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61話 新婚デートと魔族の影

 


「ヨシュア様…私、は、恥ずかしいですわ…」



 ラフィが顔を赤く染めて上目遣いで俺を見てくる。

 うむ、今日も俺の嫁は果てしなく可愛い。



(それにしても、脱童貞とはジョブのクラスアップ以上の効果だなぁ…

 ついこの間まで、ラフィと交換日記をしようと思っていた自分が、ラフィとこうしてハイブラ店にショッピングデートに堂々と興じる事が出来るのだからな)



 俺は脱童貞によって、何処からとも無く溢れ出てくる全能感に浸りながら、そんな事を思っていた。


 と、いう事で昨日濃密な1日を過ごした我々は、今王都の高級ブランドのお店に来ている。

 ちょうどラフィが試着を終えた所だ。

 ラフィが試着しているのは、薄いオレンジを基調としたワンピース。

 所々で切り替えしが入っており、かなりオシャレな一品となっている。


 ラフィの服を買いに来たのには理由がある。

 彼女はせっかく抜群のプロポーションをしているのに、普段着ているのはロング丈のワンピースなど、殆ど露出が無い物ばかり。

 今着ているワンピースは、膝丈くらいでウェストも少しシェイプしたデザインだ。

 ど迫力なオッパイからのウエストのくびれが際立つような裁断の逸品。

 流石ハイブランドの『ペラダ』のスプリング&サマーコレクションだけはある。



「とっても可愛いよ。良し、それを買って行こう。

 店員さん、そのまま着て行くからタグを外してくれ」



 俺は冒険者カードで決済を済ませた。

 やはりSランクカードを出すと、店員さんの目の色が変わる。

 今はダンジョンから取れる資源や魔道具により、このような技術も発展している。

 20年前は身分証程度の役割だった冒険者カードも、様々な情報が組み込まれるようになり、お買い物の決算にも使えるようになった。

 まだ1億3,500万ゲスほどギルド口座に預金があるので、30万ゲス程の『ペラダ』のワンピや、先程買った『ゴッチ』の25万程のバッグも一括決済をした訳だ。



「わ、私はもう充分に買って頂きましたから、ヨシュア様のお召し物を見に行くのはいかがですか?」


「何言ってんの。男の俺なんか何着たって大して変わらないよ。

 若妻のラフィに目一杯オシャレを楽しんで貰うのが旦那の甲斐性ってもんだろ?」



 ラフィはコクコクと首肯して、俺の腕に手を絡ませて来た。

 うむ、肘の辺りに柔らかなモノが当たってコレはコレで悪くないだろう。

 今まで恋人すら作った事がない俺が、いきなりこんな超絶美少女を嫁に貰ったんだ。

 色々としてあげたくなるのは当然と言える。


 その後も『ジェミー・チュウ』のハイヒールを買ったり、『クワルテュエ』でお揃いのブレスレットを買ったりとショッピングを楽しんだ。

 俺って嫁さんに貢ぐ才能が有るのかも知れない。


 買い物がひと段落したところで、オープンテラスカフェでランチと洒落込んだ。

 以前、ペイ専用ゼポッグを組み立てた店よりも、遥かにシャレオツなお店である。



「デートコースを必死に調べた甲斐があったな。

 このランチプレート、かなり美味いじゃないか」


「本当にありがとうございますわ。

 ヨシュア様にこんなに良くして頂いて、ラフィは本当に幸せですわ」



 ラフィもこのタンシチューオムライスのプレートを気に入ってくれたようで何よりだ。

 この後は最近話題だという魔導ムービーを見に行って、カップルで行くと幸せになれるというジンクスの展望タワーで王都の景色を眺めるという流れだ。

 展望タワーにもカフェスペースが有って、ティーンに人気のフローズンドリンクを提供してくれると言う。

『OUTO walker』様々だな。



「いやぁぁぁ!アナタ〜!」



 カフェのお支払いを済ませていると、女性の叫び声がメインストリートの方から聞こえて来た。

 コレは相当逼迫した状況だろう。

 俺はラフィと共に声のする方へと駆け出した。



「だ、誰か主人をお助け下さい!

 あぁぁぁ、神様、お願いします!主人を!」



 メインストリートに着くと、30前後くらいの男性が胸から血を流して倒れており、奥さんが号泣しながら男性の上体を抱き抱えている。

 胸の傷はかなり深いようで、治癒院に運んでいては間に合わないだろう。

 ラフィがすぐさま2人の元へ駆けつけた。



「奥様、どうか落ち着いて下さいまし。私が治療致しますわ。

『オノドリムの癒し』」



 精霊導師以上の天職にしか扱えない上級精霊術を、ラフィが見事に無詠唱で発動させた。

 男性の胸の傷はたちどころに塞がり、顔色も幾分か赤味を増して来ている。一命は取り留めただろう。



「奥様、裂傷は内側の器官も含めて復元致しました。

 出血が多かったようですので、治癒院で輸血をされれば回復されるかと存じますわ」


「あぁぁぁぁ、女神様、主人をお助け下さりありがとうございます!ありがとうございます!

 あぁぁぁアナタ、良かったぁぁぁ…」


「い、いえ。私が女神様などと烏滸がましいのですわ…」


「あぁぁぁぁ、女神、感謝致します!女神様、ありがとうございます!」



 ラフィは女神認定をされて困惑しているようだが、あのご婦人…俺の嫁を女神と間違えるとは、中々見る目が有るではないか。


 その後、衛兵の搬送隊がやって来て、魔導車でご主人は治癒院に搬送される運びとなったのだが、念のためラフィと旦那の俺も付き添う事となった。



 ◆◇◆◇◆



 治癒院に運ばれたご主人は輸血をすると、間も無くして意識が回復した。

 大事に至らなくて本当に良かった。

 大泣きしていたご婦人も安堵の表情を浮かべており、ラフィも人助けが出来て嬉しそうに微笑んでいる。



「ご婦人、ご主人の胸の傷は刃物で付けられたようなのですが、ご主人に刃を向けた人物を見ませんでしたか?」



 ご主人が助かった事で、幾分か落ち着きを取り戻したご婦人に尋ねてみた。



「済みません。何分突然の事でしたので…

 あ、でも、主人が刺される少し前なんですが…

 全身を覆うような黒いローブを着て、顔の上半分が隠れるくらい目深にフードを被った人が、私達より少し前を歩いてました。

 立ち止まって周りを見回したりして」



 何それ?

 そんな分かりやすく怪しいヤツなんて、犯人以外あり得なくない?

 今6月で気温30度越えだよ?日中は半袖で過ごしてる人が大半なのに、全身を覆うような黒いローブなんて普通の人は絶対に着ない。

 フードを目深に被っている人も先ず居ない。



「ソイツが犯人で間違いないな。

 周囲を見渡して、誰も見ていないタイミングで凶行に及んだんだ。

 100パーソイツ。衛兵の人に話して捕まえて貰えば万事解決だ」


「オラじゃないズラー!!!」



 俺の名推理が炸裂したその時、病室に溌剌とした声が木霊した。

 振り返ると、ご婦人が話した通りの格好の人物が立っている。



「キサマ!日中堂々と病室まで襲撃に来るとは、太え野郎だ!

 ラフィ、風の精霊術の準備を!」


「はい!首を刎ねてよろしいですね?」



 俺は異空間収納から魔法剣と、ラフィの世界樹の魔法杖を取り出し、ラフィに手渡した。



「ちょっ、ちょっと待つズラ!オ、オラは私服衛兵ズラ!」



 そう言うと男はフードを外し、懐から衛兵手帳を取り出してこっちに見せた。

 何か中途半端に伸びたクセ毛で、バンダナを巻いている。

 正直死ぬ程ダサい。

 つーか、私服衛兵が誰よりも目立っちゃダメじゃん!



「私服衛兵が、そんなに目立った格好をなさるのは如何なものかと…」


「オ、オラの扮装にケチをつけるズラか!?

 それより、そっちの男は見た所冒険者ズラな?

 オメエらチンピラ冒険者の管轄じゃないズラ!出て行くズラ!」



 ラフィの真っ当な指摘が気に障ったのか、男は俺たちにやたらと攻撃的になっている。



「気に障ったなら謝るよ。扮装にケチをつけて申し訳なかった。

 俺はSランク冒険者のヨシュア。こちらは俺の妻で、Aランク冒険者のラフレシア。

 妻がこちらのご主人の治癒をしたので、付き添いでここに来ているんだ」



 俺とラフィは私服衛兵に冒険者カードを見せると、私服衛兵は驚いた様に目を見開いた。



「ア、アンタら『万能の貴公子』と『殲滅の女神』だったズラか!!」



 な、何?そんな微妙な二つ名で呼ばれてるの俺?

『無能のヨシュア』の方がまだしっくり来る。まぁ、ラフィは女神だから二つ名に偽りは無いけど。



「ま、まぁそんな二つ名が付いてたのは知らんかったけど、俺たちは別にあんた方の仕事を邪魔したい訳じゃ無いんだ」


「な、何かイメージと違うズラ。オメエらは衛兵を見下したりしないんズラな」


「何で見下すんだよ。市井の人達を一番身近で守ってくれているのはアンタら衛兵だ。

 感謝こそすれ見下すなんてしないよ」



 俺の言葉が意外だったのか、私服衛兵は口を開けたまま暫く固まっていた。



「オラの方こそ突っかかって済まなかったズラ。

 オラは私服衛兵のデ・オニーロ。皆んなからは隠密のオニーロと呼ばれるズラ」



 衛兵の偏見が解けたようで、オニーロはお詫びを言うと、俺に右手を差し出して来た。

 俺とオニーロは笑顔で握手を交わすのだった。



 ◆◇◆◇◆



 その後、オニーロから色々と教えて貰ったのだが、最近似たような人斬り事件が増えているようだ。

 犯人は同一犯と目されており、私服衛兵を増やして早急な解決を図ろうとしたが、未だに犯人の目星は付いてないらしい。

 オニーロは特殊スキル『第六感』を持っているらしく、彼のスキルが反応したあの場所を警戒していたという。



「あの時、裏路地に不穏な空気を感じたズラ。そこで犯人らしき男の姿を一瞬捉えたズラが、煙のように消えてしまったズラ」


「幻覚魔法の類でオニーロを巻いたのかもな」


「そうかも知れないズラが、あの男は魔族だと思うズラ」


「魔族!?ヤツらは1000年前に絶滅したと聞くが」



 魔族はかつてこの世界を侵略に来た魔王ノルドゥヴァリの配下であり、非常に好戦的な種族とされている。

 人族や亜人族を遥かに凌駕する膂力と魔力を有するらしいが、そんな奴らがまだ生きていたとは…

 勇者ダーハマが、チート級の極大魔法と聖剣フライング武威のパワーで、魔王もろとも殲滅したという事が勇者伝説として世界中に継承されている。

 ダーハマも異界から来た男のようで、彼の故郷の文化や技術も世界の発展に寄与したと聞くが、エディさんの情報を聞いた今となっては、どれも真偽が怪しい。


 何しろ、滅ぼされた筈の魔王が、仮死状態で封印されているのだ。

 魔族が生きていても不思議では無い。


 因みに、聖剣フライング武威は王宮に厳重に保管されているが、後発の勇者でこの剣を鞘から抜けた者は誰一人として居ない。

 ダーハマ以降の勇者は、アマンダのように後天的にしか現れない事が関係していると言うのが学者達の見解だ。

 アマンダの持っている聖剣は、『太陽の聖剣アポローン』と言い、聖属性に破格の適性を持つアマンダにしか抜けない。


 話が逸れたが、本当に魔族が王都に現れたというならば、厄災級の危機である。

 オニーロも漠然と伝承されている魔族に似ていると感じただけらしいのだが、魔王復活の件も有るので警戒しておくに越した事は無い。

 俺たちも出来る限り協力すると約束して、治癒院を後にした。



 ◆◇◆◇◆



「ゴメンな。魔導ムービー見に行けなくて」


「そ、そんな、ヨシュア様のせいではありません」



 ラフィは優しい笑顔を浮かべているけど、俺は内心ちょっとこうしっくりこない感じだ。

 当初の計画通りに運ばなかったのが何となく…

 まぁ、くよくよしても仕方ない。ご主人が助かったのは本当に良かったし、良い事をしたのは間違いない。

 俺はラフィを連れて、デートスポットの展望タワーへと向かった。



「そろそろ様付けやめない?あと敬語も。

 壁を感じるからフランクにして欲しいな。

 試しに呼び捨てで呼んでみ?無理ならさん付けでも良いから」


「ヨ、ヨシュア…さん…」


「良いねえ。なんかグッと距離が近くなった気がする」


「な、なんか恥ずかしいですわ!」



 ラフィが顔を赤らめている。

 むふふ、照れている様も可愛いではないか。

 30分程町外れに向かって歩いていると、展望タワーが見えてきた。



「わ〜、近くで見ると凄く高いのですわ!

 は、早く!登りましょう!」



 地上120メートルの建造物なんて他に無いからな。ラフィはめっちゃはしゃいでいる。

 先ずは展望デッキの入場券をチケット売り場で買う必要が有るので、大人2枚6,000ゲスを支払う。

 塔の中に入ると螺旋階段になっており、暫く上った所に魔導エレベーター乗り場がある。


 テンションアゲなラフィが跳ねるように螺旋階段を上って居るが…

 ワンピースのスカートが短いせいか、中が見えるぞ…あ、白くて綺麗なお尻が!

 ラフィのヤツ、まさかのノーパンで!?

 いや、よく見るとアマンダのビッチが愛用していた紐パンだ…

 ま、まさか清楚なラフィが…ビッチパンツを履くなんて…



「ラフィ…そんな紐みたいなパンツ履くんだな…」


「え…キャア!ヨシュアさんの変態!」



 ラフィはスカートの丈がいつもより短い事に気付いたのか、バッとスカートのケツ部分を押さえて俺を睨んで来た。

 いや…変態って…

 でも、スムーズにさん付けにしてくれたのは嬉しい。



「わ、私だって恥ずかしいのですわ!

 で、でも…ヨシュアさんはTバックがお好きなんでしょう?」



 へぇ〜、コレってTバックっていうんだ。

 いやいや、そうじゃない。何で俺が好きな事にされているのだ?



「いや、俺は好きじゃないけど?」


「だ、だって、ヨシュアさんのズボンを洗濯していた時に、ポケットにTバックが入っていたのですわ!」



 し、しまったぁぁぁあ!!!

 あのクソビッチのパンツをズボンに突っ込んだままだったぁぁぁ!!!



「そう言えば…アレは誰のおパンティですの?」



 うお!ラフィ様が氷のような寒々としたオーラを纏ってらっしゃる!!

 しかし、クソビッチのパンツをクンクンしたとは口が裂けても言えない。



「い、いや、違うんだ!

 アレは前のパーティーのビッチに嫌がらせしてやろうと思って…」


「へぇ〜…」



 へぇ〜が怖い!!!

 冷や汗をかく俺…絶対零度のオーラを放つラフィ…

 せっかくのデートスポットが台無しだ!!!



「ちょっと、早く登ってくれないか?

 後ろつかえてるんだけど」



 俺達のせいで後ろの人たちに迷惑をかけていた。

 まさか後ろの奴らラフィの美しいお尻を見てねえよな?

 とにかく迷惑をかけた事を謝って、俺たちはエレベーター乗り場へと向かった。



「ラフィたん〜、ホントに違うんだって〜」


「もうヨシュアさんの事なんて知りません!」



 クソ!練りに練ったデートプランのおかげで良い雰囲気だったのに、クソビッチのパンツ一枚のせいで台無しだ!

 俺は盛大にいじけた。



「いつまでいじけてるんですか?

 凄く綺麗な夕焼けですのに」



 俺は展望デッキの壁際に備え付けられていた観葉植物の隣で体育座りしている。

 この虚無感が分かるだろうか?

 昨晩、夜の営みでヘロヘロになりながらも『OUTO walker』で色々調べまくって、途中まで完璧にエスコート出来ていたのに、ビッチのパンツ一枚で全てが終わったのだ。


 クソ!何でだ!

 俺は勇者パーティーでの不当な扱いにも耐えながら、ビッチらが戦い易いように必死に立ち回った。

 より高いレベルでサポート出来るように毎日鍛錬も怠らなかった。

 ラフィと出会えて毎日が充実して、ラフィと結婚出来て、全てがこれからって時にどうして!!!

 あぁっ!クソ!!!努力が報われないこんな人生なんてもうヤダ!死にたい!

 誰か俺を殺してくれぇぇぇぇ!!!



 ムニョン



 ふと俺の頭頂部に柔らかな物が当たった。

 見上げてみると、白く美しいお尻が…



「もう!これからは私以外の…その…おパンティを見たらダメですからね」



 ラフィがスタートの後ろ部分を俺の頭を覆うように被せて、Tバックで官能的な表情のお尻を押し付けてくれたのだ。


 ああ…女神様!!!



「ひ、人に見られたら恥ずかしいですわ。

 早く立って下さい。一緒に夕焼けを見ましょう」


「ラ、ラフィたん!!!」



 猛烈にテンションの上がった俺は、ラフィと夕焼けに染まる王都の街並みを眺めた。

 本当に綺麗だ…

 隣に居るラフィの横顔も夕焼けのオレンジの光を浴びて神秘的な美しさだ。

 さっきまでいじけていた自分がバカみたいだ。



「ヨシュアさん…」


「あぁ、絶景だな」


「いえ、そうではなくて」


「え?何?」


「あのおパンティは、ちゃんと持ち主の方に返しましょうね」


「えぇ〜、あんなもんドブに捨てておけば…」


「いけません!ちゃんと謝って返して下さいまし」



 な、なんか嫁になった途端に、ラフィが怖くなった気がする。

 まだ結婚して2日目なのに、俺にはラフィの命令を拒否する権利が無かった。




いつも『フェロモンイーター』をお読み頂き、ブクマ登録やご評価も下さり、本当にありがとうございます(*≧∀≦*)


ここ最近の話が長文になってしまいまして、本当にゴメンなさい(>人<;)

今後は出来るだけ4,000字前後に収まるように致しますので、今後とも『フェロモンイーター』を宜しくお願いします!!

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