31話 シンシアとスイーツとSSランクと
「もっと速く!ねえ、ヨシュア様!もっと、もっと速くしてぇっ!」
ギルドにほど近い河川敷にシンシアと2人きりでやって来た。
人気の無い河川敷にシンシアの声が響いているが、別に疚しい事はしていない。
俺が川に向かって投げる小石を、シンシアが魔力矢で射抜くという訓練をしているのだ。
かなりのスピードで小石を放って居るのだが、シンシアの矢は悉く小石を粉砕して行く。
「めんどくさいから、同時に何個か投げて!」
俺はシンシアの指示通り、掌に5個の小石を握って、力一杯投げつけた。
ちゅどどどどどっ!!
5個の小石は川面に着く前に、全て粉微塵になった。
先日のキッスによって更に魔力矢のレベルが上がったシンシアには、この離れ業ですら準備運動にもならないようだ。
「凄いな、シンシア。昔、父さんの知り合いの弓聖と訓練した事が有るけど、その弓聖でもシンシアの足元にも及ばない」
「ヤダ〜!わたしなんて全然ヒヨッコだよ。
じゃあ、次はわたしに小石を投げて貰って良い?攻撃を躱しながら川の中の魚を射抜く練習をしたいの」
雑談をする間も惜しいというように、シンシアは次の訓練の指示をして来た。
このストイックさは俺も見習わなければ。
俺は早速シンシアに向けて小石を投げる。
シンシアは最小限の動きで小石を躱しながら、素早く矢を射て行く。
パシュッ、パシュッ、パシュッ!
東部に穴が空いた3匹の川魚が川面に浮かび、そのまま流されて行く。俺は小石を投げるスピードを上げるが、シンシアに擦りもしない。
彼女がこれ程素早く動き続けられるのは、基礎の筋力トレーニングやハードな走り込みを続けているからだろう。
小一時間程小石を使った訓練を行った後は、俺とシンシアの模擬戦だ。
怪我を負わせる訳にはいかないので、攻撃の魔力出力は極力抑えるが、それ以外は実戦さながらの動きで行う。
実はシンシアとの模擬戦が一番俺の訓練になる。
「今日はヨシュア様にヘッドショットを決めれる気がするんだよね」
「ヘッドショットを許す訳には行かないな」
シュンッ!ガシュッ!
俺の言葉が開始の合図だと言わんばかりに、シンシアの魔法矢が最短距離で眉間に飛んで来た。
魔法剣でギリギリ弾いたが、今のはかなりヤバかった。
下手に駆け引きせずに、どストレートに最速の一撃を最速のモーションで放つという事も、一流同士の対戦では有効だ。
小細工や搦め手が得意な俺が言うのも何だけどね。
シンシアは器用に魔法矢と魔力矢を使い分ける。魔法矢は文字通り魔法の一種で、属性変換した魔力を矢の形にして放出するもの。
これは射程が300m程だが、弓に番えずに発動する為、狙いが読みにくい。
魔力矢は属性変換した魔力をミスリル製の矢に纏わせる物で、通常は弓に番て射出する。
射程は1㎞〜1.5㎞と長い上、威力も魔法矢よりも高いのだが、弓を構えた際に何処を狙って居るのかが読み易い。
しかし、シンシアは…
ボシュッ!ボシュッ!ボシュッ!
シンシアは矢筒から取り出した3本の矢を無造作に放ると、矢が凄まじいスピードで飛んで来る。
この矢は鏃からシャフトにかけて雷属性の魔力で覆われており、ギリギリで躱すと周囲への放電により感電してしまう。
俺は強く地を蹴って、大きく飛び退いた。
「な、何故にただの矢が、あんな勢いで飛んで来るんだ!?強く投げつけてもあんなスピードは出ないぞ」
「へへ〜ん!密かに練習してたんだ〜!
矢筈の部分にだけ圧縮した火の魔力を付与して、爆発の勢いで飛ばしたんだよ」
な、何てヤツだ!
弓使いは弓矢の腕を研鑽する余り、視野が狭くなる者が多い。矢を正確に射る事に誇りを持っているという事なので、それは弓使いとして素晴らしい事だが、シンシアは貪欲に色々な武器の長所をも取り入れる。
恐らく今の技は魔導銃の機構を応用したんだろう。
「素晴らしいぞ!シンシア!やはりお前は圧倒的な努力家だ!
でも、今込めた魔力って、完全に魔物を討伐する為のガチ魔力だよね?俺を殺したいのかな?」
「ヨシュア様に新技をお披露目したかっただけよ。
その証拠に頭を狙わなかったじゃない?」
「成る程ね。いや、本当に感動した!
では、俺も新技を披露しよう」
俺は魔法剣に魔力を込めて、無造作に振るった。放たれた雷属性の魔力撃は、虚空へと消えて行く。
「何?この前使った罠の魔力撃?」
シンシアは警戒して身構えたが、もう遅い。
バチバチィィイン!!!
俺の魔力撃がシンシアの背中にヒットした。かなり威力は絞っているが、シンシアは雷撃の作用で全身をビクビクと痙攣させている。
「ククク…俺の勝ちのようだ…」
バヂバヂバヂィン!!
勝ち名乗りを上げようとした瞬間、俺の全身に電気ショックが疾った。
な、何い!コレは…シンシアの魔法矢か…
◇◇◇◇◇
「いやぁ、さっきのはビックリしたよ。魔法矢に隠蔽魔法を重ねがけしたんだな」
模擬戦は引き分けに終わり、俺はシンシアと土手に腰掛けて模擬戦の感想を話し合っている。
「一発で見破るなんて流石ヨシュア様ね。ヨシュア様のさっきの技も隠蔽魔法?」
「いや、アレは異空間収納魔法の応用さ。魔力撃を収納して、シンシアの背後の空間から放出したんだよ」
そう。俺の新技は異空間収納魔法を融合させたモノだ。例の『ミッドナイト・ランブラー』のように超スピードで動く相手には、俺の魔力撃を当てる事が難しい。
と言うよりも、遠距離攻撃は非常に当てづらい。
ならば、距離を無くしてしまえば?と考えたのだ。
当然この技は容易に発動出来ない。自分の手元で物体を出し入れする事とは比にならない程、魔力や運動エネルギーを収納する事は難しい。
更に、離れた空間に作用させるには、相当な魔力を消費する。
先日のラフィとのキッスでパワーアップしたからこそ、扱う事が出来る技だ。
「サラっととんでもない事を言うわね。魔法や魔力を収納するなんて聞いた事も無いわ。
それってどんなに離れていても可能なの?」
「まさか。せいぜい30m先から放出するので精一杯さ。あと、魔力消費も凄まじいから、2〜3発しか撃てないよ」
「それでも、充分凄いけどね。はぁ、わたしもまだまだ頑張らないと」
シンシアと訓練するのはとても楽しい。エレナやラフィのような天才と訓練すると、相手の才能に嫉妬して卑屈になってしまうが、シンシアは努力型で俺と同じ匂いがする。
お互い研鑽した技術を披露し合い、切磋琢磨出来る関係というのは貴重な物だ。
「悪い兄弟、シンシアの姐さん、ちょっと野暮用で遅れちまったゼ!」
俺がシンシアとお互いを讃え合っていると、ハルトのキョーダイがやって来た。
本当はキョーダイを交えた3人で、ギルドの訓練場でフィジカルトレーニングをするつもりだったのだが、シンシアの特訓に付き合っていてすっかり忘れていた。
ともあれ3人揃ったので、俺たちはギルドの訓練場へと移動した。
◇◇◇◇◇
「や、やべえな。シンシアの姐さんがここまで筋力が有るとは知らなかったぜえ!」
200㎏のバーベルを持ち上げるシンシアの姿を見たキョーダイは、大口を開けて驚いている。
俺もちょっと驚きだ。当然彼女は魔力での身体強化は行なっていない。
ラフィやエレナと特訓する事はままあるけど、シンシアとフィジカルトレーニングをするのは初めてだ。
一見細身な彼女に何故これ程のパワーが有るんだろう?オッパイは乳腺と脂肪によって大きさが左右するという噂をその手の雑誌で読んだけど、シンシアの豊かなオッパイは全て大胸筋で形成されているのかも…
「はぁ…はぁ…な、何人の胸をジロジロ見てるのよ。
ラフィにチクるからね」
ギクッ!そ、それはマズイだろ!別に俺はエロい気持ちで見てた訳では…
「は、はぁ?そ、そ、そ、そんなワケねえし。俺は大胸筋の動きを見てただけであって、そ、そ、その手のエ、エ、エ、エロな事は一切持ち合わせてねえし」
「めっちゃどもってるよね?はぁ…ヨシュア様がそんな不埒な男だなんてガッカリだよ。
そんなチラ見しなくても、見せてくれてって言ってくれれば幾らでも見せてあげるのに」
「えっ!?ほ、本当かい!?」
「んな訳ないでしょ。ホラね。やっぱりヨシュア様はド助平じゃない。
コレはラフィに報告案件よね〜」
くそ!シンシアに嵌められた!
そんなの男なら誰でも引っかかるだろうが!何て卑劣な罠を張るんだ!
「ゆ、許してくれえ!断じてそういうつもりじゃ無いんだ!
俺が好きなのはラフィだけなんだ!ラフィとダメになったら、俺はもう生きて行けない!」
俺は生まれて初めて土下座した…
もう恥や外聞も気にしてられない。何としてでもラフィには秘密にして貰いたいのだ。
「まぁ、わたしも鬼じゃないわ。
『ガミエラ』で高級スイーツを沢山ご馳走になったら、さっきの事は忘れちゃうと思うの」
シンシアの指定した『ガミエラ』は、世界一のパティスリーと呼ばれており、ちんまいケーキ1個で3,000ゲスもする。
参ったな…今月はヴァンプラや、高級家具の購入の他に、可愛い妹のティファニーとステファニーに50万ゲスものお小遣いを振り込んだんだ…
結構出費がかさんでるから、ちょっとキツいんだよなぁ…
「い、いやぁ、スイーツってのはちょっと漢らしくねえっていうの?
せっかくだからハルトのキョーダイにもご馳走したいし、もうちょっと漢らしい…そうだ!噴水の広場にある屋台のメンチカツとかは、ガツンと来る…」
「いや、俺もスイーツには目がねえぜえ。
食い物の嗜好なんざ人それぞれじゃねえか。スイーツ程度に漢らしさなんざ求めるもんじゃねえよ」
ハルトは甘党だったらしい…
くそう…もうヤケだ!どうにでもなれ!
「そうだな!ハッハッハ!良し!じゃあ、ラフィとエレナも『ヒャッハーズ』で甘いもの好きな奴もみんな呼んで、スイーツパーティーと行こうぜ!」
「さすがヨシュア様!じゃあ、ラフィとエレナも呼んじゃうね〜!」
「いやぁ、悪いな兄弟!『ガミエラ』のスイーツはウチのメンバーも皆大好きでな」
ヤケになった俺の言葉を聞いて嬉しむ2人は、早速魔導端末を取り出してメンバーに集合をかけた。
トレーニングもひと段落したので、俺たちは着替えてギルドの建物の前で他のメンバーの到着を待つ事にしたんだ。
◇◇◇◇◇
「あれ?ヨシュア?それにハルトか?」
俺たちがギルド前でメンバーを待っていると、不意に後ろから懐かしい声が聞こえた。
この声はまさか…
「エディさん!エディさんじゃん!」
「うおぉ、マジだ!エディの兄貴!ご無沙汰じゃねえか!」
俺とハルトはその男を見て、思わずテンションが上がってしまった。
男の名はエドワード・ナバナレス。王都で唯一のSSランクパーティー『黄金世代』のリーダーである。




