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412-41 ヤヨイちゃんの趣味

 翌日。

 ヤヨイちゃんがこれからミフロで暮らすなら、皆に挨拶しないとね、と言うことで朝から村を回ることにした。

 パンと燻製肉とスープのいつもの朝食を食べて、家の仕事があるから、と残るエイラちゃんを除き、一晩寝て回復したヤヨイちゃんとマリューも一緒に小山を降りる準備をする。


「……ヤヨイちゃん、動きにくくない?」


 出掛ける準備を終えたヤヨイちゃんが着膨れて丸くなっていた。

 到着した時もこんな感じだった気はするけれど、《ウォーム(加温)》の魔法を掛けてあげたから、そこまで着込む必要はないと思うのだけれど……。


「首輪のせいで《ウォーム(加温)》とかの魔法の効きも良くないから、まぁ仕方ないよ」

「……忌々しい」

「そ、そうなんだ……」


 動きにくそうなヤヨイちゃんを見て、改めて魔法の便利さを思いつつ家を出る。

 昨夜はふたりとも到着が遅かったものだから、ほとんど誰とも挨拶できていないとのことだったので、まずは村長さんのところに向かうことにした。

 ──のだけれど、小山を降りて少し行ったところにあるクライアさんの家の前を通りかかった時に、ちょうどその姿が見えたものだから、先にクライアさんに声を掛けてヤヨイちゃんのことを紹介することにした。


「おやまぁ、随分と可愛らしい子だねぇ。トタッセン先生の付き人かい? それとも、サクラの?」

「あー、いや、実はこの子、これでも不死の魔法使いで……」

「……ええ、不死の魔法使い様だって!? あぁ、それはとんだご無礼を……」


 一瞬怪訝な表情をしたクライアさんが、はっとなって一歩引いて頭を下げた。

 改めて考えてみると、今ここには3人の不死の魔法使いが集まっている訳だし、結構大変なことになっているのかもしれない。


「ヤヨイ・オータじゃ。見た目がちぐはぐで扱いづらいやも知れんが、堅苦しいのは好かん。これから、この……サクラ……ノノカの家に住むことになったのでな、よしなに頼む」


 そう自己紹介をしながら、手袋でもこもこの手を突き出し、クライアさんと握手をするヤヨイちゃん。

 クライアさんも、わたしやマリューとの付き合いがあって、ある程度〝不死者慣れ〟してきたのか、早くも大体いつも通りの調子に戻りつつあった。


「いやぁ、驚いたけど、こんなに可愛らしい(なり)をした不死の魔法使い様もいらっしゃるんだねぇ……。サクラのところに住むんでしたら、お隣さんですね。こちらこそ、よろしくお願いします」

「……おう」


 挨拶を交わしてなんだか小恥ずかしそうにするヤヨイちゃんと共に、今度こそ村長さんの家へ足を進める。



 結局、道中すれ違う人には軽く挨拶と説明をしながら村長さんの家までやってきた。

 村長さんを後回しにしてしまって少し悪い気もするけれど、さすがにミフロの全員に紹介するのは大変である以上、ヤヨイちゃんの話は噂話の形で早めに広がっておいて欲しいので、仕方なし。

 ようやく到着した村長さんの家の扉をノックすると、村長さん自身が出迎えてくれた。

 どうやら村長さんには昨夜にマリューが子連れで到着していたことの連絡だけは既に行っていたらしくて、曰くそろそろ自分から挨拶に伺おうか、とそわそわしていたらしい。

 ……ますます、待たせてしまってごめんなさい、と言う感じだったけれど、ひとまずマリューが代表して挨拶やらヤヨイちゃんの紹介やらをした後、詳しい事情の説明をする。


「──この子はサクラと同郷で、同じく不死の魔法使いであるのですが、サクラ以上に事情が〝複雑〟でして……。詳細な説明ができないこと、どうかご容赦いただいたいのですが、話せる範囲で説明いたしますと、この子は少しばかり〝おいた〟をしたものですから、現在魔法の使用には制限が設けられています。ですので、ほぼほぼ見た目通りの子供であり、危険はないと私が保証します。さらにサクラにはこの子の監視を〝正式に〟任じていますので、心配はありません。……村を取りまとめる立場の者として、幾ばくかの不安はあるかも知れませんが、この子をサクラの元に住まわせること、どうかご理解いただきたい」


 最初、可愛らしいお嬢さんですな、と声を掛けていたヤヨイちゃんが不死の魔法使いだと聞いて以降、驚いて目を丸くしたまま固まりかけていた村長さんは、マリューの説明が一通り終わった頃にやっと我に帰っていた。


「あ、あぁ、ええ、ええ……。……トタッセン先生が危険はないと仰る上に、ノノカ様が見ていてくださると言うのであれば否はありません」

「ありがとうございます」


 特に問題もなく、ヤヨイちゃんの受け入れを了承してもらえた。

 わたしは別にそこは心配していなかった──もとい、断られる可能性があったことに思い至っていなかっただけではあるけれど。

 最後にヤヨイちゃん自身にも挨拶をしてもらう。


「ヤ、ヤヨイ・オータじゃ──です。あー、よろしく……お願いします。えー、堅苦しい感じとかは、いらないので……」

「あぁ、はい。ありがとうございます。何もないところではありますが、歓迎しますよ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 なんだかヤヨイちゃん、ここに至るまでにミフロの人と挨拶を交わした挨拶も含めて、だんだんしおらしくなっている気がする。

 表情も緩んできている気がするし、ミフロを気に入ってくれたならわたしも嬉しいのだけれど。


「……それでは、挨拶だけで恐縮ですが、私たちはそろそろお暇しますね。ご理解くださったこと、重ねて感謝いたします」

「いえいえ、とんでもない」


 午前中のうちにある程度は挨拶回りも終えておきたかったこともあって、村長さんのところは早々に出て次へ向かう。

 ちなみにその道中、マリューがぼそっと、なんでへらへらしてるの? とヤヨイちゃんを小突いていたけれど、


「べ、別にへらへらはしとらんわい!」


 と言ってマリューをつつき返していた。

 ヤヨイちゃんが現れてすぐにマリューが連れ帰ってから一年半以上のうちに、すっかり仲良くなっていたらしくてちょっと微笑ましい。

 ……と思いながらその様子を見ていたら、何を笑うとるんじゃい! とわたしまでヤヨイちゃんに小突かれてしまった。


 それから、ミフロの生活でも特にこれから交流が多くなりそうな人たちを中心に、それぞれ挨拶をして回った。

 雑貨やもろもろ、村で作られていないものを買うなら会う機会も多いだろう、ハルベイさんと商会の人たち。

 建物がメインだけれど、家具とかも作っているからままお世話になっている、フゲール親方さん。

 あとは、パンを焼いてくれているタグレイトのおじさんや、お肉の加工品なんかを扱っているクラベルのおじさんや、薪メインだけれど野菜も少し扱っているマグラットのおじさん。

 他、他……。

 名前を挙げた人に限らず、他にも会うべきだと思っていた人も多いし、道中で会った人にもちょくちょくヤヨイちゃんの紹介をして回っていたので、なんだかんだ時間が掛かってお昼も回ってしまった。

 ずいぶん連れ回してしまって、身体の小さいヤヨイちゃんには少し無理をさせちゃっているかな、とちょっと不安にもなったのだけれど……。

 ──当のヤヨイちゃんは行く先々、出会う人皆に、可愛らしい、と褒められて満更でもないみたいで、めぼしい人との挨拶も終わるころには表情もとろけきって、ずっとにやにやしっぱなしになっていた。

 特に、さっき名前を挙げたようなおじさんたちに褒められたのは、ひときわ嬉しかったらしい。


「……いや、この村は良い壮年が揃っとるな……ふひひ……」


 その笑い方はちょっと可愛くないなぁ、と思ったことは思うだけに留める。

 なんにせよ、ミフロのことを気に入る要素があったらしいことは、これから暮らすうえでヤヨイちゃんにとっても良いことだし、この村を気に入ってくれるのはわたしも嬉しいので、つられるように笑顔になれた。


「いやぁ、表情筋緩みまくってるねぇ。……さて、もう大体挨拶は済んだんだよね?」


 とマリューに問われて、改めて最後に思い返す。

 あの人にも、あの人にも紹介できたし、多分、もう大体は……あっ。


「そう言えば、教会に寄るの忘れてた」

「あぁ、言われてみれば行ってないね。私もすっかり忘れてたよ……。じゃあ、行っとこうか」

「うん」


 あんまりわたしたちの声が聞こえていなさそうなヤヨイちゃんをしっかり呼び止めて、わたしたちは最後のめぼしいところである教会へ挨拶に向かった。



次で一区切り……の予定です。

ほとんどそのまま次に続きますけれど。

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