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3話

 ローティが蓮葉であることが確定した数日後、侯爵がふたりに旧都で行われる子供向けの社交会に行ってみてはどうかと打診。だがふたりはそれを拒絶。

 メイプルは引き籠もりだから嫌がるのは当然として、何故ローティまでもが断るのか。

 少し気になったメイプルはローティに聞いてみることにした。


「なんでローティは行かないの?」

「ん、だってメイプルが行かないのにワタクシが行くわけないですわ」

 それならば筋が通る……ことはない。

 蓮葉は楓とそんなにべったりとくっついていたわけではない。そもそも学校が異なっていたし、親同士の親交は然程深くはなかった。中学~高校向け社交会ミドルも、一緒になることもあった程度だし、大人向けの正式な社交界ラージへ親の同伴で行く場合も、大抵は別々だった。

「理由は他にもありそうですが」

「ん、他に理由はありませんわ」

 メイプルは首を傾げる。蓮葉はどちらかと言えば社交的で、そういった会には積極的に赴いているイメージがあった。だからメイプルが行かなくともひとりで参加することに抵抗はなさそうなものだ。

「ひょっとしてワタクシたちの出会いを覚えてない?」

 悲しそうな顔で見るローティ。だがメイプルは困ったような表情を返すくらいしかできない。自分の記憶で初めて蓮葉が出てくるのは、パーティで軽く挨拶をしたくらいなのだから。

「……仕方ないですわ。少し、昔話にお付き合いくださいませ」

 ローティは、蓮葉の記憶にある奥底の輝きを紐解いた。



 あれは幼きころの子供用社交会スモール

 5歳になった蓮葉は、親に将来の予行練習みたいなものだからとそこへ無理やり送り込まれた。

 今までほとんど家の外で同じ歳くらいの子供と合うことのなかった蓮葉は、勝手がわからないし声を出す勇気もなく、隅で皆が踊っている姿を眺めていた。


 そんな蓮葉の周りに数人の少年がやってきた。

 可愛らしい蓮葉を誘いたいのだろう。だがかっこつけたがりの年頃で、しかもそのかっこつけ方が間違っている。高圧的というか気取っているというか、自分にそんな気はないが可哀相だから誘ってやるぜみたいなことを言っている。

 知らない少年たちの言葉に怯えた蓮葉は俯き、泣きそうになるのをじっと堪える。


 そんなとき、横から蓮葉の手を掴み引き寄せるものが。

 引かれるまま周囲の男子から抜けた蓮葉は、その手を持ち上げられた。すると必然的に相手へ体を寄せることになる。

 蓮葉はその相手を見て目を大きく開いた。

 それは艷やかな長い黒髪の少女だった。

 彼女は蓮葉の腰へもう一方の手を回し引き寄せる。そして少年たちを不敵な笑みで一瞥すると、上げた手を肩口まで下げ、その場で蓮葉と共にくるりと回る。

 唖然としている少年たちに、少女がひとこと。


「貴方がたはまだ淑女を誘うには早すぎますわよ、おぼっちゃん」

 にこりと笑みを向け、くるりくるりと蓮葉を振るように部屋の中央へ向かう。


 自分を助けてくれた、まるで王子様のようだと思った蓮葉は、その考えを一瞬で改めた。

 目の前にいるのは身の丈が同じくらいの少女。少しタレ目だが切れ長で、目尻には小さな泣きぼくろ。優しそうな笑みで蓮葉を見ている少女に蓮葉は、これが本当の淑女なのだと感じざるを得なかった。

 水色のドレスの少女と、ピンクのドレスの蓮葉。くるくる回る姿はまるで朝顔のようだ。

 そして会場の中央を横断し、逆側の壁まで着くと蓮葉は解放された。

「あ、あの、その……あ、ありがとう……」

 ぽーっとした頭を切り替えきれないまま礼を言おうと頑張る蓮葉。そんな様子に少女はクスリと笑って一言。

「次は素敵な殿方に誘われるといいですね、お嬢さん」

 少女は笑顔でウインクをすると、人混みに紛れるように消えていった。



「これがワタクシと楓の初めての出会いでしたわ」

 祈るように胸の前で指を組むローティに、メイプルは頭を抱えた。

 少年たちが間違った格好つけ方をしていたのに対し、あのときの楓もまた間違った格好つけ方をしていたのだ。

 だが楓はそういう少女だ。変なところで格好つけたがる。いや、格好つけずにはいられない体質。全てが終わったあとで己の行動に頭を痛める。

 そしてそれをやってしまったときの対処法として、忘れることにしているのだ。つまり、蓮葉との初対面も歴史の闇に葬ったのだから覚えているはずがない。

 だから楓にとって蓮葉との最初の出会いは、その後にあった鹿苑寺家のパーティという認識になっていた。記憶の改竄である。

 それも二言三言くらい挨拶した程度であり、蓮葉と会ったということ以外あまり覚えていない。


「……ええっとそれで、それとこれはどう繋がるのかしら?」

「ん、少し考えたのですが、このままだと元の世界の出来事がそのまま起こる気がしたのですわ」

 突拍子もないローティの話に、メイプルは首を傾げる。

「何故そのようなことを?」

 もう既に色々と食い違っているのだから、そんなことはないだろうとメイプルは思っている。

 だがローティはそう考えていない。


 前の生き方をトレースしているのだとしたら、メイプルとローティの出会いは子供用社交会スモールのはずだが、実際にはローティをこの家で預かっている。

 しかしそれに対してローティは、メイプルが楓の記憶を取り戻し引き籠もりになってしまったせいでスルーした、実は参加させるはずだった会が先日あったのではと推測。そして蓮葉ローティと出会うことで歪む予定だった未来を修正させようとしているのではないかと。

 それでもここでまた誤算が。ローティの前世の記憶も戻ってしまったのだ。もし今回の会に参加していたとしたら、婚約者となる鹿苑寺葵の転生者と出会う可能性がある。


「なかなか想像力が豊かな話ね」

「ん、我ながらどうかと思いますわ。だけどこうしてあなたとワタクシが居るべく時期に出会っているのですわ。少しでも懸念される材料があるのならば、回避できるものに関しては避けるべきですわ」


 ローティは心配しすぎだと思いつつも、万が一ということもあるため心に留めておくことにした。

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