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412-51 ヤヨイちゃんの暇

 マリューとヤヨイちゃんが来てから一週間ほどが経ち、年越しまであと一週間くらいとなったある日。

 いつもと変わらないお昼に、いつもと変わらないお昼ごはんを用意して、この一週間ですっかり馴染んだいつもの4人でテーブルを囲んでいたのだけれど、突然、ヤヨイちゃんが吠えた。


「いくらなんでも簡単すぎんか!?」

「んぇ……な、何、どうしたの……?」

「……昨日の昼ごはんはなんじゃったか言うてみい?」

「……え」


 話が見えない。でも言われた通りに思い返す。


「えっと……パンと麦粥に、チーズと干した果実を少し」

「おう。……一昨日は?」

「お、一昨日? えーっと……」

「……パンと豆のスープ、チーズと燻製肉を少しでした」


 思い出せないでいたら、毎日お昼ごはんと夕ごはんを用意してくれているエイラちゃんが答えてくれた。


「…………その前は?」

「んー……」

「……パンとポタージュ、チーズと干した果実を少しでした」

「………………その前の前は?」

「んぇ……」

「……パンと麦粥、チーズと燻製肉を少しでした」

「おう……おう……、そうじゃな……。そうじゃ…………いくらなんでも単調すぎるじゃろがい! と言うか朝も夜も似ったようなもんしか出てこんじゃないか! 飽きるわ! 飽きんのか!?」


 と言ってヤヨイちゃんが、ぱしーん、とテーブルを叩いた。

 ちょっと痛そうに手をさするヤヨイちゃんの隣では、マリューが気にせずパンをもぐもぐしている。


「飽きないのかって言われても……そんなに単調かな?」


 首を傾げながら隣を見ると、エイラちゃんも同じように首を傾げていた。

 確かに、食材的にそこまでレパートリーに富んでいるわけではない、とは思う。こと朝食に関しては、わたしとエイラちゃんとで交代で用意しているけれど、パンとチーズか干した果実くらいしか出さないことが多いから、代わり映えしないかもしれない。

 でも昼と夜については、いつも用意してくれているエイラちゃんが毎日取り合わせを変えてくれているので、そこまで、飽きる、なんて意識したことはなかった。

 ──ということを伝えたら、ヤヨイちゃんは頭を抱えてしまった。


「はぁ……。教会で出る昼ごはんの方が、まだ代わり映えがするわ……。と言うか、食事だけでないわ! あんたらは毎日毎日同じことばかり繰り返す生活をしおってからに、飽きんのか!?」


 と言ってヤヨイちゃんが、ぺちん、とテーブルを叩いた。

 わたしはまたエイラちゃんと少し見つめ合って、困った顔をする。エイラちゃんも、同じように困った顔をしていた。


「同じことばっかりって言っても、薬作りは楽しいし飽きるなんて……」

「……わたくしも、日々サクラ様にお仕えできて満たされています」


 そもそも、わたしは今の生活を単調だと思ったことはない。

 飽きる飽きないを意識したことからしてないのだ。

 だからヤヨイちゃんの言葉に困惑してしまうのである。

 ……と言うか、それはそれとして。今の会話の中で、エイラちゃんがここにいて満たされている、なんて言ってくれたことが、むず痒く嬉しかった。

 エイラちゃんのことは勢いで雇ってそのままここまで来た感があって、無理にここで働かせ続けているのではないか、とずっと心の片隅で微かに引っかかっていたのだ。でも不意にそんなことはなかったと確認することができて、じわりと安心感が湧いてきていた。

 思わずエイラちゃんの頭をよしよしと撫でるけれど、その様子を見ていたヤヨイちゃんは面白くなさそうな顔をしていた。


「おいトタッセン、あんたもなんか言ってやれ!」

「……んー? あー、まぁのんびり好きにやるのが一番よ」


 突然話を振られたマリューがお茶を片手にそう返す。

 反応は鈍めで言葉は間延び気味で、普段のハキハキした感じではなく、ゆったりまったりとした様子で──


「あんた完全にオフっとるな!?」


 マリューにヤヨイちゃんが噛み付いたので、なだめて紅茶を勧めておいた。

 それにしても、なんでヤヨイちゃんは突然、飽きるだのなんだのと叫びはじめたのだろう、と思う。

 わたしもエイラちゃんもそんなこと思ったことはないのに、なんでまた……と考えて、ふと思い至る。

 わたしやエイラちゃんは、毎日やることがある。でもヤヨイちゃんは基本的に家から出ないで、ぼーっとしている時間が多い、とエイラちゃんから聞いていた。要は暇なのだ。

 一応教会へ読み書きを習いに行っているけれど、1回数時間を週に3回だけだし、時間を持て余して、逆に余裕がなくなっているのかもしれない。


「ねぇ、ヤヨイちゃん。もっと遊びに出たりしてみたらどうかな? 寒いとは思うけれど……。暇に毒されて、ごはんにも飽きちゃった──のかも知れないし?」

「……ごはんが単調すぎるのは、絶対に、暇とは関係ないが、確かに暇は暇じゃ。暇じゃが……遊びに出るとて娯楽もなんもないじゃろがい!」

「ん……まぁ、それは……」


 森と山と川に囲まれたミフロには、目ぼしい娯楽はあんまりない。


「んー……、お、お手玉とか……?」

「日がな一日投げ続けとけと?」

「ん、あー……、お人形遊びとか……?」

「あん?」

「あ、あやとり……」

「……おいこら、やっぱりあんた、儂のこと子供扱いしとるな、おい!」

「……あー」


 確かに、子供向けの遊びばかりを考えていた。

 ただ、じゃあ大人向けの娯楽を、と考えてもそんなに選択肢が思い浮かばない。

 この辺りの大人の娯楽と言えば、まずは食事や飲酒だと思うのだけれど、ヤヨイちゃんはその食事に飽きがきているみたいだし、お酒の方は……良くないと思う。

 ミフロの奥様方は、どこから仕入れるのか噂話に花を咲かせていることもまま見かけるけれど、ヤヨイちゃんはそこに入っていけるほど馴染めてはいないと思うし、他には──


「……あ、本とかどうかな? ちょっとお高いけれど小説とかもハルベイさんのところで売ってたと思うよ」


 ぱっと思いついたにしては、なかなか妙案なのでは? と思いながら提案してみたら、みるみるヤヨイちゃんの表情が歪んでいって──


「…………儂は教会になぁ!?」

「あ! ごめんなさい!」


 ヤヨイちゃんは読み書きが苦手だと言う根本的な情報がすっぽ抜けていた。

 謝りなだめて、落ち着いてもらってひと息つく。

 改めてヤヨイちゃんも、どうしたものかと唸った。


「なんぞ暇つぶしな……。打ち込めるもんでもあればええんじゃろうが……」


 そうつぶやきながら泳いで流れた視線が、エイラちゃんの方を向いた。

 そこに意味を感じたらしいエイラちゃんが、少し眉をひそめる。


「……この家の仕事はわたくしひとりで足りておりますので、どうかお構いなく」

「あん? 誰が好き好んでそんなことするかい……」


 また始まった睨み合いを、またいつものようになだめる。

 目を逸らしたヤヨイちゃんは、横目で隣のマリューに目線を移した。


「まぁ、仕事か……仕事な……。どこまで許されるんじゃろうな?」

「……あぁ、まぁ、監視されてる立場だから急な召喚なんかに対応できる必要はあるけど、それ以外は特に制限はないから自由にしてくれていいよ」

「ふむ……そうか。なら、何ぞ仕事でも探すかね……」


 ヤヨイちゃんが腕を組む。

 どうやら仕事を探す方向で考え始めたらしい。

 見た目は華奢な小学校低学年くらいのヤヨイちゃんが仕事をする様子と言うのは、いまいち想像できないなぁ……、と思っていたら、またふと思いついたことがあった。


「そうだ。ねぇ、ヤヨイちゃん。なんならわたしと一緒に薬作り──」

「サクラ様」

「──を……ん?」


 見ればエイラちゃんが険しめな表情で首を横に振っていた。


「薬作りは……あまり興味がないのう」

「あれ、そっか……」


 何事かと思っているうちに、ヤヨイちゃんも首を振っていた。

 あえなく拒否されてしまってちょっと残念だったけれど、元より無理にやらせるつもりはなかったので気にはしない。

 ちなみにエイラちゃんはわたしからは目を外して、ヤヨイちゃんに視点を移して、なにやら何とも言えない複雑な表情になっていた。

 ヤヨイちゃんは改めて考え込んでいる。

 儂は元々なにをしたかったんじゃったかなぁ……、とつぶやいて、それから徐々にまた眉間にシワが寄っていく……。


「……あぁ、そうじゃ、本来なら、こののどかな村に根を下ろした儂は、ゆったりと魔法の研究でもして、役に立つ魔法を作って尊敬を集めたり、難しい魔法を使ってお金をもらったり……するつもり、じゃったんに……! あいにくと現実はこの首輪があるからなぁ!?」

「外さないからねー」


 ちょっと涙目になりながらマリューにガンを飛ばすけれど、軽く流されたヤヨイちゃんは、ふんと鼻を鳴らして椅子に座り直した。

 どうもヤヨイちゃんが元々思っていたことはすぐには実現しなさそうなことを察したわたしは、代わりの提案をしてみる。


「じゃあ、ヤヨイちゃん、ハルベイさんのお店で働かせてもらうのとかどうかな?」


 ハルベイさんのお店は、ミフロでも特に多くの人が出入りするところである。

 必然的に皆との交流が増えるだろうから、村に馴染むのにも助けになるだろう、と言うちょっとしたお節介も混じった思いつきだったけれど、我ながらまた妙案だと思えた。

 エイラちゃんも無表情なので、たぶんわたしの把握しきれていない問題もないだろう。


「ハルベイ……あぁ、あの細身の優雅なおじさまな……。ええな……」


 思案顔になったヤヨイちゃんが、にへらと笑った。


「興味あるなら、わたしから話してみるよ」

「ふむ……なら、お願いしようかの」


 口元が緩んだままのヤヨイちゃんは乗り気なようなので、今日の用事のついでに話をしに行こう、と思う。

 ひとまずはこれでヤヨイちゃんの暇も解決できそうかな。

 ……と安心して、手をつけられていなかった朝ごはんを再開し──ようとしたところ。


「それはそれとしてじゃ。ごはんのレパートリーはどうにかせい!」

「……あー……」


 話が最初に戻ってしまった。

 思っていたより、食事の問題はヤヨイちゃん的には根深い問題だったらしい。


「……と言うか、そうじゃ。手間じゃが儂に作らせ──」

「いえ、結構です」


 エイラちゃんがヤヨイちゃんの言葉を遮った。

 ヤヨイちゃんが眉間にシワを寄せる。


「……儂が毒でも盛ると思うとるんか……?」

「…………」

「なんか言わんかい!?」


 吠えるヤヨイちゃんと、睨め付けるエイラちゃん。

 一週間とちょっとで、なんだかすっかり見慣れた光景になっちゃったなぁ、と諦め半分で思いながら、またいつものようになだめに入って朝が過ぎていく。

 ちなみに、完全オフモードのマリューは、そんな様子を微笑みながら見つめているだけだった。



幹がぶれていることを認識したので軌道修正を図りたい。……というのに気づいたのは今回のプロットを書き終わろうかと言う所だったので、この次のお話からまた元気にふわっとしたお話を書いていきたい所存。


……なお今回の再開は、3日か4日ごとに4つか5つほど更新していきますね。

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