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411-13 頼みごと

 マリューとヤヨイちゃんを食堂に案内して、ひとまず皆でテーブルに着く。

 するとマリューが荷物の中からおもむろに羊皮紙の書類を一枚取り出した。


「なによりもまず、ここにきた一番の理由のひとつの──治癒魔道士補佐の認定おめでとう、サクラ。はい、これが認定証書ね」

「ん、あぁ、ありがとう! そう言えばそんな話だったね、ちょっと忘れてた……」


 ヤヨイちゃんの登場にびっくりしていろいろと忘れてしまっていた。

 頭を振って再起動して、記憶をたどってもろもろを思い返す。

 そう言えば、マリューに会ったら聞いておきたいことがあったような……と、思い出した。


「……マリュー、わたしに何か頼みたいことがあるんだって?」


 認定証を軽く掲げながら訊ねる。

 この治癒魔道士補佐の資格だけれど、元をたどれば、マリューがわたしにこの資格が必要な何かを頼みたいから、という話が始まりだったと思う。

 訊ねられたマリューは、うんうん、と頷いた。


「その話なんだけども、その前に──ヤヨイちゃんから話があります」

「……ん?」


 なぜか話題に上ったヤヨイちゃんの方に、皆の視線が集まる。

 少し間を置いて……ヤヨイちゃんが、わたしをまっすぐ見ながら口を開く。


「……すまなんだ」


 簡潔に、そう言って少し頭を下げた。

 マリューの補足によると、去年、うちを吹き飛ばしたこととか殴りかかったこととか、もろもろへの謝罪らしい。

 わたしとしては、それは過ぎたことだし、もう気にしていない、と伝えた──のだけれど……その答えを聞いたヤヨイちゃんのむすっとした表情が変わって、悲しんでいるような、怒っているような、あるいは哀れんでいるような、もしくは喜んでいるような、なんとも言いがたい……。


「それはどんな表情なの……?」


 複雑な表情で固まったヤヨイちゃんの肩を、マリューがぽんと叩いた。


「それで、私からの頼みごとなんだけど、サクラたちにこのヤヨイちゃんの面倒を見て欲しいのよ」

「え──」

「ええっ!?」


 そんなマリューの言葉に驚きかけたところに、突然、エイラちゃんが大きな声を上げたものだから、すごくびっくりした。

 エイラちゃんを見れば、マリューに向かって前のめりになっている。


「トタッセン様、その子は以前確かにサクラ様を害しようとしました。そのような子を傍に置いておくなど、危険だと考えます!」


 珍しく、エイラちゃんの語気が強い。

 確かにエイラちゃんの言うこともその通りだと思うのだけれど……わたしはなんとなく、その辺りはもう大丈夫だと思っていた。

 わたしと、詰め寄られる形になったマリューがエイラちゃんをなだめる。


「気持ちはわかるけど、大丈夫。今のこの子は、見た目相応の力しかないし、魔法もほとんど使えないから」

「え、そうなの?」

「……はん!」


 ヤヨイちゃんが面白くなさそうに視線を逸らした。

 ヤヨイちゃんの見た目──小学校低学年くらいで、結構細身──の力しかなくて、魔法も使えないなら……。


「確かにこの子は危なっかしかったと思うよ。魔女を自称していただけあって魔法の知識は豊富だったし、サクラと同郷だからかなんなのか……魔力量もとんでもなかったからね。ただ、この点もサクラと同じで魔法耐性が皆無に等しかったから……この首輪なんだけど──」


 と指されたヤヨイちゃんの首には、確かに首輪……チョーカー?がある。

 黒い革に銀の縁取があって、正面の金具にある鍵穴っぽい凹みが印象的だった。


「──これは着用者の魔力使用を制限する魔道具でね。魔力耐性がないもんだからほぼ完璧に作用してて、あらかじめ許可された一部の生活魔法を、あらかじめ許可された出力以上では使えないようになってる。……つまり、ほんのちょっと生活魔法が使えるだけの、見た目通りのひ弱な子供でしかないから危険はないと思って大丈夫だよ」

「おいこら、子供扱いはするなと言っとろうが!」


 ヤヨイちゃんをあしらうマリューはそう言うけれど、エイラちゃんは納得できていないみたい。


「……たとえひ弱で魔法も使えずとも、寝込みを襲われるなど──」

「おいこらそこの白い小娘も! そもさっきから聞いとれば、人を殺人鬼か何かかとでも思っとるんか? 儂はせめてもの……あれじゃ、気休めでそいつを一発殴りたかっただけで殺そうとかそんなことは考えとらなんだわ! それに、もう殴る気もとうに失せたわ!」


 とヤヨイちゃんが腕を組み、わたしを顎で指しながら声を張った。


「……家を木っ端微塵に吹き飛ばし、地面が爆ぜるような力で殴りかかっていたのに……?」


 エイラちゃんの顔に影が差して、目が怖い。

 さすがにいけないと思って、立ったままだったエイラちゃんの肩を抱きなだめて、一緒に座った。

 一方のヤヨイちゃんは、なんだか気まずそうな表情になっている。


「あれは……いや、ちと魔力の量をやりすぎてだな……」

「は?」


 エイラちゃんがいつになく攻撃的……。

 あまり過熱すると良くないので、少しでも落ち着いてもらおうとエイラちゃんに寄り添い、手と肩に手を置いてなだめ続ける。


「まぁ、エイラちゃんの心配は分かるけども、これはサクラのためでもあるんだよ」


 とマリュー。


「サクラは優しい子なのは分かり切ってるし、そう言って偉いさん方も丸め込んだけど、他の人からすれば出自不詳で立場が浮動的なのも事実だからね。ここらでちょっと仕事でも任せて、偉いさん方からの信頼を得る実績作りでもしてもらおうかな、と」

「……そうは仰っても、その〝出自不詳〟の者同士を引き合わせることになりますが?」

「ふふふ、その上で何もなければ、って話だからね」

「…………」


 エイラちゃんが口を閉じた。

 難しい顔はしたままだけれど。


「んっと……、その仕事って言うのが、ヤヨイちゃんの面倒を見ることなの?」

「そう。正確には監視だね。この前の件はかなりマイルドに報告はしたけども、破壊魔法使用の嫌疑により捕縛、その後いろいろな条件と引き換えに、魔法制限のもとで監視下に置くことでひとまず決着させたから、その執行をお願いする感じかな」

「いろいろな条件?」

「そこは聞かんでよい!」


 なんとなく気になったことを口にしたら、ヤヨイちゃんに吠えられた。

 なんだか苦々しい表情をしていたから、あんまり触れられたくないことなんだろうな、と思う。


「まぁ最悪こっちに送り返してもらってもいいし、何年か素行に問題がなければ追い出してもらっても構わないから」

「おい、こら」

「……ま、まぁ、わたしは引き受けてもいいけれど……」


 さっきからヤヨイちゃんが口を開くたびにぴくっと反応するエイラちゃんを気にかけつつも、わたしは承諾の意思を見せた。

 マリューの頼みごとだから引き受けたいと言うこともあったけれど、断ってヤヨイちゃんを追い返すのも、なんだかかわいそうな気がしたのだ。

 案の定、エイラちゃんは不安そうにこちらを見つめてきたけれど、多分ヤヨイちゃんも少し口が悪いだけで、きっと悪さはしないと思うよ、と小声で耳打ちしておいた。

 その言葉に根拠があるわけではないのだけれど……先日見た夢のこともあってか、そう信じることに抵抗はなかったから。


「サクラは乗り気みたいだけど……エイラちゃん、良いかな?」

「…………サクラ様が宜しいならば……」


 十全に納得してくれたのではないだろうけれど……、頷いてくれた。

 ありがとう、と言うのも、ごめんね、と言うのも、何か違う気がしたから、わたしはエイラちゃんのことを軽く抱きしめてあげた。



もう少しさくさく進めるべきか…?

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