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28話 招かれざる客 ②

 


「そこの盾男、ミスリルリザードが来るのですわ!

 さっさと立って前方の3体を食い止めなさい!

 ヨシュア様は右斜めから来る12体を、エレナは左から来る9体を、シンシアは盾男のフォロー、私は背後からの24体を殲滅致しますわ!」



 早速、ミスリルリザードの接近を探知したラフィからの的確な指示が飛ぶ。



「ホラ、リーダーの指示を直ぐに行動に移す!」



 俺はアーロンに手を貸して立ち上がらせ、ヤツの背中を軽く叩いた。

 アーロンは鈍重に正面へと駆けたが、余りにも遅過ぎる。俺が付きっ切りで指導してやりたい所だが、コレは訓練じゃない。

 リーダーの指示に従い、俺も右斜めからやって来る群れの対応に当たった。まぁ、彼も一端の冒険者だ。例えミスリルリザードに殺されたとしても、冒険者冥利というものだろう。


 俺は早速魔法剣に雷属性変換した魔力をつぎ込む。



「超魔剣皇にクラスアップした事で使用出来るようになった技を使ってみるか…『魔力撃:雷撃罠』!」



 まるでオッサンのように独り言ちた俺は、ミスリルリザードの動線上の虚空に魔法剣を振るった。

 雷属性の魔力撃は斬撃波とはならず、虚空に停滞して空気に溶け込む。同様に少しポイントを変えて虚空に魔法剣を振るうと、雷属性の魔力撃は全てその場で停滞した。

 新技が上手く発動した事を確認した俺は、一旦後方へと下がって氷属性魔力を魔法剣に注ぎながら、オーソドックスな魔力撃の構えを取る。


 数秒後、ラフィの探知通りに12体のミスリルリザードが向かって来た。



 バギャギャキャギャーン!!!



 ヤツらが雷撃罠のポイントに差し掛かった瞬間、眩い雷光と共に異様な轟音が鳴り響いた。

 ミスリルリザード供が雷撃で感電したのだ。



「『魔力撃:氷結斬』!」



 シュババババババババババババンッ!!!



 一息に十二閃。氷魔力の斬撃波が連中の首を斬り落とした。

 クラスアップによって魔力制御も格段に向上しており、以前よりも溜めが少なく、高速で魔力撃を放てるようになっている。軌道修正も自由自在だ。



「コ、コレがクラスアップというモノなのか…ヤバみんだぞ!激ヤバみんだぞ!」



 興奮のあまり、エレナの口調で独り言を言ってしまった。まぁ、それぞれ十メートル以上は離れているので、聞かれてはいまい…



「みんみんみん♫ ヤバみんみん♪ ヨシュアさまぁもぉヤバみんみん♩」



 びくぅっ!背後からエレナの陽気な歌声が…恐る恐る振り返ると…



「うおっ、エレナ!いつの間に!

 ていうか、自分の持ち場はどうした!?」


「ん?あんなトカゲは瞬殺したの〜!だからヨシュア様を手伝いに来たら、ヨシュア様がヤバみんって言ってたの!」



 く、くそぅ…よりによってエレナに聞かれるとは…

 エレナはいつも通り、刀を頭上に翳しながら陽気な歌を口ずさんでやがる…



「エレナ、危ないから人の近くで刀を振り回すんじゃない」


「ムゥなの!刀じゃなくて『名刀丸』なの!」



 何い…いつの間にそんな頭の悪そうな銘が付いたのだ!?

 いや、それよりも…



「瞬殺したなら、俺の所よりもアーロンのフォローに行かないと」


「盾男はキモいからヤなの!ねえねえ、コレ見てなの!」



 俺の言葉を即拒否したエレナは、嬉しそうに『名刀丸』を地面に放った。銘を付けた愛刀をそんなに雑に扱って良いのだろうか?



「来るの!『名刀丸』!」



 エレナの言葉に呼応するように、『名刀丸』が凄いスピードでエレナの小さな右手へと戻った。



「凄え!何かカッコ良いぞ!エレナ、その技ヤバみんだな!」


「ふふふふ。ねえねえ、エレナの頭を撫で撫でして良いの〜!」



 エレナは愛らしい幼女スマイルを向けて、俺の方に擦り寄って来た。


 くそぅ…エレナのこういう仕草は、可愛い妹のステフそっくりだな…


 俺はステフを懐かしみながら、エレナの小さな頭を撫で撫でした。エレナは名刀丸片手に鼻歌を歌っている。

 エレナは妹感が激ヤバみんである。



「ヨシュア様…何故エレナとイチャイチャするのですか?」



 またしても背後から声が…しかも、絶対零度のオーラ付きときている。

 見なくても分かる…ラフィが俺の真後ろで穏やかではない気持ちになっているのだ。



「いや、違うんだ!コレは妹的なアレであって、男女のイチャイチャとかじゃないっつーか…」


「ヨシュア様ったら酷いのですわ!恋仲の私には小指しか触れて下さらないのに、エレナの頭を撫で撫でするなんて…ううう…」


「だ、だってさ、す、好きな女の子にベタベタ触れるなんて、そんなの漢としてダメだろ?」


「ううう…ヨシュア様は浮気者なのですわ…ううう…」



 俺はラフィのワザとらしい泣き真似にすら勝てずに、ラフィの頭を撫で撫でした。

 途端にラフィはご機嫌な笑顔になる。完全に手の平の上で転がされているのだな、俺は…



「ちょっと、のんびりしてる場合じゃないよ。アーロンは…」


「ご心配なく。盾男でしたら、初撃でリザードに吹き飛ばされて白目を剥いたのですわ」


「ちょっ、全然ご心配なくないぞ!正面のリザード…はもう討伐してるか」



 アーロンが担当した正面を見ると、3体のミスリルリザードの脳天には綺麗な風穴が空いていた。

 言うまでも無くシンシアの魔力矢だろう。

 ミスリルリザードは体表にミスリルを多く含む為、弓矢は相性が悪い。にも関わらず、シンシアは特に硬い頭部を一撃で射抜いたのだ。

 天弓の時点で分かってはいたが、シンシアが4人の中で一番の成長株だと思う。


 当のシンシアは討伐したバッファローとリザードの解体を黙々と行なっている。

 俺も撫で撫でをやめて、直ぐに側に転がっているリザードの解体を行ない、ラフィとエレナも俺に続いた。


 これだけ力を付けたのに、驕らずに冒険者としての基本的な事をこなすシンシアは本当に素晴らしい冒険者だな。

 クラスアップ如きに浮かれていた自分が情けないよ。




 ◇◇◇◇◇




「いやぁ、流石は『豊穣の翠』の皆様でございますね。

 ささ、あちらに出来立てのランチをご用意しております」



 正午過ぎになり、鉱山周囲の魔物を大凡片付けた俺たちに、監視役のアンドレさんが愛想良く声をかけて来た。

 俺たちはアンドレさんのお言葉に甘えて、準備してくれた簡易テーブルへと着いた。

 彼の言葉通り、テーブルには湯気を立てたビーフシチューやパスタが並んでいる。



「あの…不躾な事をお伺いしますけれど、あちらで白目を剥いて伸びている方は、お呼びしなくて宜しいのですか?」



 アンドレさんはアーロンに目線を送って問い掛けてきた。



「ああ、彼はウチのパーティーに加入を希望して、強引に付いてきただけですので、どうぞお構いなく。

 それより、俺たちの為にこんなに美味しいランチをご用意して頂いて、本当にありがとうございます」


「いえいえ、『豊穣の翠』の皆さまには手厚くおもてなしするよう、会長から言付かっておりますので、これくらいは当然でございます」



 アンドレさんはそう言うと、丁寧にお辞儀をした。

 大きな商会には冒険者を適当に遇らうような所も多いのだが、アズベルト商会は待ち合わせの時から本当に良い待遇をしてくれている。

 俺たち用のバギーを用意してくれている事もその現れで、普通ならボロ馬車を充てがわれていただろう。

 依頼主を差別するのは良くないが、こういう依頼主の為で有ればより張り切って討伐に当たりたい。


 依頼主により良い印象を持ってもらえれば、その後も定期的に指名依頼を貰えるようになる。

 しかも、アズベルト商会程の大商会の依頼は今回のクエストのように、国民のためになるようなクエストが多い。


 さて、極上のランチもご馳走になったし、午後からの討伐も張り切っちゃいますか。



 ◇◇◇◇◇



「ヘルズコング1体そっちに回ったぞ!」


「了解、『ホーミングアロー』!」



 俺の魔力撃を警戒して動きを変えたヘルズコングを、シンシアが自動追尾の魔力矢でブチ抜いた。



「これで鉱山の周囲5㎞圏内の魔物は刈り尽くしたか。

 それにしても、シンシアの弓は凄いな。正確性と言い、威力と言い、文句の付けようの無いレベルだよ」


「へへへ。そうでしょ?ラフィは広域殲滅や一撃の破壊力が凄いから、あたしは緻密なサポートが出来るように練習してるんだよね」



 シンシアはヘルズコングの毛皮を手際良く切り分けながら、嬉しそうに微笑んだ。

 俺ももちろんサボらずに、コングの解体を行なっている。



「ラフィの精霊術も凄まじい威力と制御だし、エレナは剣術も体捌きも格段に上がってる。

 俺も訓練をもう一段上げないと、皆んなに置いていかれちまうな」


「いや、ヨシュア様は既に人間の領域を逸脱してるんですけど。それ以上厳しい訓練なんてしたら、神の領域に入っちゃうよ」


「シンシアの言う通りですわ。

 ヨシュア様はもう少し訓練を緩めて良いくらいですわ。そして、空いた時間で私とデートを沢山するべきですわ」



 解体に来たラフィも、俺とシンシアの会話に加わって来た。

 デートの催促をされたけど、俺は今まで一度もデートなんてした事が無い…ラフィに幻滅されると怖いので、積極的に来られても誘う事が出来そうにない。



「ま、まぁ、その内ね。あ、そう言えばアーロンの姿を見ないけど、アイツ今どうしてる?」



 ドゴーーーン!!!



 俺が2人にアーロンの事を尋ねた矢先、少し離れた岩肌の辺りで轟音が響いた。

 何事かと思い、そちらを見てみると…



「ヒエエエエ!む、無理っす!勘弁してくれええええ!」


「盾男は軟弱過ぎなの!ちゃんと気合いを入れて受け止めるの!」



 エレナが成人男性程の大きさの岩を、彼女から10m程離れた所で盾を構えるアーロンに向かって投げつけている…

 うん…五体満足で彼が帰還できる事を祈るしか無さそうだ。



「盾男は図体ばっかで判断がすっとろいのよね。タンクのスキルは揃ってるけど、わたし達のクエストには付いて来れないと思う。

 エレナも盾男が嫌いだから、ああやって潰してウチへの加入を諦めさせてるのよ」



 シンシアよ…潰すって、額面通りの意味じゃないよね?

 あんな岩を見極めの甘いアーロンが食らったら、本当に押し潰されそうで怖い…



 ◇◇◇◇◇



 アンドレさんは俺たちの成果に大いに喜んでくれて、報酬に色を付けてくれるとまで言ってくれた。

 ラフィの精霊術と俺の地属性魔法で、採掘場予定地の整地を行なった事も高評価を得たようだ。


 アンドレさん曰く、当初は鉱山の周囲10㎞圏内の魔物を討伐するのに、1週間はかかると踏んでいたらしい。

 俺たちが討伐し終えた後は、魔導具の技術者の人らが結界用の魔導具の設置と起動を行い、3日もかからずにミスリル鋼の採掘がスタート出来るとの事。


 魔力との親和性が高いミスリルは、武器や防具のみならず、様々な魔導具に使用される。

 今回の新鉱山の採掘によって、新たな雇用が生まれる事だろう。


 アンドレさんは俺たちの依頼書にクエスト達成のサインと、特記欄に特別ボーナスとして、クエスト報酬とは別に500万ゲスを支払う旨を記入してくれた。

 アンドレさんはこのまま鉱山に残って、技術者達への指示や調整を行うという事で、俺たちだけバギーでギルドまで送ってもらう事になった。


 今回のように至れり尽くせりなクエストは滅多に無い。

 帰りのバギーでも和気藹々の雰囲気で、とても充実した一日となった。



 あ、それから、アーロンは帰りのバギー内で「俺にはとても付いていけません」と、ラフィに泣きを入れてました。

 言葉は悪いけど、アーロンにSランのクエストは荷が重過ぎるって事だね。


 地道にDかCランクのパーティーに入って、研鑽を怠らなければ、10年後にはAランクに到達出来そうな素質は有るので、アーロンの今後に期待したい。



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