27話 招かれざる客 ①
「ヨシュア様以外の男性は穢らわしい存在ですので、どうぞお引き取り下さい」
ヘルハウンド討伐から3日後、『豊穣の翠』のパーティーハウスに何者かが訪ねて来た。
玄関に向かったラフィが、速攻で訪ねて来た人を追い払おうとした。来客を直ぐに追い払おうとするなんて、礼儀正しいラフィにしては珍しい。
何か厄介なヤツかと思い、ラフィを心配して俺も玄関口に行ってみると…
「お、お前、アーロンか!?」
「おお、ひょっとしてアンタがヨシュアか。そういや何度か顔は合わせてたっけな。
まぁ、俺が行った時はアンタはいつもボコボコにされて床に這い蹲ってたけどな。ガッハッハッハ!」
そうだった。このアーロンは聖女サーシャの彼氏で、コイツが『宵闇の戦乙女』のパーティーハウスに来る時は、だいたいソニアに束縛魔法をかけられてボコられていた時だったな。
「無礼者!早く立ち去りなさい!
ヨシュア様を悪く言う者の話は、一切聞くつもりは有りません!」
ラフィがそう言って冷たい殺気をアーロンに向けて放つと、アーロンは途端に表情を強張らせた。
「い、いや、悪かった!そういうつもりじゃなくて、ついつい懐かしかったもんでよ。
お、俺はヨシュアを実力者だと認めてるんだ!」
アーロンはめっちゃヘコヘコして俺を持ち上げ出したけど、彼の態度は何とも白々しい感じがする。
ラフィの表情も険しいままだ。
「まぁ、今さら馬鹿にされても何とも思わんから良いけどさ、それより何でアーロンがここに来るんだよ?
お前は『宵闇の戦乙女』に入ったはずだろう?」
「そうなんだけどよ。あんなヤツらとはやってらんねえって思ってな。
そう、ヨシュアさんの事を雑魚だと思ってる愚かなビッチ共とはやって行けねえから、ヨシュアさんの居るこのパーティーに入りてえって思ったんだ」
アーロンは変わらずヘコヘコした態度で、俺を持ち上げる事を言って来る。
正直言って胡散臭さがハンパ無い。
「ヨシュア様を慕う者は多いのですわ。そんな者を皆んなパーティーに加入させていては、収集が付きません。
それに、ヨシュア様以外の男は皆穢れた存在。
貴方を加入させる事は絶対にあり得ませんので、どうかお引き取り下さいまし」
「悪いな。リーダーがこう言ってるんだ。諦めてくれ。
それに、俺たちはこれからアズベルト商会からの指名依頼を受けに行く。これ以上の時間は割いてられない」
そう。今日は王国内でも大手のアズベルト商会の商会長直々の依頼なんだ。遅刻は絶対に有り得ない。
3日前の依頼もそうだけど、商業ギルドや商会が冒険者に指名依頼を出す事は多い。商業の世界は良く分からんけど、名の通ったパーティーを指名するだけの財力があると周りにアピールしたり、信頼の高さによって有名なパーティーを指名したり、様々な理由があるらしい。
今回はアズベルト商会の取引先がミスリル鉱脈を掘り当てたらしいのだが、その鉱山の周りは高ランクの魔物が多いので、俺たちに駆除して欲しいという物だ。
「な、ならよ!せめてその依頼に同行させて貰えねえか!?
アンタらのパーティーにはタンクが居ねえだろ?俺は勇者パーティーに居たんだし、実力は有るんだ!
良い仕事をして見せるぜえ!」
アーロンはしつこく食い下がって来た。しかし、失礼だがDランクの彼が、俺たちの動きについて来れるとは到底思えない。
本当に時間が無いんだけどなぁ…
「ラフィ、こうもしつこいと埒があかない。コイツを連れて行って、現実を知って貰った方が良いんじゃないか?」
「ヨシュア様がそう仰るのでしたら…
アーロンとやら、同行するのは構いませんが、そちらの命の保証は致しかねますわ。
自己責任で宜しいですわね?」
ラフィは魔導端末を取り出してアーロンに確認を取る。
おそらく、奴が死んだ時に問題にならないように、やり取りを記録に残すのだろう。
「へへへ、そうこなくっちゃな。
例え命を落としても俺の責任だ。アンタらには何の責任も無えって事で良い」
こうして、アーロンがお試し同行する事になった。
時間が迫っていたので、俺たちはすぐにアズベルト商会へと向かい、今回のクエストの監視役や魔導具の技術者達と共に鉱山へと移動した。
鉱山への移動手段は、商会が所有する大型の魔導バギーだ。
監視役と技術者が乗ったバギーが先導し、その後を俺たちの魔導バギーが付いて行く。
「ラ、ラフィ。その、あまりくっ付かないで欲しいのだが?」
「あら?私たちは恋人同士でございますわ?この程度の密着は普通ですわ」
ラフィは俺の言葉にも御構い無しとばかりに、俺に密着して肩に頭を乗せて来る。
3日前にカップルになった俺たちだが、一線を越えるどころかキスすらしていない。俺としては交換日記からが望ましいので、こうもグイグイ来られると恥ずかしいのだが?
因みに魔導バギーは3列シートになっており、運転席は商会の運転手、2列目にシンシアとアーロン、3列目にエレナと俺とラフィが座っている。
エレナは俺の膝枕でムニャムニャと眠っている。
こうしてエレナに甘えられる事に、俺は内心ほっこりしているのだ。
末の妹のステファニーを思い出すんだよなぁ…ステフとティファはめちゃくちゃ甘えっ子だったけど、お兄ちゃんが居なくなってもちゃんとやれてるんだろうか?
「そんなに羨ましそうに後ろを向かなくてもよぉ、俺がこの逞しい肩を貸してやるぜえ。
遠慮なく俺にベッタリしろよ」
「は!?誰がアンタみたいなゴリマッチョマンにくっ付くのよ!
って言うか、この中央の仕切りより少しでもコッチに来たら、至近距離からヘッドショットかますからね!」
前の席ではアーロンとシンシアが離れて座っており、どうも穏やかではない雰囲気を醸している。
アーロンってサーシャの彼氏だろうに、シンシアにちょっかいをかけるなんてな…マジでヘッドショットされた方が良いかも知れない。
何とも落ち着かない時間を過ごす内に、バギーは鉱山へと到着した。王都から馬車で半日かかるのに、猛スピードのバギーなら3時間程で到着するのだから驚きだ。
さて、ではアーロン君の実力を拝見しますかね。
◇◇◇◇◇
「ヒ、ヒゲエエエエエ!!」
イビルバッファローの突進を受け止め切れなかったアーロンが、情けない声を上げて盛大に吹っ飛ばされた。
ううん…Dランクという事を考えると悪くは無いんだが…
尚もバッファローの敵意はアーロンから逸れる事は無く、向きを修正して再びアーロンに突進して行く。
「盾を貸せ!いいか、良く見てろよ!」
俺は即座に倒れたアーロンの元へ向かい、ヤツの大盾をふんだくってバッファローに向けて構えた。
ドオォォォン!!
チュドッ!
俺がイビルバッファローの突進を大盾で受け止め、動きの止まったバッファローの頭部を、シンシアの火属性変換した魔力矢が吹き飛ばす。
「アーロンよ、お前の資質はそこそこだが、盾士にとって重要な『見極め』が甘過ぎる。
ちゃんと基礎訓練を積んでいるのか?」
俺がアーロンに言った『見極め』とは、敵の攻撃軌道の見極め、敵の攻撃力の見極め、彼我の力の差の見極め、インパクトポイントの見極め等を総じての呼称だ。
見極めを瞬時に行えなくては、敵の攻撃をいなすべきか、受け止めるべきか、弾き返すべきかの判断が間に合わない。
例えば今の場合、身体能力がまぁまぁなアーロンは、俺が見本を見せたようにイビルバッファローの突進を受け止め切る事が出来る。
にも関わらず吹き飛ばされたのは、突進の軌道と真逆の方向に、同じだけの力を加える事が出来なかったという単純な理由だ。
盾士の基礎訓練は地道に前衛の攻撃を受け続けたり、魔法職の攻撃魔法を受け続けるという厳しいものだが、毎日繰り返してさえいれば見極めの力が養われる。
つまり、アーロンはただの基礎訓練不足というお粗末な男という事だ。
「あ、アンタ何者だよ…剣士系のジョブだって話なのに、何でイビルバッファローの攻撃を受け止められるんだよ…」
「見極めは盾士のみならず、前衛には必要だからな。あれくらいは訓練次第で簡単に出来るさ。
お、いい所に次の獲物が来たな…ウチに入りたいなら、最低でも今から俺がする事はやって貰うぞ。見てろよ」
俺は丁度良く姿を現した3体のイビルバッファローの方へと距離を詰め、突進の出足に合わせて盾を下から上にかち上げた。
3体のイビルバッファローは上空へと跳ね上がり、そこへラフィの精霊術とシンシアの矢がクリティカルヒット。
「アンタも腕に覚えが有るなら、これくらいの事は出来るだろ?」
俺はアーロンに問いかけ、剥ぎ取った盾を彼に返した。
「ちょい待て!イビルバッファローを吹っ飛ばすなんて『シールドバッシュ』を使っても無理だろ!1tもあるんだぞ!
アンタみたいな人外の物差しで測らねえでくれ!」
アーロンがこんな序盤で泣きを入れやがった…しかし、今はクエストの真っ最中。
彼の泣き言に付き合っている暇は無い。




