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45話 魔族の事情 ④

 


 〈リゾンドウ視点〉



「クソ!冒険者供が、結界の周りを固めてやがる!」



 同胞ジェミナスからの報告が気になり、ノルドゥヴァリ様が封印されている場所の様子を探りに来たのだが、事態は想像以上に思わしくない。

 ノルドゥヴァリ様を覆う結界の周辺に、相当な強者と見て取れる冒険者が常時2〜3人体制で警戒している。


 隠蔽の魔導具を使っているので、俺の姿は奴らに気付かれて無いが、あまり近づき過ぎと魔力を探知されるリスクが増してしまう。

 レジーが順調にレベル回収をしてくれており、ジェミナスも少しずつだが人族の魂力を集めている。

 しかし、幾ら準備が整っても、あのような実力者の見張りが付いている限り、ノルドゥヴァリ様の蘇生が出来ない。

 恐らく、仮死状態のノルドゥヴァリ様のお身体が、蘇生の周期に入った事に気が付いての厳戒態勢なのだろう。


 偵察を終えた俺は、ある計画を実行に移す為、ユークラインのアジトへと転移した。

 早速アジトの一室をノックして、ドアを開けた。



「キャッ!ちょ、ちょっと、返事してから開けろし!」



 ベッドの中で自らの体を慰めていたソニアが慌てて掛け布団を被り、俺の行動を非難する。

 別に人族の女の自慰行為を見た所で、我々は何とも思わないのだから、そこまで神経質になる事は無いと思うのだが?



「真昼間から自慰に耽る君がおかしいだろう?大体君の声が大き過ぎて、別の部屋に居ても丸聞こえだ。

 今さら恥ずかしがる事でも無いんじゃないか?」


「うっせぇよ!それでも、アンタなんかに見られたくねえし!」


「まぁ良いや。それより、急ぎで君に一仕事やって貰いたい」



 俺はそう言うと、大陸最東端に位置するタイラント帝国の地図をソニアに渡す。地図には2箇所赤いマーキングを付けている。



「その赤いチェックを付けている地点を、君に爆破して来て貰いたい。

 一つは聖ミハイロ教会の聖堂。出来れば祭壇付近を吹き飛ばして欲しい。二つ目は帝都大広場に有る、大帝ミノクルス像の爆破だ」


「はっ!?真昼間にそんな人目に付く所なんて、爆破出来る訳ねえじゃん」


「君は時差も知らんのか?タイラント帝国は、今深夜1時過ぎだ。

 このアジトの地下に、帝都の城門付近に転移出来る魔法陣が有る。移動はその魔法陣を使うと良い。

 それから、爆破に必要なタイム・ボムという魔導具と、隠蔽魔法が付与されたネックレスを渡すよ。

 使い方を教えるから、さっさと服を着て準備をしてくれ。俺はリビングで待ってるから」



 俺はソニアに要件を伝えると、部屋を出てリビングに向かった。

 食っては自慰に耽り、一頻り満足したら寝るという生活を繰り返すソニアに大役を任せるのは不安が有る。しかし、俺はノルドゥヴァリ様の蘇生や、元の世界に帰還するのに必要な物を集めている。コレがとても難しい。

 自分の責務ですら猫の手も借りたいくらいなのに、ソニアの破壊活動にまで着いて行く暇など無い。ここはあの自堕落な女を信じるしか無いのだ。



「あのさ。聖堂を爆破なんてしたら、大勢の人が死ぬんじゃね?

 ウチ、どんなに堕ちても、無差別殺人なんてしたくねえし」



 準備を整えたソニアは、リビングに来るなり不満そうに告げてきた。

 この女は、ちゃんと人の話を聞かないんだろうか?



「だから、向こうは深夜だって言ったよね?深夜の聖堂なんて、人がウヨウヨしてる訳無いだろ?見回りも殆ど無い。

 運が悪くて1人死ぬくらいのもんさ。帝都大広間も同じだ。

 爆破の規模も抑えてあるから、半径10メートル以内に人が居なければ、死ぬ事にはならない」



 俺はソニアを説得して、タイム・ボムとネックレスの使い方を教えた。そして、犯行現場に禍々しい紋章の描かれたカードを残して来るよう指示する。

 このカードはこの世界各地で破壊活動を行う、過激派テロ組織『新世界に花束を』の物だ。

『新世界に花束を』は50年程前から、世界の主要な施設を爆破して無差別大量殺人を繰り返すイカれた集団で、10年前に『救国の英雄』"シュガー"・レイ・ワイルダー率いるパーティーに主立った幹部が捕らえられたものの、その後も残ったメンバーは各地に散らばり、大規模な破壊活動を行なっていた。


 この2年程表立った活動はしていないが、ヤツらが活動を再開したとなれば、帝国のSSランクパーティー『鋼鉄兵団』は、帝国内に呼び戻されるだろう。

 こうした揺動の破壊工作をSSランクパーティーの所属国で繰り返していれば、ノルドゥヴァリ様の周囲を警戒して居られなくなる。

 レジーの情報では、SSランクパーティーの中で最も厄介な『黄金世代』のリーダーと副リーダーは、ギルドに報告に戻っており、分断していると言う。

『黄金世代』が分断されている内に、他のSSランクパーティーも災害指定特区から追い払っておきたい。


 俺はイマイチ信用度に欠けるソニアを送り出し、ノルドゥヴァリ様が蘇生した後、我々の元居た世界へと帰還する為に必要な魔導具の進捗確認に戻る事にした。

 俺が求める帰還用魔導具の『異次元カプセル』は、この世界では入手が非常に困難なようだ。

 俺の異能『萬事ディクショナリー』によると、不安定な最難関ダンジョンで、ごく稀にしかドロップしないとなっている。


 不安定な最難関ダンジョンは、王国の王都郊外に出現したダンジョンと、プチエロス共和国の商業都市メガニーゼに出現したダンジョンの2箇所のみ。

 王国は忌々しいヨシュアが居るので避けたい所だったが、運の良い事に我々と協力関係にある貴族が王都におり、その男は王都の冒険者ギルドに大きな発言力が有る。

 その協力者マンタ伯爵は、高位冒険者に不安定なダンジョンの探索依頼をかけたと言っていた。

 依頼を出してから1ヶ月以上が経過しているので、そろそろ『異次元カプセル』がドロップした事だろう。

 俺は、マンタ・プリトス伯爵の屋敷へと転移した。



 ◇◇◇◇◇



「な、何だと!?ダンジョン立入禁止!?」



 魔導具入手に期待して向かったのだが、マンタ・プリトス伯爵から信じられない言葉が飛び出した。



「うむ。非常に危険なダンジョンと言う事でな?ギルドはこれ以上の調査を諦めるらしい。

 一般の冒険者も出入りが出来ないように、厳重に封鎖されておる」


「そ、それで、例の『異次元カプセル』は!?」


「目立った魔導具のドロップは無かったらしいが、そもそも、ギルド長のドミンゲスは妙に冒険者に肩入れしておるので、その報告すら怪しいものだ」



 マンタ伯爵は、さもどうでも良さそうに不確定な情報を並べたが、何故そのギルド長とやらに問い詰める事をしないのだ!?



「マ、マンタ伯爵、何故その男を追求しないのです?

 探索は何度か行ったのでしょう?その男が冒険者どもと結託して、ドロップ品を掠めているかも知れない」


「そうは言うがな。ドミンゲスからは、件の探索依頼のおかげで勇者パーティーが壊滅したと苦言を呈されたのだ。

 王国唯一の勇者が再起不能の大怪我を負ったと言われては、此方としてもこれ以上強くは言えぬではないか」



 勇者パーティーとは、あのソニアが所属していたパーティーでは無いか?

 俺がマンタ伯爵に依頼した事が原因で、あの女は俺の仲間に加わったという事になる。何という因果なのだろう。

 いや、それよりも今は『異次元カプセル』の入手が何よりも先決だ。



「では、そのダンジョンの探索に当たった冒険者どもを捕縛して、尋問すれば良いでしょう?」


「本当に我々の常識が分からないヤツだね。これだから穢れた魔族は嫌なんだ!

 今の世の中、例え冒険者であっても人権が尊ばれる。何の罪も犯していない冒険者を捕縛などすれば、この私の爵位が剥奪されるのだぞ!

 そもそも、今回の依頼に当たったSランクパーティーは、何も一階層の序盤で壊滅したんだ。

 唯一無傷で生還した『豊穣の翠』と『ヒャッハーズ』の合同パーティーも、一階層ボスを討伐した時点で探索を断念したと言う。

 魔導具はドロップしていない可能性の方が大きいだろう」



 伯爵の悪し様な言い様に一瞬怒りを抱いたが、『豊穣の翠』という言葉を聞いて冷静になった。

 よりにもよって、あのヨシュア・ワイルダーが探索に当たって居たとは…万が一あの男の手に『異次元カプセル』が渡ったとしたら、力尽くで奪い取るなど不可能だ。

 金で解決出来れば、それに越した事は無いのだが、あの男はレジーのレベル収集すら認めなかった男だ。正直に事情を話したところで、対立するのは目に見えている。



「おい、それよりも例の報酬を寄越せ。魔導具を私に使うのだ」


「はっ?何を言うんだ?魔導具の回収に失敗しただろう。

 当然報酬は無しだ」


「うるさい!この私が今回の依頼の件で、どれだけの金を払ったと思っている!?

 壊滅したパーティーへの補償金も、半額負担させられたのだぞ!!!報酬を支払わないならば、誰が魔族みたいな薄汚い連中に手を貸すものか!!!

 キサマらの情報を、全て冒険者ギルドに売ってやる!覚悟をしておけい!」



 何と下劣な男だ。約束を反故にして報酬だけはガメるとは…こんな男は殺してやりたい所だが、伯爵を殺すのは流石に不味い。

 俺は仕方なく、時間干渉の魔導具を伯爵に使った。

 この下衆な男が望む報酬とは、ズバリ若返りだ。欲に塗れて醜く肥え太ったブタが命を永らえる事は、王国社会にとって災難でしか無いだろう。

 まぁ、俺には知った事では無いが。



「むっ、何だ?大して変わって居らぬではないか。

 もっと若返らせるのだ」


「急に若返ったら怪しまれるだろうが。今回は取り敢えず5歳若返らせた。

 このペースで少しずつ若返って行けば、怪しまれなくて済むだろう」



 俺は伯爵を窘めて、これ以上面倒な事にならない内に転移魔法でアジトへと戻った。


 先ずはヨシュアが『異次元カプセル』を入手したのかを確認しなくてはならない。

 この魔導具はこの世界に一対しか現れず、一度ドロップすると、使用するまで次の『異次元カプセル』はドロップしないと言う。

 ヨシュアが既にドロップしていて、『異次元カプセル』を使用する事なく所持したままだとすれば、プチエロス共和国のダンジョンを幾ら探索しようが無意味になってしまう。

 どのようにして、ヤツから入手の有無を聞き出せば良いのだろう?


 俺は誰も居ないアジトのリビングで、直面した難問に頭を抱えた。



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