22話 模擬戦中の闖入者
誤字報告ありがとうございます!
自分は学が無いので本当に助かります!
「今日こそヨシュア様から一本取るの!」
ギルドにレジーと名乗った男の報告を終えて、ギルドハウスへの帰り道。
俺がクラスアップした事と同様に、『フェロモンイーター』の魔力分配でパワーアップしたエレナが模擬戦を強請って来た。それはもう凄い勢いで。
貫徹でダンジョンから戻ってギルドに報告したばかりなので、早く帰ってゆっくり眠りたかったんだが…彼女の熱意に負けて、俺達はギルドからほど近い場所を流れている川の河川敷に来ている。
「周りを破壊しないようにな。人気の無い場所とは言っても、エレナのパワーは凄いんだから」
木剣を片手に鼻息を荒くしているエレナ。俺の言葉など耳に入ってないようだ。
実はエレナが剣皇にクラスアップして以来、こうして手合わせする事は避けていた。
剣皇になってからも毎日ガムシャラにトレーニングしていたエレナに、剣での模擬戦では太刀打ち出来ないと踏んでいたからな。
幼女にボコボコにされるなんて恥ずかしいじゃない?
そんな事を思いながら、5メートル程先に立っているエレナの姿を見ていると、以前とは立ち姿が違う事に気が付いた。
前までは腰を落として、力を溜めているような構えだったのに、今は戦う気が無いようなダランとした棒立ちに見える…いや、棒立ちなどでは無い。
四肢に余計な力が入らないようにしているけど、両膝は軽く曲げているし、両足のスタンスもどの方向にでも瞬時に動けるような絶妙なスタンスを保っている。
てっきり会得した『縮地』を使って死角に回り込むのかと思ったんだけど、単純な身体能力のみで接近する気のようだ。
対人戦の場合、相手がスキルを使ってくれた方が正直言って戦い易い。強力なスキル程、発動するのに魔力を練る必要があるので、その魔力を察知して後の先を取れば良い。
エレナの厄介な所は、深く考えて今の構えにした訳では無いという事だ。何となくの直感でそうしているのか、又はその場の閃きなのか分からない。
シュンッ!
エレナの姿が消えた瞬間、俺の左側に回っていたエレナが下の方から木剣を鋭く振り上げて来た。
俺は何かを感じた瞬間にステップバックして躱したのだが、自分の今の動きに我ながら驚いてしまった。
感じたと同時に、身体が素早く正確に動いている…恐らくこれが、エレナやビッチのアマンダが有している感覚なんだろう。
シュシュシュン!
まるで風を切る音が後から来るような超高速の3連撃を、俺は感じるままに体を動かして躱して行く。
クラスアップする事で、身体能力1つ取ってもこれ程上がるとは…『宵闇の戦乙女』のクソビッチどもは、2回もクラスアップしたんだ。認めるのは癪だけど、やっぱアイツらって天才の集まりだったんだな…
災害指定特区には先にアイツらが行くだろうけど、俺たちも絶対に辿り着いてみせる。この最高の仲間たちと一緒に。
ッシュシュン!シュン!シュパッ!シュシュン!
エレナが急に木剣を振るうリズムと溜めを変えて来た。
このロリちゃんはつくづく天才だ。普通はこれ程のスピードとパワーが有れば、多少単調になろうがそのままのスタイルでゴリ押しして来る。
エレナは戦闘中にアッサリとそのスタイルを変えてしまうのだ。
俺は体捌きだけではエレナの超音速の剣戟を捌き切る事が出来なくなり、木剣を使って彼女の連撃を防がざるを得なくなった。
ただでさえ背の低いエレナとは戦い難い。目線よりもかなり低い位置から繰り出さている事もそうだが、大きな要因はエレナが着ているややゆったりした東方の衣装に有る。
あの衣装で前屈みになられると、剣の出所が見え辛い。
出所が分からない上にタイミングを変えられると、どうしても此方は後手に回るしか無くなってしまうのだ。
それでも俺はギリギリの所で、エレナの剣を捌けている。
子供の頃に、父さんのロングアッパーを躱すトレーニングを続けていたのが良かったのかも。あと、妹のティファニーとバトルごっこで遊んでたのも役立っているんだろう。
ティファには何度も殺されかけたなぁ…
俺は最愛の妹を懐かしみながら、ロリっ子の剣を捌いていると…
「うわぁぁあん!エレナの剣がクリティカルヒットしないのぉぉおお!!
ヨシュア様いぢわるなの〜!!!」
5分程捌いた所で、エレナが手を止めてギャン泣きしてしまった…ギルドの訓練場でやらなくて良かった。
あそこで模擬戦をしていたら、再び幼女を虐める極悪人みたいな目で見られる所だった。
しかし、今はエレナのフォローよりも、こちらの対処が先だろう。
「おい、そこの男。何をコソコソしているんだ?出てこないなら斬り捨てるぞ?」
俺が土嚢が積み上がっている方へ声をかけると、バツを悪そうにしたガラの悪い男が土嚢の陰から姿を現した。
「チッ!何でバレんだよ…テメエはマジで人間か?この変態野郎?」
「何だ?随分と敵意のある物言いだな?
お前とは初対面だと思うんだが、何故そうも殺気立っている?」
そう。このチンピラっぽいギラついた男は、何故か初対面の俺に対して殺気を放っている。
「そりゃあ、下半身丸出しで幼女を泣かせてる変態野郎を見れば、誰だって殺すしかねえと思うだろうが!
バカなのか?テメエは?」
俺は男に指摘されて愕然とした。
ギリギリで躱したと思っていたエレナの剣戟が、俺のズボンとボクサーパンツを切り刻んでいたのだから…
ちょ、ちょい待て!コレでは確かにヤツの言う通り俺は犯罪者では無いか!
「す、済まない!コレは誤解なんだ!彼女とは剣術の訓練を…」
俺が誤解を解こうと言い訳を始めるも、男は問答無用でホルスターから魔導拳銃をドローして俺に向け…
シュバァッ!!ボゴメキョオッ!
男が引き金を絞るよりも速く、ギャン泣きしたエレナが木剣で男の右脚を斬り裂き、二の太刀で銃を持つ手首を打ち据えた。
「うあぁぁあん!!!ヨシュア様に銃を向けるななの〜!」
脚が千切れかかったチンピラは魔導銃を落とし、地面に這い蹲る。
武器の無くなったチンピラを、エレナの木剣が容赦なく切り刻んで行く。
「うぁぁあん!コレは模擬戦を邪魔した罰なの〜!」
彼が俺を殺そうとしたのは行き過ぎだが、そもそも下半身丸出しで誤解を生んだ俺が悪かったのだ。
俺はすぐさまエレナに駆け寄って、何とかエレナの剣を振るう手を抑えた。
「やめろ、エレナ!幾ら何でもやり過ぎだ!」
「うあぁぁあん!!ヨシュア様を銃で撃とうとしたコイツをぬっ殺すのぉぉお!!!」
俺が諌めようとしても、号泣するエレナはジタバタと暴れて収拾がつきそうに無い。
「ヒ、ヒイィィィイ!だ、だずげでくれええ!!」
チンピラは悲鳴を上げながら、四つん這いの体勢でぴょんぴょんと跳ねるようにして逃げて行く。
何ともタフで器用な男だ。
「オ、オイ、アンタ!待ってくれ!エクスポーションで治してやるから…チョイ!エレナ!もう暴れるな!
あの男の治療をしないと…」
結局エレナが落ち着いた時には男の姿は無かった。
男の物と思われる血痕が市街地の辺りで途切れていたので、もしかしたら治癒院に運ばれて行ったのかもしれない。
脚の傷以外は大きな傷は無かったし、戦闘の心得がある男っぽいから、魔力で出血はある程度抑えられる筈だ。
一安心した俺は不貞腐れるエレナを連れて、今度こそパーティーハウスへと帰ったのだった。




