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403-11 フレット先生の報告

 4年目の晩冬のある日に、王都のマリューから手紙が届いた。

 手紙の内容はだいたいいつもの通り、近況だったり、わたしの仕事の役に立ちそうな知識だったり。

 でもその時の手紙の最後には、ちょっと意味深なことが書いてあったのである。

 ──近いうちに、懐かしい子に会えるかもね。



 3月に入って寒さも緩み、ようやく冬を抜けたという感じがしてくる。

 まぁ、そうは言っても、屋外に置いた桶に水を張れば当然のように凍るくらいの気温なのだけれど。

 ミフロは結構内陸の山間なものだから、冬の寒さがとにかく厳しい。わたしもエイラちゃんも《ウォーム(加温)》の魔法があるからあんまり実感はないのだけれど、それがなければ油断すると凍死できるくらいには寒い。現にわたしがこの村に来てからのおよそ3年の間に、ふたりほど亡くなっているらしいのだから。

 ……でも、だからこそ、と言うべきか、厳しく長い寒さが緩み始めるこの時期あたりから、本格的な春に先んじて、ミフロでは色々と物事が動き出すのだ。


 その日、午前中の材料の仕込みに区切りをつけたわたしは、エイラちゃんと一緒に食料を買い出しに小山を下りていた。

 昨夜からの曇り空は昼前に至っても相変わらずで、そのお陰か多少寒さはましにも思えるけれど、なんとなく気分はすっきりしないような空模様である。

 そして道中、クライアさんの家に差し掛かった辺りでフレット先生の姿が見えた。


「こんにちはー」

「……こんにちは」

「おやこれは、ノノカ様にエイラさん。こんにちは」

「お散歩ですか?」


 お散歩と言うには、この辺りは村の中心からそこそこ離れているのだけれども。


「まぁ、そんなところでしょうかね。しかし、ふむ……。あとで伺うつもりでしたが、せっかくお会いしましたし……、お伝えしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「ん? なんでしょう?」

「ええ、実は私、近くこのミフロを離れて地元に帰ることにしまして、そのご挨拶に、と」

「…………えぇ!?」


 ちょっとした世間話くらいの感覚で聞いていたものだから、反応が遅れてしまった。

 エイラちゃんも驚いた様子で、口元に手を当てている。


「急なお話ですね……。ど、どうしてまた……?」

「うーん、そうですねぇ……」


 フレット先生は腕を組んで首を捻り、少し考え込むそぶりを見せた。


「最近、とても良い薬を作る人が現れたものですから、皆の病気もすぐに治って私の仕事が減ってしまったから、でしょうかねぇ……」

「…………ん!? え、まさかそれってわたし……、わ、わたし先生の仕事取っちゃってましたか!? い、いえ、わたしそんなつもりは全く……!」


 まさかお世話になっていた人の仕事を横取りして、あまつさえ追い出すことになっていただなんて……!

 そんな認識に視野が狭まり取り乱していたら、横からそっとエイラちゃんがささやく。


「……サクラ様、からかわれてらっしゃいますよ」

「え!?」


 見れば先生は笑っていた。


「……そう言う方なので」


 そう言えばフレット先生って、平然とした感じで割と強めなジョークとか言う人だった。


「ははは。失礼失礼。まぁ実際のところ、兼ねてから甥夫婦に帰ってこいとせっつかれてましてね。地元で母の面倒を見ろ、と」

「お母さま……それは大切だと思います。でも、もしかしてお加減が……?」


 両親とは突然のお別れとなってしまった身として、思うところがある。

 先生自身で50代かそのくらいだと思うけれど、そのお母さまとなるともう結構なお年だろう。


「いえ、元気そのものですがね」

「あ、そうですか」


 その言葉を聞いてちょっとほっとした。


「私もここの開拓からいますし、この規模の村なら医者はいないことの方が普通とは言え、今まで診られていたものが私がいなくなれば皆を診る者がいなくなりますから、ここの土に還るつもりでした。ノノカ様も薬は作れても医者ではありませんからね。……とは言え母も70を超えて気がかりには思っていたんですが、そんな折にトタッセン先生とお話しする機会がありまして」

「マリューと?」


 いつの間に、と思う。

 あぁ、そう言えば去年の秋にエイラちゃんと一緒にわたしも風邪で寝込んだ時に、たまたまマリューが来ていたからその時かな。と言うか、それ以来マリューはミフロに来ていないから、間違いなさそう。


「ええ、まぁ少しいろいろとあり、最終的に新しく医者をよこせるかも、と仰っていただけたので結果を待っていたのですが、先頃正式に新しい医者を派遣してくれることが決まったとのことで。ならば頃合いか、と決心してご挨拶を」

「なるほど、そうなんですね……。ご実家はここからは遠いんですか?」

「大体、南の方に3日ほど行ったところですね」

「……気軽に、という距離ではないですね」


 距離的には、前世で言うと京都から名古屋に行くよりは近いだろうか。

 自動車もないこの世界では、それだけの距離が開いてしまえばもう二度と会うことはないのかもしれない。


「新しい医者が来るまでにはまだ時間がありますが……ノノカ様、エイラさんも、どうかお達者で」

「……はい」

「フレット先生も」

「ははは。不死の魔法使い様が毒草を食べて担ぎ込まれてきた話は、酒の席の持ちネタとして生涯忘れません……」

「わ、忘れてくださいよー……」


 今年も春が近づき、本格的に一年が動き出す。



4,5投稿分ほど、2,3日置きに更新していきます。

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