56話 スピード婚 ②
「お二人は新婚さんですか?」
高級ジュエリー店に入って指輪を見ていると、感じの良い笑顔を浮かべた店員のお姉さんが、俺たちに声をかけてきた。
「はい。結婚指輪を買いに来ました」
「あ、あの…こ、こんな高級なお店じゃなくても…」
どうやらラフィは高級店に気後れしているらしい。
だが、俺は仮にもSランク冒険者だし、ラフィは公女殿下だ。
粗末な指輪をさせる訳には行かない。
幸い、今までの冒険者稼業により、2億ゲス程貯金もある。数百万の指輪程度ならお安いモノだ。
結局、俺はオリハルコンをベースにしたシンプルな物を、ラフィは同じくオリハルコンベースだが、周囲にダイヤをあしらったエタニティタイプの指輪にした。
…が…
高級店を舐めていた…ラフィの指輪は1800万、俺のは800万。当初の予算をかなりオーバーしてしまった。
世界的にも有名な『マリー・ヴィンスノン』の指輪は伊達じゃない。
因みに、婚約指輪の場合はもっとお高いらしい。
続いて向かうのは、ハルトとグラフが居る『ヒャッハーズ』のパーティーハウスだ。
2人に婚姻届の保証人になってもらう為にやって来た訳だが…
「いやぁ、兄弟!ホント目出度えなぁ!
オラ!ボサッとしてねえで酒持って来い!」
「ヨシュアの兄貴!ラフレシアの姐さん、ご結婚おめでとうごぜえやす!
絶世の美男美女の夫婦なんて滅多に居ねえッス!これから酒宴を開きやしょう!」
ハルトとグラフが自分の事のように喜んでくれて、此方も嬉しいのだが…いきなり酒宴かよ!
「い、いや…気持ちは有り難いんだが、先に俺たちの結婚の保証人になって貰いたいんだ。
兄弟分のハルトとグラフ以外に頼めないしさ」
「そ、そうか!キョーダイの為ならお安い御用だ!
じゃあチャッチャと手続きして、その後宴会だ!なぁ?」
「あんまり嬉しいもんだから、すいやせん!
尊敬するお二人の婚姻の盃の儀で、見届け人をさせて頂けるなんざぁ、男冥利に尽きるってモンでさぁ!」
うむ、酒宴は変わらないのだな。
それからグラフよ、何だその盃の儀とやらは?見届け人では無いんだが?
まぁ、その気持ちは嬉しいんだけどね。
ややあって。
何とか俺たちは役所に到着しました。
「オラ!ヨシュアの兄貴のお通りだ!道を開けんかい!」
グラフがタチの悪いチンピラと化している…
「お、おい、グラフよ、そんなに荒っぽくしちゃダメだろ。
冒険者は一般の方達の暮らしを守るのが仕事なんだ」
「こ、これは失礼しやした!
あ、あのぉ、そこのお人、ヨシュアの兄貴が通りやすので、どうか道を開けてくださいやせんか?」
う、うむ…荒っぽくするなというのは、そういう事では無いんだが…
まぁ色々ゴタついたものの、婚姻届を出す事に成功した。
意外とアッサリしてるもんだな、婚姻届の受理ってヤツは。
もっと祝福してくれるもんだと思ってたのだが…
で、お次に向かった…というか、ハルトとグラフに連れられて来たのは、高級ホテル『パルクハイヤット』のパーティーホールだ。
何やら奥の方に華々しく飾り立てられた主役席が設けられ、少し間を開けて大きめの円卓がいくつも並んでる…
そう言えば役所に手続きに向かう道中で、ハルトが魔導端末片手に誰かと話していたな…なんか嫌な予感しかしない。
『皆さま、本日は足元の悪い中お集まりいただき、ありがとうこぜえやす!
私、『ヨシュアの兄貴とラフレシアの姐さんご成婚祝いの儀』発起人を務めさせていただきやす、グラフと申しやす!
では、ウチの兄貴より、祝福のスピーチを頂きやす』
何かグラフがパーティーホールに設置しているステージに上がって、魔導マイク片手に仕切り出した。
っていうか、めっちゃ客が集まってるし…
よく見ると、エレナやシンシアの他に父さんと母さん、エディさんやリリアさんまで…
『え〜、先ずは、ヨシュアの兄弟、ラフレシアの姐さん、結婚おめでとう!
俺は2人が夫婦になってマジで嬉しいぜ!
思えば、ヨシュアの兄弟と俺は、出会いこそゴタゴタしたなぁ…
まぁ、すぐに俺ぁ兄弟の器の大きさ、腕っぷしの強さに惚れ込んだ訳だが。
俺らはお互いリスペクトし合う五分の兄弟分として、共に数々の死線を潜り抜け、時に酒を酌み交わし、切磋琢磨してやって来た。そんな兄弟と、ラフレシアの姐さんの幸せな家庭を切に願っているぜぇ!
では皆の衆、グラスを持ってくれい!
ヨシュアの兄弟と、ラフレシアの姐さんの輝かしい門出を祝して……カンパイ!』
うむ、脳筋極まりないスピーチだが、真心は伝わった。
あまり大袈裟なのは好みでは無いが、兄弟分の彼らが短時間でこんなパーティーを用意してくれたんだ。
感謝しても仕切れない。
隣に座るラフィも照れてはいるけど、彼等の気持ちは嬉しいようだ。
って言うか、パーティー会場には200人くらい集まってるけど、殆ど知らない顔だぞ?
大半が冒険者みたいだけど…
しかも女性客も男性客も泣いている者が多い。ハルトのスピーチに感動したのだろうか?
「泣いている女の人達は、ヨシュア様のファンの方達ですわ。
女性冒険者にヨシュア様のファンは多いですから」
「じゃあ泣いている男たちはラフィのファンか〜。
ラフィは凄い人気だもんなぁ」
そんな漠然とした感想を話し合っていると、続々と料理が運ばれて来た。
どれもこれも一流のシェフが作ったと思われる、豪華な料理ばかりだ。
俺たちのテーブルにはオシャレに取り分けて運んでくれている。
『料理も運ばれてきやしたので、皆さんどうぞ召し上がってくだせえ。
ではこれから、アッシらの弟分のパーティー『金猫家族』による余興がごぜえやす!』
仕切り役のグラフがステージ横にはけると、垂れ幕が上がり、サングラスに革ジャンという独特な風貌の連中が楽器を手に現れ、何やらロックっぽい激しい曲を演奏し出した。
『♫今日も一発メンチを切っても♩
あのコのハートにゃ届かねえ!say♩
硬派な俺らはハートブレイク♫
あのコはアイツとティーブレイク♫
俺らは場末の酒場でヤケ酒〜yeah♩』
な、何だか結婚祝いのパーティーに相応しくない歌を歌ってやがる…
だが、ラフィファンの男達は涙を流しながらノッているな。
なるほど、彼らの心境にマッチしたという訳か。
その後も宴は進み、良く知らない冒険者の一発芸や、ビンゴ大会等が催される中、俺らの席にお祝いの言葉を言いに来てくれる人が列を成している。
「ヨシュア、ラフレシアさん、結婚おめでとう!」
「私は今更って感じだけど、ヨシュア様、ラフィ、結婚おめでとね♫」
ギルド職員の皆さん達に続いて挨拶に来てくれたのは、エディさんとシンシアである。
シンシアのヤツ、めっちゃエディさんと腕を組んでイチャイチャしてやがる…いつも俺の恋愛スタイルに難癖を付けられてたから、ちょっとイジってやれ。
「ありがとうございます、エディさん。
それはそうと、お2人はいつの間に付き合ったんですか?」
「ん?ああ、例のスウィーツパーティーの時に、シンシアに一目惚れしちゃってね。
連絡先交換して、付き合ったのはつい最近だよ」
「そうなんですね〜。シンシアさんが随分とだらし無い顔をしている所を見ると、シンシアさんの事を随分と甘やかしているのでは?」
「随分と突っかかるじゃないか。
ヨシュアは新婚さんなのに、随分と余裕が無いんだねぇ」
「エディ、あまりイジメないであげて?
ヨシュア様はあっちの方が早過ぎるみたいだから、早くもラフィに愛想を尽かされてるみたいなの」
クソっ!シンシアに逆に弄られるとは…
しかも、人が気にしている事を……だ、駄目だ…反論出来ぬ!
「ぷっ!マジで?それはラフレシアさんに嫌われちゃうよねぇ。
ハハハハハ!新婚早々離婚の危機とか笑えるんだけど!」
「そんな事はあり得ないのですわ!
私はヨシュア様に、あ、あの…そ、そちらの方も…す、凄く幸せな気分にして頂いたのですわ!」
ラ、ラフィさんが暴走し出した。これはエディさんの格好の餌食にされるヤツだ…
「エディ鬱陶しい。後ろにも挨拶したい人が並んでるんだから早く退いて」
「リ、リリアさん、ありがとうこざいます!
エディさん、さっさと掃けて下さい」
リリアさんが助け舟を出してくれたおかげで、俺とラフィはエディさんとシンシアの口撃から逃れる事が出来た。
リリアさんにマジ感謝である。
「2人とも結婚おめでとう。
めちゃ早いのに幸せな話をもっと詳しく」
リリアさんは助けてくれた訳では無かった…
俺とラフィはしどろもどろになりながら、精神的ダメージを負いながらも何とかリリアさんの追及を逃れ、その後もラフィの知り合いが中心で、挨拶に来てくれた人への応対をするのだった。
「ヨシュア氏、ラフレシア殿、ご結婚おめでとうでござる」
「き、貴様は初号機氏!ま、まさか、ヴァンダムバトルの再戦に来たのではあるまいな?」
挨拶の列の最後に居たのは、まさかのコアなヴァノタの初号機氏だった。
披露宴でヴァンダムバトルとか、マジで勘弁して欲しいのだが…
「ククク、拙者はそれ程不粋では無い。
結婚祝いにコレを…」
「ぬを!そ、それは、ペイ専用デクのプラモ!しかも、『第1回ヴァンダムコンベンション』の限定品!
よ、良いのでごさるか?プレミアが付いて、300万ゲスはするのに…」
「ククク…ヨシュア氏よ、手向けだ。ラフレシア殿と幸せにな」
初号機氏はペイのセリフを引用しながら、決めゼリフを言って去って行った。
彼とは長きに渡りライバル関係だったが、こんな貴重なアイテムをプレゼントしてくれるなんて…
出来れば、今この場で組み立てたい程嬉しい。
こうして俺とラフィの結婚披露パーティーは幕を閉じた。
最初はどうなるかと思ったけど、とても楽しく、思い出深いパーティーになった。
イカした兄弟分と、初号機氏の心意気には感謝しかない。
更に嬉しい事に、ハルトは『パルクハイヤット』のロイヤルスイートを俺たちの為に取ってくれていた。
ベッドルームが2つに、広いリビングダイニング。
浴室は総大理石という豪華さで、アメニティ類も充実している。
今度会ったら『ヒャッハーズ』のみんなにお礼をしないとな。




