21話 魔族の事情 ①
〈リゾンドウ視点〉
「ハァ…ハァ…リゾンドウ!居るんだろ!?
クッ、つつっ、ヘマしちまったんだ!腕を…腕を元に戻してくれえっ!」
転移魔法で俺の隠れ家に転移して来たレジーが、ヒステリックにわめき散らしている。
レジーは人族としては規格外の力を有しているので、彼の痛々しい姿はとても信じられるものではない。
「俺ならここにいる。どうしたんだ?
ダンジョンで強い魔物にでも襲われたのか?」
「ち、違う!相手は王国の冒険者だ!イデデデ…は、早く例の魔導具を頼む!
10分前で良いから」
俺はレジーに言われるがまま、右腕の切断面に時間干渉の魔導具を向けて使用する。
ものの10秒程で彼の右腕は元の状態に戻った。
「この魔導具は何度も使えるような代物じゃないんだ。
あと3回しか使わないから、今回のような事は二度と起こさないようにして欲しい」
「…悪かったよ。まさか、王都にあんな凄いヤツが居るとは思わなくてさ」
俺はレジーを窘めたが、返って来た言葉に思わず耳を疑ってしまった。
この規格外の男に、凄いと言わせるとは一体どんなヤツなのだろうか。俺達の計画の邪魔にならなければ良いが…
「なぁ、その冒険者の特徴は?
それから、暗殺する事は可能なのか?」
「ヨシュア・ワイルダーという20歳前後の男だ。王国の英雄"シュガー"・レイ・ワイルダーの息子さ。
恐ろしく顔立ちの整ったヤツで、見た事の無い技を繰り出して来た。
アレは暗殺すら無理だろうね。この僕が接近された事にすら気付けなかったんだ。
ヨシュアの仲間の女たちも恐ろしく強かったし、僕の事を警戒しただろうから、そんな隙は見せないと思うよ。
出来れば金輪際あんなヤツと関わりたく無いね」
レジーの返答に思わず戦慄が走った。
20年ほど前に目覚めた俺たちが、表立ってすぐに行動出来なかったのは、"シュガー"・レイ・ワイルダーの存在が有ったからだ。
ヤツが5年前に引退したと聞いて安心していたら、まさかヤツの息子がヤツ以上の脅威になるとは…
今後王国内を中心に活動する予定の同胞がいる。彼にもヨシュア・ワイルダーの情報を伝えなくては、不用意に近付いて命を落としかねない。
「君に繋がるような痕跡は残してないよな?
そんな人外連中に狙われるような事になったら、『魔亜神・ノルドゥヴァリ様』の蘇生どころでは無くなってしまうぞ」
「それは恐らく問題ないと思うよ。自爆を装って来たし、クソ豚ハゼットの死体もばら撒いて来たからね。
あのブタ野郎は黒髪黒眼だったし、ギルドも遺留品から、偽装した僕をハゼットだと思い込むだろうね」
なるほど。レジーがあのハゼットという男のフリをして、首都を練り歩いていたのはそういう事か。
俺が彼にレベル集めを依頼した際、レジーは抜け殻となったハゼットから服や持ち物を剥ぎ取り、ハゼットになりすましてレジーへの恨みを方々に撒き散らしていた。
あの時は何の自演かと思っていたが、もしもの時の保険をかけていたという事か。
彼を協力者にした事は正解だったようだ。
「それよりも、本当に『魔亜神・ノルドゥヴァリ』とやらは人族に危害を加えないんだろうね?」
「この世界の連中はどうして俺らに敵意を抱くんだろうね?
俺らは君らが崇める勇者と同じく、別の世界から来たただの人間だよ。魔亜神様も、元は我々と同じ人間だったんだ。
俺達はそちらから攻撃して来なければ、理由もなく人族を滅ぼしたりしない。
ただ姿形が君らと違うってだけで、モンスターだの悪魔だのと言われて攻撃を仕掛けられたこっちの身にもなって欲しいもんだ」
俺はウンザリしながらも、レジーの問いに答えた。
レジーは比較的マシな方なんだろう。他の人であれば、俺の顔を見るなり叫び声を上げるか、攻撃を仕掛けて来るか…少なくともレジーのように協力者にはなってくれない。
「僕に人族のレベルを回収させている時点で、危害を加えているようなモノだけどね」
「魔亜神様を仮死状態にしたのは人族なんだ。その責任を取って貰っているだけだ。
残念ながら、人族はとても短命な上に、戦闘をしない連中の魂の格が低すぎる。だから、何代にも渡って当時の負債を返してもらっているって事さ」
「まぁ、良いさ。君は約束を守ってくれている。
あと40,000弱で、タウザーとミュウも治るんだ。ちゃんとやり遂げるから安心してくれ」
レジーはエクスポーションであちこちの傷を治すと、俺の隠れ家を出て行った。
その後、しばらく俺の頭を駆け巡ったのは、レジーにあれ程の深手を負わせたという、ヨシュアという冒険者の事だった。
『ミッドナイト・コンバタント』のタイムボーナス発生中に、『ミキシング』を発動させたレジーは恐ろしく強い。
人族と戦争していた頃に戦った、勇者ダーハマほどでは無いが、奴の仲間だった剣神キャンマナ並みの強さだろう。
俺ではとても太刀打ち出来ない程だ。
そんなレジーの利き腕を斬り落としたというヨシュア…その男は、ヌルドゥヴァリ様を脅かす存在になり兼ねない。
ヨシュアと敵対する事だけは避けなくては。
そう思い至った俺は、王国に潜伏している同胞の元へと転移した。
◇◇◇◇◇
「カッハッハッハ!リゾは相変わらず心配性だなぁ!
そんな邪魔くさいガキなんて、さっさと捻り潰すに限るぜえ!」
同胞のジェミナスに、ヨシュアの事を警告しに行ったらコレだ…ジェミナスは荒事には滅法強いんだが、直情的過ぎて浅慮な振る舞いをするのが玉に瑕だ。
「ジェミナス、ヨシュアをただのガキと舐めてはいけない。
それに、ノルドゥヴァリ様を一刻も早く蘇生するのが我等の使命だろうが。面倒なヤツに関わって、時間を取られる訳には行かない」
「どの道、俺のする事は衛兵なり冒険者なりに目を付けられる事なんだぜ!?
今のうちに面倒なヤツは潰しておいた方が、後で楽になるってもんよ。
なぁに、ちゃんと人族のチンピラに偽装して殺して来るから、足は付かねえよ」
俺の忠告も聞かずに、ジェミナスは人族の姿になって何処かに転移して行った…
大丈夫だろうか?そもそもジェミナスの偽装魔法は1時間しか保たないのに。
30分後…
「ぐぶぇぇえっ!リ、リゾォォオ、は、早く例の魔導具を使ってぐれぇぇえ!脚がぁ、、、ち、千切れががっぇるよぉぉお!」
急に血だらけになったジェミナスが現れ、俺に涙目で助けを求めて来た。
やはり、ヨシュアという男に近づくのは危険過ぎる…
俺は戦慄を覚えながらも、ジェミナスに時間干渉の魔導具を使う。
「あれだけ大口を叩いたんだ。
ヨシュアの腕の一本くらいは頂いて…来たようには見えないな」
「はぁ、はぁ…ヤ、ヤツに触れるどころか、ヤツのお付きの幼女に一瞬で殺されかけたぜ…何だよあのロリっ子はぁ!?
あの小娘、キャンマナの10倍は強えぞ!?人族は弱体化してるんじゃ無かったのかよ!?
な、情けねえ話だが、ヨシュアとかいうガキが幼女を止めなかったら、今頃俺は…」
そう言うと、ジェミナスはガチガチと震え出す。
ジェミナスが口にした事は、今日イチの衝撃だった。
キャンマナの10倍と言ったのか?勇者ダーハマと同じくらい強いという事では無いか…
確かレジーは、ヨシュアの仲間の女たちも恐ろしく強いと言っていた。
「やはり、ヨシュアには手を出すべきではないな」
「だが、計画の方はどうする?デカいイベントを狙うっていうのは目立ち過ぎるぜ」
ジェミナスの言う計画とは、王都で年に1度行われる英雄祭に集まった人族の魂を一気に奪い取るという物だ。
ノルドゥヴァリ様の魂を蘇生出来た際に、大量に集めた人族のレベルは魂を肉体に固着させる接着剤となり、人族の魂はノルドゥヴァリ様の魂の初期エネルギーとなる。
「仕方がない。出来るだけ目立たないように、通り魔的にコツコツと魂を奪って行くしか無いだろう。
それから、王国に固執するのはやめよう。別の国でも魂を回収して、人族に的を絞らせないようにしなくては…」
「くそぉっ!これじゃあノルドゥヴァリ様にお戻り頂くのが遅くなっちまう!
いつになったら元の世界に帰れるんだよ!」
ジェミナスは声を荒げると、アジトの床を思い切り殴りつけた。
俺たちが元の世界に戻るためにも、ヨシュアとその仲間達が我々に敵対する事が無いよう、今はただ祈るのみだ。
沢山の方にブクマ登録やご評価頂けてとても嬉しいです。
本当にありがとうございます!!!
また、コメントも頂けてとても有り難いです。
最近の話ではバトル要素が強いのですが、元々はハッピーな純愛コメディーモノとして今作を執筆しました。
今後は主人公の純愛も投稿する予定です。
もちろん冒険者が主人公なので、バトル要素も濃いのですが、ご意見やご要望があればコメントを頂けると有り難いです。




