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411-14 おはなし

 それにマリューも、納得し切れていないエイラちゃんのことを気遣ってか、主にそちらの方を見ながら話を続ける。


「まぁ、エイラちゃん。さっき、寝込みを襲われたら──って言ってたけど、その為にサクラには治癒魔道士補佐になってもらったんだよ」

「あ、そう、それ。なんで治癒魔道士補佐にならないといけなかったのか気になってたんだけれど……やっぱり、ヤヨイちゃん絡みだったの?」


 もともと治癒魔道士補佐の資格を取ると言う話が出てきたときに、それはマリューの頼みごとに必要だから、と聞いていたのに、今のところ必要な感じがしていなかったので気になっていたのだ。

 もしかしたら、ヤヨイちゃんのこととは別に、他に治癒魔法が必要になる頼みごとがあるのかとも思いかけていたのだけれど。


「そうそう。まぁ一応、監視任務には拘束系の魔法が使えるべきだからね。その手の魔法は基本的に治癒魔法系統だし、その為に補佐を目指して貰ったのよ。で、寝込みを襲われるのが不安なら、夜はヤヨイちゃんを昏倒させておいて、朝になったら覚醒させればいいのよ」

「……なるほど」


 エイラちゃんは素直に頷いているけれど、さらっと恐ろしいことを言っているような……。


「……おい、笑えんぞ」


 ヤヨイちゃんもちょっと引いている感じがした。

 冗談なのか本気なのか、いまいち分からないけれど、マリューは意に介した様子を見せない。


「まぁ、そう言うわけで……サクラには私から、緊急時に()けるヤヨイの拘束と無力化の為の治癒魔法の行使、を委任します。ちゃんと文書も作ってきたよ」

「あ、ん、はい……」


 そう言ってもう一枚、羊皮紙の文書を手渡された。なかなか仰々しい……。


「……とは言え、私もこの子からは色々と、事細かに事情は聞き取って、その上で無差別に暴れ回るような危険人物じゃない、と判断したからこそ、こうして連れてきてるからね。だから……サクラ、エイラちゃん、よろしくね」

「う、うん、分かったよ」

「……承知しました」

「……あぁ、そうだ、あと──」


 もう話も終わりかと思ったところで、マリューが何かを思い出したみたいで、エイラちゃんの方を見る。


「この委任状だけど、エイラちゃんも補佐の資格を取れれば同じように交付できるから──」

「すぐに取ります。大急ぎで取ります」


 エイラちゃんが食い気味に前のめりになって、テーブルが動いた。


「うんうん。頑張って。私もこの一冬はいるし、色々教えてあげるよ」

「……よろしくお願いいたします」


 当事者だけれど口出しできないヤヨイちゃんは、不服そうな、でも諦めたような顔で目を逸らしていたけれど……ひとまず、うちでヤヨイちゃんの面倒を見ると言うことで、話はまとまった。



 話も一区切りついたので、夕食をとった。

 エイラちゃんを手伝って、さくっと料理を温め直して配膳して、わたしのお気に入りの葡萄酒も出してきて、皆でテーブルを囲む。

 おしゃべりもそこそこに食事も終えたので、エイラちゃんが片付けを引き受けてくれている間に、マリューとヤヨイちゃんにお風呂を勧めて、すぐにでも入ってもらえるように、《ヒート(加熱)》の魔法でさくっとお風呂を温め直してきた。


「どうぞー」

「お、じゃあ……」


 とマリューがヤヨイちゃんの方に視線を向ける。


「……儂はあとでゆっくり入る」

「そう? じゃあ先にいただくね」


 お風呂に向かうマリューに一通りの説明をしてから、食堂に戻ってくると、ヤヨイちゃんとふたりきりになる。

 隣のキッチンでエイラちゃんがカタ、コトと片付けをしている音がやけに大きく聞こえる。

 さすがに少し気まずい感じがする……。何か話題は……。


「……んっと……ヤヨイちゃんは、これからここに住むよね」

「あん? そうじゃな」

「あー、うん……。分からないこととかあったら、遠慮せずに訊いてね……」


 わたしもここでの暮らしは慣れてるから……と続けたかった言葉は、ヤヨイちゃんにまじまじと見つめられた圧で出てくる勢いがなくなってしまった。

 眉間にシワを寄せたヤヨイちゃんと見つめ合うことしばし。


「なんで、サクラノノカなんじゃ」


 と訊かれた。


「んぇ? ……わたしが佐倉家の生まれで、名前は野に咲く花のように可憐でのびのびと──」

「違わい! この世界では名→姓の順なんに、なんであべこべになっとるんかと訊いたんじゃ!」

「あ、あー……。最初に、気づかないでサクラ・ノノカって名乗っちゃったから……」

「気づいた時に、なんで訂正せんかったんじゃ」

「気づいたのも結構後で、もう定着しちゃってたから……まぁ、今のわたしは、ノノカ家のサクラで良いかな、って……」

「……ふん、さよけ」


 ヤヨイちゃんはちょっと面白くなさそうに顔を背けてしまった。

 風で雨戸が揺られる音が続いている。


「……そう言えば、いつも一緒におる白い小娘は、何者じゃ」

「んっと、エイラちゃんは、家のことを見てもらったり仕事の手伝いをしてもらったり……立場的には使用人ってことになるかな、使用人税も払ってるし……」

「使用人……使用人なぁ……?」


 ヤヨイちゃんが俯いて、また黙り込んでしまう。

 そのまま少ししたら、ヤヨイちゃんの肩が震えだした。


「や、ヤヨイちゃん……?」

「……のどかな村に、立派な家……使用人を雇った豊かな暮らし……儂が、儂がここでダンディな執事を雇うような生活をしたかったんに!」


 嘆くような調子でそう叫んで、テーブルをぺちん! と叩いた。

 痛そうだった。


「ご、ごめんね……?」

「うぐぅ……」


 なんとなく謝ってしまった。

 ヤヨイちゃんは呻いてテーブルに突っ伏してしまう。

 と、そこで片付けを終えたらしいエイラちゃんが音もなく現れて、わたしの隣に立ってヤヨイちゃんを睨みつけた。


「エイラちゃん。……あ、別に喧嘩してたわけじゃないからね」

「……ええ」


 エイラちゃんに気づいたらしいヤヨイちゃんが顔だけ上げて、エイラちゃんをまじまじと見上げる。


「……何か?」


 まだちょっと、エイラちゃんの言葉には(とげ)がある……。


「なんでもないわい」


 そして無言。


「んと、エイラちゃん、座ったら……?」

「……はい」


 ヤヨイちゃんからは視線を外さずにわたしの隣に座って……また無言。

 なんとも気まずい。

 エイラちゃんとなら、ふたりでこうして無言で過ごすことも多いし、それはそれで心地よい無言なのだけれど、今のこの無言の時間はいたたまれない。

 普段は無言になっても無理に話をつなげようとなんてしないから、どんな話を切り出せば良いのかもよく分からなくて──結局皆無言のまま時間が過ぎる。

 でも、そんな感じになって困っていたら、マリューがお風呂から上がってきた。


「いやぁ、お風呂ありがとうね」

「ど、どうしたしまして」


 そんなやりとりをしているうちに、ヤヨイちゃんはそそくさと椅子から下りてお風呂の方に向かおうとしていた。


「あ、ヤヨイちゃん」


 一応、お風呂回りの説明をしておかないと、とわたしが席を立つ。

 そこで立ち止まったヤヨイちゃんに向かって、ちょうど隣にいたマリューがいたずらっぽく笑い掛けた。


「ふふ、お風呂、ひとりでちゃんと入れる?」

「じゃから! 子供扱いするなと再三言うとろうが!」


 怒鳴ったヤヨイちゃんは、わたしが説明する前にひとりで食堂を出て行ってしまった。



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