47話 護衛クエスト ②
「行くよ〜!『天弓ver.2.3』!」
シンシアが独自に改良した技が、7体の魔岩熊の脳天に風穴を開けた。
アズベルト会長の護衛依頼初日。山道の中腹に差し掛かった時、ラフィと俺の索敵に反応が有った。
現れたのはAランク中位の魔岩熊だったが、シンシアが天高く放り投げた矢が寸分の狂いもなく熊の頭を撃ち抜いたのだ。
「4時の方向から、大型の魔物が2体来ますわ!」
「エレナが行くの!」
「あ、護衛対象から離れ過ぎるな!」
ラフィの声にいち早く反応したエレナが、愛刀『名刀丸』の抜いて駆け出した。
ラフィの指し示した方向から、巨木並みの背丈のサイクロプスが2体姿を見せたのだが、エレナは刀を構えたまま立ち止まってしまった。
何時もなら素早く詰め寄るだろうに、一体何をするつもりなのだろうか?
「淵明流剣術:『名刀丸』ブーメラン』なの!」
言葉と共にぶん投げたエレナの愛刀は、高速回転しながらブーメランのように飛んで行き、2体のサイクロプスの首を刎ねて、エレナの手元に戻って来た。
最早剣術では無く、投擲のようになってしまっているが、そんな技まで組み込んで良いのだろうか?
万が一『名刀丸』がサイクロプスの首に突き刺さったままだったら、剣士のエレナは無刀でどう闘うんだろうか?
「エレナ、前衛のお前が武器を手放すのはダメだろう?刀が相手に突き刺さって、戻って来なかったらどうするんだ?」
「ん?『名刀丸』は離れてても、エレナが呼べば戻って来るの〜!」
そうだった…この子、愛刀を手元に寄せる事が出来るんだった…
刀をぶん投げて、サイクロプスの太い首を跳ね飛ばすなんて、普通では考えられない。魔力を剣身に注ぎ込んで放出出来る、俺の魔法剣ならば或いは可能かも知れないけど、エレナの刀はそういう特殊な仕様では無い。
エレナはデタラメな量の魔力を刀身全体に纏わせて、もの凄いスピードで刀をぶん投げた。結果、表面の魔力が霧散する前に首を切断する事を可能にした訳だ。
相変わらず出鱈目な才能をしている。
ともあれ、難なく魔物の襲撃に成功した俺たちは、アズベルト会長に安全を確保した旨を伝えた。会長はむず痒くなる程『豊穣の翠』を褒めちぎってくれた。
ベンゲルシュトムへの旅を進めたのだが、会長たっての希望で俺は会長専属のボディガード2名と共に、会長と同じ魔導バギーに乗り込んでいる。
3列シートの2列目に会長と男性のボディガード、3列目に女性のボディガードと俺が座っている。
再び進み始めたバギーの車中、俺の隣に座るミーマという若いボディガードの質問責めまで再開してしまった。
「ヨシュア様、会議室のような密閉された空間の中では、どのように会長をお守りするべきでしょうか?」
「室内警護は君らのマニュアル通りで基本問題無い。
ただ、複数人で警護する場合、必ず他の面子と得意な事、不得意な事を共有して、役割分担を明確にしておいた方が良い。
それから、室内の事は勿論だが、室外の気配探知も入念に行う事で、会長をお守り出来る可能性は格段に上がる」
俺の話を真剣に聞きながら、一生懸命メモを取るミーマの態度に感心していると、前のシートに座るもう1人のボディガードのヘインスが不機嫌そうに口を開いた。
「おいおい、冒険者風情に警護の事を聞いてどうする?んな下らない御託なんてどうでも良いから、俺らは何が何でも会長の安全を確保すりゃいいんだよ!
ったく、これだからペーパーは…」
へインスは30代半ばくらいのゴツい男で、それなりに場数を踏んでいる雰囲気がある。
冒険者は護衛のエキスパートという訳では無いので、俺に意見を聞くのが面白く無いのだろう。
が、しかし…
「ヘインスよ、君の言い分も分かるが、君は警護に慣れ過ぎて油断が有るな」
「なっ、何だとコラァ!俺の何処が油断してるってんだ?」
俺は激昂してこちらを振り返ったへインスの喉元に、異空間収納から取り出した解体用ナイフを当てた。
「なっ?君は俺がどのような魔法を使えるかも確認しなかった。それどころか、俺の冒険者証すらまともに見なかった。
もし、俺が冒険者になりすました暗殺者なら、君は簡単に首を切られている。
ミーマを見ろ。彼女は俺が異空間収納魔法を使った瞬間、シールド魔法で会長をガードしているじゃないか」
俺は解体用ナイフを首から離して、異空間収納にしまうと言葉を続けた。
「仮に俺が暗殺者で、今ので君を殺していたら、会長を守れるのはミーマしか居なくなる。
でも、残念ながらミーマの戦力では、俺相手に1秒も時間稼ぎは出来ないだろう。どうだい?これでも君は油断していないと言い切れるかい?」
へインスは大いに悔しんだ様子で、俯いて肩をプルプルさせている。俺は別に彼の全てを否定した訳ではなく、油断するなと伝えたかっただけなんだがな。
「勘違いさせたなら謝るよ。俺は別にヘインスを貶したい訳じゃなくて、あまり油断しない方が良いと伝えたかっただけだ。
冒険者とボディガードが一緒に組む事なんて余り無いんだ。お互いの専門知識を交換し合うのは決して悪くないと思うんだけど、どうだろうか?」
「……ぷっ…ぷぷっ…ぷはははは!
いやぁ、噂通りのカタブツだな!ドミンゲスから聞いてた通りだ!ハハハハハ!」
気を悪くしたっぽいへインスにフォローを入れたつもりだったが、どうやら肩を震わせていたのは怒ったのでは無く、笑いを堪えていたようだ。
それにしても、へインスがギルド長と知り合いだったとは…
「何だ、怒って臍を曲げたのかと思ったじゃないか。
俺の事は粗方知ってたって事ね?」
「ああ。冒険者登録名はヨシュア。本名はヨシュア・ワイルダー。恐らく『救国の英雄』の息子かな?
Sランク冒険者で、2ヶ月半前まで『宵闇の戦乙女』に所属。
趣味はヴァンダムのプラモデル蒐集。特にペイ専用機を買い漁る。婚約者はラフレシア嬢。20歳で童貞。
俺が知ってるのはこんな所かな?」
な、何だと!?ヴァンプラマニアである事や、童貞だという事まで!?
いや、それより父さんが『救国の英雄』だと知っているとは…
「凄い情報網をお持ちのようだ。へインス、改めてよろしく頼むよ」
「こちらこそ宜しくな。俺的には警護のアドバイスよりも、ラフレシア嬢との馴れ初めなんかを聞きたいね。
やっぱ、色仕掛けされて『豊穣の翠』に入ったんか?」
「い、色仕掛け?いや、アレはそういう事なのか?
いや、違うよな。うん、ラフィの熱意とか、絶望から救ってくれた恩に報いたいっつーか、いや、マジで。
不純な事では無く、真面目にそういう冒険者としての熱量的な?いや、そりゃあ魅力的なチャンネエだとは思ったよ?でも、そういう邪な気持ちじゃなく、心を突き動かされた的な?」
「お、おい。ちょっとからかっただけなんだから、そんな必死になるなよ」
むう…またいじられたか…エディさんにも同じようなイジりをされたし、俺ってそんなにイジり甲斐のあるヤツなのかな?
まぁいっか。ボディガードと仲良く話せる機会もそんなに無いだろうし、索敵を怠らずに道中の会話を楽しみますか。
◇◇◇◇◇
「運転手さん、500メートル程進んだ所で戦闘の反応が有ります。スピードを抑えて下さい」
山道を進む事5時間。漸く山道を抜けて街道に合流したんだが、何やら人同士が戦っているような反応を感じた俺は、運転手に指示を出した。
後続の魔導具を運搬する貨物用魔導車やラフィ達の乗る魔導バギーも、俺たちに合わせてスピードを落としている。
「どうやら7人対12人の集団戦のようだ。
一旦ここで止まって下さい」
俺は運転手に停車を呼びかけると、魔導端末でシンシアに会長の車両を警護するよう伝えた。
魔導バギーから降りたシンシアが、こちらの車両に近づいて来るのを見計らって、俺は車を降りた。山道は狭い上に一本道で迂回出来ない。
前で争って居るのがチンピラ同士ならば、片が付いた後に残ってる方を殲滅するし、片方が一般人で有れば加勢してチンピラの方を叩けば良い。
魔力の反応からしてもどちらも大した実力では無いので、面倒なら全員一気に片付けるのも有りだ。
道の脇の木々に身を隠しながら前に進むと、戦闘中の集団が見えて来た。どうやら商人の馬車を盗賊団っぽい連中が襲っているようだ。
商人や馬車を庇うように位置どりしている冒険者風の男3人が、必死に盗賊団に応戦しているが、まともに戦闘が出来る3人に対して盗賊どもは12人。
商人風の一向は、10分と持たずに全滅しそうな程劣勢に立たされている。
俺はこっそりと商人らを囲んでいる盗賊の後ろへと回り込んだ。
「なぁ、お前らは盗賊団か?」
一応確認のために声をかけたんだが、一番俺の近くに居た盗賊が曲刀を振りかざして突進して来た。
此方が対話の姿勢を見せているにも関わらず、否応無しに斬りかかってくるのだ。多少痛い目に遭っても文句は言わんよね?
シュパシュパ、ザッ!
俺は一呼吸の内に曲刀男の両腕を切断し、両方の太ももを深く斬りつけた。
魔力撃を使ってしまうとオーバーキルになってしまうので、単純な剣術で無力化する。
四肢の切断をすると、近接戦闘が出来なくなる事は当然だが、魔法を放つ事が出来なくなる。魔法の発動には魔力の制御や変換、操作等、魔力を緻密に扱う必要が有るのだが、四肢切断による大量の出血や、痛み、恐怖心等がそれを困難にさせる。
「ぐぁぁあ!う、腕がぁぁあ!脚がぁぁあ!」
両腕を失って地面に這い蹲った盗賊風の男を見て、残りの11人が露骨に俺を警戒し、一斉に身構える。
「殺意剥き出しって事は、お前らが盗賊団って事で良いのかな?」
「うるせぇ!だったら何だっつーんだ!
幾ら腕が立つっつっても、この人数を1人でどうにか出来るわけねえだろ!
オメエら、一気に飛びかかってヤツを殺…ひげぇぇえええ!」
一団のボスらしき太っちょが仲間たちに指示を出そうとしたが、余りに隙だらけだったので1人目の男同様に両腕を切断して、両太ももを斬りつけた。
ボスが一瞬で芋虫のように地を這い蹲る姿を見て、他の連中は恐怖で固まった様子だ。
後は流れ作業のように、盗賊団の四肢を斬りつけて行くのみ。
「ちょ、ちょい待ち!ア、アタイは女だよ?
女にまで手を上げるつもり?」
最後の1人。腰を抜かしたのか、地に尻を突いて震えている盗賊が、訳の分からんフェミニズムを求めて来た。
「だから何?俺は男女平等に扱う主義なんだ」
言うが早いか、既に女の両腕は体から離れ、両の太腿からは大量にちが溢れている。
あたり一帯にけたたましい悲鳴が響いたが、常に周囲を探知して、コイツらの仲間らしき反応が無い事は確認しているので、放置する事にした。
「アンタらは大丈夫かね?怪我人が居るなら中級の治癒ポーションを渡すが」
俺は道の端の方に追い詰められていた商人風の一向の方へと歩を進め、怪我人の有無を確認した。
「だ、大丈夫だ。本当に助かった。アンタは命の恩人だ」
肩口に浅い切り傷を負った冒険者の男が、俺の問いかけに答えて頭を下げた。
「本当にありがとうございました!あ、あの…アナタはもしかして、『万能の貴公子』ヨシュア様ですか?」
「何だ?エルメ。この人の事を知っているのか?」
「ちょっ、リーダー!何言ってるのよ!ヨシュア様って言ったら、全女性冒険者が選ぶ抱かれたい男ナンバーワンのSランク冒険者よ!?
知らない方がどうかしてるわ!あ、あの…良かったら一緒に写メ撮ってSNSにアップしたいんですけど…」
何か女性の冒険者が急にしゃしゃって来て興奮しているが、今はツーショット写真を撮っている場合じゃない。
「待ってくれ。君らは商人の護衛中じゃないのか?依頼人の安否確認が先だろう?」
「そ、そうだった!
ピエールさーん!お怪我はありませんでしたか!?」
俺の言葉に、肩を斬られたリーダーは慌てて商人の方に駆けて行った。
女性冒険者のエルメという子は、露骨にがっかりしている。さっきまで盗賊団に殺されかけていたと言うのに、随分と緊張感が無くなっている。
そんな事を考えていると、リーダーがピエールさんと呼んでいた商人の男が俺の方にやって来て、深々と頭を下げた。
「この度は私共をお助け下さり、本当にありがとうございました!
私はバルザム商会の会長をしております、ピエール・バルザムと申します。是非この度のお礼をさせて頂きたいのですが…」
「いえ、大した事はしておりませんのでお気になさらず。
それよりも、バルザム会長の馬車は連中の襲撃で、随分と傷んでいるようですが、走れそうですか?」
「お気遣いありがとうございます。
お恥ずかしい話ですが、車軸がやられてしまって助けを呼ぶしか無い状態です。
明日の夜にはベンゲルシュトムに着いておきたい所なのですが…」
どうやらバルザム会長もベンゲルシュトムへと向かっているらしい。ここで放置しておくのも可哀想なので、一旦アズベルト会長が待機している場所に戻り、状況を説明した。
アズベルト会長はバルザム会長と知り合いのようで、彼らを助ける事を快諾してくれた。
荷物運搬用大型魔導車のコンテナ部分にはまだ随分と空きが有るので、バルザム紹介の馬車の荷物や従者、冒険者3人が荷物と一緒にコンテナに乗る事となり、バルザム会長はアズベルト会長が乗る高級魔導バギーに同乗する事となった。
因みに、盗賊団はラフィの精霊結界に閉じ込めて、王国の騎士団に魔導端末で連絡しておいた。
12人とも何とか体内魔力で止血は出来ているようだし、騎士団が早めに駆け付けてくれれば捕縛されるまでは死なないだろう。
まぁ、王国へ連行された所で死刑確定なので、或いは結界の中で果てた方が良いのかも知れない。




