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5話 一方『宵闇の戦乙女』は ①

 


「ちょっと!アンタ、タンクのくせに何やってんのよ!」



 Sランクダンジョンの3階層に、女勇者で『宵闇の戦乙女』リーダー・アマンダのヒステリックな声が響いた。



「わたしのアーロンさんに酷いこと言わないで下さい。

 先程はサイドアタックに注意を払わなかったアマンダの責任でしょう」



 彼氏のアーロンを庇いながらも、聖女のサーシャはアマンダを非難する。


 今日は新戦力のアーロンとの連携を確認する為、Sランクダンジョンの浅い階層でのクエストを受けたのだが、序盤から彼女らは大きくつまづいていた。

 ヨシュアが居た頃にこのダンジョンは最下層の50階層まで攻略しており、こんな序盤でつまづくなど勇者パーティーに有ってはならない。

 焦りと苛立ちがパーティー内の空気を一層悪くして行く。



「ってかさぁ、アマンダは何で聖剣使わないワケ?

 アンタが最初から聖剣使ってりゃあサクッと行ってるっショ?」



 賢者のソニアもアマンダを責める。

 ソニアの言う通りで、アマンダはまだ聖剣を抜いていない。

 いくら魔物の数が普段より多いとは言え、聖剣を使っていればBランクの魔物くらいなら直ぐに殲滅が出来るはずなのだ。

 一方で指摘したソニアは顔色が悪く、呼吸も苦しそうにしている。



「うっさいわね、この魔力切れ女!

 ソッコーで魔力切れ起こしたくせに偉そうな事言ってんなよ。

 ちょっと、さっさとこの傷治しなさいよ!アンタまでポンコツなワケ?」



 サイドアタックで負傷したアマンダの左肩に治癒魔法をかけているサーシャだったが、いつものような効果が出ていない事に焦りを覚えている。



「アンタさっきから周りに文句ばっかだけどよぉ、何で魔物の集団に馬鹿みてえに突っ込むんだよ?

 Sランクのくせに連携すら取れねえのかよ?」



 ここまでの戦闘に呆れ果てたように、アーロンも女勇者への不満を吐き出した。

 タンクがパーティーにいる場合の対集団戦において、タンクが注意を引き付けつつアタッカーが手薄な所から撃破して行く事が定石だ。

 下っ端のパーティーでも取れる連携を『宵闇の戦乙女』は取れていない。


 さもありなん。

 魔導剣士で、ハイレベルなサポートをするヨシュアが抜けたのだから。

 ヨシュアは周りも見ずに先行するアマンダよりも素早く魔物との距離を詰め、陽動の魔力撃を放って魔物達の注意を自分に向けてアマンダにストレスをかけずに強攻撃をさせてきた。


 魔物達にサイドに回り込まれても、鍛錬を重ねて洗練された剣術と魔法を駆使してアマンダを守ってもいた。

 そんな彼の献身的な立ち回りをアマンダはおろか、後衛のサーシャもソニアも全く見ていなかったのだから今日の体たらくも頷ける。

 尤もヨシュアの動きが早過ぎて、3人の目で追えなかったというのが実際の所だが。



 そして、何よりも『フェロモンイーター』の効果が無くなってしまったのは大きな痛手だ。

 ヨシュアはアマンダ達の服、下着、枕カバー、ベッドのシーツといった、フェロモンが付着した物の洗濯を1人でこなしており、スキル効果の魔力分配によってアマンダ達はステータスが劇的に上がっていた。

 ヨシュアを追い出した事で、スキルで得た分の強化が無くなったのだが、それだけでは無い。


 このスキルで最も驚くべきは、規定量まで強化の恩恵を受けた女性パーティーメンバーのジョブクラスアップを底上げするという効果である。

 ジョブクラスアップは早くて10年、クラスアップ出来ずに冒険者を引退するものが大半を占める。

 元々剣士の中級ジョブの剣豪だったアマンダが、上級ジョブの剣聖にアップし、滅多に派生しない超級ジョブの勇者にアップした。

 僅か4年の間に計2回ものクラスアップを果たしたというのは、普通有り得ない現象である。

 他のメンバーも同様に、ヨシュアのスキルの恩恵で2回底上げされての賢者と聖女である。



 つまり、ヨシュアが去ってクラスアップの底上げがなくなった3人は、元々の中級ジョブに戻っているのだ。

 故に3人はそれぞれ、聖剣も使えず、高位治癒術も使えず、超級攻撃魔法も使えない。

 注意深く自分のステータスをチェックする冒険者であれば、直ぐにこの異常事態に気付くが、3人は調子が悪い程度にしか思っていない。

 何とも救えない連中である。


 因みに、『フェロモンイーター』のスキルレベルが2に上がった事で、スキルの強化はヨシュア本人にも発揮するようになった。

 彼も或る理由により、自身のステータスを殆ど見ていないので自覚は無いのだが、全ステータス値が人外の域に達しつつある。


 さて、新体制となった『宵闇の戦乙女』だが、5階層ボスのドロップアイテムの納入という今回のクエストは失敗に終わった。

 4階層に現れるダークバットという大型のコウモリ型魔物に手こずり、撤退を余儀なくされたからだ。


 これまで飛行型の魔物は、聖剣による斬撃の衝撃波であったり、ヨシュアの高威力魔力撃やソニアの上級魔法で撃退して来たのだが、当然ヨシュアは居ない。

 アマンダは聖剣を使えない。

 ソニアは上級魔法を使えず、中級魔法も魔力切れで撃てない。

 魔力回復薬のマジックポーションを管理していたのはヨシュアであり、これまではそもそもアイテム類に頼る必要すら無かった。

 彼女らは当然、回復アイテムを持って来ておらず、命からがら逃げ伸びるのが精一杯だった。



 ギルドにクエスト失敗の報告後、併設の酒場で掴み合いの喧嘩をする『宵闇の戦乙女』の面々を、多くの冒険者が目の当たりにした。



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