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0話 ことの始まり

「────全てお前の仕業だったんだな!」

「なっ……なんのことですか!?」

 昼過ぎの校舎の廊下で日本有数の大会社、鳳凰堂グループの会長の孫である鳳凰堂楓は、婚約者である世界に名だたる鹿苑寺グループ社長の息子、鹿苑寺葵に詰め寄られていた。

 葵の後ろには、彼と最近仲の良い同級生の土蔵野花がいる。

 彼女は葵の背後で小動物のように小さく震えていた。

「しらばっくれても無駄だ! 彼女の靴を焼却炉に入れたり、教科書をやぶいたりしていたんだろ!」

「えええええっ!?」

 楓は突然の言葉に驚く。その様子を見て葵はにやりと笑う。

「何故バレたのか驚いたようだな。残念だが全て暴いてやったぞ!」

 楓が驚いたのは何故バレたのかではなく、まったく身に覚えがないからだ。


 名家の子供ばかりが通うこの学園で、一般家庭育ちの野花は他の生徒からのいじめを受けていた。葵はそれを知り犯人を探しており、色々と聞き回ってようやく見つけたという場面なのだが勘違いも甚だしい。楓はいじめのことを知り可哀相だなと思いつつも、へたに手を出して自分もいじめられるのが嫌だったため関わらないようにしていたのだ。完全に部外者である。


「私、そんなことやってません!」

「やってない、か。そりゃやらせていればやっていないとも言えるか」

「誰がそんな……」

「お前の取り巻きの女子たちが吐いたぞ。全部お前の命令でやっていたってな!」

「えええええっ!?」

 楓は慌てて周囲を見る。騒ぎになっているため、自分たちの周りには人集りができているのだが、そこにはいつも仲良くやっているグループのメンバーもいた。

 そして彼女らは楓が顔を向けた途端、視線を逸らす。

 瞬間、楓は理解した。自分を悪役にして、罪を擦り付け売ったのだと。


 自分はそんなことをする人間じゃない。それをわかってくれる人物に裏切られたのだ。

 だが彼女にはまだグループとは別に、自分を信じてくれる人物がいる。エスカレーター式のこの学園で、小学生のころからそれなりに仲の良い男子生徒たちだ。


 しかし周囲を見渡していた楓は見てしまったのだ。彼らが離れた場所からこの状況をニヤニヤとしながら見ているところを。

 彼らも味方ではなかった。あまりのショックに膝から崩れそうになるが、必死にこらえる。

「おい、なんとか言ったらどうなんだ!」

 キョロキョロしている楓が、まるで逃げ場を探そうとしているように感じた葵は、楓に近寄り肩を突いた。


 然程強く押したわけではないが、足元がおぼつかない状態だった楓はよたよたとよろけ、階段から落ちてしまった。

 黒く長い髪をなびかせつつ視界から遠退く葵の姿。そして目の前が真っ暗になる。


 鳳凰堂楓、享年18。あと半年もすれば高校を卒業だった。





「────ということがあったんじゃよ」

 ひとりの幼女が自室のベッド横にある熊っぽいぬいぐるみに向かい話しかけていた。

 彼女の名はメイプル・フェニックス。小国ではあるが優れた魔術師が多いため、大国と肩を並べるサン王国にある侯爵家の娘だ。

 何故この幼女はぬいぐるみに向かって話しているのか。それは先程の「前世の記憶」が荒唐無稽だからだ。こんな話をしても誰が信じてくれるのか。それどころか頭がおかしくなってしまったのかと心配されてしまうだろう。


 なにせこれを思い出したのが、少し前に階段を登ろうとしてバランスを崩し、落ちてしまったときだからだ。

 とはいえ登ったのは数段だったし、床に激突する前にメイドが受け止めてくれたのだから怪我もない。ただ、階段から落ちるというショックのせいで、彼女のなかでなにが働いたのかは誰もわからない。


 生まれ変わったのだという実感が出たのは、鏡を見たとき。幼い容姿だけでなく、長く艷やかだった黒い髪はペリドットのような緑に。少し垂れていた目元も釣り上がり気味だし、目の色は水面ラリマーのよう。元の自分とは全く似つかない。


 メイプル・フェニックス。5歳と2ヶ月。前世の記憶が甦った。

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