38話 魔族の事情 ③
〈リゾンドウ視点〉
「だから、ウチらが失敗するようになったのは、あのクソヨシュアが呪いをかけたせいだっつうの!」
「ふ〜ん。じゃあ、彼が入った途端に『豊穣の翠』の実績が急上昇したのはどうして?
僕が調べた所によると、それまでBランクで停滞していた彼女らが、ヨシュア加入後の初クエストで、イレギュラー出現したワイバーンを瞬殺したようだ。
しかも、トドメを刺したのは弓使いのコらしいよ」
あの後、レジーが女達に揺さぶりをかけると、女達はヨシュアとの事を色々とゲロしてくれた。
やはりレジーはとても優秀な人だ。彼さえ望めば、我らのいた世界に連れ帰って、政府の要職に就いてもらいたい程優秀だ。
今、レジーがいい感じでソニアという女を詰めている。
「そんなの只の偶然だろーが!あんな雑魚に、仲間を強くする力なんて有る訳ねえし!」
「ふうん。君、天職は賢者って話だけど、僕の鑑定魔法によると天職は魔導師ってなってるね。
それは君の言う『ヨシュアの呪い』とやらでクラスダウンしたのかい?」
「あ、あんた、鑑定を使えるっての?
……ああ!そうだよ!クソヨシュアの呪いでダウンしたんだっつーの!ああ!クソッ!マジで殺す!」
「アハハハハハ!君、マジでイカれてるね?
天職を2ランクも降格させる呪術なんて、聞いた事も無いよ!
ねえ、リゾンドウ。こんなイカれた女は使えないよ。
さっさとふん縛って、ギルドに突き出そうか?」
確かにレジーの言う通りだ。この女達は現実がまるで見えてない。様々な情報を精査し、自らヨシュアと戦った経験を加味して、論理的にヨシュアの戦力を分析するレジーの言葉と、自分の都合のいいように真実を歪めて、ヨシュアを雑魚だと断じる彼女らの言葉、どちらを信じるかと言われれば迷う事なくレジーだ。
だが、女達の持つ狂気は使えるかもしれない。
「いいや、俺は約束だけは違えない。彼女らには危害を加えない約束だし、王国にちゃんと帰してあげる約束をした。
君の言葉を信じてるけど、約束を破るような事は出来ないな」
「君は本当に人が良いね。僕ならそんな約束は知らぬ存ぜぬで、ギルドに突き出してしまうけどね」
「そ、そんな事したら、アンタが魔族に手を貸してる事をチクってやるし!」
「ハハハハハ!君はどこまでバカなんだ?僕の名前も知らないのにチクって何になる?
だいたいお尋ね者の君の言葉に、ギルドの連中が耳を貸すとでも?」
た、確かにレジーの言う通り、この女はバカ過ぎる。
本当にこんな女が賢者だったのか、疑いたくなる程だ。
「まぁ、彼女らには何もせずに、キチンと送り届けるよ。それよりも、君は何か用事があったんじゃないのかい?」
「ああ。例の件だけど、ここに来て進捗が思わしくないんだ。この調子だと、約束の期日までに終わりそうに無くてさ…」
「期限なら気にしなくて良いよ。俺たちはもう友達だろう?
それより、君の誠意ある働きにボーナスをあげたい。
君の友人の一人を治してあげよう」
「えっ、ほ、本当に良いのかい?」
レジーは俺の提案に驚いたのか、目を見開いている。俺達は誠意に対しては、誠意で応える事を旨としているのだ。彼はこれまで、とても素晴らしい働きをしてくれている。
このくらいの事は当然だろう。
「なぁ、君らはこれでもリゾンドウを信じられないのか?
義理堅く約束を守る彼の言葉より、どこの誰が残したのかも知れない伝記の事を信じるのか?」
「うっ……つか、さっきの言葉はホント?アンタの友達をその魔族が助けてるっつう事?」
「ああ…不治の病に侵された友達を、リゾンドウは治してくれたんだ。
まぁ、彼の仕事を手伝っているから、その対価とも言えるけどさ。でも、平気で嘘を付く一部の人族よりも、彼の方が余程信用できる。
僕らは良き友人なんだよ」
女2人はレジーの言葉を聞いて、何か考え込んでいる。
「わ、分かった!ウチらもアンタらの事を信じて仕事を手伝うから、ウチらにヨシュアのクソ野郎を殺す力をくれない?」
「済まないけど、それは無理な相談だね。ヨシュアを殺せる力が有るなら、とっくに俺が殺してるさ。
約束出来ない取り引きをする程、俺は性根が腐ってる訳じゃ無い。他に望む事は無いかな?」
「じゃあ、ウチらにかけられた呪いを解くってのは?呪いさえ解ければ、あんなクソ野郎は粉微塵に出来るし!」
「君も分からない人だね?僕は鑑定魔法を使えるって言ったろ?
呪術をかけられてるなら、状態異常として鑑定で分かるけど、君は状態異常になっていない。つまり、君は呪われて無いんだよ」
レジーの言う事は間違いないだろう。恐らく、彼女らはヨシュアの謎スキルによって、相当に強化されていたのだろう。
彼女らがヨシュアのスキルで超強化されていたのであれば、時間干渉の魔導具で元に戻す事は不可能だ。
スキルでの強化は、常時ヨシュアのスキル対象にならなくては意味が無いからな。
「じゃあ良いわ。アンタらの手伝いなんてしねえし」
「ヨシュアのスキル程強力じゃないけど、君らにある程度の力を与える事は出来るよ。
見た所、君は中級魔法メインでしか戦えないみたいだね?しかも、魔法発動が遅い。
君に半分魔族の体になる覚悟が有るなら、上級魔法をスムーズに発動出来るくらいにはなるかな」
「上級魔法を使える程度じゃ、全然話にならねーし。ウチは前まで超級魔法をバンバン打てたんだから、それくらいに戻して貰わねえと無理」
「あのさぁ、いい加減に現実を見なよ。
君は中級職の魔導師相当の実力しか無いんだよ。しかも相当訓練を怠ってる。
君みたいな並以下の女を、賢者にまで高めたヨシュアが規格外であって、それをリゾンドウに求めるな。彼だって僕らと同じ人間なんだ」
レジーのど正論に、元賢者の女は反論が出来ないようだ。レジーの言葉を真摯に受け止めて、身の程を弁えて貰わなくては、協力者として仕事を任せる事は出来ない。
「さっきから大人しいけど、聖女気取りのプリーストさんは何か意見はあるかい?」
「ほ、本当にあのヨシュアのスキルで、私は聖女になっていたのですか?」
「確実とは言えないけど、その可能性が高いね。
鑑定を使っても君にも呪いはかかってないし、天職をクラスダウンさせる魔法や魔導具なんてある訳無いよね?
ヨシュアの仲間のロリっ子も天職は剣聖と登録されてたけど、僕と戦った時は剣聖とは思えない程強かった。
攻撃魔法を釣瓶打ちしたのに、かすり傷1つ負わせる事が出来なかったんだ。
先日偵察に行った時、ロリっ子は僕と戦った時以上にパワーアップしてたし、ヨシュアが仲間を強化しているとしか考えられないかな」
「だとしたら…私はとんでもない過ちを?
どうしましょう…今さらどんなに謝ってもヨシュアは…いえ、ヨシュアならきっと許してくれる筈…でも…許してくれなかったら…」
元聖女だったサーシャという女はレジーの推論を聞くと、何やら独り言を呟いてアジトからふらふらと出て行ってしまった。
追いかけようかとも思ったが、あの様子では何を言っても無駄だろう。
「お友達は勝手に出て行っちゃったけど、君はどうする?」
「仮にアンタの話が正しかったとして、ヨシュアは仲間を強化している事をウチらに隠してたって事じゃんね?
それって完全な裏切りだろーが!そのせいでウチらはこんな事になったんだから、ヨシュアをブッ殺さねえと気が済まねえし!」
このソニアとかいう女は頭が相当悪いらしい。
本人が自分のスキルの効果に気付いていないという可能性は考えないのだろうか?
しかも、規格外の強化を受けていたなら、ヨシュアのスキル効果に気付いても良さそうな物だが…こんな愚かな人族に陽動役を任せても良いのだろうか?
まぁ、この女の狂気の部分が役に立つ事もあるだろう。要はヨシュアの注意を、この女が引き付ければ良いのだから…
「分かった。俺が出来る事は先程言った通り、君を半魔族化して上級魔法を連発出来る程の強化をする事だね」
「それって、アンタにウチの精神が支配されるって事?」
「いいや。体の構造が変わって魔力量が増えるだけで、精神には一切作用しない。
ただ、この世界の人族が有する天職という物は失われる可能性が高いし、君の見た目も俺たちに近くなるだろう」
「僕は考えるまでも無いと思うよ。
このまま僕らの仲間にならずに帰って、君みたいな並以下に何が出来る?
中級魔法も連発出来るか怪しい程度の実力だし、何より君はお尋ね者だ。リゾンドウは仲間には手厚く接するから、お尋ね者の君にも隠れ家や食糧は用意してくれるさ」
「無論、それくらいのバックアップはさせてもらう。金が必要な事があれば幾らかの融通もつけるし、幾つか便利な魔導具を提供する事も出来る。
ヨシュアへの復讐は仕事を終えてから、限られた力と俺が提供する魔導具を組み合わせてやってくれ」
「分かった、アンタに協力するし。
で、ウチは何をすれば良い訳?」
「今すぐにする事は無い。時期が来た時に、君には王国内のあちこちで破壊活動をして貰いたい。
それまでは隠れ家で好きに過ごしていてくれ」
俺の言葉に、ソニアという女は不機嫌そうな顔で頷いた。
彼女の愚かさには不安があるけど、今は人族の協力者が増えた事を喜ぶ事にしよう。
俺はソニアをユークライン内に有る隠れ家に案内した後、レジーと供に彼の友人が入院している治癒院へと転移した。




