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26話 一方『宵闇の戦乙女』は ⑤ 〜勇者パーティー崩壊〜

 


「ちょっと、アーロン!どういう事!!」



 パーティーハウスの賢者ソニアの部屋に、聖女サーシャの怒声が響き渡る。

 部屋ではソニアと、サーシャの彼氏で盾使いアーロンが腰を振っていた。

 サーシャに怒鳴られても、2人は行為をやめようともしない。怒り心頭のサーシャは魔法杖を振り回し、ようやく2人は渋々離れた。



「ったく、うっせえな。

 帰ってくんの早えよ。コッチはもう少しでイキそうだったっての!」



 悪びれた様子もなく、アーロンは煙草を咥えてマッチで火を点ける。



「よ、よりによってこんな女と!

 こんな不貞行為を…慰謝料では済みませんよ!」


「ハッ、めでたい女。

 アーロンとアタシはずっと前からセフレだっつーの。

 あんたらが付き合う前からね」



 激昂するサーシャを嘲笑うソニア。

 何の気なしに吐き出された言葉は、サーシャのプライドを踏みにじった。

 怒りに震えるサーシャに、紫煙を燻らすアーロンが追い打ちをかける。



「な〜にが不貞行為だ!

 お前だって俺がパーティーに入る前に色々な男と取っ替え引っ替えやってたじゃねえか。

 俺のダチのモンフィスとヤッておいて、俺にバレてねえと思ってたのか?」



 自分の浮気を指摘され、サーシャはただ歯噛みするしかなかった。

 脳筋のアーロンにはバレる訳が無いとタカをくくっていた。



「それにさぁ、アンタもう聖女じゃ無いよね?

 アマンダの怪我もちゃんと治せない時点でもうバレバレだから」



 ソニアの言葉にサーシャの顔が一気に青ざめた。

 ヨシュアを追放した翌日のダンジョンクエストで思うように高位の治癒魔法が使えず、不思議に思ってステータスを確認した所、ジョブが中級の治癒術師にクラスダウンしていたのだ。

 これまで周りにバレないように振舞っていたのだが、数日前に受けたイレギュラーダンジョンの調査クエストの際、大怪我を負ったアマンダを治癒が完璧に出来なかった事で、疑われてしまったのだ。


 しかし、コレはサーシャに限った事ではない。



「そ、そんな訳が無いでしょう。

 それよりアナタの方こそ賢者では有りませんよね?

 超級魔法を使えない賢者なんて聞いた事も有りませんし」



 お互いに痛い所を突き合い、憎悪の篭った目で睨み合う。

 そこに、呆れた顔のアーロンが更に2人の傷を抉る。



「大体よぉ、お前らホントにSランクパーティーかよ?

 全然まとまってねえし、好き勝手攻撃して自滅して。

 俺にはお前らが追い出したっていう、ヨシュアってヤツの方が余程凄かったんだろうなって思うぜ」



 自分達が無能と断じて追い出したヨシュアを、まさか一番下っ端のアーロンが持ち上げるとは思わず、2人の停滞していた怒りの感情が爆発した。



「何を言うんですか!

 あんな無能な男など、私達の足元にも及ばないクズ!

 言葉に気をつけなさい!」


「マジ有りえねえ。

 そも、あんなゴミスキル野郎以下とか、Dランのお前に言われたくねえし。

 つか、オメエが一番クソ雑魚だろーが!ダンジョンで真っ先に逃げ出したションベン野郎のくせに、上からものを言うなし!」


「はぁっ!?誰がションベン野郎だ、このクソビッチ野郎が!

 俺に舐めた口きいてっと、ビッチ小屋に閉じ込めるぞ!このクソボケが!」


「マジムカつくわ!ウチのどこがビッチなワケ!?

 テメエみてえなクソションベン野郎は、とっととションベン小屋に帰って1人淋しくマスでもかいてろし!」


「クソなのかションベンなのかハッキリしろや!このクソビッチ野郎が!

 大体ションベン小屋って何だよ!」


「は?バカじゃない?

 ションベン小屋っつったらトイレに決まってっし!

 それから、テメエこそビッチなのか野郎なのかハッキリしろよ!このクソションベン野郎!」



 サーシャとソニアの言葉に激怒したアーロンが、実に低レベルな言葉を返し、ソニアとアーロンの頭の悪い罵り合いが勃発。

 パーティーハウス内に、聞くに耐えない言葉の応酬が響いた。

 サーシャは馬鹿馬鹿しくなり、今後の身の振り方を考え始めた。



『さて…どうしたものですかね…治癒師の言い分だと、アマンダはもう冒険者稼業は無理みたいですし、そろそろ『宵闇の戦乙女』は幕を下ろすしか無いようですね…

 それにしても、無能のヨシュアを追放してからというもの、散々な目に遭ってばかり。あの無能の呪いか何かでしょうか?』



 サーシャが考えた事は禄でもない事だった。

『宵闇の戦乙女』はヨシュアが抜けて以来、立て続けにクエストに失敗しており、誰の目から見てもヨシュアが抜けた事が原因で弱くなった事は明らかだ。

 Aランクパーティーでも受けられるクエストすら失敗するようでは、もう弁解のしようもない。

 それでもプライドの高いサーシャは、ヨシュアの力を認める事が出来ない。それどころか、自分達の没落をヨシュアの責任だと考え出した。



「クソ!ションベンだのビッチだの言い合っても意味ねえだろうが!

 良いか、これだけは言わせて貰うぜ!

 お前らが思い込むのは勝手だが、ヨシュアってヤツが加入した『豊穣の翠』だっけなぁ?

 その翠チャンは、もうすぐSランだとかギルドで噂になってんぞ。ヨシュアのおかげで戦力が爆上げしたってな!」



 アーロンはギルドの職員や酒場でも噂が持ちきりの『豊穣の翠』について口にすると、思案していたサーシャも反応せずには居られなくなった。

 浅ましい女2人は口元を大きく歪ませ反論する。



「そんな根も葉もない噂話を信じるなんて馬鹿馬鹿しい!

 大体ヨシュア如きクズを拾うパーティーなんて有る筈が無いんです!!」


「マジそれな。

 つか、ヨシュアなんて今頃ゴミ溜めでくたばってるし!

 又は男娼になってカマ掘られてるとか?

 とにかく、他のパーティーでゴミが活躍とかマジ無えから」



 あくまでヨシュアの力を認めたくないサーシャとソニア。

 口汚く罵りつつも噂を否定する事で、自身の薄っぺらいプライドを守ろうとしているのだ。



「へ、ギルド職員まで揃ってヨシュアの事を讃えてるっつうのに、デマと決め付けるなんてお前ら相当イカれてんな。

 まぁいい。俺はこんなクソパーティーは抜けるぜ。

『豊穣の翠』は絶世の美少女揃いのパーティーだっつうし、翠ちゃんに加入して毎晩美少女3人を犯し倒してやるんだ。

 つー事で、俺はテメエら中の上とは縁を切るわ。特上の女を抱きまくってくるぜえ!」



 アーロンは下品な笑みを浮かべて2人に決別の意思を伝えると、そそくさと荷物をまとめてパーティーハウスを出て行った。

 残された2人は…



「ふん。あんな臆病で節操の無い男を、何処のパーティーが引き入れるものですか。

 それより、臆病者の言ってた話は本当だと思いますか?」


「あ?無能が別のパーティーで大活躍ってヤツ?

 マジあり得んべ。つか、ウチらがこんなになってんのって、ヨシュアが何か裏でやってんじゃね?

 パーティーを追放された雑魚って、元のメンバーにザマァしたがるっつうし」


「ソニアもそう思いますか。私も実はヨシュアのせいでこんな事になったのだと考えました。

 あのクソ雑魚を捕まえてブチ殺せば、全ての問題が解決するのだと思いますがどうでしょう?」


「それアリかも!ウチらの不調は1000パーアイツのせいだし、変態ヨシュアを殺しに行けば万事解決じゃんね」



 ソニアもサーシャもとことんクズだった…

 病床でヨシュアへの謝罪を望むアマンダに引き換え、この救えない2人はヨシュアの殺害を考えたのだ。


 そんな折、『宵闇の戦乙女』のパーティーハウスを訪れる1人の女性がいた。

 見た目の年齢で言えば20代半ば程、スラリとした長い手足、豊かなバストに括れたウェスト。白銀で滑らかなロングヘア、青く澄んだ大きな瞳は見る者を惹き付ける。

 余りにも整ったその顔立ち故、女神だと言われても疑う者は居ないだろう。


 そんな絶世の美女が『宵闇の戦乙女』パーティーハウスの玄関の前に立ち、呼び鈴を鳴らして呼びかけた。



「ごめん下さい」



 程なくして、部屋着を着たソニアが玄関の扉を開き、すぐ前に立っている女性のあまりの美貌に言葉を失った。



「此方は『宵闇の戦乙女』のパーティーハウスで宜しいかしら?」



 コクコク


 ソニアは美女の言葉に黙って首肯する。



「失礼ですが、アナタは『宵闇の戦乙女』のメンバーの方?」



 コクコク



「このド腐れビッチが!地獄を味わいなさい!」



 その美貌に似つかわしくない言葉が紡がれた瞬間、美女が放った凄まじい殺気にパーティーハウスは包まれた。



 美女の名はアグネス・ワイルダー。ヨシュアの母親である。



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