?」


『え、マジ?そっから?なんでよ、あーし言ったし。ちゃんと人の話聞いててよねー。あー、説明だるいし。』


「いや、聞いててって…。そもそも、あんたと会話するのはこれが初めてだろ。」


 この人は俺と会話した事がある体でいるらしいが、俺にはそんな記憶は無い。

 言っている事の意味が全く理解出来ない。


『はー?初めてじゃねーし、ちゃんと言ったし。あんたが、刺されて痛そうにしながら、女の顔眺めてニヤついてた時にちゃんと言ったし。』


 …刺された時?

 あの時、確かに意識が朦朧としながらも、誰かの声が頭に流れ込んで来た事は覚えている。

 言われてみれば、声は似ているような気もするが、こんな独特な話し方だったか?

 

 ていうか、それよりも!


「に、にやついてねぇし!」


 もし仮にだ。

 刺されて血をダラダラ流している状態で、沈黙姫を見てニヤついていたんだとしたら。


 どんな狂気だよ!!

 気持ち悪すぎるわ!!


 それに、あの時は血が流れ出て頭がボーっとしていて、そんな余裕なんて無かっただろう。

 …頼む、そうであってくれ、あの時の俺!!


「あの時の声があんただってのは、言われてみればそんな気もする…。けど、あの時の声はもっと丁寧な感じだった気がしてるんだけど。」


『いや、ふつーに初対面では丁寧な言葉遣いするし。あんた、バカなの?』


「今も充分、初対面だよ!いつ、あんたとそんな砕けた仲になったんだよ、俺は!」


『あー、うっせーし。あーし、ちっせぇ男嫌いだから。』


 なんだろう、コイツめちゃめちゃムカつく…!!


『ちょっと、黙って聞けし。今から全部説明してやるし。』


 言い返してやりたい気持ちをグッと堪える。

 今は、この状況を知る事が最優先だ。


『とりあえず、あんたが死ぬってなった時、あーしがあんたの刺される前の情報をトレースして、こっちの世界に転移させてあげたってワケ。あーしに感謝しろし。』


 何故だろうか。命の恩人であると分かっても感謝の念が1ミリたりとも湧き上がってこないのは。


『そんで、あんたに異世界に持っていきたいもの聞いたら、そこの彼女だったから、一緒に連れてきたってワケ。』


 ……え?

 俺が沈黙姫を連れていくことを望んだって?

 そもそも、そんな質問をされた事を覚えていないんだけど……。


『これが、あんた達が今ここにいる理由ね。そんで、まぁ基本的に伝える事はこれで終わりなんだけど。あんたに、1つ頼みが……って、あんた話聞いてんの?聞いてんなら何か言えし。』


「お前が黙って聞けって言うからそうしてたんだろ!」


『あー、うっさいうっさい。まぁ、聞いてんならいいし。』


 お前の態度が全くよくねぇがな!


 ……駄目だ。

 コイツのペースに振り回されるな。

 ハルトお前は冷静な男だろ?


『んで、あんたに1つ頼みがあるし。この世界に魔王ってやつがいんだけど、そいつを倒してくんない?』


「はい?」


『いや、だから魔王倒してって。』


「いや、急にそんな事言われても……。」


 何もかもが急展開過ぎて、考えがまとまってくれない。

 そもそも、いきなり魔王を倒してくれと言われて、「わかりました」と言う人間などいないだろう。逆にいたら恐いわ。


「……魔王ってやつがこの世界にはいるんだな。そいつが、世界を混乱に陥れたり、たくさんの人に不幸を振り撒く存在だから、討伐して欲しいってことか?」


『いんや?魔王はそんな事しないし。』


「は?じゃあ、なんで魔王を討伐して欲しいんだよ?」


『……天界規定で決まってんし。魔王はほっとくと、どんどん力が大きくなる異質な存在でね。あまりにも力を蓄えると、天界にまで影響を及ぼす存在になる。もし仮に、天界に混乱を起こされると、ここだけじゃない数多の世界に影響が及んでしまう。魔王の性格がどうあれ、それが可能であるイレギュラーは、天界側としてもほっとけないし。』


「……なるほどな。」


 魔王を討伐しなければならない事情は分かった。だが、気になる事が二つある。

 一つ目は、今までの魔王討伐はどのように行ってきたのかという事。


「あんたの話から推測するに、今までも魔王の討伐は行われて来たんだよな?その役目はこの世界の人間が担ってきたんじゃないのか?魔王がいるんなら勇者がいてもおかしくないと思うんだが。」


『ふーん。意外に飲み込み早いし。そうだよ、今まで魔王の討伐は勇者の役目だった。そして、今のこの世界にも勇者は存在するし。』


「なんだ?それなら、その勇者が魔王を倒せば良いんじゃないか。」


『……そういうわけにいかなくなったし。だから、今あーしが困ってるっていうか、ふつーに勇者が魔王を倒すんなら、あんたにこうして頼んだりしてないし。』


「……確かに、それはそうだな。じゃあ、聞くけど、勇者が魔王を倒さない理由はなんなんだ?」


『……いや、それは、なんてーか……。とにかく!勇者はあてに出来ないから、あんたに頼んでるし!それが分かればいいし!』


「ああ……。」


 気圧され、俺は納得してしまった。

 さっきの声の女性はまさに、苦虫を噛み潰したような、という表現が当てはまる雰囲気を帯びていた。

 どういう事情があるのか気にはなるが、もう聞くことは出来ないので、次の話に移ろう。

 

 先程、気になった事の二つ目は、そんな強大な力を持つ魔王をどうして俺に討伐させようとしているのかという事。


「どうして俺なんだ?俺は武道なんかもやった事が無い戦闘に関して全くのド素人だぞ。この世界には魔王や勇者がいるくらいだから、他にも戦えるやつがいるんじゃないのか?」


『ああ、なるほど。じゃあ、シンプルに答えるし。あんたは、あーしの裁量の元で魔王を討伐させる為に迎え入れた転移者だからだし。』


「どういう事だ?」


『天界の規定も複雑だし。とりあえず、簡単に説明すると、あんたには転移した時にあーしの加護を与える事が出来たし。この世界にはレベルっていう概念があって、戦闘にはそのレベルが影響するし。あーしの加護を受けたあんたは、そのレベルが上がりやすくなってるってワケ。』


「なるほどな……。」


『……そしてもう一つ。ホントはあったし。』


 どこかから、白い目線を向けられた気がした。


『転移時に何か一つ好きなものを持っていけるってやつ……。あれも、天界規定で決められてる事で、ふつーはめちゃ強いスキルとか基礎能力のバク上げとかして転移させるし……』


 うん。

 間違いなく、白い目線を感じるな。


『まさか、女連れ込むとは思わないし!!まじで、あんたバカなの?アホなの?まじ、あり得ないし!!ふつー、転移させた人間はもっと楽に魔王討伐ルート乗れるし!!』


「ちょっと待て!!俺は天ノ川さんを連れて行くなんて望んだ記憶はない!!何かの間違いだ!!」


『ばっちりあんたが望んだことだし!!この変態異常性欲魔人!!』


「ぅぉぉおおいい!!彼女に誤解される様な事をのたまうんじゃない!!!」


 こんの、クソ女がぁぁあ!!

 心無しか冷めた視線を天ノ川さんから感じる気がする。


 ……くぅぅぅう

 あの、天ノ川さんに嫌われてしまったら想像するだけで胸が痛すぎて、泣いてしまいそうになる。

 が、今は切り替えて、俺のせいで連れてきてしまった彼女への責任を果たさなければならない。


「待ってくれ。あの時、俺は意識が朦朧としていて、何もまともに考えられる状態じゃなかったんだ。彼女はむこうにいた時も死んだ訳じゃないし、元の世界に帰してやってくれないか?」


『無理だし。』


「え?」


『だから無理。異世界転移なんて、あんたが思ってるようにそんなぽんぽん出来るもんじゃないし。』


「……でも、彼女を連れてきたのはお前なんだろ?」


『そうだけど……それは天界規定に定めのある事だから出来ただけだし。大した理由も無く、そんなぽんぽん移動させられるワケないし。』


 そんな……

 じゃあ彼女は一生、元の世界には戻れないって事か?



 俺が、彼女を連れてきてしまったせいで



 天ノ川さんの方に視線を向けると、彼女にも今までの話は聴こえていた訳だから、案の定、今にも泣き出しそうな不安気な表情をしていた。



「……じゃあ、さっき言ってた……魔王討伐の話、俺が引き受けてやるって言ったら?」


『それでも無理だし。』


「……そんな……何か方法は無いのか?」


 ……だって、こんなのあんまり過ぎるだろ。

 彼女は何も悪くない。


 ただ偶然……

 異世界転移するヤツの近くにいたってだけなのに……


 それだけで、家族や友人ともう二度と会えなくなってしまうなんて、あまりにも酷だ。


『…………引き受けるだけじゃダメだし。あんたが本当に魔王を倒してくれたら、多少の便宜は図れるし。魔王討伐は天界側にとって利のある事だから…………彼女を元の世界に戻してあげる事くらいなら……出来ると思うし。』



「おお!まじか!!」



 ……だけど



 正直に言うと怖い。

 当たり前だろう?

 今まで争いとは無縁の生活を送ってきた。

 急に魔王と戦えと言われても拒否したい思いの方が強い。


 痛い思いをするかもしれない。

 大怪我をするかもしれない。 

 また命を落とすかもしれない。



 ……でも



 俺のせいで彼女を傷付けてしまったから。

 そんなつもりが無くとも、彼女に大きな負担を押し付けてしまったから。



 そのせいで、彼女が悲しい顔をしているのは、ダメだと思ったから。




「分かった、俺が魔王を倒す。」




『……そ。………じゃあ、えいっ』


 声の女がそう言うと、俺の身体を底知れぬ不快感が走った。

 嫌な予感がした。


「……おい、今何をしたんだ?」


『えっとー、もし3年以内に魔王を討伐出来なかったらー。今まで生きてきた中で1番恥ずかしい出来事を叫びながら、全裸になって、失禁しながら絶命する呪いをかけたし♡』


「ふっっざけんなぁぁああ!!!」


 ふざけんなこのクソ女ぁああ!!

 なんだその、恥辱にまみれたフザけた呪いはぁぁああ!!


 全裸で失禁はもちろん嫌だが……

 俺の1番恥ずかしい出来事ってあれか?それともあれか??あれなのかあ???

 イヤだ……死にたくなってきた。


『うっせーし。転移者のやる気出させる為に、仕事でやる決まりなんだから、我慢しろし。』


「我慢出来るレベルとおり越しとるわ!!それに、魔王倒せなきゃ3年で死ぬって事以外、絶対にお前のアドリブだろ!!」


『……勘の良いガキは嫌いだし。』


「こんの、クソ女がぁぁああ!!」


『クソ女って言うなし。言って無かったけど、あーし女神だし。』


「認められるかぁぁぁあああ!!!」



 俺の魂の叫びが、平原にこだました。



 これが、俺とクソ女神との最初の出合いだった。





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