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63話 加入手続きと浮かれるギルド長

 


「ア、ア、ア、アマンダさん!え、アマンダさんが…ギルド長〜!大変です!アマンダさんが〜!」



 アマンダを『豊穣の翠』に加入させる為の手続きをしにギルドへと来たんだが、受付嬢はアマンダの姿を見るなり、素っ頓狂な声を上げて奥の方へ走って行った。


 暫くすると、ギルド長のドミンゲスが小走りでやって来た。そんなにアマンダの加入はマズい事なんだろうか?



「おいおい、マジかよ…アマンダ…体の方はもう大丈夫なんか?」


「ええ。こちらのラフレシアさんのおかげで、前よりも全然元気になったわ」


「うおおおお!マジか!良かった!いや、でかした!大手柄だぜ、ラフレシア嬢!」



 何だ?ギルド長は情緒不安定なんだろうか?

 余りに騒ぐので、周りの人達の視線を集めてしまったではないか。

 俺が五月蝿いギルド長を睨みつけると、我に返ったドミンゲスは軽く咳払いをして、俺たちをギルド長の執務室へ通してくれた。

 入室した俺たちは、執務室の無駄に豪華なソファに腰をかけた。



「一体何なんだよ。俺たちはアマンダのパーティー加入手続きに来ただけなのに」


「マジか!アマンダが『豊穣の翠』に入るんか!そりゃあ凄えぜ!いやぁ、ホント一時はどうなるかと思ったが、ラフレシア嬢とヨシュアの所ならもう心配は無えな!

 お〜い!上等なワインが有ったろ?それ持って来い!

 今日は宴会じゃあ!」


「いい加減落ち着いてくれよ。何でそんな大騒ぎしてんだよ?」



 俺は無駄にテンションの高いドミンゲスに、説明を求めた。

 ドミンゲスは俺の問いに答えもせずに、秘書が持ってきた高そうなワインをグラスに注ぐと、一気に飲み干した。



「あ〜、良いワインだ!いやぁ、サイコーだぜぇ!

 …あ、悪い悪い。

 お前さんらは事情を知らんのだったな。

 ああ…順を追って説明するか。だが、今から話す事は極秘事項だ。絶対にパーティーメンバー以外に話さないでくれ」



 俺たちはドミンゲスの言葉に頷くと、ドミンゲスは先程とは打って変わって、厳かに話し始めた。



「実は2週間程前、エディから『魔亜神ノルドゥヴァリ』が復活する可能性が有るという報告を受けた。

 ああ、ノルドゥヴァリは伝説の魔王の事な。

 で、学者先生や、宮廷魔導師団長なんかのお偉いさんに確認した所、2〜3年内に魔王が復活する可能性が高い事が分かった。


 そこで、魔王が復活した際の対抗手段として挙げられたのが、アマンダを始めとした、世界に3人いる勇者だ。

 ところが、アマンダは脊椎損傷で再起不能になったっていうじゃねえか。

 俺らも王国内の高名な聖女様や聖人様に依頼をかけて、アマンダの治療を頼んだんだが、どいつもこいつも無理だと吐かしやがる。


 考えても見ろ?世界にたった3人しか居ない勇者の内、1人が再起不能なんだぞ?

 しかも、ギルドが制止した無謀な調査依頼を裏ルートで受けて、再起不能になったんだ。各国のギルド長から管理責任を問われまくりで、胃に穴が開くかと思ったぜぇ。


 そこに、ラフレシア嬢という救世主が現れたんだ!しかも、アマンダはヨシュアの所に入るっつうんだぜ!?コレで騒ぐなって方が無理ってもんよ!」



 何かまくし立てるように話すから、イマイチよう分からんが、エディさんの言ってた魔王復活が現実味を帯びて来て、ギルドはテンパってた訳か。



「ラフィが救世主なのは間違いないけど、何でアマンダが俺と組んだらお祭りなんだよ?」


「はぁ…これだからヨシュアは…

 良いか?『宵闇の戦乙女』に居た頃から、俺らはお前さんを高く評価してたんだ。

 勇者パーティーのナンバーワンがヨシュア、次いでアマンダ、ソニアとサーシャなんざ寄生虫みたいなもんよ。

 お前さんが勇者パーティーの離脱に来た時、受付や事務方の連中に引き止められただろーが」


「ああ、そう言えばそんな事もあったな」


「ったく、ヨシュアは自己評価を改めた方が良いぜ。

 お前は冒険者として必要な戦闘力、機動力、判断力、統率力、指導力、総合力の全てが高次元に備わっている稀有な存在なんだ。

 お前みたいなクオリティの高い冒険者の元で、アマンダが研鑽を詰めば、実力が大きく飛躍する事は間違いねえ」


「アタシも、過ちを犯した今だから確信してる。

 ヨシュアと一緒なら、アタシはもっともっと強くなれる。

 大馬鹿なアタシを受け入れてくれて、本当にありがとう!もう絶対にあんな馬鹿な事はしない!

 ヨシュアを信じて、一生懸命頑張るから!」



 何故か話に入って来たアマンダは、俺の事を気持ち悪いくらいに持ち上げてくれた。

 何か裏が有るのかと思ったけど、本当に真っ直ぐでヤル気に満ち溢れた目をしている。



「お、おお…何だか知らんけど、やる気になってくれて嬉しいよ。

 遠回りしちまったけど、一緒に災害指定特区に行こうっていう昔の約束も果たせそうだな」


「……ヨシュア…覚えていてくれたんだ…

 ア、アタシ…アンタとまた一緒になれて、マジで幸せ…」


「ヨシュアさん…私の前で不貞を働くおつもりですの?」



 ビ、ビクゥッ!!!ラ、ラフィの殺気が凄すぎて泣きそう…



「そ、そ、そ、そんな訳あるかぁ!アマンダは、俺が冒険者になって初めて出来た同志なんだ。

 男女の仲じゃないんだから、そんな目で見ないで欲しいよ」


「おいおい。こんな所で夫婦喧嘩すんじゃねえよ。

 それにしても、良くあんな重態のアマンダを完治出来たよなぁ。

 高名な聖女様ですら匙を投げたんだぜ?

 ラフレシア嬢は、エルフ族に伝わる秘術でも使ったのか?」


「いや、ラフィは精霊術を使ったんだが、正直今回の治療は運の要素が大きかった。

 偶々ラフィの使役出来る精霊と、アマンダの魔力の相性が良かったから完治出来たものの、別の人だったら治癒出来なかった筈だ」


「あ、あの…あなた?私の…」



 俺がドミンゲスの質問に適当な返答をすると、ラフィは困惑したように声をかけて来た。

 分かっている。ラフィの使った『精霊王の癒し』は、そんなチャチな代物じゃない。アマンダであれ、誰であれ、死んでさえいなければどんな症状でも完治出来る、正に奇跡の治癒術だ。

 だが、それを公にすると、ラフィの力を求める様々な有力者が、ラフィ争奪戦を行うだろう。それこそ血生臭い争いが生じてしまう。


 俺はラフィに目配せをして、俺に任せるようアイコンタクトをした。



「そりゃあそうだわな。そんな都合のいい治癒精霊術なんざ、ある訳ねえよなぁ。

 いや、運が良かっただけにしても、だ。

 ラフレシア嬢、君は世界の危機を救ったと言っても、過言では無い程の働きをしてくれた。

 心から礼を言う。勇者を救ってくれて、本当にありがとう」



 ドミンゲスはラフィに深々と頭を下げた。



「おいおい、世界を救ったって言うのに、たったそれっぽっちかよ」


「いや、無論報償金は別途用意させて貰う」


「どうせ大した金額じゃ無いだろう?

 コッチはこれからアマンダのリハビリだったり、別途プライバシーの確保をする為に、色々と入用になるっつーのに、端金じゃ見合わないんじゃないか?」


「な、何だよ?言っとくが、そんなに多額の金は払えんぞ!」


「いや、金じゃなくて、王都の一等地に屋敷が欲しい。今のパーティーハウスは、5人で住むにしては少々手狭でねぇ」


「ふざけんな!そんな物をくれてやる程、ギルドに余裕はねえぞ!」


「マンタ・プリトス伯爵だっけなぁ。別荘の建築は順調かい?」



 俺が、プリトス伯の名を出すと、ドミンゲスは眉間に皺を寄せ、言葉を詰まらせた。

 プリトス家現当主のマンタは、民主化が進んでいる王国に於いて、未だに過去の貴族上位社会を引き摺る悪徳貴族だ。王都ギルドは200年以上プリトス家の支援を受けて来ており、現当主が悪辣漢であっても要求を跳ね除ける事はしない。

 王国の税法はそれ程詳しくないが、富裕者が別荘を建てると、資産にかかる税金が多額になるらしい。しかし、ギルドの副施設という名目で建てた場合は税金は払う必要が無い。

 つまり、王都ギルドはマンタの脱税に加担している事になる。



「お、お前さん、俺を脅迫しようってのか?」


「マンタはクズだぜ?仕事も出来ねえのに、マンタの息がかかってるってだけで高給払って雇ってる職員がこのギルドに何人いる?

 無茶なダンジョン探索や調査依頼が増えたのも、ヤツがダンジョン資源を抱え込みたいからだろうが。

 アマンダが大怪我を負ったダンジョンだって、俺らが1回目に調査探索した時点で最高警戒度のイレギュラーダンジョンだと分かってたハズだろ?

 普通はあの手のダンジョンは調査を諦めて、3ヶ月に1度のペースで1階層のモンスターを間引くのが定石の筈だ。

 これまでの当主はまともだったかも知れないけど、マンタは間違い無く欲に溺れるクズだ。

 あんなクズ貴族の言いなりになるのを辞めた方が、ギルドの為ってもんだろう?

 ここらでプリトス家と手を切って、ヤツに渡す筈だった屋敷を俺らに格安で売ってくれ」


「気軽に言ってんじゃねえぞ!

 プリトス伯爵家にはギルドが破綻しかけた時に、手厚い援助を受けて来たんだ。

 確かに現当主はクズ野郎だが、これまでこのギルドが受けて来た莫大な恩を考えれば、現当主の無茶振り程度の事で切るなんて出来ねえんだよ!」



 俺の提案を聞いたドミンゲスは、声を荒げて拒否して来た。

 過去に何度も援助して貰った恩を仇で返す真似は出来ないという気持ちも分かる。しかし…



「ドミンゲスよ、良く考えろ。

 確かに過去に大きな恩を受けたんだろう。だが、だからと言って、税金逃れみたいな違法行為に手を貸さなきゃならないなんて、どう考えてもおかしいだろうが!

 無茶振り程度なら目を瞑れたとしても、今回の件は度が過ぎてる。

 今すぐに返事をしろとは言わない。

 だが、真剣に考えてみてくれないか?」



 俺はドミンゲスにそう言うと、ラフィとアマンダを連れて部屋を出た。

 ラフィとアマンダは、ギルド長が貴族の悪事に加担していた事を知り、何とも言えない表情で押し黙っている。



「ショックなのは分かるけど、気を取り直してアマンダの加入手続きを済まそうぜ。

 アマンダの加入は目出度い事なんだ。これで一気に前衛の厚みが増したぞ」


「…そ、そうですわね。

 では、アマンダさんの加入をしに行きましょうか」


「だね。アタシ、ヨシュアとラフレシアさんの気持ちに応えられるように、死ぬ気で頑張るから!」



 俺が2人に声をかけると、2人は少し明るさを取り戻したようだ。

 どうせ俺たちにはここまでしか出来ない訳だし、後はドミンゲスが正しい判断をしてくれる事を祈るしか無い。


 その後、受付でさっさとアマンダの加入手続きを終わらせた俺たちは、パーティーハウスへと帰るのだった。



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