57話 スピード婚 ③ 〜レイの回想〜
〈レイ視点:時間はヨシュアとラフィの結婚披露宴中に遡る〉
「ヨシュア様のパパさんとママさん。ヨシュア様って、冒険者登録した頃から最強だったって聞いたんですけど、やっぱりパパさんがヨシュア様を鍛えてたんですか?」
金猫なんたら言うヤツらが負け犬の挽歌を歌い終え、娘感がハンパ無いエレナちゃんにケーキを食べさせていると、シンシアちゃんが興味津々といった様子で俺に尋ねてきた。
シンシアちゃんってば可愛いよなぁ…エメラルドグリーンの艶々のセミロングヘアも素晴らしいし、くりんとしたパッチリお目目も可愛い。パイオツもカイデーで、どんな男もイチコロにする程魅力的だ。
この子はヨシュアの女じゃねえし、何とかアグネスの目を盗んでワンチャンを狙いたい所ではある。
良し、一丁渋く決めるか。
「ああ、ヨシュアの事は7歳か8歳くらいから、俺がみっちり拳闘を叩き込んだんだがなぁ。
残念ながらヤツを鍛えたのは、俺だけって訳じゃ無いのよなぁ」
「へっ、そうなんですか?っていうか、もっと小さい頃から訓練を受けていたかと思ってました」
「そりゃ、俺だって4〜5歳からヨシュアを鍛えたかったけどな、ほれアグネスがヨシュアを溺愛してるからよぉ、野蛮な事を教えるなってさ」
「当たり前でしょう!あんな天使みたいなヨシュアちゃんに、野蛮な殴り合いなんかを教えようとする、レイの頭がおかしいんです!」
エレナちゃんの頭を撫でていたアグネスが、不機嫌そうに片眉を吊り上げて食ってかかって来た。
アグネスは最高の妻だが、息子を溺愛し過ぎて頂けねえ。
「まぁ、確かにヨシュアはガキの頃、女の子みてえなナヨナヨしてた顔してたからなぁ。
ヨシュアは2卵生ソーセージってヤツでな、双子で長女のヴィクトリアの方を俺は溺愛してたんだ。ヴィッキーは俺似のキリッとした眼をしててな、まぁ可愛いんだよ」
「そ、そうなんですか。ヴィッキーさんの事は良いとして、ヨシュア様を鍛えていたのはパパさんだけじゃ無かったって、ママさんも鍛えたんですか?」
「いやだ、私は可愛いヨシュアちゃんに、そんな鬼畜みたいな真似はしないわ。
私はヨシュアちゃんに魔法を幾つか教えてあげただけで、私達のパーティーメンバーが、私の知らない所で勝手にヨシュアちゃんを鍛えてたのよ」
「ああ、そうだったなぁ。懐かしいぜ。
ゲイルに、ネブっち、オリビアとニナか…アイツら元気かなぁ。つうか、ニナは将来ヨシュアと結婚するとかガチで言ってたし、ヨシュアが結婚したって知ったら発狂するんじゃねえか?」
懐かしいヤツらの顔が頭に浮かぶと、ヨシュアがまだコマい頃の事が思い出されて来た…
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「いやぁんっ、ヨったんめちゃくちゃ可愛い〜!
ホント、レイに似なくて良かったねぇっ!ニナお姉ちゃんでちゅよぉ〜」
ニーナが気持ち悪い猫撫で声を出して、ヨシュアを抱きしめた。
パーティーメンバーのニナ、オリビア、ゲイルが俺ん家に遊びに来たんだが、女供のお目当は双子の長男ヨシュアと長女のヴィッキーだ。
正直、俺はヨシュアの事が気に食わねえ。美少女みたいなナヨナヨ顔のせいで、ちょいちょい若いお姉さんに優しくされやがる。
別にコレは嫉妬じゃねえ。男は男らしくってのが俺のモットーだ。
女なんかに甘やかされてないで、男らしく近所の鼻垂れ坊主供と泥まみれになって遊んで来いっつうのが俺の見解だ。
だが、実際何度かヨシュアを野に放って、アグネスに半殺しにされてるんだよなぁ…怪力無双と呼ばれる俺でも、妻には頭が上がらん。
「ヨったん、今日はお天気が良いから、ニナお姉ちゃんとお花を摘みに行こっか?」
「うん!おねえちゃんとおはな〜!」
「うおらぁっ!ヨシュアてめえ、男のくせに花摘みなんぞすんじゃねえ!
男なら、お外でプロレスごっこ一択だろうが!」
ドグワシィッ!
俺の顔面に、素晴らしく体重の乗った右ストレートがメリ込んだ。
その凄まじい威力に、タフネスを誇る俺が両膝を着いてしまった。
「レイ!私のヨシュアちゃんに、野蛮な事をさせたら許さないですからね!」
「ハ…ハイ…ど、どうぼずびばぜんでじだ…」
俺は秒でアグネスに謝った…やっぱり奥さんは怖いじゃんね!?
「ママ、ぼくもやる〜!」
ドバギャアッ!!!
次の瞬間、俺の顔面にアグネスの右ストレート以上の威力の拳が叩き込まれた。
「キャアア!ヨシュアちゃんったら、凄いわね〜!悪いパパを懲らしめたのね!
はぁぁぁ、何て可愛いの?ママがチューしてあげるね」
めっちゃテンションの上がっているアグネスの声が聞こえるが、ヨシュアのノーモーションの右が俺の鼻骨を砕いたようで、大量の涙と鼻血により視界が塞がれてしまっている。
それにしても驚きである。しっかりと腰を入れ、体重を乗せつつも、最小限のモーションで右拳を振り抜いたのだ。
(たった5歳のガキが成せる業じゃねえ!俺の息子は拳闘の天才か!?)
あのナヨナヨした女の子顔が放ったとは思えぬ強烈な一撃を喰らった俺は、我が息子の潜在能力の高さを痛感した。
この時から俺のヨシュアを見る目がガラリと変わり、俺の拳を継ぐ男として無性にヨシュアを鍛えたい衝動に駆られたのだ。




