29話 初めてのデート!? ①
「ヨシュア様…これはどのような催しなのですか?」
アズベルト商会のクエストを達成した翌日。
今日、俺は大事な用事があるので、クエストの休みを申し出ていた。
リーダーのラフィも休養日にするつもりだったらしく、俺の申し出はあっさりと通ったんだが、俺の用事について来てしまったのだ。
「これは催しっていうか、『魔導戦士ヴァンダム』の限定プラモの発売日なんだよ。
それで皆んな、早朝からホビーショップの前に並んでるんだ」
そう。今日はヴァンプラマニアには外せない、負けられない戦いの日なのである。
今日発売の限定プラモは『ゼポッグMM147P』という魔導モービルで、主人公ガロムのライバルキャラのペイ専用ゼポッグとして大人気を博している。
「良いかい、ラフィ。たかがプラモデルと馬鹿にしてはいけない。
ヴァンプラは造りが細部まで忠実に再現されていて、オブジェとしても超一級なんだよ。
そもそも、『魔導戦士ヴァンダム』という魔導オペラは、史上最高傑作と評価されるアニメーションでね。ドラゴニウム合金の利権を2つの貴族家が争うという本筋以外にも、それぞれのキャラの背景が事細かに描かれていて、推しキャラを1人に絞るのが難しいんだよ。
まぁ、俺の推しはベタな所で指導者ザイオン・カーペンター嫡子のペイ・バスパノムと、アーザイム連合軍中尉で主人公ガロム・ガイスト属する艦隊に助っ人に来たベナガー・リーガルなんだけど、やっぱペイ専用機のプラモは外せないっつーか、ゼポッグは水陸両用の魔導モービルで、背中から凄え鋭利な刃を3本も出すんだ。
今回のプラモはその辺の再現も見事にされていてさ、プラモとは思えない程色々な表情を俺たちに見せてくれるんだぜ?
これは最早オブジェと実用と永久保存の用途に分けて大人買いしない手は無いだろ?」
「は、はぁ…そ、そうですわね…
あ、あの…それよりも、周りの方達からの視線が…」
ラフィはそう言うと、周りを気にして居心地悪そうに肩を竦めた。
確かに、この場所にカップルで並んでる奴は少ない。居てもブスか微妙な女ばかりで、ラフィ張りの超絶美少女と比べると、ハナクソ以下な女たちである。
「ほほう、重役出勤とは、ヨシュア氏は随分と余裕でござるな?」
そう言って俺たちに歩み寄って来たその男は…
「き、貴様は初号機氏!」
初号機氏は本名不明だが、数多のヴァノタ(ヴァンダムヲタクの略称)の中でも、かなりディープな男として知られている。
「ムッ、その女性は…か、か、か、彼女とかいう伝説の存在でござるか?」
「あ、ああ…ま、まぁ、そうなるかな…俺のか、か、か、彼女のラフレシアだ。
う、うん…その…交換日記的な所から始めようかと思ってたんだがな」
「ほ、ほ、ほほう…こ、こ、交換日記とは、リア充にしか縁のない言葉ではござらぬか。
ムムっ、よく見ると、ゼミナさんのコスが似合いそうな美少女でござるな…くそう!ど畜生!絶対にヨシュア氏にはゼポッグを渡さぬでござる!!!
超絶美少女を手に入れた上、ペイ専用まで手にする事など有ってはならぬでござるよ!!!」
ぬぬっ、ヴァノタは裏でコソコソ陰口を言い合うのが定石なのだが、この初号機氏にはそれが当て嵌まらないというのか?
「だいたい拙者は最初からヨシュア氏が気に入らなかったでござる!ヴァンダム随一のイケメンキャラのペイよりもイケメンのヨシュア氏はヴァノタに有るまじき存在!
ヨシュア氏がコミケにペイのコスプレで現れたあの時から、ヨシュア氏は拙者の敵でござる!」
初号機氏はヒステリックに喚き散らし、さらに周囲の視線が俺たちに向けられる。
まさか、4年前のコミケでのペイコスプレで、ここまで初号機氏に嫌われていたとは…あの頃は自己主張がちょっと激しかったのかも知れない。
4年前は『宵闇の戦乙女』で、アマンダが何かと俺を気遣ってくれてたギリギリの頃だったし、プライベートでチョーシこいてた感は有る。
そう言えば、アーロンが抜けたみたいだけど、アマンダ達は上手くやれてないのだろうか?
アーロンからは詳しく聞かず仕舞いだったのだが、ちゃんと話を聞いておくべきだったかも知れない。
クソビッチ供に虐げられた頃の事は、今でも沸々と込み上げて来るような怒りはあるけれど、最初の1年半くらい迄アマンダだけはちゃんと俺を立ててくれていたしな。
当時の仲間意識というのもまだ心の何処かに有るんだろう。
おっと、今はクソビッチの事はどうでも良い。
ペイ専用ゼポッグの件が最重要事項なのだから。
「私が最も敬愛するヨシュア様の敵という事は、私の敵という事ですわね。
貴方のようなゴミムシ風情に私の高貴な精霊術を行使するのは躊躇われますが、そこまで敵意を向けられては是非に及びませんわ。
覚悟なさい!ゴミムシ!」
「ちょ、ちょい待って、ラフィ!幾ら何でも民間人に精霊術を使ったらダメだ!」
突如放たれたラフィの殺気を全身に浴びた初号機氏は、可哀想に大量のオシッコを駄々漏らしにしている。
オシッコ臭と初号機氏特有の体臭が相まって、周囲には異様な臭気が漂ってしまった。
「初号機氏よ。お漏らしした貴君には、ペイ専用ゼポッグは相応しくない。
周りの人の迷惑にもなる故、ここは黙ってお帰り頂けないだろうか?」
俺は初号機氏のプライドに抵触しないよう、丁重な言葉遣いで撤退をお願いした。
「くっ、このような恥辱を受けるとは…許せぬ!許せぬぞ!拙者の求道心のため、ラフレシア殿の愛を手に入れるため、拙者は意地でも退かぬ!侘びぬ!帰らぬ!」
初号機氏は要所にヴァンダム名ゼリフを散りばめており、マニアの心を擽ぐる語り口ではあるが、ラフィの愛を手中に収めようとする輩は捨て置けない。
俺は異空間収納からヴァンダムグッズを取り出し、目の前にかざした。
「ムッ、それは…ペイ専用バルブブのライト薙刀のレプリカでござるな!
良かろう。では拙者も」
初号機氏はそう言うと、リュックを肩から下ろして中から超合金の剣の柄を取り出すと、柄の腹に付いている赤いボタンを押す。
途端に柄の先端からピンクの光の刃が飛び出した。
そう、初号機氏はヴァンダムのライトソードのレプリカを取り出したのだ。
俺もライト薙刀のボタンを押して、柄の両サイドから水色の光の刃を発現させた。
まぁ、飛び出したのはただの光なので、刃に触れても怪我はしないんだが、ヴァノタはこのレプリカでバトルをする事がブームになっている。
「ラ、ラフレシア殿、魔導モービルのスペック差が男の魅力の差では無い事を見ていて欲しいでござる!」
「初号機氏、それはペイのセリフだぞ!ヴァンダムのライトソードを持ってるんだから、ガロムのセリフを言えよ!」
俺はついついムキになってしまった。ラフィにいいカッコしようとする辺りがムカつくのだ。
だってそうだろう?何たって、ラフィは俺のか、か、か、彼女なんだからな。例え小指しか触れ合っていないとしても、毎晩ムラムラしているくせにビビってオッパイを軽くサワサワしか出来ないとしても、俺にとっては何よりも大事な女性なんだ。
俺は本当に初号機氏を叩き斬るつもりでライト薙刀を構えた。
「おわ〜、初号機氏と『白銀の沈黙星』がヴァンダムバトルをするみたいですぞ」
「見せて貰おうか。沈黙星のスペックとやらを」
「初号機氏、リア充を殺すのである!」
「あ、あのエルフ美少女が激マブな件」
外野の連中がざわついている。因みに『白銀の沈黙星』とは、ペイの二つ名の『蒼い沈黙星』をもじったものだ。コミケにコスプレで行って以来、ヴァノタの界隈で俺の二つ名となっている。
さて、ヴァンダムバトルに集中せねば。
初号機氏の構えを見るに、彼は剣術のド素人で間違い無い。一丁軽く遊んでやるとするか。
「見てろよラフィ。君のか、か、か、彼氏のスペックは伊達じゃねえんだぜ!」
俺は決めゼリフをラフィに言うと、一気に初号機氏の正面に距離を詰めた。
「い、いつの間に!う、うぁぁああ!オトナも重力もキライだぁぁああ!」
取り乱した初号機氏が、不恰好にライトソード(レプリカ)を横薙ぎに振るう。
エレナとは比べ物にならない程お粗末な一閃である。
「どこを狙っている?」
軽めの力で地面を蹴り、初号機氏の背後を取った俺は、完全に俺を見失った初号機氏に一声かけてあげた。
驚いたのか、体を硬直させた初号機氏を光の刃で斬りつける俺氏。レプリカというかオモチャなので初号機氏は全くの無傷なのだが、彼の精神的なダメージは計り知れない。
ラフィも俺の雄姿に、見惚れているであろう事請け合いだ。
「瞬殺ですとぉ!初号機氏ヴァンダムを瞬殺ですとぉぉ!」
「認めたくないモノだな。己より若く強く美しい存在というモノは」
「リ、リア充にはヴァンダムファイトすら勝てぬのであるか!」
「初号機氏、ションベン漏らした上イケメンに瞬殺された件」
ギャラリーはごちゃごちゃ言っているが、肝心なのはラフィが俺にときめいたかどうかなのだ。
俺は少し離れた場所で見ているラフィの元へ、悠然と歩いて行く。
「ククク…薙刀の錆にもならぬヤツよ」
「ヨシュア様…………そんなお子様の遊びをしている間に、お店が開店したようですわ」
な、な、何い!?こうしてはいられない!早くゼポッグのプラモを購入せねば!
俺はラフィの手を引いて、ホビーショップへと特攻した。




