32話 ケーキパーティー時々波乱
「いやぁ、2人ともすっかり見違えたなぁ。
特にヨシュア、お前何をどうすればそんなに強くなるんだよ?
その魔力から考えても、俺より強いんじゃないかい?」
エディさんが口の周りにクリームを付けたまま、興奮気味に俺たちを褒めてくれた。
あの後再開を懐かしんだ俺たちは、せっかくなので一緒に『ガミエラ』にお誘いした所、エディさんと一緒にギルドに来ていた『黄金世代』のリリアさんと共にスイーツパーティーに参加してくれた。
…が、この人ホントに容赦ない。
俺の奢りだと聞いた途端、ケーキや焼き菓子、特製パフェ等を頼みまくっては片っ端から平らげている。
「俺のスキルレベルが上がったんです。
こちらのラフィ達のおかげで、俺も一端の実力になれたんですよ」
「そうそう、エディの兄貴、聞いてくれや!ヨシュアの兄弟ときたら傑作なんだぜえ!
何と、ラフレシアの姐さんのパンティを…」
「ハルトさん、おやめなさい!その事は絶対に口にしてはなりません!」
ハルトがついつい口を滑らそうとしたが、ラフィが鬼の形相でハルトを一喝した。
恋人の俺でも怒ったラフィの迫力にはビビってしまう。ハルトはもしかしたらお漏らし寸前かも知れない。
「ははは。何か変態チックな感じがするけど、深くは聞かないさ。
それにしても、ラフレシアさんやエレナちゃん、シンシアさんと、よくもまあこんな実力者が集まったもんだなぁ。
この3人に加えてヨシュアだろ?『豊穣の翠』だったら、今すぐSSランクに飛び級で昇格しても良いくらいなのに」
「癪だけどエディに同意。
これだけ実力者揃いのパーティーならギルドは特例で昇格させるべき」
エディさんの意見に嫌そうに同意するリリアさん。
リリアさんは槍神の天職持ちで、槍術の天才だ。抑揚の無い話し方をするので冷たく見えるけど、エディさん曰く仔猫の動画を見せるとめっちゃデレるらしい。
「有り難いお言葉ですけど、俺たちは正式な段階を踏んで災害指定特区へのチケットを手に入れたいんです」
「勿体ないなぁ。『ヒャッハーズ』も相当力を付けてるんだし、この2つのパーティーが指定特区に来てくれたら俺たちも随分と楽になるんだけどねぇ」
「兄貴の気持ちはありがてえが、俺らも兄弟と同じで特別扱いなんてゴメンだぜえ。
テメエの力で権利を掴み取るってえのが、冒険者の醍醐味ってもんだからな」
「2人とも立派。それでこそウチが目を付けた冒険者」
リリアさんに褒められると、とても嬉しい気分になる。誰にでも優しいエディさんは、ややもすると過大評価じゃないかって思うけど、普段言葉少ななリリアさんは滅多に他人を褒めないので、ストレートに心に響く。
「でも、ウチが特に関心したのはシンシアちゃんとグラフ。
2人は相当ストイックに鍛錬を積んでる。この店に来てからもずっと魔力のトレーニングを怠ってない。
間違いなくこの2人は、冒険者として最高峰に到達する逸材」
ほほう、流石リリアさんは分かってらっしゃる。シンシアは暇さえ有れば、魔力を圧縮させるトレーニングを、グラフは素早く魔力を属性変換させるトレーニングを行っている。
「いえ、わたしなんて、まだまだダメダメなんです。
天才のラフィとエレナ、人外のヨシュア様の役に立てるようにもっともっと努力しないと」
「あっしも、まだまだ雑魚中の雑魚でさぁ。アニキの右腕に相応しい実力にはまだ全然達してやせん」
むう。リリアさんのお褒めの言葉に表情を緩めるどころか、2人とも逆に締まった表情になっている。
さっきから話なんかそっちのけで「ウマウマなの〜!」を連呼して、ケーキにぱくついているどっかの幼女とは大違いだ。
俺はついつい、幸せそうにケーキを食べるエレナの頭を撫で撫でした。
エレナは一旦ケーキを食べる手を止めて、此方を見てニッコリとする。
うん、やっぱり仕草がステフにソックリだ。口元にクリームを付けてる辺りもね。
俺はナプキンでエレナの口元を拭いてあげた。
「はっはっは。『氷の女帝』の褒め言葉に、謙遜する人なんて初めて見たよ」
エディさんは呑気に笑っているけど、俺もシンシアとグラフは後世に名を残す冒険者になると踏んでいる。恐らくハルトも同じ気持ちだろう。
「それにしても、まさかヨシュアとハルトが兄弟分になっているとは思わなかったよ。
2人とも俺が目をかけた有望株だから嬉しいねぇ」
「ああ、最初はヨシュアの兄弟の事は、イケメンを鼻にかけた嫌味な野郎だって思ってたんだけどよぉ、話してみるとコレがまた豪胆な漢で、すっかり兄弟の漢気に惚れ込んじまったんだ」
「確かに最初はお互いバチバチだったよな。
まぁ、今となっては良い思い出だけどね。それよりエディさんは何で急に災害指定特区から戻って来たのさ?
確か戻って来るのは半年先じゃなかった?」
俺は雑談を切り上げて、ずっと気になっていた質問をエディさんに投げかけた。
「まぁ、君らなら2〜3年で指定特区に来るだろうし、話しても良いかな。ただし、絶対に他に漏らしたらダメだよ?」
急に真剣な表情になったエディさんを見て、俺とキョーダイは黙って頷いた。
「実は指定特区の奥地に、伝説の魔王…正確には『魔亜神ノルドゥヴァリ』か。その魔亜神が仮死状態で封印されているんだ。
封印自体は問題無いんだけど、最近仮死状態の筈の魔亜神の状態に少し変化が有ってね。復活の兆しかも知れないので、詳細なデータを取ってギルドに報告に来たんだよ」
エディさんから飛び出したのは、間違いなくこの世界の平和に関わる重要案件だった。
『魔亜神ノルドゥヴァリ』は約一千年前、魔界からこの世界を侵略にやって来た恐怖の魔王と呼ばれる存在で、異世界から召喚した初代勇者の"ダーハマ"こと、コーイチロー・ハマダが死闘の末に滅ぼしたと伝承されている。
魔亜神が仮死状態なんて初めて知ったし、そんな化け物が復活するかも知れないだなんて由々しき事態だ。
後天性勇者のアマンダでも、対応可能なんだろうか?
「そう不安になる必要は無いぞ。異変と言っても微々たる変化だし、今すぐに復活するような物でも無いんだからな」
「いや、そうは言っても、警戒はしておいた方が良いと思うけど」
「まぁ、ヨシュアの言う通りだとは思うけどねぇ。
肝心の勇者のお嬢ちゃんの所はゴタゴタしているだかで、今あのパーティーは休暇中らしいし。
そもそも、ヨシュアがあのパーティーを出て行かなければ、変なゴタゴタも無く今も上手くやってたんじゃない?」
なるほど、クソビッチパーティーはやっぱりゴタゴタしてるんだな。アーロンが1ヶ月ちょっとで脱退するくらいだし。
休暇を取って新メンバーの募集でもするのだろうか?
「エドワードさん!ヨシュア様は何も悪くないのですわ!
愚かな女勇者どもが、偉大なヨシュア様を追放したのですから!」
「お、おおう…そ、それは申し訳無い。
そうか、あの嬢ちゃんがヨシュアをねぇ。アイツは破格の才能が有るし、無類の努力家なのに勿体ないねぇ。
ヨシュアと訓練を続ければ、あの勇者ダーハマすら凌ぐ強者になると思うんだけどなぁ」
エドさんは突如顔色を変えて食ってかかったラフィにたじろぎながらも、アマンダの事を残念そうに語った。
確かにあのクソビッチは才能に溺れず、かなり努力をしていたと思う。ただ、その努力は一撃の破壊力を上げる事に全振りしてしまう残念なものだけれども。
アイツから離れて思うに、恐らくアマンダは災害級魔物や厄災級に対して有効な攻撃を模索していたのかも。
にしても、全振りは極端過ぎるな。
「いやぁ、それにしてもこんな綺麗どころに囲まれてるヨシュアが羨ましいねぇ。
毎晩3人の美少女を取っ替え引っ替えで、夜も大活躍なんじゃない?」
「な!し、してねえし!取っ替え引っ替えなんて興味ねえし!
つうか、ラフィは俺のス、ス、スケなわけで、大事なス、ス、ス、スケにそんな事はしねえし!」
「ぷぷっ!スケって何だよ?
ヨシュアってモテ顔のくせに、女性関係は奥手なんだねぇ。
せっかくめちゃくちゃ可愛い彼女出来たんだから、もっと堂々とすれば良いのに」
何だかエディさんにからかわれてる気がする。
ダメだな。恋愛系の流れを断ち切らねば、隣のリリアさんまで俺を弄ろうとウズウズしてる。
「あ、今さらなんだけど、ハルトのキョーダイとエディさんっていつ知り合ったの?
2人が知り合いだって分かって地味に驚いたんだけど」
「うっ、兄弟、痛い所を突いて来るじゃねぇか」
「ハハハハハ!ハルトはねぇ、4年前に俺に決闘を挑んで来たんだよ。
あの時のハルトはメチャクソ弱かったなぁ」
「うん。ハルトは弱いくせにキャンキャン吠えるヤツ」
「ちょっ、兄貴、リリアの姐さん、勘弁してくれよ。ウチのファミリーも揃ってんだからよぉ」
マジか!俺は二つ名を轟かせて、向かう所敵なしのハルトしか知らないから以外だったな。
「あの頃はウチのパーティーが、AランからSに上がるかどうかって時期でね。
俺も相当ナーバスになっててさ、そこにロン毛でガリガリだったハルトが…」
「うぁぁあ!兄貴、そこまで詳細に語るなよ!アレは黒歴史だぜぇ!?」
キョーダイが取り乱すなんて珍しい…ってか、コイツロン毛だったの?今の厳ついスキンヘッドからは想像もつかねえ…
ヤバい、笑いが込み上げて来る。
「まぁまぁ、良いじゃないか。でね、俺にメンチを切ってこう言ったんだ。
『俺は誰にも負けた事がねえ。テメエみてえな偽物野郎は2秒で捻り潰してやる』ってね。
で、実際訓練場で戦ってみたら、2秒で白目剥いてんの!あの前フリからのオチは見事だったなぁ」
「うがぁぁあ!もう良いだろが!昔の事だ、昔の!
それより、ヨシュアの兄弟と兄貴はいつ、どういう風に知り合ったんだよ!?」
そんな恥ずかしい過去が有ったとはねえ。そりゃあ話の矛先を俺に向けたくなるよね。
「俺は確か1年半くらい前かな?Sランクダンジョンだったっけ?」
「ああ、そうそう。あの頃のヨシュアってめっちゃ暗いヤツでさぁ。
ぼっちでダンジョン探索してたんだ。
で、ウチらはもうあの時にはSSランクになってて、後輩のAランクパーティーの付き添いで、ウチのパーティーもダンジョンに潜ってたんだよね」
「そう。確かあの時、エリックがヨシュアと揉めてた。
アレは何で揉めてたの?」
「ああ、エディさん達の『黄金世代』って、あの頃チョーシこいてたじゃない?
で、エリックさんが魔法職のくせに索敵魔法がおざなりで、魔物のバックアタックに気付いてなかったんだよ。
で、俺が魔物をサクッと倒して、エリックさんに気を抜くなって注意したら、あの人が何かやたら突っかかって来たんだよ」
「そうだそうだ!で、エリックがヨシュアにボコボコにされてさぁ。
だからエリックの奴、未だにヨシュアの事が大嫌いなんだよ!ハハハハハ!」
いや、エディさん。笑い話では無いんだが…
っていうか、俺って未だにエリックさんに嫌われてるんだ…めっちゃショックだ…
「エリックって、あの『爆炎の大魔導師』の事!?」
シンシアが急に話に食いついて来た。
エリックさんの事を知ってるんだな。まぁ、SSランク冒険者だから当然か。
「そうそう、そのエリックさ。
SSランクのエリックがAランクの小僧に手も足も出ないんだよ!?
アレは皆んなで笑ったよなぁ!アハハハハハ!今思い出しても笑えるよ!」
「イヤ笑ったのはアンタだけ。ウチとゲオルグとタチアナはあの時ビックリして声も出なかった」
「そうだっけ?
まぁいいや。それで、白目剥いたエリックをヨシュアがいつまでも蹴りつけるもんだから、俺が止めに行ったんだけど、コイツと来たら俺にまで斬りかかって来るんだもん!
めっちゃ笑える!アハハハハ!」
エディさんは笑えない話なのに、腹を抱えて笑っている。
こういう所は全然変わってないな。
「ヨ、ヨシュア様鬼畜過ぎ!で、エディさんも鬼のヨシュア様にボコボコにされたの?」
シンシアが俺を鬼畜呼ばわりする…って言うか、俺ってそんなに凶暴だったっけ?
ソロでダンジョンに潜ってた時は、クソビッチどもからストレス受けまくりで、いつも殺気だってたからなぁ…
「まさか、俺の天職は剣神にクラスアップしてたんだよ?Aランクの小僧相手に遅れは取らないさ。
シンシアさんは面白い事を言うなぁ」
「ウソ。エディの方が劣勢だった。ゲオルグがあと1分止めに入るのが遅かったらエディはヨシュアに斬り殺されてた」
リリアさんの言葉に、皆んな言葉を失ったようだ。
俺の記憶では引き分けだったと思うんだけど。
「は、はははは。それはリリアの記憶違いじゃないか?
どちらかと言えば、俺の方が押してたよ。ホントリリアハジョーダンキツイナー。アハハハ」
まずいぞ。エディさんが乾いた笑いをしている。
温厚そうに見えて、エディさんはめちゃくちゃ負けず嫌いだ。
何とか穏便に納めなくては。
「お、俺の記憶でも、あの時は俺がエディさんに押され気味だったかと」
「ヨシュア嘘は良くない。エディが優勢だったらゲオルグは止めに入らない。
あの頃のヨシュアは狂犬。あのままだとエディが殺されるからゲオルグが止めた」
ちょっと、何でリリアさんは空気を読まないかなぁ?
おかげでエディさんが、ギリギリと奥歯を噛み締めておられる。
「い、いやアレは…そう!エディさんはダンジョン探索でかなり疲弊してたから。ね?」
「ハ、ハハハハハ!そうだった!俺は相当疲労が溜まってたんだよ。
めっちゃ体があちこち痛かったもんなぁ」
「え、でもそれっておかしくない?
どう考えても、付き添いのエディさんより、ソロで探索してたヨシュア様の方が疲労溜まってるよね?」
シ、シ、シ、シンシア〜!空気を読めよ!
あ…エディさんの目が座った…
「ははははは…ヨシュア、ギルドの訓練場に行こうか。
皆んなの前で俺が優勢だった事を証明しなきゃ」
「いや、ちょっと、エディさん!皆んなでケーキパーティーしてるのに、それは無いでしょう?
所詮は昔の事だし、証明とか意味分かんないよ」
「うん。エディは今のヨシュアと戦わない方がいい。
99.9999%ヨシュアに瞬殺される」
リリアさーーーーーん!火に油をブチまけないなでくれーーーーーい!!!
結局エディさんを宥めるのに、小一時間の説得と追加で12個のケーキを要し、本日のお会計は62万4千ゲスとなった…




