51話 魔族の事情 ⑤
〈リゾンドウ視点〉
「ああ、クソ親父が!マジでムカつくぜえ!」
俺は活動の資金源を得る為に協力関係にある、マフィアの幹部のアジトへと足を運んでいる。
違法キャンディの先月分の上がりを頂戴したかったのだが、幹部の男はやたらと癇癪を起こしている。
「穏やかじゃ無いね。先月分の上がりを受け取りに来たんだが、日を改めようか?」
俺はこちらにイライラをぶつけられる前に、退散しようとしたのだが、幹部のフランキーは俺を見ると深呼吸を何度かして、気持ちを落ち着かせて話を始めた。
「おお、客人か。見苦しい所を見せちまったな。
ウチのオヤジが薬物に対してうるせえ事を言いやがってよ。
ったく!末端が挙げられたくれえで、うぜえ事を言いやがる!」
この男は今何と言った?末端が検挙されたと言ったのか?
「お、おい。末端って違法キャンディの売人か何かが検挙されたって事か?」
「あ?そうだよ!
だが心配は要らねえぜ。売人の2人は殺しておいたし、商売を邪魔したっつーヨシュアとか言う冒険者にも殺し屋を送り込んだ。
俺様に繋がる証人はもうこの世に居ねえっつー事よ!」
何!?あのヨシュアが取引を邪魔しただと!あの化け物が絡んでいると言うのか!?
「おい!その冒険者の事をちゃんと調べた上で殺し屋を仕向けたんだろうな!?」
「は?何だよ客人。アンタが取り乱すなんて珍しいじゃねえか。
一応情報屋から調べてるぜ。何でもSランク冒険者で、相当なイケメンらしいが、コッチは世界最高の狙撃手にも暗殺を依頼してんだ。
ま、冒険者如きチンピラみてえなもんだろ。今頃くたばってるだろうさ」
何と愚かな男だ。Sランク冒険者でヨシュアと言えば、あの化け物で間違い無い。
狙撃手は遠方から対象を銃撃する職種の筈…遠距離攻撃があの男に当たるとは到底思えない。
「何て馬鹿な判断をしたんだ!そのヨシュアは人外の化け物みたいな奴だぞ!
世界一のスナイパーだか知らんが、あの男を殺せる訳が無いだろうが!
アンタは間違い無くヨシュアを敵に回した。俺はもうこの件から手を引くぞ。
さぁ、さっさと先月分の上がりを寄越してくれ」
俺はフランキーに決別を申し出た。幸いこの男の前では常に偽装魔法を使って人族の商人として接している。名もありふれた名前のリゾと名乗っているので、俺が魔族とはバレてない。
ポイズン・ベリーを麻薬化する魔法液は俺が精製したものだが、それらが見つかった所で出所を辿るのはこの世界の人族には不可能だ。
「何をそうビクついてやがる。アンタら商人にはSラン冒険者は鬼か悪魔に見えるだろうが、世界のプロ暗殺者の手にかかればイチコロよ。
大船に乗ったつもりで、ドッシリと構えてやがれ。
つう訳で、手を引くって事は許さねえぜ。アンタが卸してくれる溶液が無けりゃ、キャンディが作れねえんだからよぉ!」
フランキーは自分の愚かさに全く気付いて無い様子で、呑気に取引の継続を求めて来た。
いつヨシュアに襲撃されるかも分からない状況で、下手にヤツの言葉を突っぱねて話を長引かせるのは得策では無い。
「わ、分かった。確かに一商人の俺には、Sランクなんて雲の上の存在だ。さっきの言葉は忘れてくれ。
取り敢えず、次の納期に間に合うように溶液の製作者にハッパをかけなきゃならない。
製作者は金にガメついヤツでね。早く現ナマを見せないと、大量生産に必要な溶液を造って貰えないんだ」
「おっと、そいつぁいけねえな。
キャンディはウチの組織にとって、金の成る木だもんよ。
おい、4千万ゲス用意して、客人に渡して差し上げろ!」
フランキーは簡単に俺の言葉を信用して、ボディガード風の厳ついオールバックに金の用意を指示した。
この男はとてもマフィアの幹部の器とは思えない愚鈍なヤツだが、金払いが良い事と騙され易い所が良い。
「それにしても、そろそろ溶液の製造元を紹介してくれても良いんじゃねえか?
アンタにはマージンとして上がりの10パーを支払うし、こっちも直で取引した方がコストがかからねえんだが」
金を待っている間、フランキーが問いかけて来たが、製造元は俺だ。
馬鹿に正直に話す訳には行かないので、これも適当にはぐらかすか。
「悪いがそれは難しいな。先方にはマフィアに卸している事は伏せている。
アンタやアンタの部下達には凄みがあり過ぎて、商人だと言った所で信じないだろう。下手に接触すると、溶液は一切卸して貰えなくなる」
「ガハハハハ!確かにウチのファミリーの連中は凄みがハンパねえからな!
分かったぜ。今まで通りアンタを介して仕入れるとするか」
何が愉快なのか知らないが、フランキーは愉快そうに笑っている。
本当にコイツは馬鹿で扱い易い。ヨシュアさえ絡まなければ、コイツから多額の資金を調達出来ると言うのに…
◇◇◇◇◇
4千万ゲスを受け取った俺は、足早にヤツらのアジトから退出した。
それにしても、早く次の資金源を探さなくてはノルドゥヴァリ様復活に支障が出てしまう。
考えて見れば、ここはヨシュアの拠点からすると然程離れて居ない。奴らの活動範囲外の国で探すしか無いだろう。
「…!!!」
思案しながら転移魔法を使っても問題無さそうな路地裏を探していると、不意に膨大な潜在魔力反応を2つ感知した。
コレはヨシュアの反応で間違い無い。俺の潜在魔力感知は周囲20メートルといった所だ。
危うく鉢合わせになる所だった。
それにしても、ヨシュアの潜在魔力量は予想以上だ。コイツの魔力は勇者ダーハマの比では無い。
もう一つの大きな潜在魔力を有する人間も、ダーハマを上回るほど膨大な魔力を秘めている。
俺の脳裏に、『ギャハハハ!全員くたばれ!』と大笑いしながら特大攻撃を乱発するダーハマの姿が過ぎり、膝がガクガクと震え出した。
あの男は正に狂人だった。『異世界は美少女多過ぎ』だのと宣い、あちこちの街の女を手篭めにしまくっていたダーハマ。某国の王女すら手篭めにし、背中に『私は全世界共有の肉便器です』というタトゥーを彫らせたという逸話は、諜報活動中に何度も耳にした。
『俺TUEEE』を連呼して、敵味方問わず殺し回っていたダーハマ。我らの軍と対峙した際、『かったりい事やってんじゃねえ!』と叫んで極大魔法をぶっ放し、500人の我が同胞と3,000人の人族軍の兵士を一瞬で消し炭にした光景は、未だに脳裏に焼き付いている。
それ程までに常軌を逸した行いをしていたにも関わらず、当時の人族にはあの男を諌めるような存在は皆無だったと記憶している。
ダーハマの仲間たちも似たような連中ばかりだった。
ネイルだのコスメだのにご執心で、自分を磨く事ばかり気にしていた剣皇キャンマナは、自分よりも容姿の整っている女を見ると、顔面を切り刻むような蛮行を繰り返していた。
黒魔導皇のオダギリはミリヲタを自称しており、魔力で形成したライフルとやらで、歩行者の頭を吹き飛ばす『ヘッドショット』を楽しんでいた。
白魔導皇のカザマツリは、人間の肉体の限界を知りたいらしく、戦闘職でも無い人間に過度な強化魔法を施し、肉体組織が破壊されるまで実験を繰り返していた。
あれから千年もの時が流れ、これらの真実は何故か伏せられたまま、勇者とその一味は神格化されて世界中に伝承されている。
対して我々は、まるで悪魔のような存在だと認識されている。
本音を言わせて貰えるならば、我々は被害者だ。突如現れた次元の歪みに飲み込まれ、魔法が未熟で同族が殺し合う野蛮な世界に放り出されたのだから。
この世界の人間と姿形が違うだけで命を狙われ、話し合おうにも言葉が通じず、止む無く反撃に転ずれば悪魔の所業だと忌避されて来た。
挙句の果てには異世界から勇者を召喚され、我々にとって神に等しい存在であるノルドゥヴァリ様が、瀕死の重傷を負わされてしまった。
我々にだって元の世界での暮らしが有った。魔獣と呼ばれる強力な獣に国土を踏み荒らされ、決して平和とは言い難い世界で同胞達と一丸となって対抗していたのだ。
そんな世界から亜神であるノルドゥヴァリ様が居なくなってしまったのだ。一刻も早く故国に戻らなくてはならない。
しかし、こちらの事情を理解してくれる有力者はこの世界に滅多に居ないだろう。
最近の諜報活動で、ヨシュアは相当な人格者だと把握している。
正直に我々の事情を話せば、一定の理解は得られるかも知れない。欲を言えば我々と共に故国に来て貰い、魔獣どもを蹂躙して貰いたい。
だが、ヨシュアが人格者で有るが故に、ノルドゥヴァリ様の復活手段に難色を示される事で、敵対してしまう可能性の方が遥かに高いだろう。
ヨシュア1人ですら脅威なのに、ヤツには3人の仲間が居る。恐らくもう一つの膨大な魔力の持ち主が、3人の仲間の内の1人だろう。
俺の見立てでは、ヨシュアの同行者もノルドゥヴァリ様を絶命させ得る力を有している。
やはり、ヨシュア一行に関わるのは絶対にマズい。
俺はヨシュア達の魔力反応がフランキーのアジトへと侵入して行った事を確認して、そそくさと路地裏へと入った。
転移魔法で自分のアジトへと戻った後、ヨシュアとツレの潜在魔力を思い出し、1人恐怖に震えるのだった。
持病による入院の為、投稿がかなり遅れてしまいました。
ゴメンなさいm(_ _)m
無事退院して体調も戻って来たので、投稿再開致します。゜(゜´Д`゜)゜。




