37話 魔族の事情 ②
〈リゾンドウ視点〉
「何だと!SSランクの連中に気付かれたと言うのか!?」
俺はジェミナスの報告を受けて、思わず声を荒げてしまった。
まさか人族の奴らに、ノルドゥヴァリ様の蘇生を気付かれるとは…
「リゾ、落ち着けよ。レジーってヤツは上手くやってんだろ?」
「あ、ああ。レジーは賢い男だからな。今はやり方を変えて、足が付かないようにレベル回収している。
以前に比べて、かなりペースダウンしているけど、彼の回収方法は面倒毎になりずらい。
それよりも、魂力の回収の方を急がないとな。SSランクの冒険者共に介入されると、ノルドゥヴァリ様の蘇生が困難になる。
しかもレジーの情報では、ヨシュア・ワイルダーとその仲間が、近々SSランクに上がるという噂が飛び交っているらしい」
「マジかよ!仲間ってあの小娘もだよな?
あんなヤツらが封印の地に集まったら、ノルドゥヴァリ様復活どころじゃなくなるぜ!?
俺はあんな化け物の相手はご免だからな!」
ジェミナスはエレナという剣士に痛め付けられて以来、どうも日和見がちになっている。ジェミナスがビビるのも無理は無い。
レジーが先日王国に偵察に行った際、かつて一戦を交えた時よりも連中は力を上げていたらしい。レジーをして、まともに対峙すれば瞬殺されると言わしめる猛者達だ。
俺、レジー、ジェミナスの中で、『ミッドナイト・コンバタント』の効果が出ている時のレジーが一番強い。
ヨシュアという男は、あの忌々しい勇者ダーハマ並みの力を有しているかも知れない。
俺はヨシュアの脅威に底知れぬ不安を感じながら、ジェミナスの拠点を後にした。
最早我々の力だけでは手詰まりだ。レベル回収は順調だが、ジェミナスの方が遅々として進まない。
ジェミナスが派手に動けば、冒険者ギルドという組織が動く可能性が高い。
ギルドという機関は世界的に展開しているらしく、高ランクの冒険者は国を超えて派遣される事はザラだという。
ヨシュアに動かれれば、その時点で全てが終わる。
せめて、レジーのように戦闘力の高い協力者が何人か必要だ。
俺は隠蔽魔法を自身にかけて、ジェミナスの拠点が有る王国の辺境都市サイードの市街地を歩いていると、裏路地の方から人族の喧しい声が聞こえて来た。
「は、離せし!テメエらマジ殺すかんな!」
「ヘッヘッヘ!威勢の良い女だぜ!おい、さっさとブチ込めよ。俺も暫くご無沙汰だから溜まってんだ!」
「分かってるって!お、コイツ濡れてんぞ!とんだビッチだぜえ!」
「あなた達!こんな事をして後悔しますよ!私達のバックには権力者が付いているんですから!」
「おう、コッチの姉ちゃんはバックでやって欲しいらしいぜ!」
「おっしゃ!姉ちゃん、ケツ向けろ!オラァ!」
「かっかっかっ!俺は最後で良いから両方とやるぜぇ!」
どうやら2人の女を、5人の男どもが手篭めにしようとしているようだ。
この世界の人族どもは我々を悪魔だの魔族だのと呼ぶが、我々は同胞にこんな醜悪な仕打ちはしない。多少姿形が他と違うからと言って、多種族に攻撃を仕掛けるような事もしない。
人族どもの方がまるで悪魔ではないか?
俺は人族の愚かさを目の当たりにして、思わず呆れてしまった。
俺には人族どもの内輪揉めなど関係ないので、裏路駐から立ち去ろうとした時だ。
「ああクソ!コレもあのクソったれヨシュアのせいだ!テメエらを殺して、ヨシュアもブッ殺す!」
口調の悪い女から、ヨシュアという言葉が飛び出した。彼に相当な怨みを持ってるらしい。
この女達は協力者になるかも知れないな。
「おい、終わったならさっさと替われや。姉ちゃん、俺のマグナムはそいつなんかよりスゲえ…グボエッ!」
「ど、どうした!プレイマー…ぼひゅんっ!!」
「な、何だ?何が起き…ひげえっ!!!」
「うぁあ!ゆ、ゆうれひぃぃい!!!」
「ま、待て!俺は犯ってね…えがぼっ!!」
隠蔽魔法は解かずに、5人の下衆な男達に強烈な一撃を見舞ってやった。勿論殺してはいない。ただ気絶させただけである。
「な、なに?クソどもが急に……」
「これは…神のご加護でしょうか?」
女達が呆気に取られている。魔力の動きで俺の立っている場所など特定出来そうなものだが、彼女らはやたらと周りをキョロキョロしている。
戦力は期待出来そうに無いが、ヨシュアの情報は聞けるだろう。
俺は彼女らの目の前に移動して、隠蔽魔法を解除した。
「な!ま、魔物、やべえ、どうする!?」
「違います!魔族です!あああ…神よ!お助け下さい!」
「落ち着いてくれ。俺は君たちに危害を加える気はない。君たちは我々を誤解している。
姿形は違うが、君らと同じ人間なんだ」
俺は2人に両手を上げて見せて、害意の無い事を示した。2人はまだ警戒を解いてない様子だ。
人族の敵愾心というのは中々厄介だな…
「あ、アンタがウチらに危害を加えねえ保証なんてどこにもねえし」
「ま、魔族の言う事なんて、信じられる訳が無いでしょう!」
「おいおい、俺は君達が襲われている所を助けたんだよ?殺すつもりなら、わざわざ助けたりしないさ。
見なよ、リーダーっぽい男の懐から短剣が見えてるだろ?コイツらは女性を手籠めにした後、有無を言わさずに殺しているんだろうね。
柄の所に人の血が付いてる所を見ても、コイツらが人を刺した事は明らかだと思うけど?」
俺は大の字に倒れている男を指差して、奴に害意が有った事を伝える。
若干2人の警戒は解けたようだけど、まだ完全には信じて貰えてないようだ。命の恩人に礼すら言えないとは、本当に人族の精神構造はどうなってるんだろうか?
「まぁいいや。そいつらが目を覚ます前に、さっさと服を着なよ。早くここからズラかろう」
俺は2人にそう告げると、転移魔法陣を展開した。
2人は服を着て、恐る恐ると言った感じで転移魔法陣に乗った。
2人と一緒に転移した先は、ユークライン連邦国の俺のアジトだ。2人は転移魔法に驚いたのか、言葉を失ってアジトを見渡した。
「先ずは君らの偏見を解いておきたい。君ら人族に伝わる、魔族がこの世界に侵略して来たという伝承は大嘘だ。
我々は元々別次元の世界に住んでいたのが、次元の歪みに飲み込まれて、この世界に転移されてしまっただけだ。
この世界の人々を滅ぼそうという気なんて更々無い」
「そ、そんなデマを信じられるかっつーの!」
「ソニアの言う通りです!アナタ達に滅ぼされた国が実際に有るんですよ!
そこは未だに草木一本生えない、死の荒野と化しているのです!」
「はぁ、この世界の人族は一体どんな神経をしているんだろう?子孫にそんなデタラメを伝えているのか…
君らの言う死の荒野は、勇者ダーハマの超魔法で消し炭にした国家の跡地だよ。
君らはあの男を英雄視しているけど、我々にしてみればただの異常者だね。敵味方構わず、嬉々として極大攻撃をぶっ放して回るんだ。
『おお、やべえ』とか『全員死ね』とか言って笑いながらそこいらを破壊して回るアイツの方が悪魔だよ」
「何?今度は勇者ダーハマを貶めるつもり?やっぱオメエは信じらんないわ」
「私達の英雄を口汚く罵るとは、恥を知りなさい!」
ダメだな…やはりレジーのように物分かりの良い人族は極少数のようだ…
「まぁ良いや。俺は君らがヨシュア・ワイルダーという冒険者に恨みを持ってるみたいだから、彼の話を聞けないかって思って助けただけだから。
君らの事情によっては、君らを手助けする事が出来るかも知れないし」
「な、アンタ、ヨシュアを知ってる訳?」
「でも、私達の知っているヨシュアと同一人物とは限らないですよ?彼の家名なんて聞いた事が有りませんし」
「それな。つか、ワイルダーって家名どっかで聞いたような…」
「俺の言うヨシュア・ワイルダーは、救国の英雄と呼ばれている、"シュガー"・レイ・ワイルダーの息子さ。
俺の仲間の話では、白銀の髪をした美男子らしい」
「そうだ!救国の英雄の名前じゃんね!つうか、あんなゴミが英雄のムスコな訳無くね?」
「でも、あの男は顔立ちだけは整ってますし、白銀の髪をしてますよ?」
どういう事だ?あんな化け物をゴミ呼ばわりする程、この女達が強いとは思えない。やはり、同名の人違いだろうか?
しかし、この世界で白銀の髪の人はそう多くない筈だ。
「俺の言うヨシュアという男は、剣士で恐ろしく腕が立つ男だ。俺の見立てでは、勇者ダーハマを凌ぐ程強力な力を持つ」
「は?あんな雑魚が初代勇者と同格?
ぜってえ人違いじゃんね」
「確かに…ですが分かりませんね。剣士でヨシュアと言う名の冒険者はそう多くないのでは?
しかも、ギルドでヨシュアが英雄の息子という噂が流れていたような…」
どっちだ!2人の意見がまとまって無いので、判断がつかん。
「まぁいい。念のため、君らの言うヨシュアの話を聞かせてくれ。
話が終わったら元いた街に君らを送り届けよう」
「マジでウチらに何もしないワケ?」
「疑うならさっさとここから出て行けば良い。ここはユークラインの首都だから、君らがいた街までは魔導飛行船で8時間程で戻れる筈だ」
「ざけんなし!ウチら魔導飛行船に乗る金なんて持ってねえわ!解放するなら帰りの交通費よこせや」
「君は俺を信用してないんだろ?
信用してない相手から交通費を集るとか、どういう神経をしているんだい、君は?」
「分かりました。私達の知っているヨシュアの情報を教えましょう。
その代わり、必ず私達をあの街に帰して下さい」
「ああ、約束は必ず守る」
漸く女達はヨシュアの情報を明かしてくれた。
しかし、彼女らの言うヨシュアはうだつの上がらない冒険者で、魔物を討伐に行く際もチョコマカと動いてコソコソするだけの小者だという。
やはり、同名の人違いなのだろうか?
彼女らの話を聞き終えて、俺は落胆してしまった。
「リゾンドウ、レベルを……何だい、その女の人達は?」
女達を送ろうとした時、レジーが突如転移魔法で現れた。レベル回収で何かトラブったのだろうか?
「ひぃっ、また新しい魔族…」
「やはり私達を騙したんですね!」
「へ?君たちが何を言ってるのか分からないけど、僕はちゃんとした人族だよ?」
レジーはそう言うと、目深に被ったフードを取って女達に顔を見せた。まぁ、偽装の魔導具を使っているので、素顔を晒した訳では無いんだが。
「ああ。彼女らはヨシュアという冒険者の知り合いだと言うから、話を聞きたくてここに招待したんだ」
「リゾンドウ、前にも話しただろ?ヨシュアと、『豊穣の翠』には関わるなって。
あんな連中に関わってたら、命がいくつ有っても足りない」
「アレ?『何たらの翠』ってどっかで聞かなかった?」
「確か、クズのアーロンが『豊穣の翠』にヨシュアが加入したとか何とか…」
女達から気になる言葉が聞こえた。ヨシュアは彼女らの仲間だった可能性が高い。
「その子達に聞かなくても、僕はヨシュアの有力な情報を幾つか持ってるよ。
ヨシュア関連で一番興味深いのは、彼が入ったパーティーのメンバーは飛躍的に実力を上げてるって事だね。
彼が最初に加入した『宵闇の戦乙女』は、落ちこぼれの集まりだったのに、彼が加入した途端急激に力を付けたらしい」
「ちょ、ウチらは落ちこぼれじゃねえし!」
「そ、そうです!私達は自分の実力で、パーティーをSランクまで押し上げたんです!」
女達がレジーの言葉に食いついた。やはり、彼女らはヨシュアの元仲間で間違いないようだ。
だが、何故彼女らのヨシュアの評価が極端に低いんだ?
「そう?それにしてもおかしいんだよねえ。
ヨシュアが加入して一気にパーティーランクが上がって、ヨシュアが脱退した途端『宵闇の戦乙女』は連続で依頼に失敗している。
っていうか、今の話から見るに、君らってギルドのお尋ね者のソニアとサーシャだろ?」
レジーの言葉に2人の女は気まずそうに顔をふせた。
どうやら俺は、とんでもない爆弾を抱えてしまったらしい。




