13話 一方『宵闇の戦乙女』は ②
「マジでそろそろやべえんですけど」
元賢者のソニアがいつになく神妙な顔で、吐き捨てるように言った。
ヨシュアを追放して以来、クエストを立て続けに失敗している『宵闇の戦乙女』。
今まで殆どして来なかったミーティングをギルドの酒場で行なっている。
「そんな事は皆んな分かってます。
だからこうしてミーティングを開いているんです」
元聖女のサーシャは努めて冷静なフリをしているが、その表情から相当追い詰められている事が伺える。
他の2人、元勇者のアマンダと盾使いのアーロンは心ここにあらずという感じだ。
「やっぱココはさ〜、評価爆上げするっきゃないっしょ?
で、コレ以外ナシって感じのクエがコレ」
そう言ってソニアは、テーブルの上にSSランククエストの依頼書を広げる。
それは先日ヨシュア達『豊穣の翠』と『ヒャッハーズ』が、合同調査を行なったイレギュラーダンジョンの再調査依頼である。
ラフレシアとハルトからダンジョンの異常性の報告を受けたギルドは、1階層からダンジョンボスが2体も現れた点や、いずれもSSランクボスだった事を鑑みて、再調査をSSランクに位置付けた。
パーティー単位で有れば1つ上のランクのクエストを受ける事は出来るが、今の『宵闇の戦乙女』にとって余りに無謀なクエストである。
「ふむ…確かに、SSランク依頼を達成すれば、降格も無くなりますね」
先日、ギルドから『宵闇の戦乙女』に対して、パーティーランクの降格を示唆されていた。ソニアとサーシャには降格だけは何としても免れたい事情が有る。
ソニアは魔導協会からの多額の支援金を、サーシャは聖ミハイロ教会からの支援を受けているのだが、降格してしまうとそれらを失ってしまう。
さらに、引退後にそれぞれに用意されていた要職のポストさえ、降格によって無くなってしまうのだ。
金と名誉欲に塗れた2人にとって、それは死よりも辛い事だった。
「おいおい、そのダンジョンは1階層からアースドラゴンとケイオスバイパーが出るって話だぜ?
幾ら何でも無謀過ぎるだろ」
真っ先に難色を示すアーロン。彼の指摘通り、今の『宵闇の戦乙女』には土台無理なクエストである。
「は?ざけんなし!
Aランに上がりたての翠の何たらいうパーティーですら無傷で討伐したっつーのに何言ってんの?」
「ソニアの言う通りです!そもそもアースドラゴンなんて以前に簡単に討伐しているんですから、1匹や2匹出てこようとも我々の敵では有りません!」
アーロンの真っ当な進言を真っ向から否定するソニアとサーシャ。
サーシャの言う通り、ヨショア在籍時にアースドラゴンを難なく討伐している。だが、それは言うまでもなくヨシュアの高度なサポートと、彼の『フェロモンイーター』というチートスキルが有ってこそ。
ヨシュアの恩恵が無くなった『宵闇の戦乙女』には不可能な事だ。
しかし、降格話によって尻に火がついて余裕の無い2人には、現状を冷静に判断する事など不可能である。
「そのクエストよりもさぁ…ヨシュアに戻って来て貰わない?」
ここまで静観していたアマンダが、弱々しい感じで自分の意見を2人に告げる。
いつになく弱気なアマンダの発言は、ソニアとサーシャの神経を逆撫でた。
「はっ?舐めんなし!!!
あんな変態野郎なんてウチらに要らねえから」
「ソニアの言う通りだわ!
あんなゴミは只の足手まといでしか無いんですから!」
ソニアとサーシャの憤怒した表情から、何を言っても無駄だとアマンダは諦めた。
実はこの数日間、アマンダは相次ぐクエストの失敗について考えていた。
過去に難なく攻略出来ていたダンジョンが、序盤で躓いた結果失敗している。
失敗の要因は、連携が全く取れていない事。
そして、道中のモンスターが以前に比べて遥かに多く、対応が後手後手に回ってしまう事だ。
ヨシュアがいた頃は、彼の戦闘時の行動を気にもしていなかった。
当時は、何かちょこまかと動いて目障りだなぁ、程度の認識だったが、今になって当時を思い起こすと、最近のダンジョンアタックとは比べ物にならない程戦い易かった。
恐らく、彼が道中の余計なモンスターを処分して、相手のメイン戦力に自分が思い切り攻撃出来るように立ち回ってくれていたのだろう。
最近モンスターが急に増えたのでは無く、ヨシュアが間引いて少なくしてくれていたのだ。
そこまで考え至った時、激しい後悔がアマンダを襲った。
自分はパーティーの主戦力を常に邪険に扱い、挙句追い出してしまったのだ。
彼が今、何処で何をしているかも分からない。失った力はもう戻らないだろう。
『アタシはあの日、お気に入りのTバックと一緒に、最高のパーティーメンバーを失くしたんだ…』
それ以降の数日、何もかもが手に付かなくなった。
それでも、今日のミーティングでヨシュアを連れ戻す事を提案して、サーシャとソニアの協力を得られればと思ったのだが…
『コイツら速攻で全否定かよ。
何言っても無駄かぁ、コイツらヨシュアの事凄え嫌ってたもんな…
こんなミーティング下らないし、時間の無駄だわ』
アマンダは大きくため息を吐いて席を立ち、ギルドの酒場を後にした。
パーティーハウスへ帰ろうと歩き出した時、思わぬ人物が目に入った。
白銀の髪、くっきり二重の大きな目、180センチを越える高身長に引き締まった身体。
ヨシュアという名の絶世の美男子である。




