24話 嗚呼、漢道
「や、やぁ…ラフィさん…い、いい天気ですね」
いつの間にか後ろに立っていた、氷の作り笑顔を浮かべるラフィに、恐る恐る声をかけた。
「私の問いの答えになってないのですわ。
それからヨシュア様。いつまで女性のおパンティを被っているのですか?」
ラフィに指摘されて、俺はリンジーのパンツを被りっぱなしな事に気が付いた。
慌ててパンツを頭から毟り取り、リンジーの膝の上に置く。
ラフィがこの場に現れてから、他の皆んなも金縛りに遭ったかのように身動き1つしない。ハルトのキョーダイは裸のフランシアを膝の上に乗せたまま、汗を滝のように流している。
「ち、違うんだ!ラフィ!コレはその…漢ならではの宴の作法っつうか、ゲーム的なノリみたいな?ラフィのようなお嬢様は知らなくても良い感じの世界なワケでさ…」
「ヨシュア様、仰っている事が支離滅裂ですわ。
このようなフシダラな作法が横行しているのであれば、飲み屋街のあちこちで女性が裸にされているという事ですわね?
ゲーム感覚でこのような事をしているのなら、尚の事あちこちで女性が裸にされているという事ですが、本当にコレがゲームなのですか?」
ぐぅ…ラフィの理論的な追求に何も返す言葉が無い…
「ま、待ってくれ!姐さん、コレは俺が全部悪いんだ!兄弟は何も悪くねえ!」
優しくフランシアを膝の上から隣へと移動させたハルトが俺を庇ってくれた。
「いや、ハルトのキョーダイは悪くない!全部俺の責任なんだ!
聞いてくれ、ラフィ。俺は毎晩裸のお前とベッドを共にしていて、滅茶苦茶欲求不満なんだ!
パーティーハウスは女性だらけだし、こっそり1人で性欲を処理する事も出来ないんだぜ!正に生殺し状態なんだぜ!」
俺はハルトに責任を擦るような真似は出来なかったので、恥ずかしかったがラフィに胸の内を曝け出した。
「ヨシュア様…その…私ではダメなのですか?
私を抱いて下されば、ヨシュア様の問題も解決するのでは…」
ラフィは綺麗な瞳を潤ませて、俺に問い掛けて来た。
何とも言えない罪悪感に、胸が締め付けられるかのようだ。
「ダ、ダメっつうか…ラフィみたいに可愛い女の子の寝込みを襲うとかは普通にダメだろ?
パーティーの仲間でそういう関係になるのも、なんつうかダメな感じだし?」
「私はヨシュア様を1人の男性として、心からお慕い申し上げているのですわ!
そう、コレはラブなのですわ!圧倒的なラブな感情をヨシュア様に抱いているのですわ!
パーティーだとか周りの目を考えずに、ヨシュア様の本当の気持ちをお聞かせ下さいまし!」
ラフィがとても興奮した様子で凄い事を言い出した。
正直言って、ラフィが俺にラブな感情を抱いてくれているのはとても嬉しい。飛び回ってはしゃぎたくなる程嬉しい。
で、でも…良いのか?俺なんかで良いのだろうか?
俺が戸惑っている間も、ラフィは真っ直ぐ俺の目を見つめて来ている。
「いや…そ、そりゃあ…お、俺だってラフィの事が…正直言って…いや、その…
な、何つーか…いや、でもパーティーメンバーとして考えずにって言うのは…それはちょっと無理っつうのか…」
俺は…ラフィからのどストレートな告白にビビってしまった…
「そう…ですか…やはり、私の事はパーティーメンバーとしてしか見て下さらないのですわね…
ヨシュア様の妻になる夢は諦めますわ…どうぞそちらの女性達とお楽しみ下さいまし…」
ラフィは俯いて力なく言うと、踵を返してVIPルームから出て行った。
一瞬頬から涙が伝っていたように見えたけど…
「な、なぁ、兄弟。姐さんを追いかけて行った方が良いぜえ!
兄弟だって、姐さんにホの字なんだろ?」
ハルトのキョーダイは下半身丸出しのままなのに、真っ先に俺とラフィの事を心配して声をかけてくれた。
下半身丸出しのまま、先程の修羅場に遭遇するのは辛かったに違いない。自身の羞恥心よりも漢同士の友情を取るなんて、どこまでも漢気溢れる素晴らしい兄弟分だ。
「キョーダイ、気を遣わせてしまって済まない。
何の事は無い…ただ、俺が最低のビビりってだけサ…
俺は…ラフィに一目惚れしたっていう、自分の気持ちを伝える事さえ出来ねえ情けねえチンピラだゼ…つくづくチキンチンピラだゼ…
パーティーを追放されて、絶望に打ちひしがれていた俺に優しさと温もりをくれたラフィに俺は…
うあぁぁぁああああ!!!俺のバカぁぁぁあ!!!」
俺は泣いた…涙どころか、鼻水さえもジャンジャン垂れ流して泣いた…
「漢の涙っつうのは、女子供が見るようなもんじゃねえ。
フランシア…済まねえが、今日のところは女性陣を連れて帰ってくんねえか?」
「そうよね…さ、皆んな今日のところはここでお開きにしましょう?」
ハルトの気遣いに、ただただ感謝しか無かった。女性陣はフランシアの呼びかけに応じて、そそくさと脱ぎ散らかした下着や服を着て、挨拶もそこそこに部屋を後にした。
その後も俺はしばらく大号泣し続けたのだった。
◇◇◇◇◇
「ヨシュアのアニキ。今日の所は早めに帰って、姐さんと話し合った方が良くねえですか?」
俺がギャン泣きしている間、ハルトのキョーダイは黙して語らず、煙草の紫煙を燻らせながら渋く決めていた。
小一時間程泣いて落ち着いた時、真っ先に声を掛けて来たのはグラフだった。
「で、でも…あんな煮え切らない態度を取っちまった手前、ラフィにどんな声をかけて良いか分からねえよ」
バチコーン!!!
俺がグラフの言葉に戸惑っていると、いきなり大きな拳が俺の左頬に炸裂した。
「バカヤロウ!!
別に無理に話しかける必要なんて無えだろうよ!
兄弟が姐さんの事をパーティーメンバーとして割り切ったっつうなら、どんなギスギスしていてもパーティーハウスには帰るべきだぜえ。
辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も一緒に居るのがパーティーの絆だろうが!それがファミリーってもんだろうが!」
ハルトのキョーダイの拳も言葉も、とても熱く俺の心に響き、ウジウジした俺の気持ちを吹き飛ばした。
「へっ、さ、流石キョーダイは漢の中の漢だゼ。
ありがとな。お陰で目が覚めたゼ」
「おう。そんじゃ、呑みはまた次の機会にな」
俺は最後にハルト達に軽く会釈をして、ダッシュでパーティーハウスへと帰った。
◇◇◇◇◇
「良くもおめおめと帰って来られるよね?」
「めっちゃシレっと帰って来たの〜!」
シレっとパーティーハウスに戻ると、リビングのソファーでラフィが泣きじゃくっていた…
憮然とテーブルに腰掛けた俺に、ラフィの両サイドに座って彼女を慰めていたシンシアとエレナに非難の声を浴びせられたのだ。
リビングにはラフィの嗚咽だけが響いている。
余りに重苦しい空気に、俺は逃げ出したい衝動に駆られたが、キョーダイのアツい言葉と拳を思い出して何とか踏み止まった。
「ヨシュア様、何かラフィに言う事は無いの?」
シンシアがキツい目線を向けて問いかけて来た。
俺はどう応えるべきだろうか?
そんな時に浮かんで来たのは、漢の中の漢・ハルトのキョーダイの姿だ。
キョーダイは俺がギャン泣きしていても、寡黙で渋かった。何よりそこには無言の優しさが感じられた。
俺はキョーダイ宜しく、ジャケットからタバコを取り出して咥えると、生活魔法のプチファイアで火を付け、ゆっくりと煙を吐き出した。
このスタイルこそ漢の無骨な優しさなのだ。
ラフィやシンシアも同じパーティーの仲間なんだ。漢道を突き進む俺の意図を汲んでくれるハズ。
「ヨシュア様…
煙たいから外で吸って」
俺は冷たいシンシアの空気感に押し出されるように外に出て、夕焼けに染まる空を眺めながらタバコをふかした…
漢道はまだまだ長い道のりのようだ…




