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78話 ヒトツノオワリ



 貧民街を探索して1時間程経った時だった。

 件の魔族を討伐したバラックの辺りに、突如として禍々しい魔力反応が現れた為、俺たちは急いでバラックへと駆け付けた。



「ヨ、ヨシュアアアアア!てんめ、マジくたばれし!」


「え?ア、アンタもしかして…ソニア!?」



 そこに居たのは、ソニアっぽい顔をしたナニかだった。

 赤黒い眼球と額に角が生えている所は魔族の特徴と一致しているのだが、肌の色は人間と同じ感じである。

 何より骨格がとても歪で、肩甲骨が異様に盛り上がっている。

 アマンダはそのソニアっぽいモノを見て、ソニア本人なのか確認し出した。



「アマンダァァア!テメエ、この裏切り者がぁあ!

 クソ雑魚ヨシュアとくっ付くとか、マジ有り得ねえし!

 テメエら纏めてくたばれやぁぁあ!」



 ソニアっぽいモノはアマンダを見るなり、怒声を上げた。

 俺とアマンダを知っている所からも、ソニア本人と見て間違いは無いのだろうが、何故ソニアが異形の化け物っぽくなったのだろう。

 ソニアの言動を見るに、戦闘は避けられないみたいだな。



「くたばれしぃぃい!」



 異形になったソニアは怒号と共に、上級魔法のギガファイアを俺とアマンダに向けて放って来た。

 俺は無属性の魔力撃を繰り出し、俺たちに飛んで来る火魔法を吹き飛ばす。


 ソニアは忌々し気に舌打ちすると、次々とギガファイアを撃って来た。



「ソニア!何の冗談だ!?

 俺とアマンダにチャチな魔法を連発するとか、訳分からんぞ!

 賢者流の挨拶か何かのつもりか?」



 俺はソニアの意図が分からず、思わず聞いてしまった。

 だってそうだろ?ソニアは賢者で、超級魔法を大量に放てるのだ。

 雑に発動した不完全魔法なのに、矢鱈と発動時間が長いし、悪ふざけとしか思えない。



「るせぇぞ、このクソ雑魚がぁぁああ!

 もう許せねー!ぶっ飛べや雑魚ヨシュアがぁぁあ!」



 俺の言葉の何が気に入らないのか分からないが、殺気立ったソニアが先程よりも多くの魔力を込めてギガファイアを撃って来た…が、それでも全然大した事が無い。

 俺は余裕でソニアの魔法を吹き飛ばして行く。



「ば、馬鹿なの!?『フェロモンイーター』の効果が切れた時点で、アイツも賢者から魔導師に戻ったんだって!」



 アマンダに怒られた…。だが、確かに俺は自分のスキル効果を忘れていた。

 そうか、ソニアは中級ジョブに戻ったんだった。なら、あんなもんだよな。



「マジうぜぇえんだよ!テメエらはよぉ!

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すブッ殺す!!!」



 ソニアは本気で俺とアマンダを殺したいらしく、只でさえグロくなった顔を醜く歪めて、がむしゃらに上級魔法を釣瓶打ちして来る。

 うん。魔力制御が余計雑になっているから、ハナクソを穿りながらでも全部撃ち落とせるな。



「クソがぁぁぁああ!ヨシュアもアマンダも、ウチを犯罪者扱いしたギルドのヤツらも、全員ブッ殺してやるしぃぃいいい!!!」



 ソニアはかなり頭に血が上っているようで、最早魔法の体をなして無い魔力の塊を撃っている状態だ。



(取り乱す程、俺やアマンダを殺したいと思っているんだな…)



 俺は変わり果ててしまったかつての仲間の姿を見て、ただ悲しみだけが込み上げて来た。



 グワシャァ!



 俺が落ち込みながらソニアの放つ魔力塊を打ち払っていると、怒りを滲ませたアマンダが、容赦無い右ストレートをソニアの顔面に叩き込んだ。

 盛大に後方に吹き飛ばされるソニア。


 顔面の左半分が凄い事になっているけど、アレは大丈夫なヤツなんだろうか?



「アンタねぇ、逆怨みも大概にしなさいよ!

『宵闇の戦乙女』の時に良いだけヨシュアを傷付けて……ヨショアがパーティーに居た頃、どんな気持ちで私達の為に努力してたと思ってんの!?」



 アマンダは地べたに座って頬を摩るソニアに、怒声を浴びせた。



「うっせぇわ!うっせぇし!

 オメエが言ってんじゃねえっての!オメエだって、クソ雑魚ヨシュアをクソ程馬鹿にしただろーがよ!」


「アンタの言う通りよ。アタシもクソ程最低だった。

 だから、自分の愚かさを何度も心の中で恥じて、ヨシュアに殺されても構わない程の覚悟で謝罪したの。

 そうしたら、ヨシュアはどうしたと思う?

 こんなクソみたいなアタシを励まして、あの酷い怪我を治してくれたのよ!


 だから、アタシはもう二度と同じ過ちは犯さない。

 昔、ヨシュアがゴミみたいなアタシ達を必死で支えてくれたように、今度はアタシが命を賭けて、ヨシュアとラフィを支えるって誓ったの」


「は!?口でなら何とでも言えんだろ!

 だいたい聖剣も使えねえゴミが、支えるとかふざけろし!

 この偽勇者がよぉっ!」



 アマンダの心の内を聞いてもなお、ソニアの歪な心には響かないらしい。

 それどころか、アマンダを否定しつつもディスる始末だ。

 アマンダは哀しげな表情で聖闘気を纏い、腰に携えた聖剣アポローンを抜いて見せた。



「ア、アンタいつの間に聖闘気を……

 つか、聖剣が抜けるっつー事はアレだ。ウチらを裏切ってクソ雑魚に詫び入れたっつー事だな?

 1人だけ、ボケヨシュアの呪いを解いて貰ったっつー事な?」


「は!?呪い?

 何言ってんの?ヨシュアが呪いなんかかける訳無いでしょ」


「しらばっくれてんじゃねーぞ?

 ソイツがウチらに呪いをかけたから、ウチらのジョブがクラスダウンしたんだろーがよ!」



 ソニアの言葉を聞き、俺は成る程と思った。

 俺が呪いをかけたせいで賢者じゃなくなったと思っていたなら、彼女がこれ程俺を憎むのも頷ける。



「馬鹿言ってんなよ。

 ソニア、アンタ相当イカれてるわ。

 ヨシュアの『フェロモンイーター』は、異性のパーティーメンバーを強化して、天職をクラスアップしてくれるスキルだっつーの。

 だから、ヨシュアが『宵闇の戦乙女』を脱退した瞬間に、ウチらはスキル効果から外れて、天職が戻ったってだけなんだわ」


「っざけんじゃねえぞ!

 はぁ?仲間のジョブをクラスアップさせるだ?

 んな、ブッ壊れスキルがある訳ねえだろーがよ!」


「横からで悪いんだけど、わたし達のパーティーにヨシュア様が加入してたった2ヶ月で、『豊穣の翠』の3人は2回もクラスアップしてんだよね。

 わたしは弓聖だったのが、準伝説級の弓神になってるし」



 意地でも認めようとしないソニアに見兼ねたのか、今まで黙っていたシンシアがソニアに語りかけた。

 まぁ、今のソニアには何を言っても無駄だろうな。



「は?誰よテメエ?雑魚が勝手に喋んなし。

 オメエみてえなツラオッパイだけの女が、弓神な訳ねえだろーが。

 テキトーな事言ってっと、オメエから殺すよ?」


「雑魚のアンタに、雑魚とか言われたく無いんですけど。

 何なら、弓神の超絶スキル『マーキングアロー』を、アンタにお見舞いしようか?」



 シンシアの言う『マーキングアロー』は、対象に魔力でマーキングをして、魔力矢や魔法矢を放つという技である。

 一度マーキングされると、矢はマーキングされた場所を必ず穿つという恐ろしい技だ。

 因みに、矢を粉々に砕く以外、『マーキングアロー』から逃れる術は無い。


 シンシアは速攻でソニアの体20箇所をマーキングした。

 マーキングされた場所には赤く光る的の模様が浮かぶ為、傍目から見ても分かりやすい。

 突然、自分の腕や腹などに的が浮き出た為、ソニアは慌てて的の模様を手で擦り出した。


 目に見えて動揺するソニアを他所に、シンシアは周囲に20発の魔法矢を展開。

 魔法矢は空中に滞留しているが、いつでも発射出来る状態にしている。


 ソニアは慌ててシンシアの魔法矢に魔力塊をぶつけるが、魔法矢はビクともしない。



「ソニア、残念だがそんなお粗末な魔力の塊だと、シンシアの魔法矢には傷一つ付けられない。

 地属性魔法で超圧縮させて形成した岩石の矢を、雷魔法でコーティングしてあるんだ。

 更に矢筈の部分には、超圧縮された炎爆魔法が付いている。シンシアが発動した瞬間に、お前のマーキング部分に大穴が開くぞ。


 俺達を殺すのは諦めて、アマンダの元を去った後に何が有ったのか、話してくれないか?

 俺達で力になれる事が有れば、協力するからさ」



 俺は『マーキングアロー』に怯み出したソニアに問いかけた。

 今なら少しは冷静に話せる気がしたから。



「はっ!ざけんなし!

 オメエのその中途半端に優しい所が、昔から大嫌いだったんだっつの!

 聖人気取りも良い加減にしろや!ウチに散々いたぶられてムカついてるんだろーが!ウチの事をブッ殺したいと思ってんだろーが!

 なら、殺せや!ウチをブッ殺してみろや!」



 ドバギィィッ!



 俺は感情的になるソニアを殴りつけた。冷静になって貰うのが目的なので、当然手加減はしている。



「ざけんじゃねえ!

 お前を殺したいなんて、考えた事も無えよ!俺が今でもお前を怨んでいるとしたら、たった一つ……




 テメエ、俺のヴァンプラを壊しやがったなぁぁあ!

 お前が壊したヴァンダムプロトタイプのプラモはなぁ、イベント限定品で、既に製造されて無えんだよぉぉお!

 プロトタイプのプラモが、魔導ネットのオークションで幾らするか分かってんのか!?1,200万ゲスだぞ!?

 可愛い愛妻のラフィたんに財布を管理して頂いている俺に、1,200万も払える訳が無えだろーが!!!

 そんな金が有るなら、ラフィにブランドモノのアクセサリーをプレゼントするわ!!!」



 俺は、ずっと胸に抱いていた恨み言を大声で叫んで、溜飲が下がる思いだった。



「え、恨む所ってそこなの?

 ヨシュア様、それは大人気無さ過ぎだと思う」



 シンシアが呆れたように呟いた。

 しかし、ヴァンプラは漢の浪漫なので、女性陣からの理解を得ようとは思って無い。



「コホン…まぁ、そのヴァンプラの恨みは、さっき殴ったのでチャラだ。

 だいたいだな、俺はお前やサーシャの事を、今でも冒険者仲間だと思ってんだよ。


 俺も天職がクラスアップして、お前らが感じた全能感を味わった。それを2回も経験すれば、パーティーで唯一クラスアップしなかった俺を軽んじた気持ちも分かるよ。

 マジで過去の事はもう根に持って無いからさ、何が有ったのか話してくれないか?」



 怒りを吐き出して冷静になった俺は、素直に胸中をソニアに告げた。



「うっせぇし!もう何もかも遅えんだよ!

 ウチだって、アンタの呪いじゃ無いって事ぐらい気付いてわ!それでも…お門違いでも、アンタらを怨んで突き進むしかねぇだろうがよ!

 ウチは魔族に協力して、あちこちの国で破壊活動をしちまったんだ!今更、謝って済む話じゃねえだろーが!

 お尋ね者になったウチには、もうこうするしか道は無えんだよ!」



 ソニアは涙を流しながらそう言うと、ピンポン球のような形の魔導具を飲み込んだ。



「ヨシュア、アマンダ、ウチはもう疲れちったわ…

 何か、色々とゴメン…」



 その言葉を最後にソニアの体は発光し、大爆発を起こした。

 俺は被害が及ばないよう、周囲を魔法結界で覆う事しか出来なかった。


 ソニアが立っていた場所は大きく抉れ、ソニアの肉片が周囲に飛び散っている。



「ソニア……いやぁぁぁああ!ソニアァァァア!」



 ソニアの自殺を目の当たりにして、アマンダは泣き叫び、俺も知らぬ内に涙が溢れ、視界がぐちゃぐちゃになった。

 俺たちの知らない所で、ソニアは相当苦悩していたに違い無い……俺もアマンダも、苦しんでいた仲間の力になる事が出来なかった…


 俺たちはそのまま暫く、ソニアの死の悲しみと、救う事が出来なかった無力感に襲われ、その場に立ち尽くしていた。



『フェロモンイーター』をお楽しみの皆様。どうも、雷乙です。


作品に悲壮感が出てしまったので、挨拶だけでも昔のCD◯Vに出て来るアーティスト風の軽い感じにしてみました。

陰の『フェロモンイーター』、陽の『どスケベ中年ニート』の二刀流で頑張ります(*^▽^*)


第三者視点で進む『どスケベ中年ニート』を書いていると、主人公視点の本作を書くのに苦労しますね(^◇^;)

これからもより陰鬱とした展開は続きますが、『フェロモンイーター』を引き続きよろしくお願い致しますm(_ _)m

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