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53話 パクりと天才

 


「メンデスさん、いつもお疲れ様です」



 俺は王都東門を警備しているメンデスさんに挨拶をした。

 メンデスさんは40代後半の衛兵である。

 王都・ベンゲルシュトム間の護衛クエストを無事に終えた俺たちは、1日の休息日を挟んでクエストを再開した…って言うか、再開する羽目になった。



「おお、ヨシュア。お前さんらは本当に礼儀正しいな。

 他の冒険者達は我々を馬鹿にするヤツが多いのに、お前さんらはおかしな奴らだよ」


「衛兵の皆さんは王都民の安全を一番近くで守ってくれていますから、敬意を払って当然でしょう?

 寧ろ衛兵の方々を馬鹿にする奴の方がおかしいんです」


「ははは!そう言って貰えると嬉しいね。

 お前さんらはこれからクエストかい?」


「はい。東門から出てしばらく行った所に、水源が有るでしょう?

 あそこに変異種のスライムキングが出たんです。水源が汚染されるとマズいので、緊急依頼が出されたんですよ」


「スライムキングだって!?そんな化け物の駆除を任されるなんて、流石は『豊穣の翠』と『ヒャッハーズ』だな」



 今メンデスさんとのやりとりに有った通り、今日は『ヒャッハーズ』との合同クエストである。

 スライムキングの変異種はSSランク相当の魔物なんだけど、王都に居るSランクパーティーは別のクエストで出払っており、ウチとハルトの所で当たる事になったのだ。

 まぁ、ハルトのキョーダイ達とは非常に連携が取りやすいので、此方としても願っても無い事なんだけど、何かギルドに意図的な何かを感じる。



「ワッシャッシャッシャ!まぁ、大船に乗った気持ちで居てくれい!じゃあ俺らは行くわ。メンデスの旦那、その内また飲みに行こうや!」


「おう!ハルト達も頑張ってな!」



 俺たちはメンデスさんに挨拶をして、水源へと向かった。どうやらハルトもメンデスさんとは顔馴染みらしい。

 メンデスさんは30年も王都の治安を守って来たベテランだから当然か。人々はSSランクのエディさん達を英雄視するけど、俺からするとメンデスさんのような人が本物の英雄だと思う。そんなメンデスさんに、クエスト失敗なんて恥ずかしい報告は出来ない。

 俺は気を引き締め直して、水源付近の索敵を行なった。


 東門を出て歩く事1時間半。水源に到着したのだが、ここまで俺の索敵にはスライムキングらしき魔物は引っかかっていない。

 念のため、スペルトにも確認してみる。



「スペルト、どうだ?お前の索敵に引っかかったか?」


「いえ、ヨシュアのアニキ。注意深く探っちゃいるんですが、魔物の気配は探知できやせん」



 スペルトはかなり優秀な斥候だ。彼でも気付かないとなると…



「ラフィ、水精霊に力を借りて、地下水脈を探れないだろうか?」


「お安い御用ですわ。『ウンディーネの囁き』!」



 むう…精霊語での詠唱もせずに、瞬時に上位精霊の力を借りるとは…

 やはり、ラフィは精霊術の天才である。父さんの昔の仲間にもハイエルフの男が居たらしいけど、俺のか、か、か、か、彼女の方が凄いに違いない。


 因みに、初デートでキッスをして以来、ラフィとキッスしていない。

 小指をちょこんと繋ぐ距離感へと逆戻りなんだけど、漢ならもっとガツンと行くべきだろうか?

 俺の親しい人の中で、パーティー内恋愛の経験が有るのは父さんと母さんくらいしか居ない。流石に両親にラフィのお尻を触ったり、ガンガンキスしたりして良いのか質問するのは憚られる。



「ヨシュア様、地下水脈にスライムキングが潜んでいるのですわ!」


「ありがとうラフィ!そのまま水の精霊の力で攻撃出来ないかな?」


「いえ、それよりも、私とヨシュア様の融合魔術が効果的かと思いますわ!」



 融合魔術は魔法と精霊術を上手く融和させて放つモノだが、それは勇者ダーハマの伝記に出て来た伝説の技術で、そもそも実在したのかさえ怪しい技である。



「そんなの無理だろう?ダーハマじゃあるまいし、下手に融合させようとしたら、ラフィの精霊が俺の魔力に反発して、辺り一帯を吹き飛ばしてしまう」


「いえ、私の精霊たちは、ヨシュア様の魔力を大変好いておりますわ。

 さぁ、ヨシュア様は両手で私の右手を包み込むように握って下さいまし」



 ラフィの言葉を疑うなんて出来ない。俺は彼女に促されるまま、魔法杖を握るラフィの右手を包み込むように両手を添えた。



「ヨシュア様はゆっくりと火属性変換した魔力を魔法杖に込めて下さいまし。

 術式構築は『ギガントフレイム』をお願いしますわ。ゆっくりと集中して…」



 ラフィの言葉通りにゆっくりと魔力を込めて行くと、今までに感じた事の無い暖かな感覚に包まれた。沢山の妖精たちが俺の周りに集まって来るような、何とも不思議な感覚だ。

 超級魔法のギガントフレイムの術式を構築して、魔力制御を丁寧に行うと、目の前に現れたのは…



「何だそりゃ!?馬鹿デケえウォーターボールの中にデケえ炎の塊が…コイツァヤベエぜ、兄弟」



 ハルトのキョーダイが言った通り、水の球に包まれたギガントフレイムが目の前に現れたのだ…

 一目見ただけで、恐ろしいパワーを内包しているのが分かる。



「流石ヨシュア様ですわ!『融合魔術:水焔』!」



 ラフィの声とともに、水と炎の塊は地面に衝突した。



「皆んな伏せろお!爆発するうううう!……アレ?」


「ヨシュア様、取り乱さないで下さいまし。融合魔術は精霊魔術の要素が強いですから、大いなる精霊の加護を受けているのですわ。

 邪悪なる存在にしか影響を及ぼさないのですわ」



 な、何い!た、確かにあんな莫大なエネルギーの塊が地面に激突したというのに、地響き1つしていない。

 思えば、これまでラフィが使って来た広域殲滅の精霊術も、周りの環境を破壊する事が無かった。

 魔力の制御が超ハイレベルかと思ったんだが、精霊の加護という事か…精霊様の御力ってスゲエ!



 ズゥゥゥン!



 融合魔術が地面に消えて10秒後、少しの地面の揺れと篭ったような低音が響いた。

 恐らくスライムキングに炸裂したのだろう。



「皆さん、スライムキングが地表に出て来ますわ!

 3時の方向に向かって、前衛にエレナ、ハルトさん、キンクスさん、中衛はヨシュア様、シンシア、スペルトさん、他の方は後衛で攻撃魔法の準備を!」



 即座にラフィの指示が飛び、反応したメンバーは急いでフォーメーションを組んだ。



 PUMIMIMIMI〜〜!!!



 ラフィが指し示した地面から染み出すように現れたのは、イマイチ覇気の無い巨大で薄茶色なブヨブヨだった。

 可愛らしい鳴き声みたいな音も、心なしか弱々しい。



「『サラマンダーの息吹』!」「っしゃあ!『プチメテオ』!」「喰らいな!『フレイムレイン』!」



 ラフィ、グラフ、ダリアの火属性攻撃が弱々しいスライムキング?に炸裂した。

 通常のスライムキングの討伐方法は、広範囲の火魔法で表面のプルプル部分を蒸発させ、貫通系の遠距離攻撃を蒸発した部分に打ち込んで、魔核近くまで抉る。

 直ぐに抉れた部分は修復されるので、何度か同じ事を繰り返し、最後に近接アタッカーが露出した魔核に攻撃を加えてフィニッシュという流れである。

 しかし、今の攻撃でスライムキング?の魔核は一気に露出した。



「『魔法矢:連炎』!」

「むん!『火炎流舞:焔返し』!」

「『淵明流五ノ太刀:焔返り』なの!」



 露出した魔核に、素早く反応したシンシア、キョーダイ、エレナの3人の攻撃が炸裂。

 因みにエレナの技名はキョーダイからパクった物だと思われ、『名刀丸』に焰を纏わせて無い。彼女はノリで必殺技の名前を叫んで、それっぽくしているだけなのだ。

 露出した巨大な魔核は3方向からの強攻撃により、一瞬で砕け散った。


 魔核の大きさ的には通常のスライムキングよりも大きいので、変異種のスライスキングで間違いないだろう。

 魔石もかなりの大きさなので、変異種の中でもかなり強い個体だったに違いない。



「めっちゃショボかったけど、一応アレってスライムキングだよね?」


「ええ。私とヨシュア様の愛の融合魔術で、9割方削ったのですわ。

 地表に現れた時には、死の一歩手前の状態でございましたので、アッサリと終わりましたけれど」



 成る程…融合魔術は相当な威力なんだな…防御力に特化したスライムキングの変異種が一発でアレなら、強力過ぎて普段使いは出来そうに無い。

 何故かラフィがピッタリと密着して来たのだが、俺は融合魔術の恐ろしい威力に唖然としてしまい、二の腕に当たるラフィのデカメロンの感触を感じ取る余裕は少ししか無かった。



 うむ、適度な柔らかさと弾力であるな。




 ◆◇◆◇◆




「エレナはパクって無いの!」


「エレナの嬢ちゃん、嘘はいけねえぜ。

 明らかに俺の焔返しの直後に焔返りって叫んでたぜえ?」



 帰りの道中、エレナとハルトがパクり疑惑で言い合いをしておる…

 側から見ると、キョーダイは大人気ないと思う人が多いだろうが、ハルトのキョーダイの戦斧術はちゃんとした流派の技なので、その名前をパクられるというのは看過出来ないのだろう。



「ああ〜ん!ヨシュア様ぁ、ハルトがいぢめるの〜!」



 舌戦で部が悪くなったエレナが、泣きながら俺に抱きついて来た。俺はエレナの頭を優しく撫でながら、彼女の弁護に回る事にした。



「キョーダイ、あまりエレナを責めないでくれよ」


「いや、幾ら兄弟の頼みでも、こればかりは引き下がれねえぜ。『炎流戦斧術』の技名をパクられたのを見過ごしたとなると、師匠に顔向けが出来ねえんだ」


「いや、パクりじゃなくて、オマージュっつうんだよ。『炎流戦斧術』に最大限の敬意を込めつつ、一部エレナの技に取り入れさせて貰ったって事さ。

 それって、看板を掲げている道場としては、かなり箔が着くんじゃないか?

 しかも、エレナは『淵明流剣術』の始祖で、近い内にSSランクになって世界中に名を轟かせる」


「むむっ、それは確かに……だ、だがな。エレナの嬢ちゃんからは、『炎流戦斧術』に対するリスペクトは感じられねえぜえ?」



 ぬう…ハルトのヤツ、思い切り痛い所を突いて来やがった。くそう…何とかやり過ごせると思ったのに…

 剣術や格闘術もパクりというのは度々問題になっていて、有名な流派名を一文字だけ変えて新しい流派を立ち上げる等の悪質な行為が横行している。

 何とかオマージュで押し切らねば…



「そうか…じゃあ、エレナがリスペクトしている証として、キョーダイの技を再現させよう。

 それなら文句ないだろ?」


「おいおい、そりゃ無理だろ。エレナの嬢ちゃんは剣士だ。戦斧なんて使える訳が無えぜ」


「そりゃあ、リスペクトしてない剣士なら土台無理さ。だが、キョーダイの流派をリスペクトして、自身の剣術に取り入れようとしているエレナなら可能だ」



 俺はキョーダイにそう言うと、異空間収納から戦斧を取り出し、涙目のエレナに手渡す。



「今日ハルトが打ってた必殺技が有ったろう?アレと同じ事をコレを使ってやって見てくれないかな?」


「うぅぅぅ、ヤなの!ハルトなんて大嫌いなの!」



 エレナに秒で断られてしまった。

 大嫌いと言われたハルトは、相当なショックを受けたようで、口を開けて固まっている。



「そっかぁ、そりゃあリスペクトしてたのに、パクり呼ばわりされたら大嫌いになるよなぁ…

 キョーダイ、こりゃあもうダメだわ…エレナはもう二度と五ノ太刀を使わないぞ。

 淵明流の始祖が『炎流戦斧術』をリスペクトしているなんて広まったら、斧使いはこぞってお宅の流派の門戸を叩くだろうし、キョーダイの師匠も喜ぶはずだろうになぁ」


「な、なぁ、エレナの嬢ちゃん、さっきは俺が悪かった!

 な、何でもするから、許してくれい!」



 ハルトは顔を青くさせて、エレナにヘコヘコと頭を下げて謝った。

 しかし、エレナは俺の右の袖口をぎゅっと握ったまま、俺の体に身を隠すようにして、ハルトの事を避ける。



「おい、エレナ。ハルトがギルドの酒場で何でもご馳走してくれるってさ。

 エレナの大好きな『お肉タワー』も食べ放題だぞ!

 なぁキョーダイ?」


「お、おうともさ!何でも好きなもん頼んで良いから、許しちゃくれねえかな?」


「わ〜い!お肉タワー食べ放題なの〜!」



 お肉タワーは様々な肉料理を大皿に山盛りにした豪快な一品で、エレナは1人で5皿平らげた事もある。

 すっかり機嫌を直したエレナは戦斧を手に取り、キョーダイの焔返しの動きをほぼ完璧にトレースして見せて、キョーダイの度肝を抜いた。

 エレナは一度見た技を完全に見切る事が出来るので、トレースする事も容易にやってのける。凡人の俺たちが悪戦苦闘して身に付けた物も、天才は一回見れば身につくのだから立つ瀬が無い。



「な、なぁ…エレナの技のキレって、キョーダイを超えてないか?」


「くっ、悔しいが、俺以上のスイングスピードだぜ…コレが天才ってヤツか…」


「ああ。アレが天才ってヤツさ。でも、エレナは魔力を火属性変換出来ないから、キョーダイの方が爆炎の分で破壊力は上だと思うぞ?」



 そう。剣術や近接戦闘術の天才であるエレナにも短所は有る。彼女は地属性しか魔力適正が無いので、武器に炎や冷気、風や雷を纏わせて攻撃する事が出来ない。

 まぁ、それでも大した短所では無いんだけど、その短所があるだけで、凡人の俺たちは自信を失わずに済むというモノだ。



「ま、まぁそうだけどよ…俺もまだまだ鍛え足りねえみてえだ…」


「キョーダイ、何もそこまで自分を追い込まなくても…」


「ねぇ、ねぇ、コレ見るの〜!『焔返し改』なの〜!」



 エレナが嬉々として披露した『焔返し改』を見て、キョーダイは膝から地面に崩れ落ち、深く項垂れた。

 通常の焔返しは、高速の振り下ろしから手首の返しで振り上げるという2段攻撃だが、振り下ろした勢いを止めて手首を返すという動作から、ほんの一瞬だけ隙が出来る。

 エレナの編み出した改良型は、振り下ろした後に斧の動きを止めず、∞のようにして振り上げる事で一瞬の隙も作らず、振り下ろしの勢いとスピードをある程度残して振り上げ攻撃に繋げる事が出来るというものだ。



「これだから天才は…キョーダイ、敗北感を味わいながらの一服も乙なもんだぜ」



 俺は項垂れるハルトに、タバコの箱を差し出した。キョーダイは無言で一本抜くと、渋く咥えて魔導ライターで火を点ける。

 俺も同様にタバコに火を点けて、嬉々として戦斧を振り回すエレナを眺める。

 俺とハルトはエレナの天才性をまざまざと見せ付けられ、凡人の俺たちには死ぬほど努力しなくては差が埋まらない事を痛感したのでした。



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