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64話 魔族の事情 ⑥

 


 〈リゾンドウ視点〉



「は!?金が入らないなんて、ヤバいじゃねえか!

 リゾ、これからどうするつもりなんだよ!?」



 フランキー経由での資金調達が不可能になった事を同胞のジェミナスに伝えた所、ジェミナスは目に見えて動揺した。

 どうするつもりなのかと言われても、そんな事はこっちが聞きたいくらいだ。



「ジェミナス、落ち着いてくれ。

 幸いレジーの方は、レベル集めを無事に終えてくれた。

 自堕落なソニアの方も、意外な程上手く帝国で破壊工作を行なってくれて、上手くSSランクパーティーを分断する事が出来ている。

 残りは『異次元カプセル』の入手と、人族の魂集め───つまり、君の仕事を残すのみなんだ」


「くっ、そ、その事なんだけどよぉ、やっぱ王国を避けて細々とやってたんじゃ、いつ終わるかも分かんねえ。

 ノルドゥヴァリ様の復活周期が有る以上、背に腹は変えられねえんじゃねえか?

 多少目立とうが、ここは人の多い王都で狩るしかねえぜ」



 確かに、ジェミナスの言う事は尤もだ。

 ノルドゥヴァリ様の蘇生に必要な魂は、闇属性に適正のある者の魂で無くてはならない。

 だが、人族で闇属性に適性の有る者の割合は、400人に1人程である。

 残り3,000人弱の闇属性に適性のある人族の魂を奪うには、ジェミナスの言う通り550万人の人口を誇る王都でやる方が手っ取り早い。



「確かにリスクが高いが、それしかあるまい。

 ノルドゥヴァリ様の蘇生周期が終わるまで、残り2ヶ月程しか無い。

 万が一ヨシュア達に嗅ぎ付けられても、例の召喚術でヨシュアの注意を逸らせば、どうにかなるかも知れん。

 ジェミナス、くれぐれも注意を怠らないでくれ」


「分かってる。俺だって、あんな化け物なんかと対峙したくねえよ。

 それより、『異次元カプセル』の方はどうなってる?」


「それなんだが、それらしい魔導具をドロップしたという情報が全く上がって来ない。

 最悪の事態を想定すべきだろう」


「最悪の事態ってのはどう言う事だ?

 まさか…」


「そのまさかだ。

 件のイレギュラーダンジョンで成果を残したのは、ヨシュア達のパーティーだけだ。

 ヤツらが所持している可能性もゼロでは無いだろう。

 心配するな、俺に考えが有る。

 君は自分の作業に集中してくれ」



 俺は不安な表情のジェミナスを言い包め、何とか彼を人族の魂集めに向かわせた。

 俺は誰も居なくなったアジトの中で、ヨシュアが『異次元カプセル』を所持していた場合のプランについて、脳内で幾つかのシュミレーションを行うのだった。



 ◆◇◆◇◆



 ジェミナスが王都で人族の魂集めを始めて1週間が経った。

 この1週間の間に良い事が2つ、悪い事が1つあった。

 悪い事は、ジェミナスのミスでヨシュア達に、俺達魔族の存在を気取られてしまった事。

 どうやら、連中に警戒心を持たれてしまったようだ。


 良い事は、人族の魂集めのペースが格段に上がった事と、俺との協力関係を終えた筈のレジーが、更なる協力を申し出てくれた事である。

 正直、レジーから協力を申し出てくれた時は、嬉しさの余り涙を流してしまった。

 一千年前は全ての人族と亜人族から敵意や憎悪を向けられたのだが、俺にも人族の友人が出来た事が何より嬉しかった。


 そして今、そのレジーが調査結果の報告に来てくれている。

 俺は彼にアイスティーを出し、レジーの言葉に耳を傾けた。



「やはりヨシュア達は、魔族に警戒心を持ったようだ。

 ただ救いなのは、ヨシュア達が魔族の存在について確証を得ていないという事だね。

 当然、リゾ達の計画も知られては居ないよ」


「そうか…それは不幸中の幸いだった。

 ヨシュア達に何か新しい動きは有ったかい?」


「ああ。ヨシュアと『豊穣の翠』リーダーのラフレシアが結婚したよ。

 披露宴会場に紛れ込んで、連中を鑑定してみたけど…聞かない方が良いと思う」


「い、良いから聞かせてくれないか?

 奴らの詳細が分からないと、今後の対策が立てられないじゃないか」


「分かったよ…判明したのは彼らのジョブなんだけど、ヨシュアは『超魔剣皇』という謎のジョブで、ラフレシアは伝説級の『精霊王の愛し子』。

 弓使いのシンシアは『弓神』、剣士のエレナは『剣神』と、どちらも準伝説級職だ。

 更に、最強の優者と名高いアマンダが、『豊穣の翠』に加入した。

 正直、僕が『ミッドナイトコンバタント』のボーナス中でも、この中の誰一人として叶わない。

『豊穣の翠』の誰と戦っても瞬殺されるだろうね」



 俺はレジーの報告を聞いて絶望した。

 レジーの戦力は、剣聖キャンマナと同等だと思っている。

 そんな彼が瞬殺ならば、ノルドゥヴァリ様でも遅れを取るかも知れない。

 しかも、そんな規格外の戦力が5人も集まっているのだ。



「なぁ、リゾ。僕は君を大事な仲間だと思っているんだよ。

 ヨシュアと敵対するリスクを犯す必要は無いじゃないか。

 ノルドゥヴァリ様がどれ程強いのかは知らないけど、蘇生した所でヨシュア達に殺されたら意味が無い。

 僕が君達を匿うから、この世界で平和に余生を送らないかい?」


「ありがとうレジー…そう言ってくれるのは本当に嬉しいよ……

 だが、俺達が元居た世界は、この世界の魔物よりも恐ろしい魔獣に侵略されつつ有るんだ。

 魔亜神様が居る事で何とか均衡を保っていたのに、その魔亜神様がこの世界から戻れないと、同胞達は滅んでしまうだろう」


「…そうか…それは戻らないといけないよね…

 じゃあ、他に何か手伝える事は無いだろうか?」


「その気持ちだけで充分だよ。レジー。

 君が俺を仲間だと思ってくれているように、俺も君を大事な友達だと思っている。

 これ以上、君の命を危険に晒すような事はさせたくないんだよ…」



 気付くと、頬に涙が伝っていた。

 例え今回の事で命を落としたとしても、レジーという種族を超えた親友が出来たんだ。

 その充足感を抱いてあの世に行けるだろう。



「だ、だったらさ、魔亜神様を蘇らせる事が出来たら、俺も君達の世界に行って魔獣討伐を手伝うよ。

『異次元カプセル』は別の世界の好きな時間軸に行き来出来る魔導具なんだろ?

 君らの世界を平和に出来たら、こっちの世界の同じ時間に戻って来ればいい。


 ……だから、リゾ…絶対に死なないでくれ!…僕も君らの世界で一緒に戦わせてくれ……」


「…レジー…ありがとう!本当にありがとう!」



 俺もレジーも号泣していた。

 彼の気持ちに応える為にも、今後の作戦はしくじる訳には行かない。

 俺は決意を新たに、計画の準備を再開した。



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