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59話 スピード婚 ⑤ 〜レイの回想〜

 


「ヨシュア、気張れよ!絶対拳闘鬼になって戻って来るんだぞ!」


「うん。剣士になれるように頑張る!」



 クソ!何故剣士なんて言うんだ!

 俺は内心ムカついたが、コイツは拳闘鬼か魔闘士で確定だ。大船に乗った気持ちで居よう。


 そう、今日はヨシュアとヴィクトリアの10歳の誕生日。

 大聖堂には、俺とアグネス、次女で6歳のティファニー、次男で4歳のタイソン、3女で1歳のステファニーと、一家総出でやって来た。

 何故かオリビアとニナも居るんだが、奴らが絶望する姿を見れると思うと、笑いが込み上げてしょうがない。



「おにーちゃん、ティファのきしさまになってね?」


「もちろんだよ。お兄ちゃんの剣で、ティファをわるいヤツから守るよ」



 ヨシュアがティファを優しく抱きしめている。コイツはいささかシスコンが過ぎないだろうか?

 この2人は5人の子ども達の中でも特に仲が良く、寝る時もお風呂もいつも一緒だ。そろそろ別々に行動させないと、危ういテイストが作品に漂うかも知れん。



「パパ〜!わたし『ふよじゅつし』だって〜。ふよ魔法の上級のジョブって言われた〜!」



 ヨシュアより一足先に鑑定を受けたヴィッキーが、満面の笑顔で走り寄ってきた。やはりヴィッキーは無条件で可愛い。

 俺譲りのキリッとした眼と言い、青くて太い髪質といい、全てが可愛いのだ。



「おや、ヴィッキーは凄いなぁ!ほら、パパにキスしておくれ。

 ああ、可愛い!ヴィッキーは天使だ!天才だ!お姫様だ!」



 俺はヴィッキーを高々と抱え上げ、お腹に鼻を押し付けてスンスンした。



「キャハハハハハ!パパぁ、くすぐったいよ〜!」



 ヴィッキーは超ご機嫌だ。それもそのはずで、付与術師は引く手数多な人気職だが、天職で付与術師を持っている者は少ない。

 しかも、上級スキルを持つ者などほんの一握りである。コレは大手魔導具企業からスカウトされまくるな。


 しかし、付与術師とはなぁ…天職は親のモノを遺伝しやすいのだが、全体の3割は親と違う天職らしい。

 やばいぞ?俺も親父の天職が『農民』だったし、母ちゃんは『場末のホステス』が天職で、俺は両親から天職を遺伝していない。

 ヨシュアももしかしたら天職が遺伝しないかも…いや、アイツは間違いなく拳闘の才能に溢れている。

 ヨシュアは拳闘鬼で間違いは無い!


 いよいよヨシュアの番が来た。

 緊張した硬い足取りで中央祭壇へと向かう我が子を見ていると、今まで親子二人三脚でトレーニングして来た日々が頭に浮かんで来る。(3年弱ではあったが)

 チキショウ!歳のせいか、緩んじまってしょうがねえ。(まだ31だが)



「え、レイ…泣いてるの?

 ほら、ティファちゃん見て!パパ泣いてるよ」


「ほんとだ〜!や〜い、なきむしさ〜ん♩や〜い、なきむしさ〜ん♫ティファのパパはなきむしさ〜ん♬」


「うっ、うっせ!コレはその手のアレじゃねえんだ!ティ、ティファ、変な歌を歌うんじゃねえ!」


「うえ〜ん!パパがいぢめる〜!」


「レイ!子供になんて事言うの!」



 くそぅ…どタマに魔力を纏ったグーパンをかまされた…なんて凶暴な嫁なんだ…



「やった〜!剣士だ〜!ティファ〜、お兄ちゃん剣士だったよ〜!」



 俺がどタマの痛みに耐えていると、浮かれたヨシュアの声が祭壇の方が聞こえて来た。

 な、な、な、何だと!?今、剣士と言ったのか?チクショウ!何て日だ!!!


 俺は膝から崩れ落ちた。こんなに絶望的な事が有ろうか?大聖堂の回廊の床は恐ろしく冷たく感じられ、まるで現実の厳しさを表しているかのようだ…

 クソ!ウチの長男坊が…軟弱な剣士だとぅ!?



「ヨシュアくんのお父さんとお母さんはおいでですか?」



 不意に鑑定の儀を仕切っていた司教さんの声が響き、俺は絶望の淵から現実に引き戻された。

 何か問題でも起きたのだろうか?これまで鑑定を受けた子達の両親が、司教さんにお呼び出しをかけられる事は無かった。

 俺とアグネスは子供達を連れて司教さんの方へ行くと、この場では話せない事らしく、若い神官が先導する形で別室へと案内された。

 大聖堂の中でも特に豪華な内装の部屋には応接用のソファとテーブルが有り、俺たち家族はそのフカフカなソファに座る。



「それで、司教さん!ウチの倅に何か問題でも!?」


「いえ、問題は特に有りません。ヨシュアくんのお父さんは『救国の英雄』様でしたか。

 そう考えると我々も合点が行きました。ヨシュアくんは、王国の一部で伝承されて来た『魔導剣士』の天職をお持ちなのです」



 散々勿体ぶってた割に、司教さんから何か気の抜けた名前の天職を上げられ、俺は肩透かしを食らったような気持ちになった。



「何すかそれ?魔導師なのか剣士なのかハッキリして頂きたい!

 むしろ、2つのジョブの間を取って、拳闘鬼にするのはどうだろうか?」


「あ、貴方は何をおしゃっているのだ?

『魔導剣士』は勇者ダーハマ様が現れる数百年前に、世界を救ったとされる伝説の天職ですぞ!」


「何!?じゃあ、胡散臭いダーハマより上って事か!?

 ガハハハハ!流石俺の息子だぜ!いやね、コイツが赤ん坊の頃から只者じゃないと思ってたんですよ!やっぱ伝説の男だったか、ヨシュア!」



 俺は隣でティファと戯れてるヨシュアの頭をガシガシと撫で回した。

 天才どころか伝説の男とは、俺の息子は常に予想の斜め上を行く。とても愉快である。



「ちょ、ちょっと落ち着いて下され。

 実は伝説の天職を授かったヨシュア君に、どうしてもお渡ししたい物が有るのです。

 おい、例の物をここへ」



 司教さんが若い神官に指示をすると、神官は一度退室した。

 成る程。伝説の男の種付をした偉大な俺に、金銀財宝を寄越す気だな?まぁ、少なく見積もっても、30億ゲス相当の財宝だろう。


 神官は中々帰って来ず、結局30分も待たされたが、戻って来た神官の男は何人かの小僧を従えており、その小僧どもが大事そうに運んで来たひょろ長いケースがテーブルの上に置かれた。

 相当貴重な財宝なのだろう。神官が途中でガメたりしないように、何人かの小僧どもは見張りも兼ねてやって来たに違いない。


 代表して俺がケースを開けると、中には変わった形状の剣が収められている。

 刀身もガードやグリップもアシンメトリーなデザインで、何か独特な雰囲気が有ってカッコいい。

 数種類の金属をブレンドして合金にしたのか、単一の金属で打ったのかは分からんけど、刀身は深みのあるダークシルバーである。



「なんか迫力が有ってカッコいい剣だけど、俺は剣は使わねえんだ。

 ゴメンだけど、別のお宝をくんねえかな?」


「は?私の話を聞いて無かったのですかな?

 コレはヨシュアくんにお渡しするもので、お父さんにお渡しする物ではありません。

 と言いますか、元々お父さんには何もお渡しするつもりはございませんが?」


「え!その剣くれるの!?

 やった〜!すげえ!かっけえぜ!」



 何だ…俺には何も無しか…あ、ヨシュアの奴がはしゃいで、ケースの中の剣を手に取りやがった。

 お前にはその剣は大き過ぎるだろうが。大人しく木剣でも振ってやがれ。


 内心で腐っていると、ヨシュアが手にした剣が光を放ち、少しずつ縮んでゆく。驚いた事に、剣がヨシュアの体に合ったサイズになったのだ。



「おお、伝承は本当だったのですね!

 ヨシュア君、それは魔法剣という。剣の銘は、君が大きくなって剣士として高みに立った時、グリップ部分に自動的に刻まれるんだ。

 魔法剣はこの世にその一本しか無い。決して失くさないように大事にするんだよ?」


「ハイ!大事にします!

 やったー!魔法剣か〜、かっけえぜ〜。えっ、何かこの剣の使い方が頭の中に浮かんで来た!」



 むう、何か凄い剣のようだ。魔法剣を握ったヨシュアは、何だか先程よりも格段に強くなったように感じられる。

 単なる剣術だけなら並みの剣士を凌駕する腕前だったが、魔力を活用しての剣術はまだまだ甘かった。

 しかしどうだろう。魔法剣を手にしたヨシュアは、魔力を活用しての剣術も扱えるように感じられる。DやCランク冒険者相手なら勝てるんじゃないかと思う程に。


 その日以来、ヨシュアは魔法剣の訓練に没頭して行った。それとは別に、ニナ、オリビア、そして俺との訓練も引き続き行った。

 そして、ヨシュアが14歳になった時、ヨシュアは信じられない事を言い出した。



「父さん、俺…冒険者になろうと思う」


「何?お前、王宮騎士団に入るんじゃ無かったんか?去年スカウトされて、めっちゃ喜んどったじゃんか」



 昨年、王宮騎士団の大隊長が直々に、ヨシュアの所にスカウトに来ており、ヨシュアもかなり喜んでいた。



「その…何つうか、、、俺、父さんみたいになりたいんよ。

 災害級の恐ろしい魔物から王国を守った父さんみたいになりたいんよ。災害指定特区の魔物どもを刈り尽くしてやりたいんよ」


「ヨシュア…お前、どんな危険な事か分かってんのか?

 ママが聞いたらショックで失神するぞ?」


「父さん、災害指定特区を覆う結界が脆くなってるのを、まさか知らない訳じゃ無いよね?

 伝説の勇者パーティーのハジメ・ニノマエの大規模結界は完全じゃ無かった。違うかい?」



 ハジメ・ニノマエは彼の母国語での名前表記が、一一という何ともオモロイ男だったらしいが、大賢者という準伝説級天職を持ち、災害指定特区に大規模結界魔法を展開した英雄として知られている。

 実情はヤツの術式は完璧なモノでは無く、これまで何度も災害級魔物が指定特区から抜け出しているのだが、それは一般人に伏せられている。

 何故ヨシュアがそんな極秘事項を知っている?

 王都を襲ったエンシェントドラゴンも、田舎の村を襲ったダークドラゴンも、未開の大陸からやって来たと報道しており、災害指定特区から抜けて来た事は伏せられているというのに。



「お前、どうしてそれを…」


「先月イルミナ共和国の街がビーストワームに襲われたのは知ってるよね?

 あの街は担任のスゥ先生の故郷だったんだ。スゥ先生の両親も、兄弟やその家族も、皆んなビーストワームに殺されたんだって…俺はスゥ先生みたいに悲しむ人を増やしたく無いんだ!

 父さんみたいに強い冒険者になって、災害級の脅威から人々を守りたいんだ!」



 なるほど。ヨシュアの担任はイルミナの人間だったのか。



「ヨシュア、お前の気持ちは分かった。パパはもう何も言わない。

 だが、これだけは覚えておけ!

 嫁にするならアグネス以上の器量良しで、アグネス以上にパイオツがデカくて、アグネス以上に優しくお淑やかな女じゃないと、パパは絶対に許さんぞ!」



 俺の言葉はヨシュアの胸に響いたらしく、ヨシュアは無の表情になり、それ以上何も言わなかった。

 その後一年ほど猛特訓を続け、ヨシュアはAランク冒険者程の戦闘力を有する新人冒険者となったのだ。

 あの花摘み小僧が、冒険者デビューから僅か5年程で、SSランク目前まで来るとは…俺の息子ながら大したヤツだぜ…




 ーーーーーーーーーーーー




「…とまぁ、色々なヤツらの協力も有って、ヤツはこれほどまで強くなったって事だな」


「へぇ〜、英雄パーティーの面々に鍛えられたんだぁ。ヨシュア様が規格外で当然ですよね。

 あ、そうだ!王国のみんなはお父さんのパーティーを、英雄パーティーって呼んでますけど、正式には何て言うんですか?」



 俺の長話を真剣に聞いてくれたシンシアちゃんから、最後の質問が飛んだ。

 確かに、現役の頃も俺らのパーティーは英雄パーティーとか、最強パーティーという異名で報道されてたな。俺が付けた最高にカッコいい名前が一切報道されなかった。



「ああ、『爆弾ボーイズ』っつーんだよ」


「ダサっ……道理で英雄パーティーって呼ばれる訳ですね」


「パパさん、『爆弾ボーイズ』ダサいの〜!」



 うむ。女子どもには、ネーミングの渋さが分からないってこったな。

 それはともかく、ヨシュアは俺の言い付けを守ってくれて、ラフィちゃんみたいにナイスバディの美少女を嫁にしてくれたんだ。

 パパは嬉しいぜ!



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