48話 護衛クエスト ③
「まぁ、ここがベンゲルシュトムですのね。
とても綺麗な街並みですわ!」
バルザム会長一行も同行する事になった今回の護衛クエスト。盗賊団の襲撃を受けて以降は特に滞る事なく進み、目的地のベンゲルシュトムへ無事到着した。
ラフィはこの街がいたく気に入ったようで、天使のような笑顔で変わったデザインの建物や、王都には無いような食べ物を売っている出店を眺めている。
正直、ラフィの笑顔が見られて安心している。何しろ盗賊どもの手足を斬り落として以降、どこか塞ぎ込んだ様子だったし、いつもよりスキンシップも少なめだったんだよなぁ。
シンシアも俺と少し距離を置いいるように感じる。おそらく、俺の行為を行き過ぎた物だと感じたんだろう。
彼女に見限られるなんて考えたくもないが、冒険者稼業は綺麗事だけでは済まされない。
Sランクになると超一流としてのステータスも手に入るが、その反面で国家転覆を目論むテロ集団の殲滅や、世界的犯罪者の抹殺と言った汚れ仕事も請け負うようになる。
ラフィやシンシアもその内分かってくれるだろう。
ともあれ、目的地に着いた我々は緊急時以外は完全な自由時間だ。アズベルト会長はバルザム会長とボディガードを連れて、地元の有力者に挨拶回りに行っている。
大商会の会長なのに、誰に対しても穏やかで丁寧な対応をするアズベルト会長ならば、まかり間違えても対人トラブルを起こすような事は無いだろう。
ベンゲルシュトムは一度しか来た事が無いし、クソビッチパーティーに所属していた頃なので、雑用を押し付けられたりで全く街を見て回れなかった。
今回はのんびりと見て回る事にしておこう。
「ヨシュア様〜、あっちにポイズンベリー飴が有るの〜!買って買ってなの〜!」
人一倍おねだり上手なエレナが満面の笑みで、俺におねだりをかまして来た。これは何時もの事なんだが、ちょっと聞き捨てならない言葉が飛び出したぞ?
ポイズンベリーはその名の通り、毒性の有る果物だ。
厳密に言うと、果実の中の種子の外殻に猛毒が含まれているのだが、野鳥や野獣がポイズンベリーを啄むと胃の中で種子の外殻が溶け出して絶命さしめる。
その後、種子の核部分がその死骸を養分として成長するという、何とも悍ましい生態の植物である。ポイズンベリーは地に根を張らずに、獣の腐乱死体に根を張るので、好き好んであの果実を摘みに行く者は居ない。
「おいおい、ポイズンベリーは猛毒だぞ?そんな物を食ったら死んでしまうぞ?」
「でも、凄く行列になってるの〜!みんな美味しそうに食べてるの!
エレナも欲しいったら欲しいの!」
本当にそんなモノに行列が!?いや、もしかしたらポイズンベリーっぽい形をした普通の飴ちゃんかも知れない。
俺は手を引かれるままにエレナについて行くと、メイン通りから一本奥まった所に件の屋台があった。なぜそんな辺鄙な所で屋台をしているのかは知らんが、確かにかなりの行列になってはいる…が。
「おい、エレナ。やっぱ何かオカシイぞ!?飴の屋台なのに子供連れの人がまるで居ない。
汚らしいオッサンが涎を垂らしながら並んでいるでは無いか!それに、あの飴は間違いなくポイズンベリーを丸ごと使ってる!」
そう。ポイズンベリー飴は間違いなくポイズンベリーの果実を丸ごと使っているのだ。
竹串に刺さったポイズンベリーの周りを薄く飴でコーティングして有るという、猛毒キャンディーである。
あんな物を買う為に長蛇の列が出来ているなんて、ただ事では無い。
俺はすぐさま列に並んでいる男たちの方へ走った。
「おい、アンタら!アレは猛毒のポイズンベリーだぞ!そんな物を買うんじゃ無い!」
俺は大声で列を成している人たちに呼びかけた。
しかし、並んでいる連中は俺を一瞥するのみで、全く列を離れようとしない。
「おい、色男よぉ。人の商売に何ケチつけてんだ?
バラしてネズミの餌にしてやんぞ?ああ!!」
俺が皆んなに注意喚起していると、左頬に刀疵を付けた厳ついオールバックが絡んで来た。コイツがあの屋台の元締めだろう。
「あんた、ポイズンベリーが猛毒だって分かってんのか!?あの実の種は細かくてとても取り除ける物じゃ無いんだぞ!?」
「ああ、その事なら心配いらねえぜ?なんつったって、ウチの店秘伝の中毒シロップに三日三晩漬け込んであるからなぁ。
そうすりゃ、ポイズンベリーの毒の成分は変異して、病み付きの美味さになるってぇ寸法よ。
食って死ぬようなモンを売ってたなら、こんなに行列が出来るワケねえだろうが?」
む、むう…たしかに男の言う通りかも知れない。死者が続出するような飴を売っていれば、こんな行列になる訳は無い。
しかし、まだ怪しい点がある。
「死なないにしても、碌なモンじゃねえだろ!
どうしてたかが飴ちゃん1個が1万ゲスもするんだよ!?
それに、彼処でポイズンベリー飴を舐めてる男を見ろ!目の焦点が合ってないし、ずっと薄笑いを浮かべてやがるだろ!
ありゃ、ぜってえヤバい飴だぜえ!ヤバいオイニーがプンプンしやがる!」
「うっせえ!ウチのはセレブ御用達の高級品なんだよぉ!至高の甘味を食えば、誰だって笑顔になるだろうが!」
「何がセレブだ!言っちゃ悪いが、並んでる奴らはゴロツキ崩れみてえな連中ばかりじゃねえか!
セレブみたいに品の良い客なんて1人も居ないだろうが!」
「テメエ!ウチの上客達をゴロツキ呼ばわりしやがったな!?もう勘弁ならねえ!このドスでコマ切れにしてやらぁ!」
元締めっぽい男は激昂すると、懐から変わったデザインの小刀を取り出した。
まぁ、今は護衛中じゃないし、こんなチンピラは適度に痛めつけてやって衛兵に突き出すか。
ピピーッ!
「皆んな動くな!違法薬物取締条例違反で全員連行する!」
「コラッ!そこの男!動くなと言っただろうが!」
「お前らも全員壁に向かって立て!両手を壁に付けるんだ!言われた通りにしなければ、否応無しにど頭を吹き飛ばすぞ!」
元締めと一触即発のタイミングでホイッスルの音が鳴り響き、あちこちの路地から衛兵隊がゾロゾロと現れた。
良かった。これでコイツらは一網打尽だろう。
「衛兵さん、この男がこの屋台の元締めっぽいぞ」
「貴様!勝手に喋るんじゃない!さっさと壁を向いて手を付け!」
俺の言葉など御構い無しに、衛兵の男は俺に魔導拳銃を向けて命令して来た。
「ちょっと待ってくれ。俺はSランク冒険者だ。決して怪しい者じゃない。
上着のポケットにライセンスが入っているから確認してくれ」
「冒険者だと!?そんなものゴロツキと変わらんでは無いか!貴様も違法薬物取引の現行犯だ!さっさと壁に手を付け!」
衛兵は全く聞く耳を持たないようだ。しかし、それも仕方ないだろう。冒険者を騙って逃げようとするヤツもいるだろうしね。
「ヨシュア様をいぢめちゃダメなの!」
俺が大人しく指示に従おうとすると、名刀丸に手を掛けたエレナが衛兵に斬りかかろうとした。
「エレナ、ストップ!良いから衛兵さんたちの言う事を聞くんだ。
壁に向かって手を付こう。な?俺は大丈夫だから」
即座にエレナを制止して良かった。気持ちは有難いけど、エレナは仲間の事になったら本当に人斬りを辞さなそうだしな。
エレナは仕方なくと言った感じで刀から手を離し、壁に両手をついた。
当然、その場で名刀丸は没収。俺たちも他の連中同様、魔導手錠を嵌められて衛兵たちに連行されて行くのであった。
◇◇◇◇◇
「ええい、忌々しい!その空飛ぶ箱をどうにかしろ!」
ベンゲルシュトムの衛兵署に連行され、俺とエレナは取り調べ室に入れられた。
俺に銃を向けた衛兵のモーゼルが、テーブルを叩いて怒鳴り散らす。ギルドが記録用に付けている魔導具が気に障ったようだ。
「だから言ってるだろう?俺たちは護衛クエストを受けていて、ギルドから監視用のドローンが付けられているとな」
そう。このプロペラが4つ付いた空飛ぶ箱は、護衛クエスト中に規律違反が無いかをチェックする、ドローンという魔導具である。
勇者ダーハマがこの世界に持ち込んだマシーンという機構らしいが、その技術をこの世界で使用出来るように改良したモノだ。
ダーハマの世界では子供のオモチャみたいなドローンも販売されていたらしいのだが、この世界ではドローンは高価過ぎてとても子供のオモチャなんかには出来やしない。
「クソ!ブンブン喧しい魔導具だ!」
「なぁ、俺たちの身分は確認出来ただろうし、そろそろ解放しちゃくれないか?このままだと、ベンゲルシュトムギルドのお偉いさんにご足労をかけちまうよ」
「ぐっ…しかし、主犯の男の供述が取れるまでは…」
モーゼルが苦々しい表情で俺の提案を拒否していると、不意に取調室のドアが乱暴に開けられた!
「こらぁ!モーゼル!Sランク冒険者様を連行するとは何事だ!?この大馬鹿者が!」
慌てた様子で入室した立派な口髭を蓄えた恰幅の良い男性が、モーゼルを叱責し始めた。
彼はこの衛兵署のお偉いさんなのだろう。
モーゼルは汗を流しながらヘコヘコと頭を下げ、俺とエレナはポカーンである。
「ヨシュア様、エレナ様、この度はウチの出来損ないが多大なご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした!
コラぁ!貴様もお詫びをせんか!」
お偉いさんは乱暴にモーゼルの頭を引っ掴んで、無理矢理頭を下げさせようとしている。
「ま、待って下さい!彼は職務に忠実なだけで、何も悪くないですから!
寧ろ正義感に満ちた素晴らしい衛兵かと思います!頭なんて下げる必要無いですよ!」
俺は慌ててお偉いさんを止めた。彼の言い分も聞かずに無理矢理頭を下げさせられては、忠実な衛兵たる彼が余りに可哀想だ。
「おお!流石ヨシュア様は超一流であらせられる!
モーゼル、ヨシュア様のご厚情に感謝するんだぞ!」
「いや、感謝も何も必要無いですよ。彼のような立派な衛兵が居れば、このベンゲルシュトムの街も安泰ですね。
あ、一つだけ有るとしたら、この魔導手錠は頂けないですかね」
「ああ、これは大変な無礼を…ホラ、さっさとヨシュア様とエレナ様の手錠を外さぬか!」
「あ、いえ。そうではなくて、一般試供品の魔導手錠はAランク以上の冒険者には役に立たないんですよ。
ホラ、この通り直ぐに外せる」
魔導手錠に少し強く魔力を流し込むと、手錠はガキャンという音を立てて、バラバラになった。
これは魔導手錠に付与された効果を上回る魔力量が込められた時に起こる現象である。
魔導手錠は嵌めた相手を弱体化し、魔力を吸い取る術式が付与されているが、ある程度魔力量の多い人間が魔力を込めると、規定の吸収魔力量を超えてしまって術式ごと破壊されてしまうのだ。
エレナも同様に魔力を込めて、手錠を外してしまった。
「ね?今回のようなケースは予備のために、特級魔導手錠も用意しておいた方が良いんですよ」
「な…あ、アンタら人間か?魔導手錠を外すなんて、普通あり得ないだろ…」
モーゼルはキツネにつままれたような表情で呟いた。っていうか、今の物言いは失礼過ぎるだろ。
俺もエレナも化け物なんかじゃ…無いと思う。うん、一般的なAとSランクの冒険者で間違いない…と思う。
「いやぁ、ヨシュア君済まないねえ。
もっと早く駆けつけるべきだったんだけど」
またしても、見知らぬ男が取調室に入って来た。男は俺と同じくらいの歳に見えるが、恐らく80歳以上である事は間違いない。
何故なら、彼はエルフなのだから。
「ああ、申し訳ない。僕はヨハネクライフ・ブブゼマハーン。
ベンゲルシュトム冒険者ギルドのギルド長で、ラフレシアの従兄弟さ」
何と、目の前のイケメンエルフは、ギルド長兼ラフィの従兄弟だった。




