79話 魔亜神ノルドゥヴァリの復活
〈リゾンドウ視点〉
※ 時間はジェミナスがシンシアに胸を貫かれた後に遡る
「どうしたんだ!ジェミナス!!」
アジトで人族の魂を集める最速の手段について思案していると、突如転移魔法陣が輝き始め、瀕死の重傷を負ったジェミナスが帰還した。
俺は直ぐに彼に駆け寄り、上衣のポケットから復元の魔導具を出そうとしたのだが…
「グブァァッ!
はぁ…はぁ…リ、リゾ…魔導具は使うな…
お、俺はもう長くは無い…グフッ!こ、これで…お、俺の魂を奪え…これで必要な魂が溜まる…」
ジェミナスは震える手で、俺に魂吸収の暗器を渡して来た。
「な、何をバカな!
あと10人程人族を殺せば…」
「もう無理だ!ヤツらに現場を見られた!
ウブェエッ!!…はぁ…はぁ…ノ、ノルドゥヴァリ様の復活は…お前に…た、託す……
は、早く魂を奪えぇえ!!!」
俺は同胞に強い言葉をぶつけられ、涙が溢れて止まらなくなった。
「す、済まない…ジェミナス…必ず…必ず…」
俺は震える手で、暗記をジェミナスの心臓に突き刺した。
「な、泣くな、リゾ…い、ま、まで…あ、あり…がと…」
「うぁぁあああ!!ジェミナス〜!
ああぁぁぁあ!!!」
俺はノルドゥヴァリ様復活の為に自分の魂をも差し出した同胞の亡骸に縋り付き、泣き叫んだ。
「どうした、リゾ!?何が…そ、それは…」
「何!?マジでウルセェ…ちょ、え?
ジェミ…し、死んだの?」
俺の声を聞き、別室で最期の陽動作戦の打ち合わせをしていたレジーとソニアがやって来た。
2人ともジェミナスの亡骸を見て、言葉を失ったようだ。
俺は涙を拭い、即座に行動に移す事を決意した。
魂を賭けた我が友・ジェミナスの為にも、早急にノルドゥヴァリ様を蘇らせなければ…
「我が友のおかげで準備が整った。
ソニア、最後の陽動を頼む。ついでに君の復讐も果たしてくれて良い。
君の仇敵、ヨシュア達は恐らくその魔法陣で転移した場所にいる筈だ」
「えっ…いや、き、急に言われても、心の準備が出来てねえし…」
「テメエ、此の期に及んでガタガタ言ってんじゃねえぞ!
リゾは千年以上苦楽を共にした親友を失ったんだ!
お尋ね者のテメエをこれまで匿ってくれた、リゾやジェミーの恩に報いたいとか思わねえのか!?」
尻込みするソニアの胸倉を掴んだレジーが、目に涙を溜めながら彼女に追い込みをかけてくれた。
俺の苦しみを慮ってくれるなんて、彼は本当に素晴らしい友だ…
「わ、分かったから離せって!
魔族に肩入れして、マジでウゼェわ!」
「チッ!クソアマが!
良いか?テメエに渡した魔力爆弾は事前に魔力を込めて、ちゃんと地面に埋めておけよ!
放り投げてもヨシュア達には通用しない!ちゃんと埋めた場所にヤツらを誘導しろよ!」
「……分かった……」
俺の代わりにレジーが小娘に指示を出してくれた。
後は俺が魔導具を起動して、魔亜神様を蘇らせるだけだ。
「本当にありがとう、レジー。
では、ノルドゥヴァリ様を連れて戻って来るから、成功を祈っていてくれ」
「何を言ってるんだい?僕も一緒に行くよ」
「い、いや、封印の地は冒険者達が警備しているんだ!
人族の君が俺たちに加担しているのがバレたら、世界を敵に回す事になる!」
「そんな事、今更どうだって良いよ。
僕が魔族に偽装して、見張りをしている『黄金世代』の連中を引き付けた方が成功率は格段に上がるだろう?」
「レ、レジー…ぅぅぅ…ありがとう…ぅぅぅ…」
俺はレジーの申し出を聞き、再び涙が溢れて止まらなくなった。
ジェミナスとレジーが俺に勇気と覚悟をくれた。絶対に魔亜神様を復活させてみせる。
再び涙を拭った俺は確固たる決意を胸に、最高の友レジーと共に、転移魔法陣で封印の地へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆
「ヨシュア様、大変!王城からの連絡で、魔王ノルドゥヴァリが復活したって!」
俺たちが涙に暮れている最中、俺の魔導端末が鳴った。誰かと通話をするような気分では無かったので、シカトしていたらシンシアの端末が鳴り出した。
着信に応答したシンシアは、蒼ざめた顔で魔王の復活を告げて来たのである。
「クソッ!何でこう次から次と厄介な事ばかり起こるんだ」
俺は思わず強目の口調で愚痴ってしまった。ソニアの自死が全く整理出来て居ないので、それも仕方の無い事だろう。
「……落ち着いて、ヨシュア。
それより魔王が復活したなんて相当マズいよ。
早く王城に行かなきゃ…」
一番ソニアと付き合いの長いアマンダが、俺を宥めてくれた。
本当は誰よりも悲しい筈なのに…。
「…済まない、アマンダ。
そうだな。王城に戻ろうか…」
俺はアマンダに詫びると、隠蔽結界でソニアの肉片が飛び散った辺りを覆い、2人と共に王城へと駆け出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「エリックさんとタチアナさんが、魔王に捕まったんですか!?」
ゼルス・フォン・ファルメナス国王陛下の執務室へと通された俺たちは、陛下の横に立っていたイギー宰相から魔王復活の詳細を聞いて、愕然とした。
災害指定特区にて、仮死状態の魔王ノルドゥヴァリの封印を警護していた、『黄金世代』のエリックさんとタチアナさんが、ノルドゥヴァリに人質に取られたというのだ。
「うむ。先程、エドワードとリリアが急いで指定特区へと向かったが、何分相手は伝説の魔王だからな。
あの2人も無駄死にになるやも知れぬ」
そう語ったイギー宰相は、あからさまに表情を曇らせている。
伝説級攻撃魔法を駆使するエリックさんと、同じく伝説級の支援魔法を駆使するタチアナさんを拘束するのだから、ノルドゥヴァリの戦闘力の凄まじさが伺える。
「そんな、エディが…エディが無駄死になんて…
陛下、宰相閣下!私も災害指定特区に行かせて下さい!」
エディさんの彼女であるシンシアが、目に涙を溜めてゼルス陛下とイギー宰相に懇願した。
俺だって直ぐにでも、エリックさん達を救出に向かいたい。これ以上仲間が殺されるなんて、俺にはとても耐えられない。
「済まぬが、それは認められぬ。
諸君ら『豊穣の翠』はまだSランクだろう。災害指定特区の世界規約に違反する事は出来ぬのだ」
「そんな…いやぁぁぁあ!エディィィイ!!!」
宰相の言葉を聞いたシンシアは、大声を上げて泣き崩れた。
「イギーよ、報告によるとシンシア嬢は、魔族の生き残りを討伐したそうでは無いか。
今回の余の依頼を達成したのじゃから、特例として『豊穣の翠』をSSランクに昇格させてはどうかの?
勇者のアマンダ殿と、ヨシュア殿もおるのだ。異論を唱える者もおるまい」
ここまで押し黙っていた、ゼルス陛下が俺たちに助け船を出してくれた。
「し、しかし、陛下。『豊穣の翠』はSランクに昇格してから日も浅く、未だ充分な実績が…」
「余の決断に文句が有ると申すのか?
我が国の最高戦力の一つである『黄金世代』を失う事になるやも知れぬのに、其方は規律や体面の方が大事だと申すのか?」
陛下は普段の好々爺な表情を一変させ、宰相閣下を睨み付ける。
一国の王の凄みは凄まじく、流石のイギー宰相もそれ以外反論出来なかった。
晴れて俺たちは特例でSSランクパーティー昇格となり、災害指定特区への切符を手に入れた。
イギー宰相は側近に命じて、SSランクパーティーの冒険者証と、災害指定特区への転移スクロールを用意させる。
このスクロールが高額で有り、国から認可を受けた『黄金世代』以外のSSランクパーティーは、通常1億ゲスで購入しなくてはならない。
今回は魔王復活の緊急事態の為、往復分の転移スクロールを無償で提供してくれるようだ。
「アマンダ殿、ヨシュア殿、そして『豊穣の翠』の諸君。
どうか、『黄金世代』を魔王から助け出してくれ。
そして、可能ならば魔王を滅ぼして貰いたいのだ」
ゼルス陛下は魔王を倒せと仰ったのだが、俺にはどうしても確認したい事がある。
「陛下、仮に魔王が我々に敵意が無い場合は、どうすれば良いでしょうか?」
「な、何を…魔王に敵意が無い訳が有るまい!
仮にも何も無い!魔王を倒せと陛下が仰せなのだ、その通りに行動すれば良い!」
俺の言葉に真っ先に反論したのは、軍務卿のベラレム伯爵だった。
かなり神経質そうなオールバックに髭の中年は、忌々しそうに俺を睨みつけている。
「待て、ベラレム。ヨシュア殿、何故魔王に敵意が無いと考えるのだ?」
「はっ、件の魔族と対峙した際、その魔族は我々に敵意を向けませんでした。
魔王と共に元の世界に戻れるなら、人間達を害する事は無いとも言っていたものですから。
無論、出任せかも知れませんので、あくまでも仮の話でございます」
陛下は俺の言葉を聞いて、険しい表情で押し黙ってしまった。
陛下も魔族に害意が無いとは思わなかったのだろう。
「……仮に害意が無かろうと、構わずに討伐して貰いたい。
王都に竜を仕向けるような連中を、手放しに信用も出来ぬしな」
「畏まりました。では、そのように尽力致します」
俺は陛下に一礼すると、仲間達と共に転移スクロールで災害指定特区へと向かったのだった。




