33話 一方『宵闇の戦乙女』は ⑥ 〜終幕〜
「悪いんだけど、『宵闇の戦乙女』の解散届けを出して来たから」
アマンダの病室にやって来た元賢者のソニアが、苛立った様子でアマンダに解散手続きを終えたと告げた。
ソニアの頭部と左膝に包帯がグルグル巻きにされており、右腕は3角帯で吊られている。
ヨシュアの母・アグネスに半殺しにされたのだ。
額には中級治癒魔法でも傷が塞がらない程大きな裂傷が残り、右の鎖骨は3箇所も亀裂が入り、左膝は重度の火傷を負っている。
他にも体のあちこちに裂傷や火傷を負っており、襲撃から7日が経っても、鎮痛剤とアンチペイン無しには激痛で夜も眠れない。
「そう…アタシもこんなだし仕方ないけど、解散する前に一言くらい、アタシに相談してくれても良いんじゃない?」
アマンダも解散は予期していたものの、リーダーの自分に何の断りも無しに解散の手続きをされた事に少なからずショックを受けた。
「うっせえ!うっせえわ!
コッチは変な女に襲われて殺されかけるわ、ギルドに呼び出し食らって、いつ頃活動再開出来るんだとかしつこく聞かれるわ、マジで散々な目に遭ってんだ!
ギルドからしつこくされて、これ以上アンタの事を隠し通せる訳がねえだろーが!」
ソニアは怒りを露わにして、鬱憤をアマンダにぶつけるように怒鳴り飛ばした。
実はソニアの言葉には偽りが有る。
事の背景には何が有ったのか?
実は昨日ギルドからの緊急呼び出しを受けたのは、アマンダだけであった。
当然、寝た切りのアマンダがギルドに行く事は出来ないので、運良く目立った場所に怪我を負っていないサーシャが本人の代わりにギルドへ向かうと、何故アマンダが来ないのかという事を執拗に問い詰められた。
それまでアマンダが再起不能という事実はギルドに隠していたのだが、これ以上誤魔化し続ける事は出来ないと悟ったサーシャは、事実を明かしたという次第である。
この緊急呼び出しは、エドワード達『黄金世代』の報告を受けた事で、事態を重く見た冒険者ギルド上層部が招集をかけたものだった。
ギルドがアマンダに何を伝えるつもりだったのかと言うと、『宵闇の戦乙女』の強制解体である。
元々ギルドは、サーシャとソニアの事を全く評価しておらず、寧ろ問題行動の多い厄介者として見ていた。
ヨシュア在籍時の『宵闇の戦乙女』のギルド内評価では、ヨシュアが最も高く、次いでアマンダだった為、ヨシュアがパーティー脱退の手続きをした際、受付嬢と管理職の男が全力でヨシュア脱退を引き留めようとした。
しかし、結果は現状の通り。
ヨシュアが離れた『宵闇の戦乙女』は次々とクエストに失敗するようになり、遂には無謀なイレギュラーダンジョンの調査依頼に失敗して、長期休暇を取ると言い出した。
そこにエディによってもたらされた、魔亜神ノルドゥヴァリ復活を示唆する報告。
魔亜神が復活した場合の対抗手段として、後天的に勇者の天職にクラスアップしたアマンダが筆頭に挙げられた。
そこで、彼女のパーティーを強制解体して、ソニアとサーシャをアマンダから引き剥がし、SSランクの『黄金世代』がフォローして、アマンダの実力向上を図ろうというのが、ギルド上層部の結論だった。
しかし、アマンダは先の無謀なクエスト挑戦によって、冒険者として再起不能になったという。
サーシャから事実を聞かされたギルド職員は、サーシャに応接室で待機するよう命じて、慌ててギルド長に報告に向かった。
その只ならぬ気配から、重い処分が下されると感じたサーシャは応接室を抜け出し、予め用意していたパーティーの解散届を急いで受付に提出して、ギルドを飛び出した。
サーシャにギルドからの処罰の可能性があると聞かされたソニアは、王都から出る為に宿泊している宿をすぐに引き払い、アマンダと別れを告げる為に治癒院へとやって来たというのが事の経緯である。
2ヶ月前までは魔導協会から多額の特別手当を支給され、将来のエリートと持て囃されたソニアが、今や魔導協会からの特別手当を断ち切られ、ギルドからはお尋ね者扱いを受ける身となった。
当然、彼女は精神的に追い込まれており、アマンダの容態を気遣う余裕は微塵もない。
アマンダのリーダーとして当然の主張に対して、逆ギレで返すという今の状況になった訳だ。
「は!?何急にキレてんの?
つーか、アタシの事を何で隠してるワケ?そんな事アンタらに頼んでないよね?」
「だから、うっせえっつったろうが!何度も言わせんなし!
ああ!イラつくわ!コレも全部変態ヨシュアのせいだろーが!クソ!マジアイツは殺さねえと気が済まねえ!」
ヒステリックに喚き散らしたソニアは、まだイライラが収まらない様子で、左手親指の爪をギリギリと噛み出した。
「ちょっと!ヨシュアを殺すとかふざけんな!
散々アイツに迷惑かけておいて、更に何アホな事言ってる訳!?
つーか、ヨシュアがまだウチに居た時、アタシに隠れてお前らアイツに何してた!?」
「何?アンタあのクソ野郎を庇ってんの?
つーか、何で昔の事を今さら持ち出したワケ?」
「ダンジョンに行く前にヨシュアと偶然会ったけど、アイツかなりアタシらにムカついてた。
確かにパーティー追い出されたからムカついて当然だけど、今のパーティーで充実してるって言ってるのに、凄く根に持ってる感じだったわ。
アンタ本当にアイツに何もしてないの?」
アマンダはヨシュアと再開した際に感じた小さな違和感について時々考えており、ソニア達に何かされていたのではと考えていた。
実はアマンダは、ソニア達がヨシュアに殴る蹴るの暴行を加えていた事は知らなかったのだ。
アマンダにはリーダーとして参加しなくてはならない会合や、ギルドでの様々な手続きが有り、パーティーハウスを空ける事が多かった。
後半の2年半はヨシュアに罵声を浴びせていたが、暴力を振るうような事はしていない。
「やっぱあの野郎、ウチらの足を引っ張ってたんだ。
マジで殺すしかねえな。ねえ、アイツと何処で会った?」
「は?質問しんのこっちなんだけど!
っていうか、ヨシュアは別にアタシらの足を引っ張るような事してねえし!
ソニア、マジで頭冷やしなよ」
「うっせえわ!
つかアンタ、あんなクソ野郎と裏でコソコソ会ってたんだ?
はぁ…先に裏切り者のお前を殺すべきだな」
ソニアはそう言うと、持っていた魔法杖に魔力を込め出した。
身動きの取れないアマンダに、なす術が無いかと思われたのだが…
ビーーーーッ!ビーーーーッ!ビーーーーッ!
突如、部屋に大きなブザー音が鳴り響いた。
アマンダのベッドに組み込まれていた魔導具が作動したのだ。
この魔導具はいわゆるナースコール的な物で、身動きが取れないアマンダでも、魔力を流す事で作動させる事が出来る。
ソニアの殺気をいち早く察知したアマンダのこの機転により、ソニアは攻撃魔法の発動を諦めざるを得なかった。
「チッ!テメエもヨシュアもぜってブッ殺すかんな!」
ソニアは捨て台詞を吐き捨て、急いで病室を出て行った。
入れ違いに看護師2人が入って来て、何か有ったのかとアマンダに尋ねたが、アマンダは間違えて作動させたと言い、ソニアの凶行は伏せたのだった。
「はぁ…何でこんな事になっちゃったんだろ…ソニア達も昔はヨシュアの事を慕ってたのに…」
アマンダの無事を確認した看護師達が出て行って、1人になったアマンダはそう呟くと、薄っすらと涙を流して昔の事を思い返した。




