66話 早朝訓練と『フェロモンイーター』の新事実
「延命流・剣神エレナ、いざ参るの〜!」
名乗りを上げたエレナが、木剣を片手にアマンダに斬りかかって行く。
アマンダの歓迎パーティーの翌朝。
ストイックなアマンダは、酒を飲んだ翌朝から鍛錬をしたいと言い出し、俺とエレナと3人でギルドの訓練場へとやって来た。
今はエレナとアマンダの模擬戦の真っ最中である。
「速っ!くっ!何このコ!?めっちゃ強いんだけど!」
エレナが繰り出す高速の剣戟を、アマンダはギリギリの所で防いでいる。1ヶ月少々寝た切りだったのに、ここまで動けるアマンダは並みじゃ無いな。
「ヨシュア様をいぢめた罰なの!えい!えい!」
「そっ、それは何度も謝ったじゃ…危な!」
恨みを込めたエレナの横薙ぎを、アマンダは何とかバックステップで躱しておる。
う〜ん…エレナの気持ちは嬉しいんだけど、アマンダは仲間になったんだから蟠りを持たないで貰いたいな。
模擬戦が進むにつれて、エレナの木剣は浅くだがアマンダにヒットするようになっている。
だが、エレナの剣戟は俺でもかなり打ち込まれる程鋭い。
ブランクが有ってもあの程度で済んでいるのだから、やはりアマンダの実力は凄…
バキィィィ!
あ、エレナの木剣が、アマンダの左肩に思いっきりヒットした。
アマンダは小さく悲鳴を上げて地面を転がった。
「ちょっ、エレナやり過ぎ!アマンダ、大丈夫か?」
俺は慌ててアマンダに駆け寄ったが、彼女はすぐに体を起こして立ち上がった。
「うふふふ。エレナちゃん、アナタめちゃくちゃ強いわね。
アタシも本気出さないと、やられちゃうわ」
アマンダは嬉しそうにそう言うと、全身に光の闘気───聖闘気を纏わせた。
この聖闘気というのは、勇者にしか発現する事の無い物で、魔力よりも強力に身体能力を上昇させたり、剣に纏わせて強力な斬撃を放つ事が出来る。
聖闘気を使った斬撃波の『ホーリースラッシュ』は、俺の魔力撃よりも遥かに高い攻撃力を有する。
ただ、聖闘気は勇者の天職を持っていても扱うにはかなりの修練が必要であり、俺が『宵闇の戦乙女』にいた頃のアマンダには使えなかったハズ…
「おい、お前闘気を出すとか、殺し合いじゃないんだから木剣に纏わせるのは止めろよ」
「分かってる。コレは訓練だから攻撃には使わない」
アマンダは言葉と同時にエレナの方へ駆け出した。
一瞬でエレナの死角に回ると、恐ろしく洗練された剣戟でエレナを攻め立てる。
俺の記憶にあるアマンダは、もっと一撃に力を込めた荒々しい剣だった。俺と離れている間に、相当な訓練を積んだのだろう。
「ぐっ!ず、ズルいの!体を光らせてズルいの!」
そんなアマンダの鋭い攻撃を、エレナは悔しみながらも華麗に捌いている。
って言うか、何で体を光らせるとズルいんだろ?
「これでも捌かれるんだ…エレナちゃんって、マジで剣術の天才だね」
「えへへなの!アマちゃんもいぢめっ子のくせに強いの!『淵明流六ノ太刀:朧』なの!」
エレナが変な技名を言って木剣を振るった瞬間、刀身の部分がブレて、振るった方の逆側から刀身が現れた。
バギャァア!!!
大きな炸裂音と共に、またもアマンダは地面を転がった。
準伝説級職の剣神となったエレナの新技は、めちゃくちゃ恐ろしいモノだ。あんなの初見でどうやって避けろと言うのだろうか?
「す、凄いわね…悔しいけど、アタシの負けだわ。
模擬戦してくれてありがと。アタシはまだまだ修行が必要ね」
「朧を食らっても、気絶しないアマちゃん凄いの!
さすが勇者なの!」
模擬戦を終えた2人は笑顔で握手を交わした。
エレナは戦うとスッキリするタイプなのか、模擬戦前と打って変わってアマンダに笑いかけている。根が明るいから、あまり悪い感情を根に持つタイプじゃ無いんだろうな。
「いやぁ、それにしてもさっきの朧って言う技ホント驚いたわ。エレナちゃんの流派には、あんな技を使う人が何人もいるの?」
「んーん!淵明流はエレナが勝手に考えた流派なの!
さっきの技もエレナが閃いたの!」
「えっ、マジ!エレナちゃんマジもんの天才じゃん!」
凄い…エレナが天才のアマンダから、天才呼ばわりされている…天才の中の天才という事か…
まぁ、先程の技を閃きで発動出来るんだから、天才の中の天才なんだろうな。
「ねぇ、ヨシュアにあんな酷い事をして頼めた義理じゃないんだけど、アタシにも淵明流を教えてくれないかな?
今度こそヨシュアの役に立てるようになりたいの!お願い!」
アマンダが真剣な表情でエレナに頭を下げている。
彼女の気持ちは嬉しいんだけど…
「アマンダ…多分、エレナは師匠に向かないぞ?人に順序だてて物を教えたりは不向きだからな」
「むぅ…そんな事ないの!エレナはアマちゃんのおししょーになるの!」
ほう、コレは結局無理でしたっていうオチの前フリかな?
ともあれ、心の妹・エレナのお手並み拝見といきますか。
◆◇◆◇◆
「こう、ビュッ、シャッて振るの!ね?ビュっなの!」
そう言って、木剣をビュンビュン振り回すエレナ。そんな説明では何も伝わらないだろうに…
「ん!ビュッ、シャッね。こう?」
アマンダがエレナに倣って木剣を振るうが、エレナみたいに刀身がブレる訳もな…いや、ブレとる!
「ハイなの!で、この時に少しミョンって感じなの」
「うん。ここでミョンな感じね」
うおっ、さっきよりも更にエレナの朧感が出ている…
ビュッとかミョンとは、天才同士で通じ合う共通言語か何かだろうか?
「ちょっと、今の感覚を試したいから、ヨシュア受けてくれない?」
アマンダがウズウズした感じで、俺に新技の実験台になれと言う。あんなものを捌けるワケ無いのに。
断る事も出来ず、木剣を持ってアマンダと対峙する。
アマンダは素晴らしい勢いで加速して、右袈裟に木剣を振って来た。
昔とは比べ物にならない程鋭く、力みの無い一閃だ。俺はアマンダの剣戟を木剣でいなして、返しの太刀を振るう。
ドガッ!
あ、しまった。思わず反射的に反撃してしまった。
思考と行動が直結し過ぎるのは、こういう時に不便かも知れない。
「ちょっと、ヨシュア!何で反撃して来るのよ!
っていうか、アンタの剣術どんだけデタラメなのよ!何で崩れた体勢から、あんなカウンター攻撃が出来るワケ!?」
「す、スマン…なんかスキルの効果とジョブのクラスアップで反射速度が上がってしまってな。
頭に浮かんだ時には行動に移っているというのか、戦闘中は頭と運動が直結している感覚になるんだよ…」
「何?アンタのスキルってそんな効果もあるの?」
アマンダが妙な事を言い出した。
彼女には俺の『フェロモンイーター』の話はしていない。というより、ゴタゴタしていて話し忘れてた。
「え、アマンダって俺のスキルの効果を知ってるの?」
「うん。ヨシュアが居なくなって初めて分かったわ。
パーティーメンバーのジョブをクラスアップさせるのが、アンタのスキルでしょ?」
アマンダの口から出た言葉は、とても信じられない事だった。他人の天職をクラスアップさせるなんて、そんな事が本当に可能なのか?
「い、いや。それは幾ら何でも勘違いじゃ無いのか?」
「え?だって、アンタが出て行ったら、アタシは勇者から剣豪に戻ったのよ?
で、昨日アンタのパーティーに戻る手続きをした途端に凄い力が湧いて来て、ステータスチェックしたら勇者に戻ってたわ。
そんな偶然が有ると思う?」
「しかし…そんな…他人の天職に左右するスキルなんて…」
「ホントに思い当たる事は無い?
アンタが『宵闇の戦乙女』に入ってたった半年で、アタシやサーシャ達は同時にクラスアップしたじゃない。
1人だけクラスアップしたなら偶然かも知れないけど、3人同時にクラスアップなんて普通あり得ないでしょ?
しかも、サーシャはクラスアップを殆どしないプリーストだよ?」
アマンダの言葉に、俺は一瞬頭が真っ白になった。
上手く言葉が出てこない俺を他所に、アマンダはそのまま話を続ける。
「アンタが入って2年くらいで2回目のクラスアップもしたし、普通そんな短期間で2回もするようなものじゃないわ。
エレナちゃん達は、アンタが入ってからクラスアップしてない?」
「エレナね〜、2回もクラスアップしたの〜!」
アマンダの問いに、エレナが笑顔で答えた。
確かに、ラフィとシンシアも2回クラスアップしている。
確かにコレは異常なペースだ。
「ホラね?アンタのパーティーに、準伝説級ジョブの剣神、弓神と、伝説級の精霊王の愛し子が居るのよ?アタシの勇者も含めたら、準伝説級2人に伝説級2人。
ヨシュアが加入して2ヶ月ちょっとで、こんな破格の人材だらけのパーティーに成長するなんて、偶然じゃあり得ないでしょ?」
「た、確かに……
なぁ、皆んながクラスアップした事は、他言無用で頼むよ。変に騒がれたら、冒険者活動に支障が出そうで怖い」
「そうね。ヨシュアの事を悪用する為に、『豊穣の翠』から引き剥がそうとする連中が出て来そうだし、この事は絶対に言わない方が良いわ」
「エレナも絶対に他の人に喋らないの!」
アマンダもエレナも秘密にする事に同意してくれた。その後パーティーハウスに戻った俺たちは、ラフィとシンシアにも『フェロモンイーター』の判明した効果を話し、この効果については他言無用で承諾してくれた。
色々と驚きの1日だったけど、明日は連携の訓練に勤しみますか。
フェロモンイーターを読んで頂き、感謝感謝です(о´∀`о)
入院中に書き溜め分の投稿が終わったので、今後は毎日1話ずつの投稿になります。
来月頭に再び入院するかもですが、極力穴を開けないようにしますので、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m




