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77話 明かされる真実

 


「何だ、この魔法陣は…」



 カオス飲み会の翌日。

 俺はパーティーメンバーと共に、スタンピードの原因を突き止めるべく、イビルドラゴンが召喚されたと思しき場所にやって来た。

 そこで俺達が目にした物は、見た事の無い魔法文字が使用された魔法陣である。

 コレが召喚用の魔法陣かどうかは分からないが、不気味な魔力が感じられる。



「あなた、この魔法陣に使われた魔力を、精霊の力で辿れそうですわ」



 ラフィの契約する精霊は凄いな。同じ魔力の元を辿れるなんて、普通は不可能な芸当なのに…流石は俺の可愛い嫁である。

 俺達は魔力を抑えながら、ラフィの後をついて行った。


 そして、超スピードで走る事30分。ラフィの使役する精霊が示したのは、王都の貧民街に有るボロいバラックだった。

 パッと見はただの見窄らしいバラックだが、注意深く探るとバラック全体に認識阻害結界が張られている事が分かる。

 ラフィも結界に勘付いたようで、精霊術で俺達に隠蔽の精霊術をかけた後に、認識阻害結界を解除してくれた。


 目の前に現れたのは、灰色の肌、赤黒く光る眼球、額に角を持つゴツゴツとした体の男───魔族である。

 伝承で特徴こそ知っていた物の、初めて見る魔族の姿にメンバー一同唖然としている。


 しかし、驚いてばかりも居られない。魔族は貧民街の住人と思しき男を組み敷いており、手に持った禍々しいデザインの黒いナイフを、組み敷いた男の胸に向けて振り下ろそうとしているのだ。

 いち早く反応したのはシンシアで、火属性の魔法矢を速射して、魔族のナイフを握る右腕を吹き飛ばした。

 間髪を入れずに、アマンダが魔族の左腕を斬り落としつつ、組み敷かれていた男を助け出す。



「ぐあぁぁああ!う、腕がぁぁぁあ!」



 支えを失い床に倒れ臥した魔族が、叫び声を上げる。

 更に、エレナが魔族の右脚を断ち切り、続け様に首を撥ねようした。



「待て、エレナ!そいつから情報を聞き出さなくてはダメだ!

 ラフィ、隠蔽精霊術を解いてくれ」



 ラフィは俺の言葉に従い、全員の隠蔽精霊術を解除した。

 体を転がして仰向けになった魔族は、俺の顔を見て驚きの声を上げる。



「て、テメエはヨシュア!うぐぐっ、クソ!こ、こんな所で!」


「お前、何故俺の名を知っている?

 魔族に知り合いなんか居ない筈だか」


「へ…い、偽りの伝承に騙されているテメエらに、話す事なんか無えよ」



 魔族は腹筋の力で上体を起こすと、何やら含みのある言い方をして来た。



「偽りの伝承?何の事だ」


「大量殺人鬼のダーハマを神のように崇めるテメエらに、何を言っても無駄だっつってんだよ!」



 コイツ、とんでもない事を言い出したぞ。

 勇者ダーハマを殺人鬼呼ばわりして、俺たちの動揺を誘ってるのだろうか?

 あ、アマンダがかなりご立腹みたいだ。彼女にとっては、尊敬すべき大先輩だからな。



「ちょっと、勇者ダーハマを殺人鬼とか、ふざけた事言ってんなよ!

 今さっき、この人を殺そうとしてたお前の言う事なんか、誰が信じるかっつーの!」


「愚かな女だ。俺は好きで人族を殺してる訳じゃねえ。

 だが、あのイカれ勇者は違う。魔族だろうが人族だろうが、御構い無しに楽しそうに殺していた。

 俺たち魔族や魔亜神様が殺した人族は、せいぜい3万人程度。それも、人族に攻撃されて止む無く反撃した結果だ。

 だがなぁ、ダーハマ達勇者パーティーは、大した理由も無く100万人以上の人族を殺している。

 これが大量殺人鬼じゃないなら、何だと言うんだ?」



 腹を立てたアマンダが魔族に反論したが、魔族の男は更に詳細を語り出した。



「良いか?この時代のアンタらは、誤った情報を植え付けられてんだよ。

 俺らは姿形が違うだけで、アンタらと同じ人間だ。

 俺らは元々別の次元の世界に住んでいた。突然、空間の歪みに飲まれて、この世界に転移されただけで、断じてこの世界を攻め滅ぼしに来たんじゃない。


 それなのに、この世界の人間達は俺らを見るなり攻撃して来やがった!

 当時は言葉も分からず、話し合おうにも不可能だった。アンタらがそんな状況に陥ったらどうする?抵抗せずに別の世界の住人に殺されるか?」



 魔族の男は嘘をついている様には見えない。

 ただ、この魔族の言う内容が余りにも突飛過ぎて、理解が追い付かない。



「訳の分かんない事を言って、アタシらを惑わそうったってそうは行かないから。

 勇者ダーハマが殺人鬼な訳ねーし、さっきまで人を殺そうとしてたオメーが、被害者ヅラしてんじゃねえって感じだわ」



 アマンダは怒りを滲ませながらそう言ったのだが、この魔族は俺たちに害意は無さそうだ。

 ただ、アマンダの言う通り、コイツは現に人を殺そうとしていた。幾ら人族を襲うつもりが無いと言われても、素直に納得する事は出来ない。



「アマンダの言う通りだ。人族を襲わないと言われても、お前は現に人を殺そうとしていた。

 それに、ダーハマと初代勇者パーティーは魔王を倒しただけでは無く、この世界の魔導具技術を発展させた功労者でもある。

 お前の言う事は信用に値しないな」


「実際にダーハマを見た事も無いお前らが、知った風な口を利くな!

 俺たちはあのイカれ野郎に殺されかけたんだ!それどころか、我々の守護神であるノルドゥヴァリ様まで殺されかけた!

 そもそも、お前ら人族がノルドゥヴァリ様にダーハマを仕向けさえしなければ、俺だってその男を殺そうとはしねえ!」



 俺の言葉に対し、魔族の男は感情的に反論して来た。

 やはり、この男が嘘を付いているとは思えない。



「勇者ダーハマがノルドゥヴァリとやらを倒した事と、お前が彼を殺そうとした事に何の関係も無いだろう?

 復讐のつもりか?」


「そんなチャチな真似をするかよ。俺はノルドゥヴァリ様と、どうしても元の世界に帰んなきゃなんねえんだ。

 ソイツを殺すのも、その目的に必要だからってだけさ」



 魔族は肝心な事までは話す気は無さそうだ。

 その時、俺は魔族の言葉に動揺しており、重要な事を見落としていた。



「あなた!魔族の右腕が、元に戻っていますわ!」



 ラフィが俺に異変を告げる。

 どのようなカラクリかは分からないが、ラフィの言う通り、斬り落とした筈のヤツの右腕が元に戻っており、例の不気味なナイフも手に握られている。

 慌てて俺が魔族に斬りかかろうと距離を詰めようとした時、ヤツの足元に魔法陣が浮き上がった。

 コレは…レジー・オブライエンと名乗った男が使っていた…



「マズい!自爆する気だ!皆んな、離れ…」



 ドブシャアッ!



 俺が皆んなに指示を出そうとした時、シンシアの放った火属性の魔法矢が、魔族の胸に大穴を開けた。

 口から大量の血を吐き、仰向けに倒れる魔族。あの傷では、ヤツは助からないだろう。

 そんな魔族を魔法陣から発した光が包み込み、ヤツの姿は光に溶け込むように消えてしまった。



「済まない、皆んな。

 注意を怠ってヤツを逃してしまった」



 俺は魔族を逃してしまうという大失態を皆んなに詫びた。



「それを言うなら、アタシだって…本当にゴメン。

 アイツの言った事に動揺してた」


「お兄ちゃん、ゴメンなさい…本当は前衛のティファが真っ先に行くべきだったよね…

 ま、魔族なんて初めて見たから、その…怖かったの…」



 アマンダとティファが、逆に俺に謝って来た。

 ティファは怖くて当然だろう。つい先日まで学生だったのに、冒険者デビューで絶滅していた魔族に出くわしたのだ。

 そんな中、ラフィ、シンシア、エレナの動きは素晴らしい物だった。


 奴の異変に気付き、即座に防護結界を張ったラフィ。俺の指示よりも先に、魔族にトドメを刺そうとしたシンシア。

 常に魔族を警戒し、襲われていた貧民街の男を守るように位置どりしたエレナ。


 元勇者パーティーで、ラフィ達よりも冒険者歴の長い俺とアマンダは、何とも恥ずかしい限りである。



「何も気にする必要は無いのですわ。

 人族の国では、勇者ダーハマが英雄視されておりますから、急に真実を突き付けられて、動揺しない訳が無いのですから」



 リーダーのラフィも又、衝撃的な事を言い出した。

 あの魔族の言った事が正しいと言うのだ。



「ちょっと待って、どう言う事?

 ラフィも、勇者ダーハマを殺人鬼呼ばわりする訳?」



 アマンダは納得行かないように、ラフィに問いかける。



「ええ。残念ながら、あの魔族の言った事は事実ですわ。

 長寿種であるエルフ族しか知らない事ですが、勇者ダーハマは相当クレイジーな殿方でした。

 ロスフィールド公国には、彼の蛮行の一部を記録した魔導水晶が厳重に保管されておりまして、私も一度だけその記録映像を見た事があるのですが、とても惨過ぎて…」



 確かに長寿のエルフは、人族のように頻繁に代替わりしていない。

 結婚した時にラフィに年齢を聞いたが、『人族で言う18歳ですわ』と凄味の有る笑顔で言われた。恐らく、4〜5倍の年齢なんだと思う。

 代替わりが少ないという事は、当時の事がより正確に伝承されているという事になる。



「そ、そんな…ダ、ダーハマが殺人鬼だなんて…」


「残念ながら、証拠が多く残っているのですわ。

 今は荒廃して草木一本生えない『死の荒野』には、ダーハマが使用していた魔剣フライング武威で、周囲一帯を吹き飛ばした痕跡が今も残っておりますの。

 あの魔族の言う通り、勇者パーティーは各地で悪業の限りを尽くしたならず者の集まりなのですわ」



 その後もラフィから語られたダーハマ達と魔族達の話は、どれも王国民には信じ難い物だった。

 1,000年前に起きた人魔大戦は、人族が一方的に仕掛けた物で、魔族や魔王が人族の国を襲撃した事は無いという。

 ダーハマ達はロスフィード公国にも攻め入り、若いエルフの女性達を犯したり、エルフの男を生け捕りにして人体実験なども行なったらしい。

 我々が英雄視していた初代勇者パーティの裏の顔を知り、俺とアマンダ、ティファの3人は言葉に詰まってしまった。



「まぁ、あの魔族がそこの男の人を殺そうとしていた事は間違いないんだし、わたしの矢で死んだだろうから別に良いんじゃない?

 王都に竜をけしかけたのも、あの魔族の仕業だろうから、過去はどうあれ今の魔族はわたし達の敵って事で良いと思うわ。

 過ぎた事をあれこれ考えていても、どうしようもないんだし、取り敢えず調査結果を報告しに行かない?」



 俺たちが複雑な感情を抱いていると、シンシアがあっけらかんとした口調で、彼女自身の見解を述べた。

 確かにシンシアの言う通り、過去がどうとかを考えるよりも、俺たちは最後まで仕事を終わらせなければならない。



 気を取り直し、ラフィ、エレナ、ティファの3人は宮廷魔導師団に事の顛末を報告しに行き、俺、シンシア、アマンダの3人は、魔族に襲われた男を家まで送り届けてから、周囲に他の魔族が居ないかを探索する事にした。


投稿間隔がメチャクチャ空いた『フェロモンイーター』をお読み頂いている皆様、本当にありがとうございます((o(^∇^)o))

ブクマ登録やご評価を下さる皆様にも、ただただ感謝です。゜(゜´Д`゜)゜。


本話から徐々に深みにハマって行くこの作品を完結させようと決意したのは、拙作の『どスケベ中年ニート』にヨシュア達が登場した事も有りますが、結末迄の道筋が決まっているのに完結させないのは、ブクマ登録をして頂いている皆様に申し訳無いという気持ちが有った事が大きいです。

あと、久し振りに『フェロモンイーター』のページを開いたら、『この作品は半年以上投稿されていないので完結しません』みたいな事が赤字で書いていたのがイラッとした事も少しだけ理由として有りますね(^◇^;)

完結しないとか勝手に決めんなって思いました。


どう捻ってもダーク路線は覆りそうに無いので、投稿ペースは相変わらずスローですが、週に1〜2回くらいで投稿したいと思いますので、引き続き『フェロモンイーター』をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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