49話 護衛クエスト ④
「いやぁ、まさか『万能の貴公子』がラフィの婚約者とはなぁ。
ラフィがまさか男に骨抜きになるなんて思わなかったけど、ヨシュア君なら納得だよ。
わぁ、実物は写真なんかよりずっとイケメンだねえ」
ラフィの従兄弟兼ベンゲルシュトム冒険者ギルド長のヨハネクライフさんは随分と距離が近い…めっちゃ顔を近づけて俺の顔を見てくるから、何か尻を隠した方が良いような気がしてくる。
「あ、いや、ちょっ、近っ。そ、それよりも、やっぱあの飴はヤバいブツだったんすよね?」
俺は無理くり話を例の飴に向けた。これ以上の接近を許すとヤバそうだ。
「ああ、ゴメンね。ちょっとテンション上がってしまったよ。
あの飴ね。アレはポイズンベリーを特殊な錬金魔法で作成した魔法液に浸す事で、猛毒の成分が変異して強い幻覚作用と中毒性を齎す違法薬物に変わるんだよ。
更に、あの周りをコーティングしている飴部分にも興奮作用を促す違法薬物が使われている」
ヨハネクライフさんは先程までの軽薄な雰囲気から一変、急に深刻な表情であの飴の実態を教えてくれた。
あの違法キャンディはベンゲルシュトムの社会問題となっているようで、未成年にまで蔓延しつつ有ると言う。
俺と言い争いをした元締めっぽい男はマフィアの末端で、販売ルートを幾つか受け持っているだけの小物らしい。
頭を潰さなくては違法キャンディの取り締まりは不可能らしいが、そのマフィアの頭はおろか幹部連中の正体すら掴めないらしい。
一見綺麗で華美な街並みのベンゲルシュトムの裏では、恐ろしい闇が蔓延っているようだ。
「ヨシュア様!エレナ!大丈夫ですか!」
ヨハネクライフさんから色々な裏事情を聞いていると、血相を変えたラフィが取調室に飛び込んで来た。
豊満なオッパイを押し付けるように抱きついて来るので、俺の下半身は反応しそうになってしまう。
「ラフィ、良く俺たちがここに居るのが分かったね?」
「お2人が路地裏から連行されて行くのが目に入ったのですわ!もう、私を置いて勝手に行かないで下さいまし!」
ラフィはそう言うと、俺の胸に顔を押し付ける。
俺は優しくラフィの艶やかな髪を撫でながら、何度も謝った。
「ははは。良かったね、ラフィ。
鬼の形相でギルドに飛び込んで来た時は、一体何事かと思ったよ。
って言うか、5〜6発殴った事をまだ謝って貰ってないんだけど」
どうやら、ラフィは従兄弟であるヨハネクライフさんを何度も殴りつけて、無理矢理俺たちを釈放させようとしたらしい。
「なっ、ヨシュア様の前でそんな事を言わないで下さいまし!
それに、あの件は迅速に動こうとしなかったヨハンが悪いのですわ!
ロレン王国にはヨシュア様の偉大な功績が伝わって居ないのですから、手酷い取り調べを受けていたかも知れないのですわ!」
「この国の衛兵がそんな手酷い事をする訳が無いだろう?
それに、ヨシュア君の功績ならロレンにも伝わってるさ。ファンクラブだって有るくらいなんだよ?」
何やら、ラフィとヨハネクライフさんが言い合いをしている。
俺はエレナの頭を撫でながら、2人の言い合いが収まるのを気長に待つしか無かったのである。
◇◇◇◇◇
「それにしても、ラフィが俺の事を軽蔑していないようで安心したよ」
例の監視用ドローンの映像や音声を提出した事で、無罪放免となった俺とエレナは、迎えに来たラフィと供に軽食を提供しているカフェにやって来た。
お昼過ぎで腹も減ってたし、ラフィと落ち着いて話をしたかったんだよね。
「何故、私がヨシュア様の事を軽蔑するのですか?」
「あ、いや。例の盗賊団の辺りから、妙にラフィがよそよそしく感じられたっていうか、あまり話をして貰えないっていう感じだったじゃないか」
「それは…その…ヨシュア様が、アズベルト会長のボディガードの女性と楽しそうにお話をされていたものですから…その…し、嫉妬をしたのですわ」
なるほど…確かに道中はボディガードのミーマと会話をする事が多かった気がするけど、別に嫉妬されるような事は話してないんだがなぁ…ラフィはかなり嫉妬深い性格をしているようだ。
「そ、それに、この際ですから言わせて頂きたいのですが、ヨシュア様は私に何も、その…なさって来ないではありませんか?
その…く、口づけですとか…その…よ、夜の営みも…まだして頂けてません…」
「何を言うんだね!ラフィのような絶世の美女に、キッスなんておいそれと出来る訳が無いでしょうが!
セ、セ、セ、セックスなんてもっと恐れ多いわい!そ、そ、そ、そ、そうだ!デ、デ、デ、デートをしよう!
せっかくロレン王国に来たんだから、ラフィの好きそうなサレ乙な小物とかをプレゼントさせてくれ」
「まぁ、本当に宜しいのですか?うふふふ。ヨシュア様とデートなんて、夢のようですわ」
良かった。俺の苦し紛れの提案にラフィは大喜びだ。
キッスやセックスの話をされては、俺にはどうする事も出来ない。
ラフィに魅力が無いという事では決して無く、彼女が発する気高さに俺が只管気後れしてしまっているだけなのだ。
ともあれ、ラフィとのデートが決まったので、遅めの昼飯をさっさと食べ終えた俺たちは、エレナをシンシアに預けてベンゲルシュトムの繁華街へと繰り出した。
「それにしても、煉瓦造りの建物が多くて異国情緒満点な街並みだよなぁ」
「本当に素敵な街並みですわ。一日中歩いて居ても全く飽きないのですわ」
ベンゲルシュトム領は長閑さの中に、何処か洗練された雰囲気のある光景があちこちに見られる。
石畳みも綺麗に敷き詰められて居るだけでは無く、幾何学模様になっている一角が有ったり、領の紋章である大鷲に見えるように並べられている一角が有ったり、本当に見ていて飽きないのだ。
そんなほんわかムードな我々が微かな殺気に気付いたのは、アクセサリー屋でラフィにゴールドの3連ネックレスを買ってあげていた時だった。
「ラフィ、感じたかね?」
「はい。せっかくヨシュア様からプレゼントして頂いた初アクセサリーで、多幸感に溢れていた所ですのに…どうしてくれましょうか?」
ラフィに問いかけると、ラフィが恐ろしい殺気を放ちながら答えた。
恐らくマフィアの連中が差し向けた暗殺者の類だろう。さっさと会計を済ませて、ラフィへのプレゼントを異空間収納に回収すると、俺とラフィは戦闘モードに切り替えて店の外に出た。
殺気を放っていたのは3人。中々の使い手のようだが、魔力の抑え方が甘い。
特に、先程ラフィの強力な殺気を浴びた途端、極端に魔力を抑え出したあたりが頂けない。
「おい。出てこないなら、一瞬で首を刎ねる…」
「グゲエエエ!!!」
「あがが!は、腹がぁぁ!!!」
「い、いでええええ!!!」
俺がカッコ良くキメようとしていた所、3人の暗殺者が建物の影や屋上から転がり出て来た。
怒り心頭のラフィが地の精霊術『ノームの槍』で、暗殺者3人の肩や腹は貫かれている。
ラフィの放つオーラが凄まじく恐ろしい…
「ひ、ひげえええ!や、やべでぇえ!」
「ぢ、ぢかうんだぁあ!ご、誤解だぁあ!」
「あ、あぁうあぢいいい!か、体があぢいいい!」
手に暗器を握りしめたまま、3人の暗殺者は命乞いをしようとしたが、ラフィの『イフリートの裁き』が発動したのだろう。
『イフリートの裁き』をかけられた者は、嘘や誤魔化し、術者への害意を持つ事が許されない。
「おい、お前ら。さっさと知っている事を全て白状しないと、ラフィの精霊術で身体中の血液が沸騰するぞ。
このまましらを切るとどうなると思う?身体の中の脆い毛細血管から徐々に破裂して行くんだ。地獄行きよりも苦しいぞ〜」
「わ、わがっだ!わがっだがら!話すから!」
ズキューーーン!…ガキャン!
右肩に地の槍が刺さった暗殺者が情報を吐こうとしたその時、600mほど離れた建物から弾丸が放たれたのを感じた。
弾丸の風切り音で軌道が分かった俺は、魔法剣を異空間収納から取り出して弾丸を弾いた。
なるほど。暗殺者がしくじった場合の口封じ要員まで居るってワケね。
秘密裏に俺を殺したいヤツが居るって事か。
ベンゲルシュトムに来て早々、濃い一日になりそうだ。




