67話 新生『豊穣の翠』始動!
「ちょっと…凄く無い?」
アマンダの剣技を目の当たりにしたシンシアが、呆然とした表情で呟いている。
現在、アマンダが加入した新生『豊穣の翠』は、5人体制になって初めてのクエストを行なっている。
昨日の連携訓練が予想以上の手応えだった為、Sランクダンジョン40階層ボスのドロップアイテム採取のクエストを受ける事にしたのだが、40階層ボスのデスペラードオーガをアッサリと討伐してしまった。
余裕が有り余った我々は、最下層の50階層ボスまで討伐しちゃおうという事になったのである。
アマンダは1ヶ月近く寝た切りだったとは思えない程、キレッキレの動きを披露している。
しかも、かつてのようにがむしゃらに突進せず、常にシンシアやラフィの射線を開けながら近接戦闘をしていらっしゃる。
「アマンダ、1時の方角から大型が3体来ますわ!
9時の方角の上空から来る2体の鳥型は、ヨシュアさんとシンシアでお願いしますわ!」
リーダーのラフィの指示と同時に、アマンダは物凄いスピードで駆け出した。
1時の方向からやって来た3体のマドネスコングに肉薄すると、目にも留まらぬ剣閃で3体をバラバラにして、即座に俺たちの方へと引き返したアマンダ。
後衛のラフィに奇襲が来た時の為、ラフィの斜め後ろに位置どり、後方からの接敵を警戒する。
俺とシンシアは凄まじい動きのアマンダに目を奪われつつも、9時の方向から飛翔して来た2体のグリフォンを、魔力撃と魔力矢でそれぞれ1体ずつ討伐した。
「マジで凄えなアマンダ。完全に聖闘気を使いこなしているじゃないか」
「うん、ヤバ過ぎ。流石勇者だよね……まぁ、まだ全然信用してないけど」
「ズルいの!アマちゃんってば、また体を光らせて、エレナの獲物を横取りしたの!」
アマンダの見事な動きを俺が讃えると、シンシアも渋々と言った感じでアマンダを褒め、エレナは出遅れた事を大いに悔しんだ。
「あ、いや、エレナちゃん師匠とは、事前に打ち合わせしたじゃない?
Sランダンジョンはイレギュラーが起こるから、瞬発力と対応力の凄いエレナちゃん師匠がラフィの守り役で、アタシが魔物の討伐役って」
「むぅ、そうだけど、アマちゃんばかりズルいの!次はエレナが魔物を狩るの!」
「はいはい。エレナちゃん師匠の仰せの通りに。
じゃ、アタシはラフィの守り役に回るね」
アマンダの師匠であるエレナがゴネた事により、アマンダは急遽ラフィの周辺の警戒役になってしまった。っていうか、エレナちゃん師匠って呼び方はどうなんだろう?
それにしても、Sランダンジョン47階層の魔物達はかなり手強いのに、無駄の無い動きで討伐して周囲の警戒に着くとは凄いな…。
アマンダは俺と離れている間に、随分とパーティーでのサポート役の立ち回りを訓練したようだ。
かつての火力馬鹿のアマンダは、最早見る影も無い。
「ちょっと待って、『ホーリースティング』!」
探索を進めていると、不意にアマンダが全体を制止して、ラフィの左斜め後ろの地面に『ホーリースティング』を繰り出した。
勇者の聖闘気を用いた必殺技は地面に大穴を開け、土中からバックアタックを仕掛けようとしていたクレイワームを焼き尽くす。
アマンダが気付かなかったら、ラフィが真っ先に襲われる所だった。
「アマンダ、ありがとうこざいますわ」
「サンキュー、アマンダ。おかげで、俺の大切なラフィが襲われずに済んだよ」
「ちっ、流石は勇者だけはあるわね」
「またアマちゃんが抜け駆けしたの!ズルみんなの!」
シンシアはまだ腹に据えかねる所が有るかも知れないが、それでもアマンダを中心に皆んなの輪が出来ている。
「やっぱり、イレギュラーが発生しているみたいね。
クレイワームなんて、SSランダンジョンの魔物だし、少し警戒を強めて探索した方が良いかも」
「そうですわね。これまで順調に来ていた分、少しペースを緩めて慎重に進みましょうか」
昔はクレイワームを倒そう物なら、我が物顔で自分の手柄を誇示していたアマンダが、慢心する事無く警戒を強めている。
ガイゼムは俺の元で研鑽するようにアマンダに言っていたが、俺たちが今のアマンダに教えられるような事がもう無いんだが……。
ともあれ、その後は警戒を強めて探索に当たった事で、イレギュラー発生した魔物を危なげなく狩って行った。
そして、遂に最下層のボス部屋前に到着。
ボス戦の前に、小休止がてら装備品の損耗チェックを行っていると、アマンダが声をかけて来た。
「ここに来ると、あの時の事を思い出すわね」
「ああ、懐かしいな。
前に来た時は、ここのレッサーヒュドラに後一歩届かなかったよな」
このダンジョンの最下層ボスに挑んだのは、俺が『宵闇の戦乙女』から抜ける1週間程前だったと思う。
五ツ首竜の再生の早さに手を焼いて、結局討伐を諦めたんだよなぁ。
「あの時の連携不足なアタシらでも良い所まで行けたから、今回はあの時のリベンジが出来そうね」
「だな。序盤はラフィの結界と俺の新技でヤツを封じるから、フィニッシュはエレナとシンシアとタイミングを合わせてやってくれ」
「任せて。シンシアの魔法矢の魔力の起こりは、昨日の連携訓練でバッチリ掴んだし、エレナちゃん師匠とは波長が合うから一発でイケると思う」
アマンダは自信に満ちた笑みを浮かべて、右拳を突き出して来た。
コイツと拳骨を合わせるのも久し振りだな。
俺も自然と笑顔になり、アマンダと拳を合わせた。
◆◇◆◇◆
「それじゃ行くよん!『魔力撃:鳳凰閃』」
ボス部屋に入り、レッサーヒドラと対峙した俺は、火と聖の魔力を融合させた新技『鳳凰閃』を繰り出した。
魔法剣から放たれたのは、聖なる炎を纏った鳳凰である。
レッサーヒドラは5つの頭を鳳凰に向け、一斉に猛毒のブレスを放出する。
しかし、鳳凰が羽搏く度に周囲に舞う聖属性と融合した炎の羽根が、猛毒のブレスを一瞬で搔き消した。
レッサーヒドラは尚も猛毒のブレスを放出するも、鳳凰の羽根があっという間に掻き消してしまう。
「凄っ!アンタとんでもない鳥を出したわね。
ヒドラのブレスに散々手古摺った前回の苦労は、一体何だったんだろ」
アマンダは呆れ混じりに言って来たが、確かに前回はあのブレスにめちゃくちゃ苦労させられたもんなぁ。
「ヨシュア様の鳥さん綺麗なの〜!も1匹出して欲しいの!」
「いや、エレナ。鳥は1羽2羽って数えるんだぞ。
それに、あの鳳凰は1羽維持するだけでも大変なんだ。2羽同時に出すのはリームーだよ」
「むぅ。ヨシュアお兄ちゃんケチんぼなの〜」
「無駄話は終わりですよ。ヒドラが毒ブレスを吐き尽くしたようですわ!」
エレナが可愛らしく拗ねていると、ラフィからの声がかかった。
一瞬でマジモードに戻ったエレナは、アマンダに目線で合図を送ると、アマンダと同時にヒドラへと駆け出した。
「『マーキングアロー』!」
タイミングを見計らったシンシアが、弓神の究極スキル『マーキングアロー』を放った。
アマンダが左端の首を斬り落とし、同時にエレナが右端の首を切断。残りの3つの頭部を、シンシアの放った3本の魔法矢が消し飛ばす。
正に息ピッタリのラストアタックである。
因みに、シンシアの使った『マーキングアロー』とは、まず最初に魔力を放出して、対象に魔力の的を施してから魔法矢を放つという技だ。
放たれた魔法矢は魔力の的に向かって飛んで行く為、超高速で飛翔する魔法矢を粉砕しなくては防ぐ事が出来ないというトンデモ技。
盾や魔法障壁で防ぐという手も有るが、シンシアの魔法矢は地属性の魔力を超圧縮させており、生半可な物では貫通してしまう。
ラフィの超級精霊術で形成した障壁で、ギリギリ防げるといった所だろう。
「ヨシュアさん、昨日の訓練でも思いましたけど、アマンダはとても連携を取るのが上手ですわ。
本当にあなたが居た頃は、猪突猛進なアタッカーだったのですか?」
「ああ。俺もめちゃくちゃ驚いてるよ。
まるで別人の動きだ」
予想以上の結果に感慨に耽っている所に、ラフィが話しかけて来た。
彼女も俺と同じ感想を抱いていたらしい。
俺たちが話し合っている所に、アマンダが戻って来た。
「アマンダ、お疲れさん!
いやぁ、すっかり見違える程、素晴らしい立ち回りだったよ。
俺が出て行った後、相当努力したんだな」
「まぁねぇ。ヨシュアが出て行ってから、アンタがどれだけアタシらの為に献身的な立ち回りをしてくれて居たか、痛い程思い知らされたのよ。
勇者じゃ無くなって一撃の破壊力も無くなってたし、あの時のアタシに出来る事って、無駄の無い攻撃で出来るだけ素早く討伐する事と、素早くソニアやサーシャのフォローに入る事くらいじゃない?
最高戦力のヨシュアを追い出した愚かな自分への戒めとして、寝る間も惜しんで訓練したわ」
「ふ、ふん。まぁまぁ殊勝な心がけよね。
相当な努力をしたみたいだし、ほんの少しだけ認めてあげるわ」
アマンダの事をシンシアも少しは認めているようだ。
「まぁ、シンシアの努力には全然及ばないけどね。
アンタの矢、マジでブッ飛んでるわ。あんな凄い威力なのに、制御も完璧だなんてチートじゃない。
シンシアに援護して貰えると思うと、前衛は何の恐れも無く攻撃に専念出来るわ。
これからも宜しくね」
「し、仕方ないな〜。
勇者にそこまで言われたらな〜。仕方ないから宜しくしてあげるわ」
シンシアは褒められた事が満更でも無いようで、エメラルドグリーンの髪先を指でくるくると絡めながら返している。
この様子だと、アマンダは時間もかからずにパーティーに打ち解けそうだな。
ともあれ、かなりアッサリとダンジョンボスを撃破した俺たちは、ダンジョンボスドロップの魔導具と魔石を回収し、出現した転移魔法陣で地上へと帰還するのであった。
新体制での初クエストで大成功を収め、喜びに湧いていたこの時の俺たちは、ギルドへの報告時に厄介事に巻き込まれるとは思っても見なかった。




